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令和7(ネ)10086発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年8月18日
事件種別 民事
法令 著作権
キーワード 侵害4回
損害賠償2回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
事件の概要 「原告」を「控訴人」と、 「被告」を「被控訴人」と、 「別紙」を「原判決別紙」 とそれぞれ読み替える。 )

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判決文

令和8年8月18日判決言渡

令和7年(ネ)第10086号 発信者情報開示命令の申立てについての決定に対

する異議の訴え控訴事件(原審・東京地方裁判所令和7年(ワ)第70067号)

口頭弁論終結日 令和8年6月16日

判 決

控 訴 人 X

同訴訟代理人弁護士 中 村 得 郎

同 延 時 潤 一

同 田 中 理 莉 子

被 控 訴 人 TikTok Pte.Ltd.

同訴訟代理人弁護士 伊 東 啓

同 角 田 龍 哉

同 新 井 一 希

同 福 王 広 貴

同 唐 美 佳

同 宮 関 貴 臣

同 森 愛 美

同 山 崎 恭 子

同 平 田 友 悟

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は、控訴人の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 東京地方裁判所令和6年(発チ)第11447号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和7年2月3日にした決定を次のとおり変更する。

5 ⑴ 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙発信者情報目録記載2ないし4の情報を開示せよ。

⑵ 控訴人のその余の申立てを却下する。3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。ただし、

「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、「別紙」を「原判決別紙」とそれぞれ読み替える。)1 控訴人は、インターネット上の動画投稿サイト「TikTok」(本件サイト)を管理及び運営する被控訴人に対し、氏名不詳者(本件発信者)が、控訴人の撮影した動画ファイル(控訴人投稿動画)をダウンロードし、本件サイトに、原判決別紙投稿記事目録記載のアカウントURL及びユーザーネームで特定されるアカウント(本件TikTokアカウント)を用いて、同目録記載1及び2の各動画を投稿したこと(本件投稿)により、控訴人投稿動画に係る控訴人の著作権(複製権、公衆送信権及び頒布権)を侵害したことは明らかであり、本件発信者に対する損害賠償請求等のため、被控訴人が保有する原判決別紙発信者情報目録記載の各情報(本件発信者情報)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(令和6年法律第25号による改正前の題名であり、現在の題名は、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」。以下「法」という。)5条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める申立てをしたところ、東京地方裁判所は、原判決別紙発信者情報目録記載2の情報の開示を求める限度で理由があるとして、同情報の開示を命じ、その余の申立てには理由がないとして、これを却下する旨の決定(以下「原決定」という。)をした。控訴人が、法14条1項に基づき、原決定に対する異議の訴え(ただし、同訴えに係る請求は、原判決別紙発信者情報目録記載2ないし4の情報の開示を

5 命じ、その余の申立てを却下する旨の決定に変更するよう求めるというものである。)を提起したところ、原判決が原決定を認可したため、控訴人が原判決を不服として控訴した。2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」中の(以下、原判決の「事実及び理由」中の記載を引用する場合に「事実及び理由中の」との記載を省略する。)第2の1及び2(2頁15行目から5頁8行目まで。原判決別紙を含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。

⑴ 原判決3頁10行目の「甲1、2」の次に「、弁論の全趣旨」を加える。

⑵ 原判決4頁24行目に「否認ないし争う。」とあるのを「否認する。」と改める。

⑶ 原判決5頁3行目の「受領していない。」の次に「また、被控訴人は、本件サイトにおける動画投稿に関する収益化プログラムに参加したアカウント保有者に対して支払調書を発行する義務も負っていない。したがって、被控訴人は、本件発信者情報のうち氏名及び住所の情報をいずれも保有していない。」を加え、同頁7行目の「したがって」から8行目末尾までを削除する。3 当審における当事者の補充主張

⑴ 控訴人の主張ア PayPalアカウントの「ホルダー名」は法5条1項の「氏名」に該当すること原判決は、PayPalアカウントの「ホルダー名」は、当該アカウントの保有者において自由に設定することができるものであるから、発信者情報である「氏名」に該当しない旨判断した。しかし、PayPalは、銀行口座登録に関し、「銀行口座の名義は、PayPalアカウントに登録されているお客さまの氏名と一致している

5 必要がある」としている(甲12)ところ、銀行口座を開設する際には本人確認が行われており、偽名で口座開設することは通常考えられない。したがって、本件TikTokアカウントを収益化しており、PayPalアカウントと紐づけることによって銀行口座を登録している以上、被控訴人がPayPalから受領した「ホルダー名」は「戸籍上の氏名」と一致するはずである。被控訴人が、公式ヘルプセンターの記載において、Creator Rewards Program(本件プログラム)への参加条件として「氏名、生年月日など、本物のアカウント情報がある」ことを求め、アカウント情報及び投稿されるコンテンツに「偽の名前や生年月日など、不正なアカウント情報または年齢要件を満たさないアカウント情報」を含めないよう求めていること(甲14)からすれば、「ホルダー名」が偽名であることが判明した場合、被控訴人において、アカウントを速やかに停止する措置を取るはずであるのに、本件TikTokアカウントについては、控訴人が発信者情報開示請求を行って初めて削除したことに照らし、偽名が登録されていることはあり得ないし、そもそも、上記のとおり求めていることからすれば、本件TikTokアカウントに登録された情報が正しいものであることを前提とすべきである。以上のとおり、「ホルダー名」と戸籍上の氏名は一致するものといえ、「ホルダー名」は法5条1項上の「氏名」に該当する。また、「ホルダー名」は、少なくとも特定に資する識別情報として機能するものであり、任意に設定されるものであっても外部サービスを横断する際に同一のハンドルネーム等として使用され得るものである。任意に設定できるからといって、発信者の特定に資する氏名情報に当たらないと直ちにいうことはできない。法施行規則2条1号が「氏名」のみならず「名称」まで発信者情報に含めている趣旨は、被害者救済の見地から発信者の特定

5 に資する氏名情報として機能し得るものは全て発信者情報たる「氏名」に該当すると捉えていると解すべきである。特に、収益受領のための情報として登録する「ホルダー名」は、匿名にする必要のないものであるから、任意に設定されるものであったとしても、偽名を用いる可能性は低く、発信者の特定に資する実質を有するものである以上、法5条1項上の「氏名」に該当するというべきである。実際にも、控訴人訴訟代理人弁護士らは、本件と同様の発信者情報開示請求において、Googleから、「ニックネーム」であっても「氏名」として開示を受けている。イ 被控訴人は氏名及び住所の情報を保有していること原判決は、被控訴人が年齢確認の際に氏名や住所といった情報を取得していることや、支払調書の発行を行っていることにつき、控訴人の立証がないとして、被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者の氏名又は住所を保有すると認めるに足りない旨判断した。しかし、被控訴人は、報酬を受け取るすべてのクリエイターは、米国税務規則の適用下にある場合、税務情報の提供が必要であるとしており、少なくともアメリカ向けの説明では、戸籍上の氏名、TIN(納税者番号)、住所及び連邦税分類の提出が必要であると公式ヘルプセンターで説明している(甲13)。上記説明は、アカウント保有者がアメリカに居住している場合又はアメリカ以外に居住しているとしてもアメリカに銀行口座を保有している場合、本件プログラムに参加し、被控訴人から報酬を受け取っている以上、税務情報である氏名及び住所を入力していなければ、通常は報酬の支払に至らないということを意味する。そうであるにもかかわらず、被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者の氏名又は住所の情報を保有しないというのでは、被控訴人自らが説明する内容と整合しないから、被控訴人はこれらの情報を保有しているものと考えられる。また、TikTokはウェブサイト上で報酬ポリシーを公開しており、

5 そこには、米国、EEA(欧州経済領域)、スイス及び英国に居住するユーザーに対しては、「TikTokは必要であると判断した場合、支払額から税金を源泉徴収および/または控除し、これらの金額を税務当局に納付する権限を有します。」との記載があり、米国、カナダ、ラテンアメリカ、EEA、英国又はスイス以外に居住するユーザーである場合には、被控訴人が報酬プログラムを提供し、報酬プログラムに関連する支払、財務又は税務上の義務について単独で責任を負う旨の記載がある(甲16)。そして、被控訴人が登録事務所を置いているシンガポールは、日本を含む各国と租税条約を締結していることからすれば、被控訴人は、各国と二重課税を防止するために協力しているということになる。そうであるところ、被控訴人は、クリエイターの氏名及び住所を保有し、その活動拠点を把握していなければ、適切な税務処理を行うことはできないから、被控訴人は本件TikTokアカウントの保有者の活動拠点を把握し、その「氏名」及び「住所」の情報を保有しているはずである。さらに、アカウント保有者が日本を拠点に活動している場合、被控訴人において、源泉徴収義務を負わないことを理由に支払調書を発行していなかったとしても、当該アカウント保有者(クリエイター)の氏名及び住所を保有していないと、当該アカウント保有者の行う確定申告に関連して税務調査が入った場合に、被控訴人は当該確定申告者と当該アカウント保有者が同一人物であるかを確認することができないということとなり極めて不合理であるから、被控訴人は本件TikTokアカウントの保有者の「氏名」及び「住所」の情報を保有しないはずはない。以上によれば、被控訴人は、本件TikTokアカウントの保有者について「氏名」及び「住所」を保有していることが推認されるというべきである。

⑵ 被控訴人の主張

5 ア PayPalアカウントの「ホルダー名」は法5条1項の「氏名」に該当しないこと本件TikTokアカウントの保有者について、被控訴人は、PayPalから、電子メールアドレス及びPayPalの利用者が自由に登録・設定できる「ホルダー名」だけを受領したにすぎないところ、控訴人は、被控訴人がPayPalから受領した「ホルダー名」が法5条1項上の「氏名」に該当する旨主張する。しかし、PayPalにおける本人確認について被控訴人は詳細を把握する立場にないところ、控訴人が指摘するPayPalの説明内容も、PayPalが、PayPalのアカウントに銀行口座を登録する際に、当該PayPalアカウントに登録された「お客さまの氏名」と銀行口座の名義が一致することが必要である旨を説明しているにすぎず、PayPalにおいて登録されたアカウントの「ホルダー名」であって、被控訴人に共有される「ホルダー名」の情報と、PayPalユーザーの銀行口座の名義を一致させる義務をPayPalがユーザーに課していると解する根拠は示されていない。また、控訴人が指摘する被控訴人による本件プログラムに関する説明は、あくまでも本件プログラム参加者に対して、虚偽の情報を利用しないように求める趣旨であるにとどまり、本件プログラムへの参加のために「氏名」としてアカウント保有者の戸籍上の氏名の情報を入力することを義務付けているものではないし、PayPalアカウントに登録された「ホルダー名」が戸籍上の氏名と一致していることを求めるものでもなく、PayPalアカウントにどのような情報を登録するかは被控訴人が関知・管理するところではない(そもそも、被控訴人は、本件プログラムへの参加のために別個の情報の入力フォーム等の設定はしていない。)。むしろ、「ホルダー名」は、PayPalアカウント登録者が自由に設定

5 可能な名称であるから、必ずしも戸籍上の氏名と一致することが想定された情報ではない以上、法5条1項上の「氏名」であると解する余地はないし、利用者が自由に登録・設定できる「ホルダー名」の情報が、発信者の特定に資する情報であるともいえない。イ 被控訴人は氏名及び住所の情報を保有していないこと控訴人は、被控訴人のウェブサイト上における、「米国税務規則の適用下にある場合、納税者情報を提供する必要があります」との記載から、被控訴人が本件TikTokアカウントに係る氏名及び住所を受領しているはずであるなどと主張する。しかし、納税者情報を提供する必要があるのは、米国税務規則の適用下にある場合であって、本件TikTokアカウントについて米国税務規則の適用があることの根拠は何ら示されていないし、被控訴人は米国向けの本件サイトを管理運営するものではなく、米国税務規則に従った手続も行ったことはない。また、控訴人は、被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者に対して支払調書の発行又は確定申告手続を通じて氏名及び住所を取得しているはずであるなどと憶測に基づいた主張をするものの、被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者に対して支払調書を発行した事実はないし、当該保有者が確定申告手続を行っているかについても被控訴人は把握しておらず、確定申告手続を通じて当該保有者の氏名及び住所を取得したという事実もない。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、原決定は認可されるべきものであり、原決定の取消しを求める

控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の第3の1ないし3(5頁10行目から8頁18行目まで)に記載のとおりであるから、これ

5 を引用する。

2 当審における控訴人の補充主張に対する判断

⑴ 控訴人は、被控訴人がPayPalから受領した「ホルダー名」は法5条

1項上の「氏名」に該当する旨主張する。ア この点に関し、まず、控訴人は、PayPalのウェブサイトのヘルプセンター中の「PayPalアカウントに銀行口座を登録できない理由を教えてください。」との問いに対応する回答として複数挙げられている理由の一つに、「銀行口座の名義は、PayPalアカウントに登録されているお客さまの氏名と一致している必要があります。」と記載されていること(甲12)を捉えて、「ホルダー名」は戸籍上の氏名と一致する旨主張する。しかし、上記記載は、PayPalアカウントに銀行口座を登録する際に、当該PayPalアカウントに登録された「お客さまの氏名」と銀行口座の名義が一致することが必要である旨(すなわち、PayPalアカウントに銀行口座を登録する際に、同アカウントに銀行口座情報として登録した氏名(口座名義)と銀行側の情報が一致することが必要である旨)を説明するものにすぎない。むしろ、PayPalが、PayPalアカウントに登録された「ホルダー名」と銀行口座の口座名義とを一致させる義務をユーザーに課していることを示す証拠はないことからすれば、「ホルダー名」が登録者の戸籍上の氏名と一致しているものであると推認することはできないというべきである。また、控訴人は、TikTokのウェブサイト中の本件プログラムに関するページにおいて、「Creator Rewards Programに参加し、報酬を獲得する」条件の一つとして、「氏名、生年月日など、本物のアカウント情報がある。」との項目を挙げ、アカウント情報には「偽の名前や生年月日など、不正なアカウント情報または年齢要件を満たさな

5 いアカウント情報」を含めないよう求めていること(甲14)を捉え、

「ホルダー名」として偽名が登録されていることはあり得ない旨主張する。しかし、本件プログラムへの参加に際してTikTokアカウントと連携されたPayPalアカウントの「ホルダー名」が銀行口座の口座名義や戸籍上の氏名と一致しないからといって、直ちにTikTokアカウントに偽のアカウント情報を連携したことになるわけではない(PayPalアカウントにどのような情報を登録するかは、PayPalと当該登録者との間で規律される事柄であって、被控訴人が管理する事項ではない。)。もともと、被控訴人は、本件プログラムへの参加のために、アカウント保有者の戸籍上の氏名の情報を入力することを義務付けているものではないし、PayPalアカウントに登録された「ホルダー名」が戸籍上の氏名と一致していることを求めるものでもないことからすれば、上記のような条件があることをもって、PayPalアカウントの「ホルダー名」が戸籍上の氏名と一致しているものであると推認することはできないというべきである。そして、引用した原判決第3の2⑵のとおり、被控訴人がPayPalから受領した「ホルダー名」は、PayPalアカウントの登録者が自由に設定可能なものであるところ、本件において、被控訴人がPayPalから受領した「ホルダー名」が本件TikTokアカウント保有者の氏名(又は名称)と一致するものであることを認めるに足りる証拠はない。イ 次に、控訴人は、収益受領のための情報として登録する「ホルダー名」は、匿名にする必要のないものであるから、任意に設定されるものであったとしても、偽名を用いる可能性は低く、発信者の特定に資する実質を有するものである以上、法5条1項上の「氏名」に該当する旨主張する。しかし、前記アのとおり、「ホルダー名」は、PayPalアカウントの登録者が自由に設定可能なものであって、PayPalが、「ホルダー名」

5 と銀行口座の口座名義(又は戸籍上の氏名)とを一致させる義務をユーザ

ーに課していることを示す証拠もないことからすれば、「ホルダー名」が氏名と等しく発信者の特定に資する情報であると直ちにいうことはできず、本件において、「ホルダー名」が本件TikTokアカウント保有者の氏名(又は名称)と等しいものであるとうかがわせるに足りる事情は認められない。ウ 以上によれば、被控訴人がPayPalから受領した「ホルダー名」は、法施行規則2条1号の「発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の氏名又は名称」に該当するとは認められず、法5条1項上の発信者情報に該当しない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

⑵ 控訴人は、本件プログラムへの参加により本件TikTokアカウントは

収益化されているところ、被控訴人は、クリエイターの活動拠点に応じた税務上の必要から本件TikTokアカウントの保有者について氏名及び住所の情報を保有していることが推認される旨主張する。しかし、TikTokのウェブサイト中には、「TikTokで報酬を受け取るすべてのクリエイターは、米国税務規則の適用下にある場合、納税者情報を提供する必要があります。」などとの記載はある(甲13)ものの、本件TikTokアカウントの保有者(クリエイター)が上記にいう「米国税務規則の適用下にある」ことについては不明である。また、TikTokのウェブサイト中の報酬ポリシー(米国、EEA(欧州経済領域)、スイス及び英国以外に居住するユーザーには適用されないもの)には、「お客様が米国、カナダ、ラテンアメリカ、EEA、英国、またはスイス以外にお住まいの場合、被控訴人がお客様に報酬プログラムを提供し、報酬プログラムに関連する支払い、財務、または税務上の義務について単独で責任を負います。」との記載がある(甲16)ものの、当該記載は、要するに、ユーザーの居住地域に応

5 じた、報酬プログラムの提供、報酬支払及び税務上の義務等を負う法人の区

分を表明するものにすぎず、被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者に対して支払調書を発行した事実や税務上の手続のために当該保有者の氏名及び住所を取得した事実を証するものとはいえない。上記のほか、控訴人は、シンガポールが各国と租税条約を締結していることや確定申告に関連して税務調査が入った場合の対応の必要性等を挙げ、被控訴人は適切な税務処理を行うため、TikTokアカウントの保有者(クリエイター)の氏名及び住所を保有し、その活動拠点を把握しているはずであるなどと主張するものの、控訴人が挙げる点をもって、被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者の氏名及び住所の情報を保有しているとの事実を推認するには飛躍があり、これを認めることはできないというべきである。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

3 その他、原審及び当審において控訴人が主張する内容を検討しても、当審に

おける上記認定判断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。

4 控訴人による文書提出命令の申立てについて

控訴人は、当審における令和7年12月19日付け文書提出命令申立書において、被控訴人に対し、①本件TikTokアカウントの保有者に対して、被控訴人が支払をした金額を示す文書(文書1)及び②本件プログラム参加時に被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者に入力させた項目がわかる文書(文書2)の提出を命令ずるよう求めている(なお、被控訴人は、上記申立ては時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を求めるものの、直ちに時機に後れたものとまでいうことはできないし、訴訟の完結を遅延させることとなるものであるとも認められない。)。上記文書提出命令の申立ては、証明すべき事実を「被控訴人が本件TikTokアカウントに関して入力した発信者の特定に資する情報が何か」として申

5 し立てられたものであって、それ自体具体的に特定されているものではないか

ら、支払金額や本件プログラム参加時の入力項目が明らかになることで、いかなる事実が立証されるのか、また、当該事実によって被控訴人が本件TikTokアカウントの保有者の氏名及び住所の情報を保有していることが立証される関係にあるのか明らかであるとはいえない。したがって、いずれの文書も本件において証拠調べの必要性があるとはいえないから、上記文書提出命令の申立ては却下する。

5 結論

以上によれば、原決定を認可した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よって、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判官今 井 弘 晃

5 裁判官

柵 木 澄 子裁判長裁判官中平健は、退官のため署名押印することができない。裁判官今 井 弘 晃

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