ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(行ケ)10080 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年8月10日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 対象物 | 三次元画像化可能な顕微鏡及び画像化方法 |
| 法令 |
特許権 |
| キーワード | 審決9回 無効4回 分割3回 進歩性2回 特許権2回 無効審判2回 優先権2回 実施1回 刊行物1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理の申立ての |
| 事件の概要 | 本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立と した審決の取消しを求める事案である。 |
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令和8年8月10日判決言渡
令和7年(行ケ)第10080号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年6月17日
判 決
当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立ての
ための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2023-800031号事件について令和7年4月7日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、原告が、特許権者である被告に対し、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著な事実)
⑴ 被告は、平成28年12月6日、発明の名称を「三次元画像化可能な顕微鏡及び画像化方法」とする発明について、特許出願(特願2019-522949号。優先権主張日:平成28年10月26日(以下「本件優先日」という。)、優先権主張国:中国)をし、令和4年3月1日、特許権の設定登録(特許第7032817号。請求項の数15。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。
⑵ 原告は、令和5年5月25日、本件特許につき、被告を被請求人として、無効審判を請求した(無効2023-800031号)。被告は、令和6年12月2日、上記審判請求事件において、本件特許の特許請求の範囲について訂正(訂正後の請求項の数15。以下「本件訂正」という。)する旨の訂正請求をした。
5 ⑶ 特許庁は、令和7年4月7日、本件訂正を認めた上で、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月22日、原告に送達された(出訴期間90日附加)。
⑷ 原告は、同年8月8日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲及び明細書の記載本件訂正後の特許請求の範囲の記載は、別紙2「本件訂正後の特許請求の範囲」に記載のとおりである(以下、請求項の番号に応じて「本件発明1」等といい、これらを併せて「本件各発明」という。甲25)。また、本件特許に係る明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)の記載は、甲13(本件特許公報)に記載のとおりである(以下、その段落番号を【】で示す。)。3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由の要旨は、次のとおりである。
⑴ 甲1に記載された発明本 件 優 先 日 前 に 頒 布 さ れ た 刊 行 物 で あ る 甲 1 ( ABHISHEK KUMAR etal.,"Using Stage- and Slit-Scanning to Improve Contrast and OpticalSectioning in Dual-View Inverted Light SheetMicroscopy(diSPIM)",Biol.Bull.,231,2016 年 8 月,pp.26-39)には、下記ア及びイの発明(以下、それぞれ「甲1発明」、「甲1方法発明」という。)が記載されている。ア 甲1発明「デュアルビュー倒立型選択平面照明顕微鏡(diSPIM)であって、デュアルビュー倒立型選択平面照明顕微鏡検査法(diSPIM)により、等方性の空間分解能を有し、4次元(4D)イメージングが可能となり、光シート及び検出光学系を定置のまま維持し、定置された光シートを通るようにサンプルを走査するステージスキャンと、
5 光シート合成をサイエンティフィック相補型金属酸化物半導体(sCMOS)検出器の電子ローリングシャッタと同期させるスリットスキャンとを組み合わせた方法であり、デュアルビュー倒立型選択平面照明顕微鏡では、サンプルからの蛍光の励起及び検出において、2つの垂直対物レンズが交互に役割を交替し、得られたボリュームは位置合わせ及びデコンボリューションされて、約330nmまでの等方性の分解能を有する像が得られ、サンプルを波長488nm、561nm又はその両方で励起し、検出器からのレーザー光の阻止には488nmフィルタ、ロングパスフィルタ、及び561nmノッチフィルタを使用し、ステージスキャンモードでは、光シートの形成のために、低NA照明は依然として「y」方向で走査されるが、シート及び検出面は、取得中、固定の位置に保持され、電動サンプルステージは、ボリュームを取得するためにz’方向(すなわちステージが走査される方向;zは対物レンズが走査される方向であり、したがってz’方向とz方向は相互に45°の角度をなす)に平行移動され、このモードにおいてボリュームデータを取得する場合、連続する撮像平面が視野(FOV)全体にわたって横方向に平行移動していき、光シートを照明する方向はx方向であり、検出焦平面はxy平面であり、z’方向とx方向は相互に45°の角度をなし、x方向とz方向は相互に90°の角度をなし、電動サンプルステージを一定の速度まで加速させた後、像取得が開始され、光シートは、diSPIM走査ヘッド(Yガルバノメータ(Yガルバノ)波形)内の二軸走査ミラーのy軸に鋸歯波を適用することによって、各露光中に形成され、像が取得されるたびに、二軸走査ミラーのz軸に矩形波
5 パルスを印加することによって(Zガルバノメータ(Zガルバノ))、各対物レンズに光シートが交互に透過(又は偏向)され、各対物レンズに相補的な波形を印加することにより、デュアルビュー画像が交互のデューティサイクルで平面ごとに取得され、前記カメラ及びレーザーのトリガは、Yガルバノ及びZガルバノの波形に同期され、スリットスキャンモードでは、Yガルバノスキャン(Yスキャン)がカメラのローリングシャッタと同期され、レーザーは撮像面ごとに1方向で1回走査され、スリットスキャンモードでは、レーザーは、撮像面ごとに1つのパルスを有し、スリットスキャンにおける平面ごとの有効取得時間は、ROIについての読み出し時間5ms、カメラトリガ遅延約2.5ms、及びライン露光時間200μsの合計、又は約8msであり、レーザートリガ遅延とカメラトリガ遅延は等しく、ステージスキャンモードは、光シート及び検出光学系を定置としたまま、電動サンプルステージを一方向に一定の速度で平行移動させ、ステージ速度が点拡がり関数(PSF)幅/露光時間(この場合、500nm/5msすなわち約0.1mms -1)未満に設定される限り、モーションブラーの影響を無視でき、空間分解能は、検出対物レンズと光シートとが共に平行移動される従来のイメージングモーションのそれに等しくなり、ジョイントデコンボリューションにより、イメージングモードに関係なく、3つの空間次元の全てで約350nmまでの等方性の改善が得られたデュアルビュー倒立型選択平面照明顕微鏡。」イ 甲1方法発明
5 「甲1発明のデュアルビュー倒立型選択平面照明顕微鏡を用いた4次元(4D)イメージングが可能となるデュアルビュー倒立型選択平面照明顕微鏡検査法。」
⑵ 本件発明1と甲1発明との一致点・相違点(一致点)励起主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で検出可能なコントラストを生成するための、少なくとも1つの励起装置と、検出主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で生成されたコントラストを出するための、少なくとも1つの検出装置と、試料と前記励起装置及び前記検出装置との相対運動を発生させるための、少なくとも1つの移動手段と、を含み、前記相対運動の方向は、前記励起主軸方向に平行も垂直もせず、前記相対運動の方向は、前記検出主軸方向に平行も垂直もせず、画像化するときの前記相対運動は等速であり且つ中断しない、三次元画像化可能な顕微鏡において、試料の1つの三次元領域を画像化する全過程において、前記検出装置の有効検出領域において、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位は、励起上限時間以内においてのみ前記励起装置に励起され、前記励起装置と前記検出装置とは同期的に作動し、前記励起装置は、パルス時間がパルス上限時間以内のパルスを用い、光学シート照明の方法により試料を励起し、前記励起装置は、検出領域内において前記検出装置の検出方向に略垂直な励起光束を少なくとも1つ発生し、前記励起装置は、前記励起光束を走査移動させることができる走査手段を少なくとも1つ含む、
5 三次元画像化可能な顕微鏡。(相違点1)本件発明1は、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位が、励起上限時間以内においてのみ励起装置に励起されることが、「前記顕微鏡の解像度の要求」及び「前記相対運動の速度に基づいて」おり、励起上限時間が、「前記所定時間内において、前記相対運動による変位は前記顕微鏡の解像度の要求を超え[ない]」ような「所定時間」であるのに対し、甲1発明は、「ステージ速度が点拡がり関数幅/露光時間(この場合、500nm/5msすなわち約0.1mm s-1 )未満に設定される限り、モーションブラーの影響を無視でき、空間分解能は、検出対物レンズと光シートとが共に平行移動される従来のイメージングモーションのそれに等しくなる」、すなわち、「約330nmまでの等方性の分解能を有する像が得られ[る]」ものの、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位が、励起上限時間以内においてのみ励起装置に励起されることが、「前記顕微鏡の解像度の要求」及び「前記相対運動の速度に基づいて」いるか明らかでなく、また、前記励起上限時間が、本件発明1でいう「前記所定時間内において、前記相対運動による変位は前記顕微鏡の解像度の要求を超え[ない]」ような所定時間であるかどうかは明らかでない点。(相違点2)相対運動の速度について、本件発明1は、「0.1mm/s以上」であるのに対して、甲1発明は、「点拡がり関数(PSF)幅/露光時間(この場合、500nm/5msすなわち約0.1mms -1)未満に設定される限り、モーションブラーの影響を無視でき、空間分解能は、検出対物レンズと光シートとが共に平行移動される従来のイメージングモーションのそれに等しくな[る]」点。(相違点3)
5 パルス上限時間について、本件発明1は、「前記所定時間内において、前記相対運動による変位は前記顕微鏡の解像度の要求を超え[ない]」ような「前記所定時間」であるのに対し、甲1発明は、「レーザーは、撮像面ごとに1つのパルスを有[する]」ものの、前記パルス上限時間が、本件発明1でいう「前記所定時間内において、前記相対運動による変位は前記顕微鏡の解像度の要求を超え[ない]」ような所定時間であるかどうかは明らかでない点。
⑶ 本件発明1の進歩性について甲1発明から出発した当業者は、相違点2及び3に係る本件発明1の構成に至らないから、甲1発明において、相違点2及び3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。したがって、本件発明1は、相違点1について検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
⑷ 本件発明2~9及び11~15の進歩性について本件発明2~9及び11~13は、本件発明1を更に限定した発明であることから、本件発明1と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件発明14と甲1方法発明との相違点5及び6は、本件発明1と甲1発明との相違点2及び3と同様であるから、甲1方法発明において、相違点5及び6に係る本件発明14の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。したがって、本件発明14は、相違点4について検討するまでもなく、当業者が容易に発明をすることができたものではない。本件発明15は、本件発明14を更に限定した発明であることから、本件発明14と同様の理由で、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
⑸ 本件発明10のサポート要件について本件発明10で特定された「前記走査手段と同期的に作動する走査解除手
5 段」(以下「本件走査解除手段」という。)は、発明の詳細な説明に実質的に記載されているから、本件発明10は発明の詳細な説明に記載したものである。
第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)
⑴ 相違点1について
本件発明1では、「励起時間<最小解像度/相対運動速度」の公式が開示されている。甲1発明では、ステージ速度が「点拡がり関数(PSF)幅/露光時間」未満に設定される限り、モーションブラーの影響を無視できることが開示されているから、「ステージ速度<PSF幅/露光時間」となる必要があることが開示されており、これは、露光時間(本件発明1にいう励起時間)がPSF幅とステージ速度により定まり、「露光時間<PSF幅/ステージ速度」と述べているのと同義である。そして、PSF幅は本件発明1にいう「最小解像度」と、ステージ速度は本件発明1にいう「相対運動速度」と同義であるから、本件発明1と甲1発明との相違点1は存在しない。
⑵ 相違点2について
甲1には0.1mm/sのステージ速度が記載されており、甲1発明は0.1mm/sで実装されている。また、甲1には、0.1mm/sのステージ速度が「低速」であるために量子化誤差が生じたことが明記されているから、量子化誤差を改善するためには、0.1mm/sよりも速度を上げる必要があることは当業者には自明である。したがって、本件発明1と甲1発明は、相対運動の速度が0.1mm/sである点で実質的に同一であり、甲1発明において、0.1mm/s以上とすることが開示又は示唆されているといえるから、本件発明1と甲1発明との相違点2は、実質的に同一の構成であるか、容易想到である。
5 ⑶ 相違点3について
本件発明1における「パルス時間」は相違点1における「励起時間」と同一である。そうすると、相違点3は、相違点1と実質的に同じ内容であるから、上記のとおり相違点1が存在しない以上、本件発明1と甲1発明との相違点3も存在しない。
⑷ 相違点4~6について
上記⑴~⑶と同様にして、本件発明14と甲1方法発明との相違点4~6は存在しない。
⑸ 本件発明2~9、11~13及び15について
上記⑴~⑷と同様にして、本件発明2~9、11~13及び15は、当業者が容易に発明することができたものである。
2 取消事由2(サポート要件違反)
「走査解除」は、本件優先日において、本件特許の技術分野の当業者において技術用語として用いられていなかった用語である。そして、本件明細書にも「走査解除手段」の意義を説明する記載は見当たらないから、「走査解除手段」は、通常の日本語の解釈に従って「走査を解除する手段」と解するほかはない。そして、「解除」とは、「今まであった制限・禁止、あるいは特別の状態などをなくして、もとの状態に戻すこと」をいうから、「走査解除手段」とは、「走査している状態をなくして、走査をしていない状態に戻す手段」という意味にしか解釈できず、「解除」の対象は「走査光」ではなく「走査」というべきである。そうすると、「走査解除」との用語をもって、直ちに「光が走査されている状態を走査されていない状態に戻す」ことを意味するとは解されず、本件走査解除手段は発明の詳細な説明に記載されていない。
第4 被告の反論
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
⑴ 相違点1について
5 甲1発明の「露光時間」は、光を受容するカメラ側で制御する時間である
のに対し、本件発明1の「励起時間」は、光を放出する試料単位側で制御する時間であるから、両者は全く異なる概念である。甲1発明においては、ステージ速度を調整するために、一つの要素として「露光時間」に基づいているが、「励起時間」は何ら考慮されていない。したがって、甲1発明の「露光時間」と本件発明1の「励起時間」と同義ではない。また、本件発明1は、画像化時間の短縮あるいは画像化速度を上げるために、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位に対する「励起時間」を設定して、ステージ速度の向上を許すことをその技術的思想とするものであるのに対し、甲1発明では、「励起時間」を設定することでステージの運動速度を上げるという当該課題の解決案について何ら示されておらず、さらに、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位に対する「励起時間」を設定することでステージの運動速度を上げるという解決案は示されていないし、開示されているに等しいともいえない。
⑵ 相違点2について
原告が指摘する甲1の記載事項は、仮定のステージスキャン速度にすぎず、甲1発明の有効ステージ速度は仮定の値(0.1mm/s)の92%、すなわち0.092mm/sである。甲1発明には、本件発明1の相対運動の速度について、0.1mm/s以上とすることを示唆する記載がないだけでなく、モーションブラーの影響を無視できるためにステージ速度を0.1mm/s未満に設定することを示唆しており、本件発明1の相対運動の速度を0.1mm/s以上とすることの開示も示唆もない。
⑶ 相違点3について
本件発明1における「パルス時間」は、相違点1における「励起時間」と同一とは限らない。
5 2 取消事由2(サポート要件違反)について
本件明細書の記載及び本件出願時の技術常識から、走査手段とは一定方向の入射光を走査出射光に変換する手段であり、走査解除手段とは走査入射光を一定方向の出射光に変換する手段であることは、当業者であれば内容を理解できるから、本件走査解除手段は、発明の詳細な説明に記載されている。
第5 当裁判所の判断
1 本件各発明の概要
本件各発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の記載(前記第2の2)によれば、本件各発明の概要は以下のとおりであると認められる。
⑴ 技術分野
本件各発明は、画像化顕微鏡及び顕微画像化方法に関し、特に、生物学及び医学を主たる応用分野としたハイスループットの三次元デジタル画像化顕微鏡及びハイスループットの三次元デジタル顕微画像化方法に関するものである(【0001】)。
⑵ 背景技術
三次元デジタル画像化は、現代の顕微画像化の重要な内容の1つである。解像度を低下させることなくより多くの試料を非破壊的に画像化することは、三次元顕微画像化方法の重要な目標であるが、従来技術では画像化過程において、画像化中断を避けることができず、有効画像化時間が短縮されてしまう(【0002】、【0003】)。
⑶ 本件各発明が解決しようとする課題
本件各発明が主に解決しようとする技術課題は、有効画像化時間を改善することでハイスループットの三次元デジタル顕微画像化が実現可能な三次元デジタル画像化顕微鏡及び三次元デジタル顕微画像化方法を提供することである(【0007】)。
⑷ 課題解決手段
5 本件各発明は、試料の1つの三次元領域を画像化する全過程において、画
像化も前記相対運動も中断しない特徴を有し、かつ、前記相対運動の方向は、励起主軸方向又は検出主軸方向に平行も垂直もしないようにするとともに、相対運動による運動ブレを無視することができるようにするために、励起時間を相対運動による変位が顕微鏡の解像度の要求を超えない時間内に制限することとしたものである(【0008】、【0010】、【0058】)。
⑸ 本件各発明の効果
本件各発明の効果として、三次元画像化における画像化中断を低減し、同時に、画像化するときの試料運動によるブレを除去し、生じた収差を改善することにより、従来技術と同等の解像度条件下において、三次元画像化のスループットを高めることができる(【0029】)。
2 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
原告は、前記第3の1⑵のとおり、甲1の記載から、本件発明1と甲1発明との相違点2は、実質的に同一の構成であるか、容易想到であると主張する。しかし、原告が指摘する甲1の記載箇所には、「z´ステップサイズ(すなわちステージスキャンモードにおいて連続する平面間で電動ステージが走行する距離)を推定するために、まず、仮定のステージスキャン速度(製造者により指定された速度であり、我々の取得コードでは0.1mm/sとして実装されている;Kumar and Shroff,2015)に、平面あたりの取得時間(典型的には、シングルビューに対して5ms、またはデュアルビューに対して10ms)が乗算される。ただし、図1cでの続く変換によってzステップサイズの値を計算する場合、zステップサイズの計算値が(「従来の」diSPIMにおける撮像により検査される)zの測定値から8%ほども異なることを発見した。この不一致は、光シートの傾き、集光対物レンズの傾き、低速のステージの量子化誤差、またはステージの「実際」速度と理論的速度との間の僅かな差を含む、乗算誤差の累積によるものであるはずである。」(甲1
5 の日本語訳6頁1行目~11行目)と記載されている。
上記記載によれば、上記の「0.1mm/s」の速度は、z´ステップサイズを推定するために用いられた仮定のステージ速度であって、測定時の実際のステージ速度ではないから、本件発明1の相対運動の速度と対比される速度ではない。また、上記の「低速のステージの量子化誤差」は、仮定のステージ速度から計算されるzステップサイズの計算値と、「従来の」diSPIMにおける撮像により検査される測定値とに生じた不一致の原因として推測される可能性のある複数の要素の一つとして挙げられているにすぎない。そうすると、原告が指摘する上記記載をもって、甲1に0.1mm/sのステージ速度が記載されているとも、甲1発明は0.1mm/sで実装されているともいえない上、甲1発明において、0.1mm/sよりも速度を上げる必要があることが当業者に自明であるとも、ステージ速度を0.1mm/s以上とすることが開示及び示唆されているともいえない。したがって、原告が指摘する甲1の記載を考慮しても、本件発明1と甲1発明との相違点2が実質的に同一の構成であるということはできず、相違点2に係る本件発明1の構成が容易想到ということもできない。よって、少なくとも相違点2についての原告の上記主張は採用することができないから、取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(サポート要件違反)について
原告は、前記第3の2のとおり、「走査解除」との用語をもって、直ちに「光が走査されている状態を走査されていない状態に戻す」ことを意味するとは解されず、本件走査解除手段は発明の詳細な説明に記載されていないと主張する。しかし、本件発明10の特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、「走査手段」とは「励起光束を走査移動させることができる」ものであり、「走査解除手段」は「前記走査手段と同期的に作動する」ものである(【0044】)から、「走査手段」の走査の対象は光であり、「走査解除手段」の走査解除の対象
5 も光であると解される。そうすると、「走査解除」とは、「光が走査されている
状態を走査されていない状態に戻す」ことを意味すると解することができる。そして、本件明細書には、「もう1つの実施例において、図6に示すように、多光子走査画像化の構造を用いた。…多光子励起光を発生可能なパルス励起光4は、…二次元走査手段5に入射し、対物レンズ10の後に、検出方向に垂直な平面において走査するスポット状励起を発生させる。リレーレンズ6、7は、ガルバノミラー5を対物レンズ10の後側焦点面に共役させるためである。反射鏡8、9は走査線をねじり回し、空間的にコンパクトにするためである。ただし、反射鏡9は、長波長側の光を通過させるダイクロイックミラー(dichroic mirror)である。…」(【0052】)、「図6に示すシステムと類似し、顕微鏡画像化分野の専門家によく知られているように、励起装置1及び検出装置2が共用する先端部分素子は、対物レンズから走査手段まで含み、その後、分離されている検出部分において試料と共役する位置に共焦点ピンホールを更に設けることにより、共焦点走査型画像化の構造を構成することができる」(【0055】)と記載されているところ、これらの記載から、当業者は、共焦点走査型画像化の構造の顕微鏡は、励起光路においては、パルス励起光4が2次元走査手段5で走査され、走査された光(走査光)が、リレーレンズ6、7、反射鏡8、9及び対物レンズ10を通って試料に照射され蛍光を励起し、検出光路においては、当該励起された蛍光が、対物レンズ10、反射鏡9、8及びリレーレンズ7、6を通って、2次元走査手段5で走査され、その後、分離された蛍光が、共焦点ピンホールを通り、カメラ13で検出されるように動作させる構成を理解できるといえる。そうすると、当業者は、本件走査解除手段が、走査手段と同期的に作動しつつ、光が走査されている状態を走査されていない状態に戻す手段であり、具体的には、検出光路と励起光路において共用される2次元走査手段5がこれに該当し得ることを理解することができるから、本件走査解除手段は、発明の詳細
5 な説明に実質的にも記載されているといえる。
したがって、原告の上記主張は採用することはできず、取消事由2は理由がない。
4 結論
以上のとおり、原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官長 谷 川 浩 二裁判官伊 藤 清 隆裁判官諸 岡 慎 介(別紙1)当事者目録
5 原 告 ライカ マイクロシステムズ シーエ
ムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング同訴訟代理人弁護士 鈴 木 秀 彦寺 前 翔 平丸 山 悠同訴訟代理人弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト前 川 純 一同訴訟復代理人弁理士 田 中 久 子被 告 中 国 科 学 技 术 大 学同訴訟代理人弁理士 岡 部 英 隆北 出 英 敏金 田 隆 章同訴訟代理人弁護士 清 水 正 憲高 山 和 也(別紙2)本件訂正後の特許請求の範囲【請求項1】励起主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で検出可能なコントラストを生成するた
5 めの、少なくとも1つの励起装置と、
検出主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で生成されたコントラストを検出するための、少なくとも1つの検出装置と、試料と前記励起装置及び前記検出装置との相対運動を発生させるための、少なくとも1つの移動手段と、を含み、前記相対運動の方向は、前記励起主軸方向に平行も垂直もせず、前記相対運動の方向は、前記検出主軸方向に平行も垂直もせず、画像化するときの前記相対運動は等速であり且つ中断しない、三次元画像化可能な顕微鏡において、試料の1つの三次元領域を画像化する全過程において、前記顕微鏡の解像度の要求及び0.1mm/s以上の前記相対運動の速度に基づいて、前記検出装置の有効検出領域において、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位は、所定時間以内においてのみ前記励起装置に励起され、前記所定時間内において、前記相対運動による変位は前記顕微鏡の解像度の要求を超えず、前記励起装置と前記検出装置とは同期的に作動し、前記励起装置は、パルス時間が前記所定時間以内のパルスを用い、光学シート照明の方法により試料を励起し、前記励起装置は、検出領域内において前記検出装置の検出方向に略垂直な励起光束を少なくとも1つ発生し、前記励起装置は、前記励起光束を走査移動させることができる走査手段を少なくとも1つ含む、三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項2】前記試料が位置する環境において透明な物質が充填され、前記透明な物質と、その時の前記試料とは、屈折率が略同一である、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項3】
5 前記励起装置は、1つ又は複数の発光ダイオード、連続波レーザ、パルスレーザの組み
合わせにより、光源を励起する、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項4】前記検出可能なコントラストは、蛍光、弾性散乱光、ラマン散乱、SHG、THG、誘導ラマン散乱の信号の1種又はそれらの組み合わせである、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項5】前記励起装置は、パルスレーザ、パルス作動の発光ダイオード、又は異なる方法で変調された連続光源の組み合わせである、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項6】前記励起装置は、1つ又は複数のシリンドリカルミラー、シリンドリカルレンズ、変形ミラー、透過型位相素子、反射型位相素子を含むことによって、前記光学シート照明を形成する、請求項5に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項7】前記励起光束は、検出領域内で光束方向に沿った光束半径の変化が3倍を超えない、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項8】前記走査手段は、1つ又は複数の走査ガルバノミラー、共振走査鏡、回転多面鏡、音響光学変調器の組み合わせを含む、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項9】前記検出装置は、マトリックス状の感光素子を画像化素子としたものであり、前記画像化素子は前記走査手段と同期的に作動する、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項10】励起主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で検出可能なコントラストを生成するための、少なくとも1つの励起装置と、検出主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で生成されたコントラストを検出するた
5 めの、少なくとも1つの検出装置と、
試料と前記励起装置及び前記検出装置との相対運動を発生させるための、少なくとも1つの移動手段と、を含み、前記相対運動の方向は、前記励起主軸方向に平行も垂直もせず、前記相対運動の方向は、前記検出主軸方向に平行も垂直もせず、画像化するときの前記相対運動は等速であり且つ中断しない、三次元画像化可能な顕微鏡において、試料の1つの三次元領域を画像化する全過程において、前記検出装置の有効検出領域において、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位は、所定時間以内においてのみ前記励起装置に励起され、前記所定時間内において、前記相対運動による変位は前記顕微鏡の解像度の要求を超えず、前記励起装置と前記検出装置とは同期的に作動し、前記励起装置は、パルス時間が前記所定時間以内のパルスを用い、光学シート照明の方法により試料を励起し、前記励起装置は、検出領域内において前記検出装置の検出方向に略垂直な励起光束を少なくとも1つ発生し、前記励起装置は、前記励起光束を走査移動させることができる走査手段を少なくとも1つ含み、前記検出装置は、前記走査手段と同期的に作動する走査解除手段を含み、さらにアレイ又はマトリックス状の感光素子を画像化素子としたものである、三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項11】前記励起装置は、1つの励起光束を複数の励起光束に分割するための光束分割手段を1つ含む、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項12】前記光束分割手段は、1つ又は複数のレンズアレイ、反射鏡アレイ、ハーフミラーアレ
5 イの組み合わせを含むか、あるいは、固定又は変調可能なフェーズフィルタ又はデジタル
マイクロミラーアレイを含む、請求項11に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項13】前記励起装置及び前記検出装置は走査型共焦点画像化の構造を構成する、請求項1に記載の三次元画像化可能な顕微鏡。【請求項14】少なくとも1つの励起装置を利用して、励起主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で検出可能なコントラストを生成すること、及び少なくとも1つの検出装置を利用して、検出主軸方向に沿って試料の検出すべき領域内で生成されたコントラストを検出すること(前記検出装置と前記励起装置とは、素子を共用するのが排除されない)、を含み、前記試料と前記励起装置、前記検出装置との相対運動の方向は、前記励起主軸方向に平行も垂直もせず、前記相対運動の方向は、前記検出主軸方向に平行も垂直もせず、画像化するときの前記相対運動は等速であり且つ中断しない、三次元顕微画像化方法において、試料の1つの三次元領域を画像化する全過程において、前記顕微鏡の解像度の要求及び0.1mm/s以上の前記相対運動の速度に基づいて、前記検出装置の有効検出領域において、画像化する立体画素の各々に対応する試料単位は、所定時間以内においてのみ前記励起装置に励起され、前記所定時間内において、前記相対運動による変位は前記画像化の解像度の要求を超えず、前記励起装置と前記検出装置とは同期的に作動し、前記励起装置は、パルス時間が前記所定時間以内のパルスを用い、光学シート照明の方法により試料を励起し、前記励起装置は、検出領域内において前記検出装置の検出方向に略垂直な励起光束を少なくとも1つ発生し、前記励起装置は、前記励起光束を走査移動させることができる走査手段を少なくとも1つ含む、三次元顕微画像化方法。【請求項15】デコンボリューションにより前記相対運動によるブレを除去することをさらに含む、請求項14に記載の三次元顕微画像化方法。
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