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令和8(ネ)10023特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年8月27日
事件種別 民事
当事者 被控訴人株式会社千石 日本エー・アイ・シー株式会社
対象物 電気コーヒーメーカー
法令 特許権
特許法100条1項1回
キーワード 特許権4回
侵害3回
進歩性2回
無効2回
損害賠償2回
差止2回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 請求の要旨 本件は、発明の名称を「電気コーヒーメーカー」とする特許第6376369 号(本件特許1)及び同第6593723号(本件特許2)に係る各特許権を有 する控訴人が、被控訴人らによる原判決別紙被告製品目録記載の製品(被告製品) の輸入、製造、販売及び販売の申出が上記各特許権を侵害する行為であると主張 して、①特許法100条1項に基づき被告製品の輸入等の差止め、②同条2項に 基づき被告製品及びその金型の廃棄、③特許権侵害の不法行為による損害賠償請 求権に基づき損害賠償金3000万円及びこれに対する請求に係る不法行為の最 終日である令和6年2月29日から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅 延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

令和8年8月27日判決言渡

令和8年(ネ)第10023号 特許権侵害差止等請求控訴事件

(原審・大阪地方裁判所令和6年(ワ)第2606号)

口頭弁論終結日 令和8年6月30日

判 決

控 訴 人 X

被 控 訴 人 株 式 会 社 千 石

被 控 訴 人 日本エー・アイ・シー株式会社

上記両名訴訟代理人弁護士 平 野 惠 稔

古 庄 俊 哉

手 代 木 啓

細 野 真 史

上記両名訴訟代理人弁理士 河 野 英 仁

新 井 景 親

安 田 恵

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 被控訴人らは、原判決別紙被告製品目録記載の製品を輸入し、製造し、販売し、又は販売の申出をしてはならない。3 被控訴人らは、原判決別紙被告製品目録記載の製品及び同製品の製造に供する金型を廃棄せよ。4 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して3000万円及びこれに対する令和6年2月29日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等(略語は原判決の例による。)

1 請求の要旨本件は、発明の名称を「電気コーヒーメーカー」とする特許第6376369号(本件特許1)及び同第6593723号(本件特許2)に係る各特許権を有する控訴人が、被控訴人らによる原判決別紙被告製品目録記載の製品(被告製品)の輸入、製造、販売及び販売の申出が上記各特許権を侵害する行為であると主張して、①特許法100条1項に基づき被告製品の輸入等の差止め、②同条2項に基づき被告製品及びその金型の廃棄、③特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき損害賠償金3000万円及びこれに対する請求に係る不法行為の最終日である令和6年2月29日から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原判決は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。2 前提事実本件の前提事実は、原判決の「事実及び理由」第2の3(3頁1行目~7頁13行目)に記載のとおりであるからこれを引用する。3 争点本件の争点は、次のとおりである。控訴人は、当審において、被告製品が本件発明1と均等なものとしてその技術的範囲に属する旨の主張及び被告製品が構成要件H-2を文言上充足する旨の主張をいずれも撤回したため、原審における争点1-4及び2-2は、本件の争点から外れた。

⑴ 被告製品が本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)ア 構成要件C-1を充足するか(争点1-1)イ 構成要件D-1を充足するか(争点1-2)ウ 構成要件I-1を充足するか(争点1-3)

⑵ 被告製品が本件発明2の技術的範囲に属するか(争点2)ア 構成要件C-2を充足するか(争点2-1)イ 構成要件I-2を充足するか(争点2-3)ウ 構成要件J-2を充足するか(争点2-4)エ 構成要件L-2を充足するか(争点2-5)オ 被告製品は、本件発明2と均等なものとしてその技術的範囲に属するか(争点2-6)

⑶ 本件特許1に次の無効理由があるか(争点3)ア サポート要件違反(争点3-1)イ 明確性要件違反(争点3-2)ウ 補正要件違反(争点3-3)エ 乙17発明を主引用発明とする進歩性欠如(争点3-4)

⑷ 本件特許2に乙17発明を主引用発明とする進歩性欠如の無効理由があるか(争点4)

⑸ 損害の発生及びその額(争点5)4 争点に対する当事者の主張争点に対する当事者の主張は、次のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第3(8頁9行目~42頁17行目)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、争点1-4に関する部分(14頁26行目~18頁7行目)及び争点2-2に関する部分(20頁21行目~21頁26行目)を除く。)。

⑴ 争点1-2(構成要件D-1を充足するか)について本件特許に係るコーヒーメーカーが使用される環境は、1気圧(1013.25hPa)に限定されるわけではない。高地であってもコーヒーメーカーのニーズはあり、実際、被告製品も、低気圧下でも制御できるよう、湯温が97℃を検知したときにヒータをオフとするように設定されている。控訴人は、標高892m、気圧915hPaの氷ノ山キャンプ場で実験を行ったところ(甲45)、被告製品内における湯の最高温度は97℃であった。すなわち、被告製品は、湯温が97℃になるとヒータがオフになった。これに対し、被控訴人らは、被告製品のサーミスタが97℃を検知した地点での湯温は100.7℃であった旨の実験結果を提出するが、これは、蒸発気泡の影響で湯温よりも高い温度が記録されたものである。控訴人が主張する正しい計算によると、湯温とサーミスタの検知温度は、時間差がほとんど無くして等しくなるから、被告製品は、湯温が97℃となった時点でヒータをオフにしているといえる。したがって、被告製品は、「湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFFにし」ているから、構成要件D-1を充足する。

⑵ 争点2-6(被告製品は、本件発明2と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について被告製品におけるヒータが「ボイラー容器の中空に吊り下げ」られていないとしても、ヒータを上部に固定して中空に吊り下げるか、あるいは底面に固定して浮かせて中空に配置するかは、当業者が適宜行い得る設計事項であって、本件発明2の本質的部分に関する差異であるとはいえない。また、控訴人は、出願審査経過において、ボイラーの底面にヒータを固定する構成を、本件発明2の技術的範囲から意識的に除外したことはない。したがって、被告製品は、本件発明2と均等なものとして、その技術的範囲に属するといえる。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求には理由がないものと判断する。その理由は、次に

控訴人の当審における補充主張に対する判断を示すほかは、原判決の「事実及び理由」第4(42頁18行目~53頁14行目)に記載のとおりであるからこれを引用する(ただし、争点1-4に関する部分(48頁18行目~50頁12行目)及び争点2-2に関する部分(50頁13行目~51頁10行目)を除く。)。

⑴ 争点1-2(構成要件D-1を充足するか)について

控訴人は、標高892m、気圧915hPaの氷ノ山キャンプ場で実験を行ったところ、被告製品は、湯温が97℃となったときにヒータがオフになるものであって、「湯温度が90~100℃に達したときにヒータをOFF」にする構成要件D-1を充足する旨主張する。しかし、構成要件D-1は、ヒータをオフにする湯温度のみならず、「ボイラーで沸かした湯はスチームが発生する前に…ヒータをOFFしてスチーム圧力を発生させない」ことまでをも要するところ、ここにいう「スチーム」及び「スチーム圧力」は、これが発生する前に湯を沸かすヒータをオフにするとされていることから、湯の沸騰による水蒸気及びこれにより生じる圧力を意味することが明らかである。これを被告製品についてみると、控訴人の試験報告書(甲45)によると、標高892m、気圧915hPaの環境下において、電気ケトルを用いて湯を沸かしたところ、97℃で沸騰したとされ、被告製品においても湯温が97℃のときに湯が沸騰したというのである。そうすると、控訴人の実験結果によっても、被告製品では、ヒータをオフにするのは沸騰後であってスチーム及びスチーム圧力が発生することとなる。また、被控訴人らによる実験の結果(乙46)によると、被告製品のサーミスタが97℃を検知してヒータをオフにする際、湯温は100.7℃であった。このことは、サーミスタの熱時定数(サーミスタの半導体の温度が、最初の温度と最終到達温度の温度差の63.2%にまで変化するのに要する時間)が10秒であり、湯温の上昇とサーミスタによる温度検知には時差があること、被告製品のボイラー内の気圧は、外気圧(1011.2hPa)を上回って1035.8hPaに達しており、その分、水の沸点が上昇することとも整合するといえる。この点について、控訴人は、熱時定数に関する公式に依拠して、サーミスタの検知温度と湯温との間に差はない旨主張するが、同公式は、経時的な温度変化を前提にしないものであるから、本件には適切でない。また、前記のとおり、サーミスタに熱時定数があること自体からして、検知温度と湯温との間に差がない旨の主張には理由がないことが明らかである。したがって、被告製品が本件発明1の構成要件D-1を充足する旨の控訴人の主張は採用することができない。

⑵ 争点2-6(被告製品は、本件発明2と均等なものとしてその技術的範囲に

属するか)について控訴人は、本件発明2において、ヒータを上部に固定して中空に吊り下げるか、底面に固定して浮かせて中空に配置するかは、当業者が適宜行い得る設計事項であって、本件発明2の本質的部分であるとはいえず、また、出願審査経過において、ボイラーの底面にヒータを固定する構成を、本件発明2の技術的範囲から意識的に除外したことはない旨主張する。しかし、証拠(甲9、10)によると、控訴人は、本件特許2の出願審査経過において、審査官からの拒絶理由通知に対し、特許請求の範囲に「ボイラーはヒータを内蔵してボイラー容器の中空に吊り下げ、ボイラー容器の底面に給湯孔Aと給湯孔Bを設ける、ボイラーの容積は1コーヒーカップの淹れたいコーヒー分量に必要な容積として、コーヒーの淹れ方行程が完了したとき残湯が残らないようにする」との発明特定事項を加える手続補正書を提出するとともに、「引用文献6-8の電気ケトルタイプではボイラー、2個の電磁弁、ドリッパー、コーヒーカップを鉛直的に配置することは大変困難である、さらにボイラーの底面に2個の給湯孔を設けることも困難である。本願発明の[図4]のようにヒータはボイラーの水中に吊り下げるように構成するとボイラー底全面が給湯孔のために使用できるので構成が大変簡単になる。」などと記載された意見書を提出して、特許査定に至っていることが認められる。このような出願審査経過に照らすと、控訴人は、少なくとも、ヒータがボイラーの底面に接触して固定されている構成については、本件発明2の技術的範囲から意識的に除外したものとみるのが相当である。被告製品におけるヒータが、ボイラーの底面に沿う形でボイラー底部を2周する上面視円状に構成され、ボイラーの底部に接触して固定されていることは、当事者間に争いがない。したがって、被告製品が、本件発明2と均等なものとして、その技術的範囲に属するということはできない。

2 結論

以上によると、控訴人の請求には理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴には理由がない。よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官増 田 稔裁判官頼 晋 一裁判官天 野 研 司

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