ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和8(ネ)10005 損害賠償請求控訴事件
| 裁判所 | 控訴棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年8月18日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被控訴人株式会社KADOKAWA |
| 法令 |
著作権 著作権法114条2項1回 |
| キーワード | 侵害7回 損害賠償2回 |
| 主文 | 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 |
| 事件の概要 | を「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と、「別紙」とあるのを「原 判決別紙」とそれぞれ読み替える。) |
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令和8年8月18日判決言渡
令和8年(ネ)第10005号 損害賠償請求控訴事件(原審 東京地方裁判所令
和5年(ワ)第70689号)
口頭弁論終結日 令和8年6月30日
判 決
控 訴 人 X
同訴訟代理人弁護士 河 野 冬 樹
被 控 訴 人 株式会社KADOKAWA
同訴訟代理人弁護士 前 田 哲 男
同 中 川 達 也
同 福 田 祐 実
同 中 込 悠 斗
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、控訴人に対し、200万円及びこれに対する令和6年1月10日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。3 訴訟費用は第1、2審を通じて、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(略語は原判決の表記に従う。なお、原判決に「原告」とあるの
を「控訴人」と、「被告」とあるのを「被控訴人」と、「別紙」とあるのを「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)1 本件は、控訴人が、被控訴人が原判決別紙漫画目録記載1の漫画(被控訴人著作物)を出版及び電子出版する行為が、同目録記載2の漫画(控訴人著作物)に係る控訴人の著作権(複製権、翻案権、出版権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害すると主張して、被控訴人に対し、民法709条に基づく損害賠償として、合計15億9610万円(著作権侵害による損害14億4900万円(著作権法114条2項)、著作者人格権侵害による慰謝料200万円及び弁護士費用1億4510万円)の一部である200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和6年1月10日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金を請求する事案である。原審が控訴人の請求を棄却したので、控訴人がこれを不服として本件控訴を提起した。2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における控訴人の主な補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中、第2の2ないし4(原判決2頁8行目から10頁18行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(以下、原判決を引用する場合に「事実及び理由」中との記載は省略する。)。
⑴ 原判決3頁2行目の末尾の次を改行し、次のとおり加える。「⑸ 原審における審理の経過令和7年7月8日に行われた原審第12回弁論準備手続期日において侵害論についての心証開示がなされ、同年9月26日に行われた原審第14回弁論準備手続期日の調書に、一審原告の主張として「原告 1 原告の主張は、別紙著作物対比表の『原告の主張』及び『被告の主張に対する反論』欄に記載のとおりである。2 原告が著作権侵害を主張するコマは、別紙著作物対比表の『原告著作物及びその登場箇所』及び『被告著作物及びその登場箇所』欄に記載の各コマ、すなわち甲17の1ないし17の17、17の19ないし17の23、甲17の25ないし30掲載のものである。」と記載され、同手続調書の別紙として原判決別紙と同じ著作物対比表が添付されている。」
⑵ 原判決3頁12行目の「本質的特徴」の前に「表現上の」を加える。
⑶ 原判決4頁3行目の「絵」の次に「(セリフなどの文字による音声表現を含む。後記被控訴人コマについても同じ)」を加える。
⑷ 原判決別紙著作物対比表番号30控訴人の主張欄のうちの具体的な類似点欄2行目ないし3行目の「美少女被告、著作物では」を「美少女、被控訴人著作物では」と訂正する。3 当審における控訴人の主な補充主張
⑴ 原判決の実質的類似性判断における判断枠組みは誤りである。ア 原判決は、原判決別紙著作物対比表において、控訴人著作物と被控訴人著作物が展開する一連のストーリーの連続性を完全に切断し、一つのコマのみを静止画として抽出し、さらにそのコマの中の「モンスターの足の数」といった極めて局所的なデザインの相違のみをあげつらって表現上の本質的な特徴の直接感得性を否定した。しかし、このような手法は、表現を極小単位まで解体すればいかなる著作物も単なるアイデアやありふれた表現に帰着してしまうものであり、いわゆる濾過テストの過度の誤用であり、著作権(翻案権)の存在意義を没却する。イ 原判決の上記判断枠組みは、漫画が一枚の絵の羅列であることを前提に、各コマが独立した著作物であることを前提にするものであるところ、現代のストーリー漫画は、一枚の絵の羅列ではなく、特定の感情やサスペンスを読者に惹起させるための「カメラワーク(構図の推移)」、「間の取り方」、「情報の提示順序」といった連続するコマの連鎖(シークエンス)によって成立する複合的表現物である。したがって、漫画における著作者の思想・感情の創作的表現の核心は、静止した一コマの局所的な作画デザインに宿るのではなく、複数コマにまたがる「一連の演出の骨格」、「ストーリー」にこそ宿るのである。ウ 著作権法上も個々の要素単体がアイデアやありふれた表現にすぎないものであっても、著作者がそれらの要素を選択し、特定の順序で配列・構成した場合、その「選択・配列の組み合わせ(まとまり)」全体に表現上の本質的な特徴が認められるべきである。この「選択・配列の組み合わせ(まとまり)」を比較対象とする法理は、ゲームや映画、漫画といった個々の要素を配列、組み合わせて成立する表現物においても当然に妥当する。そうであれば、著作者の意図した文脈的連続性と、ページをめくる時間的経過に完全に依存し、「映画的手法(シークエンス)」を表現の核心とするストーリー漫画においては、「一連のシーンを構成する複数コマの連続的なまとまり」こそを比較の最小単位としなければならない。これに対し原判決は、両作品の類似性を判断するに当たり、映画の動画を一時停止して特定の一フレームを抽出するかの如く「一コマ単位の静止画」にまで不当に要素分解し、その上で顔のパーツや手足の形状といった極めて局所的な作画の相違点のみを抽出して非類似と判断しており、裁判例における一連のまとまりとしての表現の全体的観察を意図的に回避したものであって、重大な法令違反である。エ 控訴人著作物6話と被控訴人著作物16話・19話、控訴人著作物2話と被控訴人著作物38話、控訴人著作物6話と被控訴人著作物39話、控訴人著作物5話と被控訴人著作物51話、控訴人著作物5話と被控訴人著作物53話、控訴人著作物6話と被控訴人著作物54話、控訴人著作物3話と被控訴人著作物59話、控訴人著作物3話と被控訴人著作物21話、控訴人著作物5話と被控訴人著作物22話、控訴人著作物6話と被控訴人著作物22話のプロットを対照し、各作品についてこれらをまとまりのある一連のシーン(数ページにわたる展開)として全体的観察を行えば、「日常空間で異形に遭遇し、それが徐々に迫る恐怖を複数のコマを費やして克明に描き、主人公が極限の心理状態のなかで意図的に視線を逸らしてやり過ごそうとする」という一連の映画的シークエンス(カメラワークと演出のリズム)において、被控訴人著作物は控訴人著作物を完全にトレースしている。原判決は、この「まとまりとしての表現の同一性」の評価を不当な要素分解によって意図的に回避したものであり、その判断枠組みは誤りである。
⑵ 被控訴人作品には、抽象的なアイデアの範疇を超えた、具体的な表現の選択と配列の完全な一致が複数エピソードにわたり存在する。ア 葬儀シーンにおける表現形式の圧縮と翻案(被控訴人作品53話/控訴人作品5話)控訴人作品が2頁で構築した「遺影の真正面からの構図」、「両脇に配置された百合(カサブランカ)の花」、「主人公の内面語りではなく、周囲の参列者の噂話の吹き出しによって死因を説明する手法」、「遺族の子供の光のない虚ろな瞳と口元のアップ」という一連の心理的変容のシークエンスを、被控訴人は1頁の中に機能的に圧縮し、そのまま踏襲している。これは独自の表現の選択とはいえない。イ 時代背景と整合しない小道具の不自然な流用(被控訴人作品51話/控訴人作品5話)控訴人作品(写真が撮影されたのは昭和期の設定)では、高齢の登場人物が「物理的なスナップ写真」の「特定の個人の顔部分のみ」を損壊することで、激しい憎悪を視覚的に具現化する必然性があった。これに対し被控訴人作品(2021年・現代)は、実際に上記損壊行為を行うのはデジタルネイティブ世代の女子高生であり、スマートフォンで写真を管理する現代において、わざわざ「現像されたスナップ写真の顔部分を物理的に押しつぶす」という表現を用いる合理的必然性はない。これは控訴人作品の表現(日常と狂気の対比構造を含む)を盲目的に複製した結果生じた不自然さである。ウ キーアイテムと社会的背景の合致(被控訴人作品30話/控訴人作品2話・5話)「お守りによって自らいじめと対峙して解決する展開に向かう」、「いじめられていたことを『母親』に話す」、「大事にしていたお守りが水辺に投げ捨てられている」という特異なプロットと属性の組み合わせが完全に重複している。エ 細部描写における特異な完全一致(被控訴人作品17話/控訴人作品6話)「高校で孤立した学生が、誰もいない場所で一人でお弁当を食べる」というシーン、その際の、当該学生に寄り添う女性教員と弁当の中身、という共通点に加え、その弁当の中身を描写する際、「左側に卵焼き(断面を上に向けて斜めに重ねる)、右側にタコさんウインナー2本(ハの字型に開く)」という配置、種類、数量、角度に至るまで画面構成上のゾーニングが寸分違わず一致し、レイアウトが完全に合致している。
⑶ 高度の依拠性の存在ア 被控訴人作品には、「スマホ時代の女子高生が現像されたスナップ写真を物理的に損壊する(時代設定との矛盾)」、「登場人物の亡き妹の形見であるお守りを川に投げ込む」、「弁当の卵焼きとタコさんウインナーの配置・角度が完全一致する」といった、偶然では絶対に生じ得ない特異な合致が多数存在する。とりわけ、控訴人作品の昭和期設定ゆえに必然性があった「現像写真の損壊」という表現を、現代設定の被控訴人作品に無批判に流用した結果生じた不自然さは、被控訴人が控訴人作品を手元に置き、その表現を意図的に模倣したことの何よりの証左である。イ 被控訴人は、控訴人作品のストーリー展開、カメラワーク、心理的シークエンスという骨格を完全に模倣した上で、表面的なキャラクターの顔の造作やモンスターの足の数といった皮相的なパーツのみを改変することで著作権侵害の責任を免れようとしたにすぎない。かかる悪質なフリーライドをアイデアの共通やありふれた表現の名のもとに免責することは著作権法の目的に反する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は理由がなく、棄却すべきものと判断する。その
理由は、当審における控訴人の主な補充主張も踏まえ、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の主な補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3の1及び2(原判決10頁20行目から40頁11行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
⑴ 原判決11頁26行目の「とで」の次に「、セリフや擬音の内容を含め」
を加える。
⑵ 原判決12頁6行目の「検討する。
」の次に「なお、控訴人コマと被控訴人コマとで、セリフが同一のものは、控訴人が指摘する「ヤバい」(原判決別紙著作物対比表番号34、36)、「見つけた(みつけた)」(原判決別紙著作物対比表番号55)及び「気持ち悪い(気持ちわるいよ)」(原判決別紙著作物対比表番号83)のほかは存しないところ、これらは極めてありふれた表現である上に、両作品の各コマの表現は、原判決別紙著作物対比表同番号に記載のとおり全く異なる。これらセリフの相違につき後記ア・イにおいて指摘するほか、他のコマに描かれたセリフもすべて相違している。」を加え、同頁13行目の「構図等が異なっている」を「構図等が異なり、両著作物ではセリフの内容、その多寡及び擬音の有無等においても全く異なる(控訴人著作物では『あれ?先生、なんか顔色悪くない?』などのほか多数のセリフがあり、擬音表現はないが、被控訴人著作物ではセリフはなく、登場人物の内心の表現としての『けど・・・』のほか、『バン、バン』、『ギイイ』などの多数の擬音で構成されている。)ものとなっている」と改める。
⑶ 原判決13頁4行目の「セリフの内容」を「セリフの内容及びセリフの向
けられた対象(控訴人著作物では子供に向けられたものであるのに対し、被控訴人著作物では子供に向けられたものではない。)」と改め、同頁9行目の「番号6」の次に「に」を加える。
2 当審における控訴人の主な補充主張に対する判断
⑴ 控訴人は、前記第2の3⑴ア及びイのとおり、原判決の実質的類似性にお
ける判断枠組みは誤りである旨を主張する。しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑵のとおり、原判決の判断の枠組みは、控訴人の主張に沿ったものであり、原判決は、控訴人が著作権侵害を主張するすべての箇所について、控訴人著作物と被控訴人著作物を比較対照して表現上の本質的な特徴の感得の有無を判断したものであるから、控訴人の主張はその前提を欠くものである。また、控訴人が「一連の演出の骨格」や「ストーリー」の類似性について主張する点について、例えば原判決は、原判決別紙著作物対比表番号1ないし5において、控訴人がこれらを「憑依体質の教師」の点で類似することで共通すると主張したのに対し、補正の上で引用した原判決第3の1⑵アで、これらストーリーの類似性についての観点も加えて表現上の本質的な特徴の感得の有無を判断している。その他、原判決別紙著作物対比表番号30ないし37(「見える主人公がかわいいものの後ろにいるモンスターに『ヤバい』と言う」とする点で共通の類似点があると控訴人が主張した)等についても、補正の上で引用した原判決第3の1⑵シにおいて、控訴人著作物ないし被控訴人著作物におけるストーリー上の描写や設定も考慮した上で、表現上の本質的な特徴の感得の有無を判断している。このように、原判決は、原判決別紙著作物対比表の控訴人の主張に従い、同記載の控訴人提出に係る各証拠に基づき、「一連の演出の骨格」や「ストーリー」の類似性についても勘案して表現上の本質的な特徴の感得の有無を判断しているものであり、その際に、不当に要素を分解したなどの事情もみられない。そもそも控訴人は、被控訴人著作物につき、その奥書を証拠として提出するものの(甲3の1ないし3の9)、その内容については、控訴人著作物との対比に必要な部分のみをその対比との関連において証拠として提出するのみで(甲17の1ないし17の30)、被控訴人著作物の全体を証拠として提出することはしないから、被控訴人著作物における上記対比に係る部分以外の内容や、それらの部分が全体のストーリーの中でどのように位置づけられているのか等は全く不明である。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 控訴人は、前記第2の3⑴ウ及びエのとおり、原判決の実質的類似性にお
ける判断枠組みは誤りであるとし、控訴人著作物6話と被控訴人著作物16話・19話、控訴人著作物2話と被控訴人著作物38話、控訴人著作物6話と被控訴人著作物39話、控訴人著作物5話と被控訴人著作物51話、控訴人著作物5話と被控訴人著作物53話、控訴人著作物6話と被控訴人著作物54話、控訴人著作物3話と被控訴人著作物59話、控訴人著作物3話と被控訴人著作物21話、控訴人著作物5話と被控訴人著作物22話、控訴人著作物6話と被控訴人著作物22話のプロットを対照し、各作品についてこれらを「まとまりのある一連のシーン」として全体的観察を行えば、被控訴人著作物が、「日常空間で異形に遭遇し、それが徐々に迫る恐怖を複数のコマを費やして克明に描き、主人公が極限の心理状態のなかで意図的に視線を逸らしてやり過ごそうとする」という「映画的シークエンス」において、被控訴人著作物は控訴人著作物を「完全にトレース」している旨主張する。しかし、控訴人の主張は、漫画の著作物における具体的な表現である両著作物の各コマにおける具体的な表現の創作性の再現箇所を特定せず、そのコマの表現と無関係に控訴人において漫画の筋書を抽出し、その類似性をいうにすぎないものであって、表現の類似性や表現上の本質的な特徴の感得の有無について具体的な主張を行うものではなく、漫画の著作物の表現上の特徴の類似性についての主張として、それ自体失当というべきである(控訴理由書別紙プロット対照表では、控訴人の指摘する控訴人著作物及び被控訴人著作物の各話の場面の説明とセリフ等が対照されているところもあるが、対照されている部分の具体的表現を見ても、類似性があると認められるものはほぼ存在しない。同対照表に関して、控訴人著作物の具体的な表現のうち創作性の認められる部分と、被控訴人著作物の該当部分の表現が、どのような点で共通し、類似しているのかについて、具体的な表現に即した主張はなく、一致点として指摘されているところは、プロットの構成、キャラクターの設定、小道具の機能、視覚的演出、説明の手法、情報の提示順序など、具体的表現ではなく、アイデアに属するものだけである。)。この点を措くとしても、控訴人が「映画的シークエンス」などとして一連のシーンについて全体観察すべきと主張する原判決別紙著作物対比表番号38ないし50(控訴人著作物6話)については、補正の上で引用した原判決
第3の1⑵スにおいて、控訴人がこれら一連の控訴人著作物のコマを「教室
に蜘蛛のような足のモンスターが侵入してくるが無視する主人公」との点で共通の類似点を有すると主張したことについて、ストーリーの類似性についての観点も加えて表現上の本質的な特徴の感得の有無を判断しているものである。また、補正の上で引用した原判決第3の1⑵シにおいて、原判決別紙著作物対比表番号30ないし37(控訴人著作物2話。「見える主人公がかわいいものの後ろにいるモンスターに『ヤバい』と言う」とする点で共通の類似点があると控訴人が主張した)等においても同様に、控訴人著作物ないし被控訴人著作物におけるストーリー上の描写や設定も考慮した上で表現上の本質的な特徴の感得の有無を判断していることについて既に述べたとおりであり、控訴人著作物で描かれたモンスターと被控訴人著作物で描かれた化け物とが、仮に共通性を有するとしても表現それ自体でない部分であることについて、原判決別紙著作物対比表の番号51ないし53につき補正の上で引用した原判決第3の1⑵セで判示するとおりである。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑶ 控訴人は、前記第2の3⑵のとおり、被控訴人著作物には抽象的なアイデ
アの範疇を超えた具体的な表現の選択と配列の完全な一致が複数エピソードにわたって存在する旨を主張する。しかし、補正の上で引用した原判決第3の1⑵・⑶のとおり、控訴人が控訴人著作物と被控訴人著作物の類似点として主張するところは、いずれもアイデアであって表現それ自体ではない部分において共通性を有するにすぎないし、控訴人著作物と被控訴人著作物とはいずれも漫画の著作物であって編集物ではないから、両著作物のコマを対比してその表現上の本質的な特徴について比較対照すべきであり、これと離れた個々のアイデア等の要素の選択・配列についての創作性等を比較すべきものではなく、控訴人の主張はそれ自体失当というべきである。加えて、控訴人が当審において主張するところを個別にみても、これらはいずれも以下のとおり理由がない。控訴人が前記第2の3⑵アにおいて主張する葬儀シーンにおける表現形式について、控訴人の主張は、控訴人著作物が2頁で表現した内容を被控訴人著作物は1頁の中に機能的に圧縮したとするのみで、控訴人コマと被控訴人コマとの具体的な表現上の類似性の対比を行うものではないから、主張自体失当というべきである。控訴人の挙げる「遺影の真正面からの構図」、「両脇に配置された百合(カサブランカ)の花」、「主人公の内面語りではなく、周囲の参列者の噂話の吹き出しによって死因を説明する手法」、「遺族の子供の光のない虚ろな瞳と口元のアップ」などもこれらはそもそもアイデアであって、表現それ自体ではない点における類似性をいうにすぎないものである。そして、補正の上で引用した原判決第3の1⑵オで原判決別紙著作物対比表番号11ないし16について判示するとおり、これら控訴人コマと被控訴人コマとは具体的な表現において異なるものである。控訴人は、前記第2の3⑵イにおいて、被控訴人著作物に登場する女子高校生は「デジタルネイティブ世代」であるから、スマートフォンで写真を管理するはずであり、「現像されたスナップ写真の顔部分を物理的に押しつぶす」という表現を用いる合理的な必然性はない旨を主張する。しかし、原判決別紙著作物対比表番号9について、補正の上で引用した原判決第3の1⑵エにおいて判示するとおりであり、控訴人の主張は、表現それ自体でない部分における共通性をいうにすぎない。なお、同番号9において描かれた写真は、そもそも被控訴人著作物の場面である現代に撮影されたものでなく、それを持つ高校生が、かつて小学生であった頃に、小学校の運動会で撮影された写真である(甲17の9)から、そもそも高校生が「デジタルネイティブ世代」かどうかという点とは関係せず、控訴人の主張は前提を欠くものである。控訴人が前記第2の3⑵ウにおいてキーアイテムとして主張する点について、原判決別紙著作物対比表番号17について補正の上で引用した原判決第3の1⑵カのとおりであり、控訴人が当審において主張する「お守りによって自らいじめと対峙して解決する展開に向かう」、「いじめられていたことを『母親』に話す」、「大事にしていたお守りが水辺に投げ捨てられている」との点を含め、表現それ自体でない部分において共通性を有するにすぎない。これを措くとしても、被控訴人著作物は、大切な友人の遺品(お守り)を川に落とされた少年が、遺書を書いて橋の欄干に足を掛けたところ、その場を通りかかった女子高校生が少年を引きとどめ、お守りを拾い上げるために自ら川に入り、水流に足を取られながらもお守りを拾い、そのような女子高校生との関わりを通じて少年も前向きに一歩を踏み出す様子が描かれているものであり(甲4の20)、控訴人著作物の2話(甲1の2)及び5話(甲1の5、1の6)とは異なる内容であるほか、前記のとおり被控訴人著作物の全体の構成が不明なまま、各話の一部のみを取り出し、それらを合わせた上で類似点のみを挙げても、翻案判断の前提として両著作物を対比したことにはならず、主張自体失当というべきである。控訴人が前記第2の3⑵エにおいて主張する細部描写の点は、原判決別紙著作物対比表番号99について、補正の上で引用した原判決第3の1⑵フのとおりである。控訴人の主張する「高校で孤立した学生が、だれもいない場所で一人でお弁当を食べる」という点は、アイデアであって表現それ自体ではなく、被控訴人著作物(17話)には控訴人の主張する「当該学生に寄り添う女性教員」は存在しない。控訴人が弁当の中身の描写について主張する点について、控訴人著作物で描かれた弁当は、俵型の弁当箱が真ん中の仕切りで左右に分けられ、左側半分に白米が詰められ、右側半分のうち左上に顔の描かれていないタコ型ウインナーが二つ横斜め方向に並び、左下に横長の卵焼きが縦方向に二つ並べられ、ブロッコリーのように見えるもの二つ、丸いミニトマト状のものが二つ詰められている(甲1の8の7枚目)。他方、被控訴人著作物で描かれた弁当は、長方形の弁当箱の左上に食べかけの白米があり、白米部分とおかず部分との間の仕切りはなく、左下に縦長の卵焼きが縦方向に三つ並べられ、その右にブロッコリーのようなものが描かれ、右端に目と口で顔が描かれたタコ型ウインナーが二つ縦方向に並んでいる。タコ型ウインナーは、弁当箱の中にある二つに加え、女子高校生が箸でつまんで食べようとしているタコ型ウインナーが一つ描かれている(甲17の27)。弁当の描写において、「タコ型ウインナー」、「卵焼き」や「ブロッコリー」を描くこと自体はアイデアであり、色どりや素材の性質等を考慮するとこれらはありふれた組み合わせともいうことができ、他方、控訴人著作物と被控訴人著作物は、弁当箱の形の違いや仕切りの有無、「タコ型ウインナー」、「卵焼き」や「ブロッコリー」を含む弁当の中身の描き方が異なるから、全体として全く異なる印象を与えるものであり、控訴人の主張するレイアウトの完全な合致は存しない。以上のとおりであり、控訴人の上記主張は採用することができない。
⑷ 控訴人は、前記第2の3⑶のとおり、被控訴人著作物には控訴人著作物へ
の高度の依拠性が存する旨を主張する。しかし、補正の上で引用した原判決第3の2のとおり、被控訴人著作物は、控訴人著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものとは認められないから、依拠性について検討するまでもなく、控訴人の主張には理由がないことに帰する。なお、念のため、控訴人が偶然では絶対に生じ得ない特異な合致が存在すると主張する点につき検討すると、「スマホ時代の女子高生が現像されたスナップ写真を物理的に損壊する(時代設定との矛盾)」との点につき、控訴人著作物では皺の沢山付いた写真を持っているのは、原判決別紙著作物対比表番号9・10の被控訴人の主張に対する反論欄にも記載のとおり、高齢の男性であり、スマホ時代の女子高生が現像されたスナップ写真を物理的に損壊するものではない(甲1の5)から、そもそも合致の事実自体が存しない。また、「登場人物の亡き妹の形見であるお守りを川に投げ込む」との点については、被控訴人著作物において描かれたお守りは、亡き妹の形見ではない(甲4の41)から、合致の事実自体が存しない。「弁当の卵焼きとタコさんウインナーの配置・角度が完全一致する」との点についても、既に述べたとおり、弁当の卵焼きやタコ型ウインナーの配置・角度は、控訴人著作物と被控訴人著作物とで完全に一致するものではない(甲1の8の7枚目、甲17の27)。この点については、原判決別紙著作物対比表番号99の被控訴人の主張に対する反論欄に「弁当の中身の内容が、ほぼ同じに描かれている」として、控訴人も完全に一致するものと主張していないことからも明らかなとおり、合致の事実自体が存しない。以上のとおり、被控訴人著作物には控訴人著作物への高度の依拠性が存するとする主張は前提を欠くものである。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
3 以上の認定及び判断は、当審における控訴人のその余の補充主張によっても
左右されない。
4 よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求は理由がな
く、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判官今 井 弘 晃裁判官柵 木 澄 子裁判長裁判官中平健は退官のため署名押印することができない。裁判官今 井 弘 晃
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