ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和5(ワ)10970等 特許権侵害行為差止等請求反訴事件、損害賠償等請求事件
| 裁判所 | 一部認容 大阪地方裁判所大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和7年5月29日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 対象物 | 映像視聴装置 |
| 法令 |
特許権 民法709条3回 特許法102条2項1回 |
| キーワード | 侵害90回 特許権35回 無効7回 実施7回 差止6回 損害賠償5回 進歩性2回 |
| 主文 | 1 原告の反訴請求をいずれも棄却する。 2 原告は、被告に対し、1070万0382円及びこれに対する令和5年11 3 被告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じてこれを10分し、その9を原告の負 5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 |
| 事件の概要 | 1(1) 甲事件反訴は、発明の名称を「映像視聴装置」とする特許(以下「本件 特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、 被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。) の技術的範囲に属する被告製品を製造し、販売等することは本件特許権の侵害に当 たると主張して、被告に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金420 580万円のうち一部請求として1100万円及びこれに対する令和5年11月1 8日(反訴状送達の日の翌日であり、不法行為よりも後の日)から支払済みまで民 法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお、 被告は、「TV&ナビキャンセラー ナビ案内対応Ver.2.0」の輸入販売行 為について、原告の被告に対する本件特許権に基づく差止請求権の不存在確認の訴25 え(甲事件本訴)を提起したが、甲事件反訴が提起された後に甲事件本訴を取り下 げた。 (2) 乙事件は、被告が、原告がアマゾンジャパン合同会社(以下「アマゾン」 という。)に対して行った、別紙「被告個別製品目録」記載の各製品(以下「被告 個別製品」という。)の製造・販売行為が本件特許権を侵害する旨の報告(以下 |
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
令和7年5月29日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和5年(ワ)第10970号 特許権侵害行為差止等請求反訴事件(甲事件)
令和5年(ワ)第11539号 損害賠償等請求事件(乙事件)
口頭弁論終結の日 令和7年3月10日
判 決
甲事件反訴原告・乙事件被告 有限会社ユニオンシステム
(以下「原告」という。)
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 白 波 瀬 文 夫
同 白 波 瀬 文 吾
同補佐人弁理士 本 間 政 憲
同 上 西 敏 文
甲事件反訴被告・乙事件原告 株式会社エンラージ商事
(以下「被告」という。)
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 奥 村 克 彦
同 安 齋 航 太
同訴訟代理人弁理士 森 脇 正 志
同 安 藤 康 浩
主 文
1 原告の反訴請求をいずれも棄却する。
2 原告は、被告に対し、1070万0382円及びこれに対する令和5年11
月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じてこれを10分し、その9を原告の負
担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
5 第1 請求1 甲事件反訴
(1) 被告は、別紙「被告製品目録」記載の製品(以下「被告製品」という。)を生産し、輸入し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。
(2) 被告は、被告製品を廃棄せよ。
(3) 被告は、原告に対し、1100万円及びこれに対する令和5年11月18日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。2 乙事件原告は、被告に対し、1287万3278円及びこれに対する令和5年11月7日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1(1) 甲事件反訴は、発明の名称を「映像視聴装置」とする特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が、被告が本件特許の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属する被告製品を製造し、販売等することは本件特許権の侵害に当たると主張して、被告に対し、不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金4580万円のうち一部請求として1100万円及びこれに対する令和5年11月18日(反訴状送達の日の翌日であり、不法行為よりも後の日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。なお、被告は、「TV&ナビキャンセラー ナビ案内対応Ver.2.0」の輸入販売行為について、原告の被告に対する本件特許権に基づく差止請求権の不存在確認の訴え(甲事件本訴)を提起したが、甲事件反訴が提起された後に甲事件本訴を取り下げた。
(2) 乙事件は、被告が、原告がアマゾンジャパン合同会社(以下「アマゾン」という。)に対して行った、別紙「被告個別製品目録」記載の各製品(以下「被告個別製品」という。)の製造・販売行為が本件特許権を侵害する旨の報告 (以下
5 「本件権利侵害報告」という。)は、競争関係にある被告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知又は流布する行為であって、不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項21号の不正競争行為又は不法行為に該当すると主張して、原告に対し、不競法4条又は民法709条に基づき、損害賠償金1287万3278円及びこれに対する令和5年11月7日(損害発生の終期)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1) 当事者(甲8、9、争いのない事実)原告は、自動車用電子機器の設計、販売等を目的とする特例有限会社である。被告は、インターネットを利用した通信販売業、家庭用電気製品等の製造、販売及び輸出入業等を目的とする株式会社である(その取扱商品には自動車用電子機器が含まれる。)。原告と被告は、いずれも自動車用電子機器の販売を業として行っており、競争関係にある。
(2) 本件特許権(甲7、乙1、2)ア 原告は、次の本件特許権を有している。登録番号 特許第7313640号出願日 令和4年10月4日登録日 令和5年7月14日発明の名称 映像視聴装置イ 本件特許権の特許請求の範囲、明細書及び図面 (以下、明細書及び図面を「本件明細書」という。)の記載は、別紙「特許公報」のとおりであり、同公報の【図1】ないし【図4】(以下、単に「【図1】」などという。)の拡大図は、別紙「本件明細書図面」のとおりである。以下においては、【図2】のうち、「本発明」の欄にある「走行状態信号遮断し記憶」と記載されている矢印の期間を「T1
5 期間」と、同欄にある「一斉に送信」と記載されている黒丸の期間を「T2期間」と呼称することとする。
(3) 構成要件の分説本件発明の構成要件は、別紙「本件発明に関する充足論(被告製品)」の「構成要件」欄のAないしHのとおり分説される。
(4) 被告製品の構造・構成ア 被告製品の構造(甲6、乙4ないし8、16、弁論の全趣旨)(ア) 別紙「被告製品写真」 の写真1は、被告製品の一例(外箱及び外観 。 なお、橙色の工具は付属のヘラであり、被告製品ではない。)であり、写真2は、同製品内部の回路基板の様子である。被告製品には、32ビットのマイクロコントローラー(以下「マイコン」という。)が使用されており、同マイコンの説明書には「この製品は、コードとデータの保存に使用できる最大32KBの組み込みフラッシュメモリを提供します。」(原文は英語)との記載がある。被告製品は、自動車の車両とカーナビゲーション(以下、「カーナビ」と略称することがある。)との間に、純正車両側カプラーを介して挟み込むように接続される製品であるところ、別紙「被告個別製品目録」記載の被告個別製品(同製品は被告製品に含まれる。)のように、車種によって異なる商品番号が付されているが(製品番号も「TV-06」と「TV-08」に分かれる。)、いずれもその構造の概要に大きな差異はない。(イ) 被告製品における、①車両から被告製品に入力された車速信号(「車速パルス」又は「車速パルス信号」ともいう。以下同じ。)及び②被告製品からカーナビに出力された車速信号の各動作波形の一例は、別紙「被告製品の動作波形」の図面(以下「被告製品動作波形図面」という。)のとおりである(ただし、2本の赤線及び「この間の車速信号を記憶し、圧縮して送信している」との白文字は原告が記載したものであり、「T1期間」及び「T2期間」との水色の文字及び点線・矢印は裁判所による追記である。)。同図面においては、上記②のうち車速信号出力
5 が行われていない期間及び行われている期間が、それぞれ本件発明のT1期間及びT2期間に相当する(以下、被告製品においても、車速信号出力が行われていない期間及び行われている期間の趣旨で「T1期間」及び「T2期間」と呼称する。)。なお、車速パルスは、車速が早くなるにつれて正比例で周波数が高くなり、これ伴って周期が短くなるため、同じ期間(例えばT1期間)における車速パルス数は、車速が早くなるほど増加する。被告製品においては、上記①の車速信号のうち、T1期間の最後の3パルスを利用して演算により生成された車速信号(「T2期間+T1期間」分の車両走行情報に相当するもの)をT2期間(上記3パルスに係るT1期間の直後のT2期間。以下同じ。)においてカーナビに送信(出力)するという処理が行われており、以後、同様の処理が繰り返される。 なお、以下においては、特に断りのない限り、「車速信号」「車両情報」「車両走行情報」についてはおおむね同義の語として用いるが、被告は、本件発明の構成要件DないしGにおける「車両情報」につき明確性違反を争っているため、かかる争点に関する記載は別異に扱う。イ 被告製品の構成被告製品の構成には争いがあり、当事者の主張は、別紙「本件発明に関する充足論(被告製品)」の「被告製品の構成」欄の「原告の主張」欄及び「被告の認否・主張」欄各記載のとおりであるが、被告製品が、本件発明の構成要件AないしDを充足することは、被告は争っていない。
(5) 被告の行為(争いのない事実、甲22、27、弁論の全趣旨)被告は、令和5年3月下旬頃から現在まで、業として被告製品を中国から輸入し、アマゾン運営のAmazon.co.jp(以下「アマゾンサイト」という。)及び楽天グループ株式会社 (以下「楽天」という。) 運営の楽天市場のほか、Yahoo!ショッピング(以下「ヤフーショッピング」という。)及び被告自社サイトの各ECサイトにおいて被告製品を販売している(アマゾンサイト及び楽天市場において販売されているのは、被告製品のうち被告個別製品であり、ヤフ
5 ーショッピング及び被告自社サイトにおいても、被告個別製品又はその同等品が販売されている。)。ただし、アマゾンサイトにおける販売開始日は同年5月16日であり、また、後記(6)のとおり、アマゾンサイトにおいては被告個別製品を販売できない期間が一定期間存在した。
(6) 本件権利侵害報告等(争いのない事実、甲2、12、弁論の全趣旨)原告は、令和5年8月22日頃、アマゾンに対し、被告個別製品の製造・販売行為が本件特許権を侵害する行為であるなどと報告し(本件権利侵害報告)、同販売行為の差止請求(出品停止請求)を行った。これを受けて、アマゾンは、同年9月7日から同年11月7日まで、アマゾンサイトにおける被告個別製品の出品を停止した。なお、原告は、楽天市場で販売されていた被告個別製品についても、同年9月8日頃に楽天に対して上記と同様の権利侵害報告及び差止請求を行った。3 争点
(1) 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)ア 文言侵害の成否(争点1-1)イ 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)
(2) 本件発明の無効理由の有無(争点2)ア 明確性要件違反の有無(争点2-1)イ サポート要件違反の有無(争点2-2)ウ 補正要件違反の有無(争点2-3)エ 実施可能要件違反の有無(争点2-4)オ 登録実用新案公報(実用新案登録第3104005号、甲14)記載の考案(以下「甲14考案」という。)に基づく進歩性欠如の有無(争点2-5)
(3) 原告の損害の発生及びその額(争点3)
(4) 本件権利侵害報告の不正競争行為(不競法2条1項21号)又は不法行為該当性(争点4)
5 (5) 本件権利侵害報告についての原告の過失の有無(争点5)
(6) 被告の損害の発生及びその額(争点6)
第3 争点についての当事者の主張
1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
(1) 文言侵害の成否(争点1-1)
本件発明に係る構成要件EないしHの充足性(文言侵害)についての当事者の主張は、別紙「本件発明に関する充足論(文言侵害)」の「被告製品の構成要件充足性」欄の「
(原告の主張)
」欄及び「
(被告の主張)
」欄各記載のとおりである。
(2) 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)
本件発明に係る構成要件Fの充足性(均等侵害)についての当事者の主張は、別紙「本件発明に関する充足論(均等侵害)」の「均等侵害の成否」欄の「原告の主張(予備的主張)」欄及び「
(被告の主張)
」欄各記載のとおりである。
2 本件発明の無効理由の有無(争点2)
本件発明の無効理由(明確性要件違反、サポート要件違反、補正要件違反、実施可能要件違反、甲14考案に基づく進歩性欠如)の有無に関する当事者の主張は、別紙「本件発明に関する無効論」記載の各無効理由に対応する「
(原告の主張)
」欄及び「
(被告の主張)
」欄各記載のとおりである。
3 原告の損害の発生及びその額(争点3)
〔
(原告の主張)
〕被告製品の月間販売量は2000台以上と推定され、令和5年7月14日から同年10月末日までの累計販売量は7000台を下らないところ、被告製品の売価は1台1万2800円であるから、上記期間の販売総額は8960万円を下らない。そして、被告製品の限界利益率は50パーセント以上と推定されるから、少なくとも、上記販売総額に50パーセントを掛けた4480万円が原告の損害額と推定される(特許法102条2項)。これに弁護士・弁理士費用100万円(上記4480万円の内金1000万円の1割相当額)を加えた4580万円が原告の損害額で
5 ある。
〔
(被告の主張)
〕否認ないし争う。
4 本件権利侵害報告の不正競争行為(不競法2条1項21号)又は不法行為該
当性(争点4)〔
(被告の主張)
〕被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものではなく、被告製品の製造・販売行為は本件特許権を侵害するものではないにもかかわらず、被告は、アマゾンに対して本件権利侵害報告を行った。かかる行為は、虚偽の事実を告知・流布し、もって、被告の営業上の信用を害する事実を告知する行為 であるから、不正競争行為(不競法2条1項21号)又は不法行為(民法709条)に該当する。〔
(原告の主張)
〕争う。アマゾンは、ECサイト(アマゾンサイト)を開設して、被告が商品を展示・販売することに助力している立場であり、いわば被告の販売部門ともいうべき立場にある。したがって、被告製品が本件特許権の侵害品であれば、その販売に加担するアマゾンは本件特許権侵害の共同不法行為者となるから、アマゾンに対して本件特許権侵害の事実を告知することは、被告に対する告知と同様、権利者の正当な権利行使として、不正競争行為又は不法行為に該当しない。
5 本件権利侵害報告についての原告の過失の有無(争点5)
〔
(被告の主張)
〕原告は、以下のとおり、被告製品が本件特許の技術的範囲に属するか否かについて必要な調査検討を行わず、さらに、誠実な交渉を行わず、むしろ、被告による調査や反論を待たずにいきなり本件権利侵害報告に及び、被告による説明を受けてもなおこれを真摯に受け止めず、漫然と本件権利侵害報告による販売停止状態を継続させたものであるから、原告の本件権利侵害報告は被告に対する正当な権利行使の一環としてなされたものとはいえず、原告には少なくとも過失がある。
5 (1) 原告は、被告製品の動作波形を観察することにより、被告製品が「一定時
間送信しなかったパルス信号を蓄積又はパルス数をカウントし蓄積しておいて、時間軸方向の所定時間内にパルス信号を圧縮する演算を行い、カーナビゲーションシステムに送信する信号としている」という処理をするものと想像し(甲10)、 被告製品が「車両情報を受け取ってから一定期間送信せずに記憶しておき、一定期間経過後に当該情報を演算して圧縮した圧縮車両情報をカーナビゲーションに送信する装置」であるという結論に至っている(甲11)。しかし、被告製品が上記処理をしている事実はなく、原告は、被告製品による情報処理の結果である動作波形のみを観察したにすぎず、実際の情報処理の内容を分析しなかったため、誤った結論を出したものである。
(2) 原告は、警告書(甲1)に対する被告の回答を待たず、本件権利侵害報告
に及んだ。そして、被告の連絡文書(甲3、4)による通知・忠告を受けても本件権利侵害報告等を取り下げることをせず、むしろ、「通知会社は貴社製品の現物を入手し、その作動状況をオシロスコープで観察し、動作波形も確認したうえで、貴社製品が本件特許発明の上記各構成要件を充足すると判断しているものです」などと回答した(甲5)。このように、原告は、被告に対して一方的に特許権侵害の主張を行った上、被告による回答を待たずに本件権利侵害報告に及び、被告が特許権侵害の事実がないこととその理由について早期に回答しても、これを真摯に受け止めず、漫然と本件権利侵害報告による被告製品の販売停止状態を継続させたものであって、誠実な交渉を行っていない。〔
(原告の主張)
〕被告製品が本件特許権を侵害しないものであるとしても、以下のことからすれば、原告は、外部者の立場において、被告製品につきでき得る限りの調査検証をした上で本件権利侵害報告を行ったものであり、過失がない。
(1) 原告は被告製品の実物を実際に購入し(被告製品は具体的な車種毎に〇〇
用と銘打って販売されているところ、うち5製品を購入)、その5製品全部につい
5 て、車両から被告製品への車速パルス信号入力及び被告製品からカーナビへの車速
パルス信号の出力につきオシロスコープで動作波形を測定した上で、被告製品が本件発明の構成要件を全て充足することを確認したものであり、その検証作業に3か月の期間をかけた。被告製品の動作波形(乙8。被告製品動作波形図面と同内容)によると、一定期間の総パルスをそのまま短期間に圧縮送信していると判定できる。被告は、総パルスのうち最後の3パルスだけを残して、これが一定期間継続しているものとみなす演算をしているというが、そのような操作を加えているか否かは外部からは判別できない。のみならず、シンプルに総パルスを取得してそのまま短期間に圧縮送信すれば技術的に簡明、かつ、ナビゲーション装置として適格な効果を奏するところ、被告がわざわざ上記のような不合理な操作をしていることを想定できない。さらに、被告製品の現物を入手しても、そこに搭載されたCPUから動作プログラムを読み出すことは不可能であり、原告が行った検証作業以上の調査分析を実施することは不可能である。
(2) 原告は、前記(1)の検証結果をもって、弁理士に鑑定を依頼し、令和5年8
月22日に鑑定書を受領して、アマゾンへの差止請求は同日に、楽天市場への差止請求は同年9月8日に鑑定書の内容を抜粋した見解書を添付して行った。原告は、被告に警告書(同月1日付け、甲1)を送付しているところ、かかる警告書は、本件特許権侵害となるか否かを質問するものではなく、前記検証結果により本件特許権侵害であることを原告において確信した上で、侵害行為の即時停止等を求めたものであるから、これに対する被告からの回答を待ってから本件権利侵害報告に移るべきことは、法律上も道義上も必要のないことであった。
(3) 被告に送付した本件特許権侵害の警告書(甲1)に対して、被告からは令
和5年9月11日付け(甲3)及び同月14日付け(甲4)の2通の反論が送られてきた。このうち、甲3では「現時点における調査結果によると・・・特許権を侵害する事実はないものと考えております」とあるが、非侵害の理由は述べられてい
5 ない。また、甲4では「基本的に車両情報はリアルタイムで処理する構成を採用す
るもの」としており、続いて「リアルタイムで処理するということは、当然に『前記車両情報をカーナビゲーションに一定期間送信せず記憶しておく情報記憶手段』・・・も存在しないことが明らか」と述べている。他方、原告が検証し侵害の判断根拠とした被告製品動作波形図面(乙8)によれば、車両情報を受信しながらカーナビゲーションに送信していない期間が存在することは明白であり、上記の「リアルタイムで処理する構成」との説明は、実際の被告製品の動作と明らかに矛盾しており、信用できないものであった。
6 被告の損害の発生及びその額(争点6)
〔
(被告の主張)
〕
(1) 被告は、原告の本件権利侵害報告により、合計1287万3278円の損
害を被った。内訳は以下のとおりである。ア 逸失利益 1018万5382円原告の本件権利侵害報告により、被告は、令和5年9月7日から同年11月7日までの2か月間、被告個別製品をアマゾンサイトにおいて販売できなくなった。同年6月1日から同年8月31日までの3か月間のアマゾンサイトにおける被告個別製品の売上額は3117万9740円であったから、上記2か月間に失われた売上見込額は2078万6493円(3117万9740円×2/3〔1円未満四捨五入、以下同じ。〕)である。そして、被告個別製品のうち「TV-06」の利益率は約52%、「TV-08」の利益率は約46%であり、被告個別製品の利益率はこれらの平均の49%として計算すべきであるから、被告の逸失利益は1018万5382円(2078万6493円×49%)である。イ 調査費用 54万2350円被告は、原告の本件権利侵害報告がされたことから、本件特許権侵害の事実の有無を調査するため、専門家による以下の調査費用を支出した。
5 (ア) 鑑定書作成費等 32万8400円
(イ) 無効資料調査費等 21万3950円ウ 弁護士・弁理士費用 214万5546円前記ア及びイの合計額1072万7732円の2割相当額が弁護士・弁理士費用として認められるべきである。
(2) 昨今のECサイトは、サイトごとに付与されるポイントの種類やサービス
特典が異なり、特定のECサイトを重点的に使用して買い物をする者も多く、アマゾンサイトのアカウントのみを保有して、他のECサイトのアカウントは保有していない者もいる。また、近年では、各ECサイトがスマートフォン用のアプリを提供しているところ、現在の消費者は、自分が最も重点的に利用するECサイトのアプリを利用して商品の検索を行い、その中でヒットした商品を購入するというケースも多い。特に、アマゾンサイトにおいては、プライム会員という有料会員制度を有し、プライム会員であれば、いち早く商品を届けるお急ぎ便の利用やお届け日時指定便の利用が無料となるため、アマゾンサイトのみを利用するユーザーは相当数存在する。そして、当該ユーザーは、アマゾンサイトのアプリ等を利用して、アマゾンサイトのサイト内検索によりヒットした商品の中から購入する商品を選ぶのであり、同検索で被告製品がヒットしないのであれば、アマゾンサイトで購入できる被告製品と類似の商品(原告が販売する商品を含む。)を購入してしまう。このように、被告個別製品をアマゾンサイトで販売できなくなったことによる逸失利益は、他のECサイトの存在によっても填補されることはない。実際にも、アマゾンサイト以外のECサイトにおける被告個別製品(と同等の製品)の売上月額は、令和5年9月及び10月(被告個別製品をアマゾンサイトで販売できなかった期間)と、同年7月とで大きな差はない。〔
(原告の主張)
〕
(1) 被告が主張する損害額は争う。
(2) ECサイトにおいて商品を購入しようとする消費者は、まずもって自分が
5 欲しい商品をウェブ上で検索し、その結果ヒットしたサイトにおいて、掲載された
商品の内容と価格を見て購買を決するのが常態である。そうすると、仮に被告個別製品がアマゾンサイトに掲載されなくなったとしても、被告は同じ商品を他のECサイトにも出品しているところ、消費者がウェブ上で検索すればこれらのサイトがヒットし、商品や価格に差異がない以上、消費者はそこで買うことが可能である。したがって、アマゾンサイトにおける販売減少分が直ちに被告の逸失利益となるものではない。
第4 当裁判所の判断
1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について被告製品が、本件発明の構成要件AないしDに係る構成を有することは争いがない。そこで、争いのある構成要件Eの充足性(「前記車両情報をカーナビゲーションに一定期間送信せず記憶しておく情報記憶手段」を備えるか)、同Fの充足性(「前記一定期間分の前記車両情報をまとめて、予め定められた単位時間に圧縮した圧縮車両情報に演算する演算手段」を備えるか)、同Gの充足性(「前記一定期間後、前記圧縮車両情報をカーナビゲーションヘ送信する情報送信手段」を備えるか)及び同Hの充足性(「映像視聴装置」か)が問題となる。
(1) 文言侵害の成否(争点1-1)について事案に鑑み、構成要件F及び同Gの充足性から検討する。ア 構成要件Fの充足性(「前記一定期間分の前記車両情報をまとめて、予め定められた単位時間に圧縮した圧縮車両情報に演算する演算手段」を備えるか)及び同Gの充足性(「前記一定期間後、前記圧縮車両情報をカーナビゲーションヘ送信する情報送信手段」を備えるか)について(ア) 本件明細書の記載本件明細書には、以下の内容が示されている(具体的な記載内容は別紙「特許公報」のとおりである。)。
5 a 技術分野・本件発明が解決しようとする課題本件発明は、車両に搭載されて、カーナビゲーションとテレビ等の映像視聴を行う装置に関するものであり、車両が走行中であっても、ナビゲーション中にテレビ等の映像視聴を停止させず、かつ、テレビ等の映像視聴中にナビゲーションを停止させない映像視聴装置を提供するものである(【0001】【0004】)。b 課題を解決するための手段・本件発明の効果前記目的を達成するため、本件発明に係る映像視聴装置は、車両とカーナビゲーションとの間に接続されて、前記車両が走行時におけるナビゲーション中に、カーナビゲーションで視聴可能なテレビ、光ディスク、メモリー、通信、ネットワークによる映像視聴を可能にし、視聴中にナビゲーションを停止させない装置であって、前記車両からカーナビゲーションに向けて送信される車両情報をいったん受け取 る情報入力手段と、前記車両情報をカーナビゲーションに一定期間送信せず記憶しておく情報記憶手段と、前記一定期間分の前記車両情報をまとめて、予め定められた単位時間に圧縮した圧縮車両情報に演算する演算手段と、前記一定期間後、前記圧縮車両情報をカーナビゲーションヘ送信する情報送信手段と、を含む。前記演算手段は、前記車両の速度に応じて量が変化した前記一定期間分の前記車両情報に、一度に送信する前記圧縮車両情報の量を対応させて変化させ、一度に送信する前記圧縮車両情報の圧縮度を前記単位時間内において連続して又は段階的に変化させるスイープ機能を持ち、適切な周波数を判定することができる。本件発明によれば、車両が走行中であっても、カーナビゲーションのナビゲーション中にテレビ等の映像視聴が可能であり、テレビ等の映像視聴中にナビゲーション可能である。(以上につき、【0005】ないし【0007】【0009】)c 発明を実施するための形態【図1】は、本件発明の映像視聴装置3が搭載される車両1の電気的構成図である。テレビ等の映像視聴機能付きカーナビゲーション5は車両1に搭載されているものであり、本件発明の映像視聴装置3は、テレビ等の映像視聴機能付きカーナビ
5 ゲーション5に接続される、車両CAN又はその他車両情報2のデータラインの間に挿入して接続する。上記映像視聴装置3により処理された圧縮車両情報4は、上記映像視聴装置3からテレビ等の映像視聴機能付きカーナビゲーション5へ送信される。(【0012】ないし【0015】【図1】)【図2】は、従来技術と本件発明の電気的処理とカーナビゲーション及びテレビ等の映像視聴の状態を表すグラフである。従来技術は、車両が走行中にテレビ等の映像視聴ができないカーナビゲーションにおいて、カーナビゲーションに送信する車速情報信号、パーキング信号等車両の走行状態を監視する信号を遮断することで、走行中にテレビ等を視聴可能にしているが、上記のように信号が遮断されるため、テレビ等映像視聴中はナビゲーションが停止もしくは正常に動作しない。【図3】は、本件発明の一実施形態に係るテレビ等の映像視聴アダプター3の処理の流れを示すフローチャートである。(以上につき、【0010】【0017】【0020】ないし【0022】【図2】【図3】)(イ) 検討a 構成要件Fにおける「圧縮」の語義は、「物質に圧力を加えてその容積を小さくすること、おしちぢめること」等である(弁論の全趣旨)。また、本件明細書の記載(前記(ア)b)によれば、本件発明において、車両から送信される車両情報をいったん受け取り、「演算手段」が、カーナビゲーションに一定期間送信せず記憶された車両情報(前記一定期間分の前記車両情報)をまとめて、予め定められた単位時間に圧縮した圧縮車両情報に演算し、前記一定期間後、「情報送信手段」が前記圧縮車両情報をカーナビゲーションヘ送信するというのであるから、「圧縮」とは一定期間分の車両情報を単位時間におしちぢめること、すなわち、時間的に短縮するとの趣旨で用いられているものと当業者には理解される。そうすると、構成要件F及びGの「圧縮」を備えるというには、T1期間分(又は「T2期間+T1期間」分)の車両走行情報が存在する場合に、これらの期間よりも短いT2期間に収まるように車両走行情報を時間的に短縮する(おしちぢめる)
5 ことが必要であると解される。b 被告製品についてみると、車両から被告製品に入力された車速信号のうちT1期間の最後の3パルスを利用して、演算により生成された車速信号(「T2期間+T1期間」分の車両走行情報に相当するもの)をT2期間においてカーナビに送信(出力)するものである(前記前提事実(4)ア(イ))。これは、T1期間の最後の3パルスから、その直後のT2期間及びT1期間における走行状態を予測した上で生成された「T2期間+T1期間」分の情報量を有する車両走行情報を、当該T2期間においてカーナビに送信するものと認められる。このように、T2期間においてカーナビに送信するのが「T2期間+T1期間」分の車両走行情報に相当するものであるとしても、当該情報はT1期間分(又は「T1期間+T2期間」分)の車両走行情報を時間的に短縮する(おしちぢめる)処理が行われたものとは解されない。c 原告は、被告製品動作波形図面(乙8)等を根拠として、被告製品が、「T2期間+T1期間」の全車両情報をより短いT2期間に収めてカーナビに送信している以上は、全車両情報を圧縮しているものといわざるを得ない旨主張する。この点、甲事件本訴の訴状の図2には、上記3パルスから「T2期間+T1期間」分の車両走行情報をいったん生成した上で、それを圧縮処理してT2期間において送信するかのような記載もある。しかし、同図の基となったと解される甲第6号証(13頁図5)をみると、「直近にサンプリングした車速パルス信号(本例では3パルス)に基づいて算出された車速で、T3期間(T2期間+T1期間)で移動する距離に相当するパルス信号を、T2期間で送信するためのパルス信号を算出して生成する。」と記載されており、上記のような圧縮処理が行われていることを示すものとは解されない。また、一般に、演算処理において、直近の車速パルス信号(3パルス)から「T2期間+T1期間」分の車両走行情報をいったん生成した上でそれを圧縮する処理を行うことは迂遠であるところ、被告製品においてかかる処理が行われていることを認めるに足りる証拠はない。
5 そして、T1期間の最後の3パルスを利用して予測を行う演算により、「T2期間+T1期間」分の情報量を有する車両走行情報を生成する処理が行われ、これがT2期間に送信された場合の動作波形も被告製品動作波形図面のとおりになると認められるから、原告の主張は理由がない。d 以上のことからすると、被告製品は、「圧縮した圧縮車両情報に演算する演算手段」や「前記圧縮車両情報をカーナビゲーションへ送信する情報送信手段」を備えるとはいえないから、構成要件F及びGを充足しない。イ 小括以上のとおり、被告製品は構成要件F及びGを充足しないから、その余の構成要件について検討するまでもなく、被告製品に関する文言侵害は認められない。
(2) 均等侵害の成否(予備的主張。争点1-2)について前記(1)のとおり、被告製品は、構成要件Fの「前記一定期間分の前記車両情報をまとめて、予め定められた単位時間に圧縮した圧縮車両情報に演算する演算手段」との構成を備えておらず、少なくともこの点において本件発明と相違するため、原告が予備的に主張する均等侵害の成否につき検討する。ア 特許請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、①同部分が特許発明の本質的部分ではなく(第1要件)、②同部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(第2要件)、③上記のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(第3要件)、④対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件)、かつ、⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は、同対象製品等は、特許請求の範囲に記載
5 された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照)。イ 第1要件について原告は、均等侵害の第1要件につき、被告製品が「一定期間の車両走行情報を取得し、取得した車両走行情報に基づいた車両走行情報を送信する対象としている」点は、被告製品も本件発明も同じであり、両者は取得した車両走行情報に基づく演算方法が異なるにすぎないところ、「個々の車両走行情報に基づいて一定期間の車両走行情報を生成し、当該生成した車両走行情報をカーナビが走行状態と判断する時間未満の単位時間に圧縮して送信する」ことが本件発明を特徴付ける技術的思想の中核部分であり、本質的部分であるから、具体的な演算方法いかんは本件発明の本質的部分ではない旨主張する。しかし、前記(1)ア(ア)の本件明細書の記載のとおり、従来技術は、車両が走行中にテレビ等の映像視聴ができないカーナビゲーションにおいて、カーナビゲーションに送信する車両の走行状態を監視する信号を遮断することで、走行中にテレビ等を視聴可能にしているが、信号の遮断によりテレビ等映像視聴中はナビゲーションが停止もしくは正常に動作しないという課題があったのに対し、本件発明は、走行状態信号(車両情報)を一定期間遮断して記憶し、その後に演算により圧縮した車両情報を短時間に一斉にカーナビゲーションに送信することを繰り返すことで、走行中にテレビ等の視聴を可能にしつつ、カーナビゲーションの正常な動作を実現し、課題を解決するものであるから、車両情報の演算による圧縮処理は、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であって、本件発明の本質的部分というべきである。そうすると、車両情報の演算による圧縮処理を行わないという被告製品と本件発明の相違点は、本件発明の非本質的部分とはいえないから、均等侵害の第1要件を認めることはできない。
5 ウ 第3要件について前記(1)のとおり、本件発明においては、演算により一定期間における車両情報をT2期間に収まるよう圧縮する(おしちぢめる)処理が行われているのに対し、被告製品においては、T1期間における車両情報の最後の3パルスを利用して予測を行う演算により、「T2期間+T1期間」分の情報量を有する車両走行情報を生成する処理が行われているものと認められる。そして、記憶された車両情報を圧縮する処理と、車両情報の一部を利用するとはいえ、予測した車両情報を新たに生成する処理との間には質的な差異があり、技術的思想を異にするというべきである(実際にも、本件発明の実施品においては8ビットのマイコンが使用されているのに対し、被告製品においては32ビットのマイコンが使用されていると認められる(前記前提事実(4)ア(ア)、甲6)。)。そうすると、上記の圧縮処理を生成処理に置き換えることにつき、当業者が被告製品の製造等の時点において容易に想到することができたものとは認められないから、均等侵害の第3要件を認めることはできない。エ 以上のことからすると、被告製品に関して、本件発明に対する均等侵害の成立を認めることはできない。
(3) 小括したがって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属しないから、争点2及び同3について判断するまでもなく、原告の甲事件反訴請求は理由がない。
2 本件権利侵害報告の不正競争行為(不競法2条1項21号)又は不法行為該当性(争点4)について前記1のとおり、被告製品が本件特許権を侵害するものではない以上、被告個別製品の製造・販売行為が本件特許権を侵害する行為であるなどとする本件権利侵害報告の内容は、虚偽の事実であり、そのような事実は被告の営業上の信用を害する事実であるといえる。そして、原告と被告は競争関係にあるから(前記前提事実(1))、原告のアマゾンに対する本件権利侵害報告は、「競争関係にある」被告の
5 「営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為であり、不競法2条1条21号所定の不正競争行為に該当すると認められる。これに対し、原告は、アマゾンは被告の販売部門ともいうべき立場にあり、被告製品が本件特許権の侵害品であった場合には共同不法行為者となるから、アマゾンに対する本件権利侵害報告は、被告に対する告知と同様に権利者の正当な権利行使であるとも主張するが、被告とは独立した立場の第三者であるアマゾンを被告の販売部門と位置付けることは到底できないから、採用できない。
3 本件権利侵害報告についての原告の過失の有無(争点5)について(1) 認定事実前記前提事実並びに証拠(別紙「乙事件事実経過」に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、別紙「乙事件事実経過」記載の事実が認められる。(2) 判断ア 原告は、アマゾンに対して本件権利侵害報告を行ったものであるところ、実際には、被告製品は本件特許権を侵害するものではなかった以上、本件権利侵害報告の時点で、原告において上記侵害の事実が認められると信ずべき相応の合理的な根拠がない限り、原告が果たすべき必要な注意義務を果たしたとはいえず、原告には過失が認められる。イ この点につき、原告は、外部者の立場において、被告製品につきでき得る限りの調査検証をした上で本件権利侵害報告を行ったものであるから、過失がない旨主張する。確かに、前記認定事実のとおり、本件権利侵害報告前に、原告において被告製品につき一定の検証を行ったことが認められる。しかしながら、前記前提事実(2)の本件特許権の内容及び同(4)アの被告製品の構造を踏まえると、車両からの車速信号が入力された被告製品において、同信号のカーナビへの出力までにマイコン等によりどのような処理が行われているかが、本件特許権侵害の有無を判断する上で重要になると解されるところ、被告製品からその動作プログラムを読み出すことがで
5 きなかったことは原告自身が認めている。それにもかかわらず、原告は、被告製品の動作波形の外形のみから本件特許権を侵害するものと判断し(しかも、動作波形の測定においては、実際の車両走行で想定されるような車両速度の加速・減速があった場合の検証は行われていない。)、同判断に関する被告側の言い分等を確認することもせずに、第三者であるアマゾンに対する本件権利侵害報告(被告個別製品の出品停止請求を含む。)を行ったものである。そして、前記認定のとおり、原告は、上記の被告製品の検証において、「 T2(n-1)+T1(n)期間に車両から送信されるパルスが、T2(n)期間に圧縮されていることを認識した」としており、被告製品動作波形図面のとおり、2本の赤線で示された部分の①(T2期間+T1期間)の車速信号が、上記部分の②(次のT2期間)の車速信号に圧縮されて送信されていると判断している。しかし、被告製品は、車両から被告製品に入力された車速信号のうちT1期間の最後の3パルスを利用して、演算により生成された車速信号(「T2期間+T1期間」分の車両走行情報に相当するもの)をT2期間においてカーナビ に送信するものであり(前記前提事実(4)ア(イ))、被告製品動作波形図面における2本の赤線で示された部分の②の車速信号は、その直前のT1期間における①の車速信号の最後の3パルスを利用して生成されたものであって、原告は判断を誤ったというべきである。原告は、被告製品における上記のような不合理な操作は想定できず、外部からも判別できず、原告が行った検証作業以上の調査分析を実施することは不可能である旨主張するが、被告製品における上記の操作(処理)が不合理なものであると認めるには足りないし、外部から判別できないのであればこそ、安易に本件権利侵害報告を行うべきではなかったといえる。以上のことからすれば、本件権利侵害報告の時点で、原告において本件特許権侵害の事実が認められると信ずべき相応の合理的な根拠があったとはいえず、原告が果たすべき必要な注意義務を果たしたとはいえないから、原告には過失が認められるというべきである。原告の主張は採用できない。
5 ウ また、原告は、本件権利侵害報告後に被告に本件特許権侵害の警告書(甲1)を送付したが、これに対する被告からの2通の連絡文書(甲3、4)には、本件特許権の非侵害の理由が書かれていないか、書かれていても被告製品動作波形図面に照らして信用できないものであったから、過失はない旨主張する。しかしながら、前記ア及びイのとおり、原告が過失により本件権利侵害報告を行った後の被告の対応いかんによって、原告の過失が否定されるものとは解されない。また、この点は措くとしても、前記認定事実のとおり、被告が原告に送付した令和5年9月14日付け連絡文書(甲4)には、被告製品につき「基本的に車両情報はリアルタイムで処理する構成を採用するものであり、受け取った車両情報を『圧縮』する構成を採用していません。」との記載があり、少なくとも、被告製品は車両情報を圧縮するものではないとの被告の言い分は記載されている。そうであれば、原告としては、より慎重に本件特許権侵害の根拠を収集するよう努めるなどの対応も必要であったと解されるところ、原告は、同月22日付け連絡文書(甲5)のとおり、被告製品動作波形図面の外形を理由に、本件特許権侵害を前提にした話合いにしか応じない旨を被告に連絡しており、それ以上の調査を行ったことは認められないから、原告において事後的に被告の言い分等を確認したことを踏まえても、原告の本件権利侵害報告が正当化されるものではなく、原告の主張は採用できない。
4 被告の損害の発生及びその額(争点6)について(1) 逸失利益について被告は、原告の本件権利侵害報告により、被告個別製品をアマゾンサイトにおいて販売できなくなったことによる損害を主張するところ、前記前提事実(6)のとおり、本件権利侵害報告を受けて、アマゾンは、令和5年9月7日から同年11月7日まで、アマゾンサイトにおける被告個別製品の出品を停止したものであり、これにより、被告は、上記期間、アマゾンサイトにおける被告個別製品の販売ができなくなったと認められる(以下、同期間のことを「本件販売停止期間」という。)。そこで、本件販売停止期間における被告の逸失利益について検討する。
5 ア 売上額(ア) 令和5年6月1日から同年8月31日までの3か月間のアマゾンサイトにおける被告個別製品の売上額は、別紙「損 害 額 計 算 書 」記載のとおり3117万9740円である(争いのない事実)。そして、被告個別製品は、季節により売上額が大きく変動するような製品であるとは認められないから、本件販売停止期間(同年9月7日から同年11月7日までのほぼ2か月間)に想定された被告個別製品の売上額(後記(イ)の検討前のベースとなる額)については、直近3か月間の上記売上額を踏まえて、これに3分の2(2か月間/3か月間)を乗じた額と算出するのが合理的である。したがって、本件販売停止期間に想定された被告個別製品の売上額は、2078万6493円(3117万9740円×2/3)と算出される。(イ) もっとも、被告個別製品(その同等品を含む。以下同じ。)は、本件販売停止期間中、楽天市場、ヤフーショッピング及び被告自社サイトにおいても販売されていたところ(前記前提事実(5))、原告は、消費者はこれらのサイトにおいても被告個別製品を購入可能であったから、アマゾンサイトにおける販売減少分が直ちに被告の逸失利益となるものではない旨主張する。そこで検討するに、証拠(甲27)及び弁論の全趣旨によれば、令和5年3月から同年10月までの被告自社サイト、楽天市場及びヤフーショッピングにおける被告個別製品の月別売上額は、別紙「他サイトにおける被告個別製品の売上額」記載のとおりと認められる(「オフィシャルサイト」とあるのは、被告自社サイトのことである。)。これによると、本件販売停止期間と大部分が重なる令和5年9月及び同年10月の被告個別製品の売上額は、それぞれ2393万2858円、2360万8560円であり、同年3月から同年8月までの間で最も売上額が大きい同年7月の売上額(2127万0855円)と比較しても、それぞれ約270万円、約230万円増加している。このことからすると、本件販売停止期間中、アマゾンサイトにおいて
5 被告個別製品を購入できなかった消費者が、被告自社サイト、楽天市場又はヤフーショッピングにおいて被告個別製品を購入したことによる影響が少なくとも一定程度はあるものと認められる(普段アマゾンサイトを利用する消費者であっても、その全てがアマゾンサイト以外は一切利用しないものとは考えられない。)。もっとも、かかる影響の具体的な程度は不明であるし、被告個別製品の売上げの増減については上記以外にも様々な要因があり得ることを総合的に考慮すると、少なくとも上記の売上増加分の3割程度である150万円((270万円+230万円)×0.3)については、アマゾンサイトにおいて被告個別製品を販売できなかった分が他のサイトにおける販売によって填補されたものとみるのが相当である。(ウ) したがって、本件権利侵害報告がなければ得られたであろう本件販売停止期間の被告個別製品の売上額は、1928万6493円(2078万6493円-150万円)と算定される。イ 利益率(ア) 証拠(甲22ないし24)及び弁論の全趣旨によると、被告個別製品のうち、製品番号(商品コード)「TV-06」及び「TV-08」の利益率は、以下のとおり、それぞれ約52.28%、約45.73%であることが認められる(なお、仕入額の元(人民元)・円の為替レート1元=20円について、原告も特に争っていない。)。a TV-06販売価格 1万2800円仕入額 3500円(175元×20円/元)販売手数料等 1444円消費税 1164円売上利益 6692円利益率 約52.28%(6692円÷1万2800円×100)b TV-08
5 販売価格 1万4980円仕入額 5120円(256元×20円/元)販売手数料等 1648円消費税 1362円売上利益 6850円利益率 約45.73%(6850円÷1万4980円×100)(イ) 令和5年6月1日から同年8月31日までの間にアマゾンサイトにおいて販売された被告個別製品のうち、「TV-06」及び「TV-08」の区別は、別紙「損害額計算書」記載のとおりであるところ(「商品コード」として記載)、その大半は「TV-06」であると認められる。もっとも、被告自身が、被告個別製品のうち「TV-06」の利益率は約52%、「TV-08」の利益率は約46%であり、被告個別製品の利益率はこれらの平均の49%として計算すべき旨主張しており、これは原告にとって有利な計算であることに照らし(原告も甲事件においては被告製品の限界利益率が50%と主張している。)、被告個別製品全体の利益率は49%とするのが相当である。ウ 逸失利益したがって、本件販売停止期間にアマゾンサイトにおいて被告個別製品を販売できなかったことによる被告の逸失利益は、945万0382円(1928万6493円×49%)と認められる。(2) 調査費用及び弁護士・弁理士費用について証拠(甲25、26)によると、被告は、原告による本件権利侵害報告を受けて行った、被告製品が本件特許権を侵害するか否かに関する専門家(弁理士)による調査の費用として、鑑定書作成費等32万8400円、無効資料調査費等21万3950円を支出したことが認められる。上記費用は弁護士・弁理士費用と一部重なるものと解される。そこで、原告の不正競争行為と相当因果関係のある調査費用及び弁護士・弁理士費用は、前記(1)の
5 額(945万0382円)の約1割相当額に鑑定書作成費等の費用分をも加味した上、合計125万円とするのが相当である。(3) 小括したがって、被告の損害額は、合計1070万0382円となる。なお、被告は、不法行為に基づく損害賠償も選択的に請求するが、仮に原告の本件権利侵害報告につき不法行為の成立が認められるとしても、同請求に係る認容額は上記金額を超えるものではない。
5 結論よって、原告の甲事件反訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、被告の乙事件請求は、不競法4条に基づく損害賠償金1070万0382円及びこれに対する令和5年11月7日(損害発生の終期である本件販売停止期間の最終日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官
西 尾 太 一
裁判長裁判官武宮英子は、差支えのため、署名押印することができない。
裁判官
阿 波 野 右 起
※別紙「特許公報」は掲載省略
(別紙)
被告製品目録製品名 「TV&ナビキャンセラー ナビ案内対応」(Ver.2.0を含む。)ただし、個別製品の販売の際には、「RAV4、ノア・ヴォクシー90系、シエンタ10系、プリウス60系、カローラ/カローラスポーツ/カローラツーリング、クラウンクロスオーバー、ハリアー80系、レクサス」等の適応車種名を特定して販売されている。以 上
(別紙)
被告個別製品目録製品番号 商品番号 商品名:Amazon 商品名:楽天市場テレビ 見られる & ルート検索 案内可能 新 型 ノア ヴォクシー 90系 ディストヨタ 新型ノア・ヴォクシー 90系プレイオーディオ (コネクティッドナTV-06N ディスプレイオーディオ対応 TVビ 対応) TVキャンセラー ナビ案内 対キャンセラー ナビ案内対応Ver2.0応 Ver. 2.0 (純正ステアリングのスイッチで切替え)テレビ 見られる & ルート検索 案内可トヨタ 新型シエンタ 専用 ディスプ能 シエンタ 専用 ディスプレイオーレイオーディオ8インチ/ディスプレディオ (コネクティッドナビ 対応) TVTV-06ST イオーディオPlus 10.5インチ対応キャンセラー ナビ案内 対応 Ver. 2.0TVキャンセラー ナビ案内対応(純正ステアリングのスイッチで切替Ver.2.0え)テレビ 見られる & ルート検索 案内可トヨタ カローラ/カローラスポーツ能 カローラ カローラスポーツ カロー/カローラツーリング ディスプレイラツーリング ディスプレイオーディTV-06-NC オーディオ(コネクテッドナビ対応)オ (コネクティッドナビ 対応) TVキャ
8インチ/10.5インチ TVキャンセンセラー ナビ案内 対応 Ver.2.0 (純正ラー ナビ案内対応Ver.2.0ステアリングのスイッチで切替え)TV-06 テレビ 見られる & ルート検索 案内可能 クラウンクロスオーバー ディスプ トヨタ クラウンクロスオーバーレイオーディオ (コネクティッドナビ ディスプレイオーディオ(コネクTV-06-NCROWN対応) TVキャンセラー ナビ案内 対応 テッドナビ対応) 12.3インチTVキャVer. 2.0 (純正ステアリングのスイッ ンセラー ナビ案内対応Ver.2.0チで切替え)テレビ 見られる & ルート検索 案内可能 RAV4 ディスプレイオーディオトヨタ RAV4 ディスプレイオー(コネクテッドナビ 対応) 8インチディオ(コネクテッドナビ対応) 8イTV-06-NR 10.5インチ TVキャンセラー ナビ案内ンチ/10.5インチ TVキャンセラー対応 Ver.2.0 (純正ステアリングのスナビ案内対応Ver.2.0イッチで切替え) 「 PHEV 車非 対応」プリウス 60系 テレビ 見られる &ルート検索 案内可能 ディスプレイ トヨタ プリウス 60系 ディスプレイオーディオ (コネクティッドナビ 対 オーディオ(コネクテッドナビ対応)TV-06-NP応) TVキャンセラー ナビ案内 対応 12.3インチ 8インチ TVキャンセVer. 2.0 (純正ステアリング スイッチ ラー ナビ案内対応Ver2.0で切替え)TOYOTA 80系ハリアー ディスプレ改良新型 ハリアー 80系 令和4.10~イオーディオ(コネクテッドナビ対ディスプレイオーディオ TVキャンセTV-08 TV-08 応) 8インチ/12.3インチ TVキャンラー ナビ案内 対応 Ver.2.0 特許出願セラー テレビキットナビ案内対応済みVer.2.0 2022年10月仕様変更後~
(別紙)
本件明細書図面【図1】【図4】【図2】【図3】以 上
( 別 紙)
被告製品写真1以 上
(別紙)
被告製品の動作波形②被告製品からカーナビに出力された車速信号①車両から被告製品に入力された車速信号以 上
(別紙)
損害額計算書
(別紙)
他サイトにおける被告個別製品の売上額
| 特許裁判例 実用新案裁判例 |
| 意匠裁判例 商標裁判例 |
| 不正競争裁判例 著作権裁判例 |
| 特許判例 実用新案判例 |
| 意匠判例 商標判例 |
| 不正競争判例 著作権判例 |
10月26日(月) - オンライン
10月26日(月) - オンライン
商標的使用論・商標機能論・商標法26条・権利濫用論等の違いからみた『商標権侵害と対応策』 ~どのように攻め、どのように守るか~
10月26日(月) - オンライン
10月26日(月) - オンライン
10月27日(火) - 東京 千代田
10月27日(火) - 千葉 千葉市
10月27日(火) - 東京 港区
10月28日(水) - オンライン
英文契約の実務(基礎から読解・作成のポイントまで)―日本語契約との違いや起こりやすいトラブル、悩ましい英文も解説します―
10月28日(水) - オンライン
最新の制度改正を反映 海外の特許制度と実務上の留意点(米国・欧州(EPC)・中国) ~米国ならびに EPC (欧州特許条約)・中国の各制度の下でのグローバル特許取得の基本的な知識と留意点を解説します~
10月28日(水) - 東京 千代田
10月28日(水) - オンライン
10月28日(水) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月29日(木) - オンライン
10月30日(金) - オンライン
10月26日(月) - オンライン
11月2日(月) - オンライン
11月4日(水) - オンライン
11月4日(水) - オンライン
11月5日(木) - 大阪 大阪市西区
11月5日(木) - オンライン
11月5日(木) - 大阪 大阪市
11月5日(木) - 大阪 大阪市
11月5日(木) - 愛知 名古屋市
11月5日(木) - オンライン
11月5日(木) - オンライン
11月6日(金) - 東京 港区
11月6日(金) - オンライン
11月6日(金) - オンライン
11月6日(金) - オンライン
11月2日(月) - オンライン
〒170-0013 東京都豊島区東池袋3丁目9-10 池袋FNビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング
茨城県龍ヶ崎市長山6-11-11 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 訴訟 鑑定 コンサルティング
〒330-0846 埼玉県さいたま市大宮区大門町3-205 ABCビル401 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング