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令和7(行ケ)10110審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年8月10日
事件種別 民事
当事者 原告昴テクノロジー株式会社
被告株式会社パワーサポート
対象物 温調装置及び温調装置用静電整流器並びに温調装置の効率改善方法
法令 特許権
特許法36条4項1号1回
キーワード 実施23回
無効10回
審決9回
特許権1回
無効審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕 著な事実) ⑴ 原告は、発明の名称を「温調装置及び温調装置用静電整流器並びに温調装 置の効率改善方法」 とする発明について、 令和2年10月2日、 特許出願 (特 願2020-167634号)をし、令和3年7月1日、特許権の設定登録 (特許番号第6906213号。請求項の数8。以下、この特許を「本件特 許」という。 )を受けた。 ⑵ 被告は、本件特許について、令和5年11月21日、特許無効審判を請求 した。特許庁は、これを無効2023-800073号事件として審理し、 令和7年9月29日、

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判決文

令和8年8月10日判決言渡

令和7年(行ケ)第10110号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和8年6月10日

判 決

原 告 昴テクノロジー株式会社

同訴訟代理人弁護士 豊 崎 寿 昌

同訴訟復代理人弁護士 山 之 内 薫

同訴訟代理人弁理士 高 橋 昌 義

被 告 株式会社パワーサポート

同訴訟代理人弁理士 山 内 博 明

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2023-800073号事件について令和7年9月29日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著な事実)

⑴ 原告は、発明の名称を「温調装置及び温調装置用静電整流器並びに温調装置の効率改善方法」とする発明について、令和2年10月2日、特許出願(特願2020-167634号)をし、令和3年7月1日、特許権の設定登録(特許番号第6906213号。請求項の数8。以下、この特許を「本件特許」という。)を受けた。

⑵ 被告は、本件特許について、令和5年11月21日、特許無効審判を請求

5 した。特許庁は、これを無効2023-800073号事件として審理し、令和7年9月29日、「本件特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年10月17日に原告に送達された。原告は、同年11月14日、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下のとおりである(甲8。以下、本件特許の各請求項に係る発明を総称して「本件発明」という。また、その明細書を図面を含めて「本件明細書」という。)。【請求項1】導電性を備えた材質により形成され、極性媒体を収容して循環させる媒体管と、前記媒体管と電気的に絶縁又は抵抗を介して接続され、前記媒体管を収容する筐体と、を備えた温調装置であって、前記媒体管に出力端が電気的に接続され、周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号を前記媒体管に伝達することにより自由電子を前記極性媒体に供給する回路を備えた静電整流器と、を備える温調装置。【請求項2】当該減衰波の周期は2MHz以上10MHz以下である請求項1記載の温調装置。【請求項3】空調装置である請求項1記載の温調装置。【請求項4】媒体管に接続するための出力端を備え、前記出力端により前記媒体管に周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号を前記媒体管に伝達することにより前記媒体管内の極性媒体に自由電子を供給

5 する温調装置用静電整流器。【請求項5】当該減衰波の周期は2MHz以上10MHz以下である請求項4記載の温調装置用静電整流器。【請求項6】導電性を備えた材質により形成され、極性媒体を収容して循環させる媒体管と、前記媒体管と電気的に絶縁又は抵抗を介して接続され、前記媒体管を収容する筐体と、を備えた温調装置の効率改善方法であって、前記温調装置は前記媒体管に出力端が電気的に接続される回路を有する静電整流器と、を備え、前記静電整流器により、周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号を前記媒体管に伝達することにより自由電子を前記極性媒体に供給する温調装置の効率改善方法。【請求項7】当該減衰波の周期が2MHz以上10MHz以下の減衰波信号を前記媒体管に供給する請求項6記載の温調装置の効率改善方法。【請求項8】前記温調装置は空調装置である請求項6記載の温調装置の効率改善方法。3 本件審決の理由の要旨本件審決は、被告(請求人)の主張する無効理由1(サポート要件違反)及び無効理由2(実施可能要件違反)はいずれも理由があると判断した。本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。

⑴ 無効理由1(サポート要件違反)について本件発明が解決しようとする課題は、極性を備えた冷媒が冷媒管内を流動する際に冷媒管の摩擦や冷媒分子同士の摩擦等により発生する静電気により

5 生じる、冷媒の流動性の低下及びクラスターが発生することと認められる。一方、本件発明の静電整流器により伝達される周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号により、上記課題が解決されることについての理論的根拠は、本件明細書から見いだすことはできず、不明といわざるを得ない。また、本件明細書の記載から導くことのできる静電整流器は、正常に動作しないものであって、実施例についても本件明細書に記載された結果は出ないものであるから、当該静電整流器により上記課題を解決できることを実験データ等により技術的に裏付けるものでもない。したがって、本件発明の静電整流器は、本件明細書の記載や技術常識から本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものとはいえず、サポート要件を満たさない。

⑵ 無効理由2(実施可能要件違反)について本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、その記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、「周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号を前記媒体管に伝達することにより自由電子を極性媒体に供給する静電整流器」を使用することができる程度の記載があるということができない。また、「パルス状の減衰波信号」を特定するために求められる「振幅」を定めることについても、過度の試行錯誤を要することなく当業者がなし得るということもできないから、実施可能要件を満たさない。4 取消事由

⑴ 取消事由1(サポート要件の認定判断の誤り・無効理由1関係)

⑵ 取消事由2(実施可能要件の認定判断の誤り・無効理由2関係)

第3 当事者の主張

1 取消事由1(サポート要件の認定判断の誤り)

5

(原告の主張)

本件明細書の発明の詳細な説明の欄(【0007】、【0011】、【0017】、【0027】等)には、本件発明が解決しようとする課題、課題解決手段及び技術的根拠の記載があり、本件発明が課題を解決できると認識することができる。また、本件明細書に記載された実施例によって、本件発明の効果が確認されている。したがって、本件発明は、本件明細書の記載及び当業者の技術常識に照らし、技術的意義及び効果が裏付けられており、サポート要件を充足していることは明らかである。

(被告の主張)

本件発明のパルス状の減衰波信号が周波数20kHz以上60kHz以下である構成について、本件明細書には実施例として25kHzのみしか記載がない。また、上記範囲内の周波数が自由電子の供給及び振動付与を通じてクラスターに作用し、冷媒の流動性が低下する問題を解決し得る技術的な根拠は不明である。したがって、本件発明がその課題を解決できることが本件明細書に開示され、又は当業者にとって明らかであるとはいえない。

2 取消事由2(実施可能要件の認定判断の誤り)

(原告の主張)

本件明細書には、極性を備えた冷媒についての、生じた静電気による流動性の低下及びクラスターの発生という課題が明確に示されている。そして、上記課題に対し、媒体管に出力端を電気的に接続し、周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号を媒体管に伝達することにより自由電子を極性媒体に供給する回路が示され、媒体のクラスターに振動となって伝わり、分解するように力が加わるものと考えられるとの技術的説明が明確に記載されており、一定のダイナミズムを持ったモデルに基づいて自由電子が加えられることが記載されている。このように、本件明細書には、課題、構成

5 及び作用効果の関係が具体的に示されており、当業者が本件発明の技術的内容

を理解し得る程度の記載が備わっている。そして、本件明細書では、実施例において周波数25kHzで繰り返されるパルス状の減衰波信号による効果が確認されており、裏付けがある。したがって、当業者は、本件明細書の記載に基づき、本件発明を実施することができ、少なくとも過度の試行錯誤を要することなく本件発明を再現することが可能である。

(被告の主張)

本件明細書には、原告が主張する「一定のダイナミズムを持ったモデル」の条件についての開示はないし、そのモデルの根拠となる理論が出願時の技術常識であったという事実もない。また、原告が主張する周波数の数値、技術的説明及び実施例の効果は、当業者が過度な試行錯誤なしに本件発明を実施できることを裏付けるものではない。

第4 当裁判所の判断

1 本件発明の概要本件明細書(甲8)には以下の記載がある。

⑴ 技術分野本件発明は、温調装置及び温調装置用静電整流器並びに温調装置の効率改善方法に関する。(【0001】)

⑵ 背景技術食品等様々な物質を保存する場合において、低温で保存することは非常に重要であり、そのための機器としては冷蔵庫やクーラー等の冷却装置が一般的に流通している。一般に冷却装置は、冷媒を冷却することにより冷媒の冷熱を冷却対象となる物質に直接又は間接的に供給することで当該物質を冷却することが可能となる。このための冷媒としてはHFC(ハイドロフルオロカーボン)等が主流となりつつある。(【0002】~【0004】)

5 ⑶ 発明が解決しようとする課題上記冷媒は、その使用電力量すなわち冷媒の冷却効率に課題が残る。具体的に説明すると、上記冷媒は、その分子構造中においてフッ素原子を含んでいるため、その分子構造内に対称性がないような場合極性を備えているものが多く、冷媒が冷媒管内を流動する際、冷媒と冷媒管の摩擦や冷媒分子同士の摩擦等により静電気が発生することになる。そして、この静電気は冷媒管内表面に残存して冷媒を捕捉してしまい、冷媒の流動性が低下してしまうという課題がある。また、冷媒自身もその極性及び静電気により集合してクラスターとなりこの問題を大きくしてしまうといった課題がある。本件発明は、上記媒体の電気的な課題を解決し、より高い熱伝達効率を達成することのできる温調装置及び温調装置用静電整流器並びに効率改善方法を提供することを目的とする。(【0006】、【0007】、【0010】)⑷ 課題を解決するための手段本件発明の温調装置は、導電性を備えた材質により形成され、媒体を収容して循環させる媒体管と、媒体管を収容する筐体と、媒体管に電気的に接続され周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の信号を供給する静電整流器とを備えるものである。(【0011】)本件発明の温調装置用静電整流器は、周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の信号を供給するものである。(【0015】)本件発明の温調装置の効率改善方法は、導電性を備えた材質により形成され、媒体を収容して循環させる媒体管と、媒体管を収容する筐体とを備えた温調装置の効率改善方法であって、温調装置は前記媒体管に接続される静電整流器を備え、静電整流器により周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の信号を前記媒体管に供給するものである。(【0017】)⑸ 発明の効果本件発明によって、媒体の電気的な課題を解決し、より高い熱伝達効率を

5 達成することのできる温調装置及び温調装置用静電整流器並びに温調装置の効率改善方法を提供することができる。(【0019】)⑹ 発明を実施するための最良の形態ア ここで繰り返しとなる部分もあるが、クラスターの解消について詳細に説明しておく。上記のとおり極性媒体を用いると媒体分子中の偏った電荷により分子間には結合しようとする力が発生する。しかしながら、この集団内の分子は都度組む相手を変えながらクラスターを形成しているため、一定のダイナミズムをもったモデルで自由電子(和電子)を加えていくことで、クラスターを小さくし、媒体の効率を改善することができる。この場合のイメージを図3(別紙)に示しておく。【0028】イ 本温調装置において、静電整流器は、周波数20kHz以上40kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号を供給するものであることが好ましく、より好ましくは、33kHz以下である。この周波数はいわゆるパルスの周波数である。繰り返し時間でいうと20μs以上50μs以下の間隔でパルス状の減衰波信号が供給されるものであって、より好ましくは30μs以下である。この効果については推論の部分もあるが、上記範囲のパルス状の信号を与えることで、媒体に対して脈動的に和電子を供給することが可能となり、これが媒体のクラスターに振動となり伝わり、クラスターを分解するよう力が加わるものと考えられる。減衰波とすることでこの効果はより顕著となる。なおここで「和電子」とは、極性を中性にするために用いられる電子をいう。【0033】また、本温調装置では、減衰波である場合に、その一減衰波信号内における信号の周期は、2MHz以上10MHz以下であることが好ましく、より好ましくは5MHz以下である。この周波数は一減衰波信号内の周期を意味するものであり、その時間間隔でいうと0.1μs以上0.5μs以下であり、好ましくは0.2μs以下である。この範囲の波を追加する

5 効果についても上記のパルス状の減衰波信号と同様推論の部分もあるが、減衰波信号とすることでパルスの衝撃を効果的に媒体に伝達することができるようになると考えられる。【0034】⑺ 実施例上記温調装置について実際に試作し、その効果を確認した。まず、図5(別紙)で示す静電整流器の電気回路を作製し、200ns(0.2μs)の周期の減衰波が発生することが確認できた。(【0044】、【0045】)次に、上記作製した静電整流器の出力を電極に接続し、極性媒体の一例として水を満たした水槽に投入し、その酸化還元電位、pH等の各物性について確認を行った。静電整流器によりパルス状の減衰波を投入することで酸化還元電位が時間とともに低くなっていることが確認でき、それ以外の物性値についてはほとんど影響がなかった。(【0046、0047】)そして、上記状態で、電極に接続した水に冷熱を加え、冷却効率を確認したところ、静電整流器に接続していない状態では3度程度しか減少しなかった一方、静電整流器に接続した状態では6度程度温度が減少したことを確認した。すなわち、本実施例により、本温調装置、静電整流器の効果を確認することができた。(【0048】)

2 取消事由2(実施可能要件の認定判断の誤り)について事案に鑑み、取消事由2について判断する。⑴ 明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件(特許法36条4項1号)を満たすというためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、物の発明においては当該発明に係る物の生産等を、方法の発明においては当該発明に係る方法の使用をすることができる程度の記載があることを要すると解される。⑵ これを本件についてみると、本件明細書の記載によれば、本件発明は、①

5 温調装置において、媒体が媒体管内を流動する際に発生する静電気や、媒体自身がその極性及び静電気により集合して生じるクラスターにより、媒体の流動性が低下してしまうという課題(前記1⑶)があることを前提に、②媒体管に周波数20kHz以上60kHz以下で繰り返されるパルス状の減衰波信号を与え、媒体に対して一定のダイナミズムをもったモデルで脈動的に和電子を供給してクラスターを小さくする(分解する)ことで上記課題を解決し((同⑷、⑹)、③より高い熱伝達効率を達成する効果を得るものである(同⑸)とされ、④これを裏付けるものとして、実際に試作して効果を確認したという実施例が記載されている(同⑺)。しかし、上記②のパルス状の減衰波信号を与えてクラスターを小さくするとの作用機序については、本件明細書に「推論の部分もある」と記載されている(【0033】、【0034】)にとどまる。そして、減衰波信号によりクラスターを小さくすることに関してはそのような知見が存在することをうかがわせる文献等の証拠は提出されておらず、出願当時の技術常識からも不明であるといわざるを得ない。また、上記④の実施例についてみても、本件発明は、静電整流器を媒体管に接続し、パルス状の減衰波信号を媒体管に伝達することで媒体に供給するものであるのに対し、上記実施例では、静電整流器の出力に接続した電極が、接地された他の電極と共に媒体である水を満たした水槽に投入されている(本件明細書・図8(別紙))。したがって、本件発明とは媒体にパルス状の減衰波信号を供給する手段が異なるから、これを厳格な意味での「実施例」とみることは困難であり、その結果が本件発明の効果を示すものとは認められない。さらに、本件発明を実施するためには、使用電力量の減少という目的に反しない範囲で効果を奏するよう電圧を適切に調整する必要があると解されるが、本件明細書にこの点に関する記載がないことに加え、本件発明の構成に

5 より上記効果を奏するに至る作用機序が不明であることに照らすと、当業者が本件明細書又は技術常識に基づいて上記調整を行い得るともこれが単なる設計事項であるとも認めることはできない。そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明を実施することができる程度の記載があるということはできない。したがって、取消事由2は理由がない。

3 結論以上によれば、取消事由1について判断するまでもなく、本件審決の結論は是認でき、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官

長 谷 川 浩 二

裁判官

伊 藤 清 隆

裁判官

諸 岡 慎 介

(別紙)

【図3】【図5】【図8】

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