ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(ワ)70203 職務発明対価相当請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年8月19日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告A 被告株式会社埼玉村田製作所 |
| 法令 |
特許権 特許法35条5項4回 特許法35条3項4回 特許法2条1項1回 |
| キーワード | 実施43回 特許権34回 職務発明4回 意匠権1回 実用新案権1回 商標権1回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 事案の概要 本件は、被告の元従業員である原告が、被告に対し、別紙特許目録記載1な いし6の特許(以下「甲14特許」などといい、 「本件各特許」と総称する。 ) に係る発明並びに別紙特許出願目録記載1及び2の特許出願に係る発明(以下、 請求項の数にかかわらず、 「甲28発明」などという。 )は原告の職務発明であ ると主張して、被告の勤務規則に基づく実績報奨金(以下「被告実績報奨金」 という。 )又は特許法35条3項及び5項(平成20年4月18日法律第16 号による改正前のもの。以下、同じ。 )に基づく相当の対価(以下、単に「相 当の対価」という。 |
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令和8年8月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和7年(ワ)第70203号 職務発明対価相当請求事件
口頭弁論終結日 令和8年5月14日
判 決
原 告 A
被 告 株式会社埼玉村田製作所
同訴訟代理人弁護士 森 本 純
安 井 祐 一 郎
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は、原告に対し、600万円及びこれに対する令和7年7月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要本件は、被告の元従業員である原告が、被告に対し、別紙特許目録記載1ないし6の特許(以下「甲14特許」などといい、「本件各特許」と総称する。)に係る発明並びに別紙特許出願目録記載1及び2の特許出願に係る発明(以下、請求項の数にかかわらず、「甲28発明」などという。)は原告の職務発明であると主張して、被告の勤務規則に基づく実績報奨金(以下「被告実績報奨金」という。)又は特許法35条3項及び5項(平成20年4月18日法律第16号による改正前のもの。以下、同じ。)に基づく相当の対価(以下、単に「相当の対価」という。)の一部として合計600万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容
5 易に認められる事実。以下、枝番号のある証拠について枝番号を記載しない場合は、全ての枝番号を含む。)
⑴ 当事者ア 原告は、平成3年1月16日から平成21年3月31日まで被告で勤務していた者である。イ 被告は、電気機械器具の製造及び販売等を目的とする株式会社である。平成28年5月1日に株式交換が行われ、同日以降は株式会社村田製作所(以下「村田製作所」という。)の完全子会社となった。
⑵ 原告の発明及び特許を受ける権利の承継ア 原告は、被告在籍中、本件各特許に係る発明(以下、請求項の数にかかわらず、「甲14特許発明」などといい、「本件各特許発明」と総称する。)を完成した。本件各特許発明は、いずれも、被告の業務範囲に属し、かつ、発明をするに至った行為が被告における原告の職務に属するものであって、職務発明に当たる。イ 被告は、別紙特許目録記載1ないし6の各出願日までの間に、本件各特許発明に係る特許を受ける権利を承継した。
⑶ 被告の特許出願等ア 被告は、別紙特許目録記載1ないし6のとおり、平成24年3月30日から平成25年11月29日にかけて、本件各特許について、特許権(以下「本件各特許権」と総称する。)を取得した。(甲14、15、18、20、22、24)イ 被告は、別紙特許出願目録記載1及び2のとおり、平成19年10月12日及び平成20年4月18日、原告を発明者とする特許出願をしたが(以下「甲28出願」などという。)、甲28出願は拒絶査定により、甲29出願は審査請求が行われず取り下げたものとみなされたことにより、いずれも、特許権の設定の登録に至らなかった。(甲28、29)
5 ⑷ 特許請求の範囲の記載及び構成要件の分説ア 本件各特許の特許請求の範囲の記載における請求項の数は、甲14特許は3、甲16特許は1、甲18特許は7、甲20特許は4、甲22特許は2、甲24特許は6である。また、甲28出願及び甲29出願の特許請求の範囲の記載における請求項の数は5及び4である。イ 発明の実施に争いがある甲24特許の特許請求の範囲の記載は別紙特許請求の範囲記載のとおりであり、これを構成要件に分説すると、次のとおりである(以下、分説に従い、「構成要件1A」などという。また、甲24特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)。(ア) 請求項11A 鉄系金属磁性体粉末と樹脂とを混練した、該鉄系磁性体粉末の含有率が60vol%以上の磁性体モールド樹脂を用い、1B 巻線からなるコイルを該磁性体モールド樹脂でプラスチック成形法を用いて封止して成形体とし、1C 該成形体の表面に該コイルの端部を露出させ、1D 該鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向が小さい金属イオンを含むめっき浴を用いて置換めっき処理を行って該成形体の表面の一部に第1のめっき電極層を形成し、1E 該成形体から露出した該コイルの端部と該第1のめっき電極層の両方と電気的に接続する第2のめっき電極層を電気めっき処理を行って形成する1F ことを特徴とするモールドコイルの製造方法。(イ) 請求項22A 前記置換めっき処理において、2B あらかじめ前記成形体の表面の所定の位置に保護層を形成し、2C 該保護層の形成されている部分以外の該成形体の表面に前記第1
5 のめっき電極層を形成する2D ことを特徴とする請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。(ウ) 請求項33A 前記電気めっき処理において、3B 強酸性ではないめっき浴を用いて前記第2のめっき電極層を形成する3C ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモールドコイルの製造方法。(エ) 請求項44A 前記置換めっき処理の後に、4B 中性もしくはアルカリ性のめっき浴を用いた無電解めっき処理によって第3のめっき電極層を形成し、4C その後前記電気めっき処理をする4D ことを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載のモールドコイルの製造方法。(オ) 請求項55A 前記第1のめっき電極層がCuもしくはNiを含む5B ことを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載のモールドコイルの製造方法。(カ) 請求項66A 請求項1乃至請求項5に記載のモールドコイルの製造方法を用いて製造された6B ことを特徴とするモールドコイル。
⑸ 被告の勤務規則の定め本件各特許発明に適用される被告の勤務規則である発明考案取扱規程(甲9。以下「本件規程」という。)及び実績報償算定基準(甲27、乙10。
5 以下「算定基準」という。)には次の内容の定めがある。ア 本件規程●省略●イ 算定基準●省略●
⑹ 村田製作所に対する本件各特許権の譲渡被告は、平成29年1月1日頃、村田製作所に対し、本件各特許権を含む合計●省略●の知的財産権(特許権及び特許を受ける権利、意匠権及び意匠登録を受ける権利並びに商標権(出願中であったものを含む。))を一括譲渡(以下「本件一括譲渡」という。)した。
⑺ 被告又は村田製作所による製品の販売被告又は村田製作所は、モールド成形体を販売しており、平成20年10月24日(本件各特許の最初の出願日)以降、①DFEシリーズ、②DFEGHシリーズ、③FDSDシリーズ、④DFESシリーズ、⑤DFECCNシリーズ及びDFE2MCPHシリーズ、⑥FCULシリーズ(以下「被告製品①」などといい、「被告各製品」と総称する。)を上市した。
⑻ 被告製品④⑤におけるモールドコイルの製造方法被告製品④⑤におけるモールドコイル(コイルを磁性体粉末と樹脂を混合した磁性体モールド樹脂で封止したもの)の製造方法は、別紙被告方法説明書記載1及び2のとおりである。
⑼ めっき処理について一般に、「めっき」は、対象物表面に金属皮膜を形成することをいう。金属イオンを含む水溶液中に対象物を浸漬(めっき浴)させる方法によるめっき処理のうち、「電解めっき(電気めっき)」は、水溶液に電気を流して電気化学的に対象物表面に金属を析出させる方法であるのに対し、「無電解めっき」は、水溶液に電気を流さない方法であり、このうち、「置換めっき」
5 は、対象金属よりイオン化傾向が小さい金属イオンを含む水溶液に対象金属を浸漬することで、対象金属が溶出してイオン化するときに放出する電子を溶液中の金属イオンが受け取って対象金属の表面に金属皮膜を形成する方法である。(乙8)3 争点
⑴ 本件各特許発明に係る被告実績報奨金又は相当の対価についてア 甲24発明の実施の有無(争点1)イ 本件一括譲渡における本件各特許権の譲渡対価(争点2)ウ 本件各特許発明に係る被告実績報奨金又は相当の対価の請求権の有無及びその額(争点3)
⑵ 甲20特許発明、甲22特許発明、甲28発明及び甲29発明のアイデア(以下「本件アイデア」という。)に係る被告実績報奨金又は相当の対価の請求権の有無及びその額(争点4)4 争点に関する当事者の主張
⑴ 争点1(甲24特許発明の実施の有無)について(原告の主張)ア 被告又は村田製作所が販売するモールド成形体の製品のモールドコイル及びその製造方法は、甲24特許発明の技術的範囲に属するものであるから、被告又は村田製作所は、甲24特許発明を実施している。イ 被告は、構成要件1D等の充足性を争うが、電解めっきは、電解めっき槽に入れて通電をしてもすぐには進行せず、銅めっき液に浸漬された製品の磁性体金属粉末とプラスチック等の絶縁体との界面や磁性体金属粉末の表面が置換めっきされることにより、めっき電極層の形成が進行してから本格的に始まるから、電解めっきの前に30秒程度漬けている間に置換めっきによる電極層が形成されており、上記構成要件を充足する。被告の試験(乙9)では、銅めっき液に浸漬したにもかかわらず、銅の
5 存在が確認できなかったとされているが、イオン化傾向が低いめっき液に入れて何ら化学反応がなく、浸漬前より銅が少ないということはあり得ないから、データの捏造、改ざん等が疑われる。(被告の主張)ア 被告各製品のモールドコイル及びその製造方法が、甲24特許発明の技術的範囲に属することは否認する。イ 甲24特許の特許請求の範囲及び本件明細書において、置換めっきは電気めっきとは異なるめっき処理方法として明確に区別して記載されており、出願時の技術常識からも、置換めっきは無電解めっきの一つであり、電気めっきとは異なるめっき処理方法であると理解されるから、電解めっきが始まる前のごく短時間のうちにめっきが生じる可能性があるとしても、「置換めっき処理」(構成要件1D)に当たらない。被告製品④及び⑤のモールドコイルの製造方法は、「置換めっき処理」を行うものではない。また、本件明細書記載の置換めっき工程におけるめっき液(硫酸銅と硫酸からなる溶液)を使用しておらず、電解めっきが始まる前のごく短時間のうちに成形体の表面に十分な導電性は付与されないから、「置換めっき処理を行って…第1のめっき電極層」(構成要件1D)を形成するものではない。このことは、被告の試験結果(乙9)によっても裏付けられている。そうすると、被告製品④及び⑤のモールドコイルの製造方法は、少なくとも構成要件1D及びこれを引用する同2D、3C、4D、5B及び6Aを充足しない。被告製品①、②、③及び⑥のモールドコイルの製造方法は、めっき電極層を形成するものではないから、甲24特許発明を実施してないことが明らかである。
⑵ 争点2(本件一括譲渡における本件各特許権の譲渡対価)について(原告の主張)
5 前記⑴(原告の主張)のとおり、甲24特許発明が実施されていること、被告の有価証券報告書(甲11)に本件各特許に関するDFECシリーズとLF受信アンテナコイル以外は売上げの上昇が見込めない旨記載されていることなどからすると、本件一括譲渡における本件各特許権の譲渡対価は、特許権1件につき●省略●を下らない。このことは、被告又は村田製作所が本件各特許の手続費用を負担して移転登録手続がされ、その後も特許料を納付して本件各特許権を維持していることによっても裏付けられている。(被告の主張)本件一括譲渡に先立って行われた第三者評価機関による評価において本件各特許権は評価の対象とされておらず、本件一括譲渡における本件各特許権の譲渡対価はゼロである。このことは、被告又は村田製作所その他のグループ会社が、本件各特許発明を実施しておらず、今後実施する予定もないことからもいえる。
⑶ 争点3(本件各特許発明に係る被告実績報奨金又は相当の対価の請求権の有無及びその額)について(原告の主張)ア 本件一括譲渡による本件各特許権の譲渡は本件規程10.1の支給事由に該当する。本件各特許発明の実施状況や被告又は村田製作所の事業における本件各特許に係る技術を用いた商品群の比重からすれば、本件各特許発明に係る被告実績報奨金は、譲渡対価の少なくとも●省略●として算定するのが相当であり、その額は合計600万円(特許権1件につき100万円)を下らない。イ 被告の勤務規則に「対価についての定めがない」(特許法35条5項)と解されるとしても、本件各特許発明に係る相当の対価の額は上記と同額
5 の合計600万円とすべきである。ウ 原告は、被告に対し、このうち300万円(特許権1件につき各50万円)の支払を求める。(被告の主張)ア 本件規程10.1の「第三者に譲渡」に、グループ会社間の譲渡は含まれないから、本件一括譲渡における本件各特許権の譲渡は、本件規程10.1の支給事由に該当しない。イ 前記⑴及び⑵(被告の主張)によれば、被告は、「その発明により使用者等が受けるべき利益」(特許法35条5項)を得ていないから、原告は、被告に対する相当の対価の請求権は有しない。
⑷ 争点4(本件アイデアに係る被告実績報奨金又は相当の対価の請求権の有無及びその額)について(原告の主張)ア 被告又は村田製作所は、被告製品①における特許第4714779号の特許に係る発明(以下「甲37特許発明」という。)の実施に際し、甲20特許発明、甲22特許発明、甲28発明及び甲29発明のアイデア(本件アイデア)を使用した。本件アイデアは、具体的には、①長円柱状、楕円柱状及び略多角形柱状の巻き芯を使用すること(甲20特許発明)、②コイル両端部に折曲部を形成しその弾性によって巻き線コイル端部をモールドコイルの側面等に露出すること(甲22特許発明)、③DFEシリーズの基礎となるプラスチック成型ができる高磁性体充填率の材料(甲28発明)、④DFEシリーズの基本構造、製法である、磁性体体積比65〜80vol%のプラスチック成型材料を使用し、外々巻きの自己融着巻き線を用い、プラスチック圧縮成形法小型のコイルを作ること(甲29発明)である。本件規程は発明考案を対象とするものであり(本件規程1.1及び8.
5 1)、発明考案には概念やアイデアが含まれるから、本件アイデアの使用は、本件規程8.1の支給事由に該当し、本件アイデアに係る被告実績報奨金は合計300万円(発明1件につき75万円)を下らない。イ 被告の勤務規則に「対価についての定めがない」(特許法35条5項)と解されるとしても、本件アイデアに係る相当の対価の額は上記と同額の300万円とすべきである。(被告の主張)ア 本件規程は、発明を対象とするものであり、アイデアの使用は実績報奨金の支給事由に当たらない。イ 特許法35条3項は職務発明を対象とするものであるから、使用者等によるアイデアの使用により相当の対価の請求権は発生しない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(甲24特許発明の実施の有無)について
⑴ 本件明細書の記載
ア 本件明細書には、次の記載がある(図面は別紙図面目録のとおり)と認められる。(ア) 技術分野【0001】本発明はモールドコイルの製造方法に関する。特に小型のモールドコイルの巻線の端部と外部電極との接合信頼性を向上させる技術に関する。(イ) 発明が解決しようとする課題【0004】近年における電子機器の小型化や高機能化の技術革新は著しく、それに伴い、モールドコイルのような電子部品もまた小型化や高性能化、さらには低価格化などの要求が高まっている。しかしながら、金属フレームの使用は小型化や低背化の妨げになり、さらにコストの上昇を招く。そして、小型で高いインダクタンスを有するモールドコ
5 イルを得ようとするならば、所定のターン数を得るために細い線材を用
いてコイルを作成する必要がある。また、小型化するにつれて外部電極も小さくせざるを得ない。そのため、小型化するにつれて巻線の端部と金属フレームの接合できる面積は減少する。巻線の端部と金属フレームの接合できる面積が減少してしまうと、巻線の端部と金属フレームの接合作業が困難になり、接触不良や接触抵抗の増加を招く。従って、小型のモールドコイルの製造において金属フレームの使用は、巻線の端部と金属フレームの間の接合信頼性の低下やコストの上昇を招く原因となっていた。【0005】そこで、金属フレームを用いずにめっき処理によって外部電極を形成する方法が特許文献2(判決注:特許3582477)などに提案されている。一般的なめっき処理によるモールドコイルの外部電極の形成は、磁性体モールド樹脂で空芯コイル(内部導体)を埋設した成形体の表面にPd(パラジウム)による触媒化処理を行った後、無電解めっき処理を行う。磁性体モールド樹脂には鉄粉などの触媒活性を有する磁性体粉末が含まれているものもあるが、樹脂のような不導体と混練されているためその効果は顕在化し難い。そのため、成形体の表面に触媒化処理を行わずにめっき処理をしても成膜効率が悪い。成膜効率が悪いとピンホール(無めっき部)が生じやすく、さらには錆が生じるなどの問題を引き起こすこともあるので、一般的に触媒化処理が行われる。【0006】その後、成形体表面の無電解めっき層の不要な部分を高濃度の酸によるエッチングまたは機械的剥離によって除去する。そして、無電解めっき層上に数種類の電気めっき処理で電気めっき層を形成して外部電極を形成する。電気めっき処理を行うことによって密着性が良好なめっき層を形成できる。電気めっき処理は成形体の表面に導電性がな
5 いとめっき層を形成することができない。そのため、樹脂成形体などの
表面に予め無電解めっき処理によってめっき層を形成しておく必要がある。【0007】しかしながら、この方法では無電解めっき処理によって形成されためっき層の不要な部分を除去するために高濃度の酸によるエッチングや機械的剥離を行い、それらは成形体へ大きなダメージを与えることもあった。特に、磁性体モールド樹脂の磁性体粉末に鉄系金属磁性体粉末を用いた場合、pHが4以下の強酸性のエッチング液でエッチングを行うとエッチング液中に鉄系金属磁性体粉末が溶け出してしまい、成形体に深刻なダメージを与えてしまうという問題が生じてしまう。【0008】そこで、本発明は小型且つ生産性に優れ、巻線の端部と外部電極との接合信頼性が高いモールドコイルの製造方法の提供を目的とする。(ウ) 課題を解決するための手段【0009】上記の問題を解決するために、本発明のモールドコイルの製造方法は、鉄系金属磁性体粉末と樹脂とを混練した該鉄系磁性体粉末の含有率が60vol%以上の磁性体モールド樹脂を用いる。巻線からなるコイルを磁性体モールド樹脂でプラスチック成形法を用いて封止して成形体とし、成形体の表面にコイルの端部を露出させる。鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向が小さい金属イオンを含むめっき浴を用いて置換めっき処理を行って成形体の表面の一部に第1のめっき電極層を形成する。さらに、成形体から露出したコイルの端部と第1のめっき電極層の両方と電気的に接続する第2のめっき電極層を電気めっき処理を行って形成することを特徴とする。(エ) 発明の効果【0010】本発明のモールドコイルの製造方法は、鉄系金属磁性体
5 粉末と樹脂とを混練した磁性体モールド樹脂で巻線からなるコイルをプ
ラスチック成形法を用いて封止し、成形体とする。成形体の表面に巻線の端部を露出させた後、外部電極を形成する部分以外の成形体の表面に樹脂からなる保護層を形成する。鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向が小さい金属イオンを含むめっき浴を用いて置換めっき処理を行う。置換めっき処理によって、成形体の表面に露出した鉄系金属磁性体粉末はめっき浴中の金属イオンと置換反応し、成形体の表面の外部電極を形成する部分に置換めっき層が形成される。置換めっき層は、成形体の外部電極を形成する表面に導電性を付与する。その後、無電解めっき処理やアルカリ電気めっき処理を行えば、成形体の表面の外部電極を形成する部分にのみ良好な外部めっき電極が形成される。そのため、高濃度の酸によるエッチングや機械的剥離によるめっき層の除去を行う必要がなく、成形体にダメージを与えない。また、金属フレームを用いないため、巻線の端部と外部電極との接合信頼性が高く、生産性に優れたモールドコイルを得られる。【0011】磁性体モールド樹脂中の鉄系金属磁性体粉末の充填率を60Vol%以上にすると、成形体の表面には鉄系金属磁性体粉末がリッチに露出している状態となる。この状態で置換めっき処理を行えば成形体の表面は十分な導電性が付与され、無電解めっき処理を行わずとも電気めっき処理を行って、良好な電気めっき層が得られる。(オ) 発明を実施するための形態a 第1の実施例【0015】(モールド成形工程S101)圧縮成形法を用いて空芯コイルを磁性体モールド樹脂で封止し、磁性体モールド樹脂を硬化させて成形体を得る。…【0016】(サンドブラスト工程S102)成形体を成形金型か
5 ら取り出して、サンドブラストを行ってバリ取りをし、成形体の表面
に空芯コイルの端部を露出させる。本実施例では、図3に示すように成形体2の両側面に空芯コイルの端部1bを露出させた。【0017】(樹脂印刷、硬化工程S103)外部電極を形成する部分以外の成形体の表面に樹脂を印刷し、硬化させて保護層を形成する。本実施例では、図4に示すように成形体2の両端部とその周辺を除いた部分に保護層3を形成した。【0018】(置換めっき工程S104)鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向の小さい金属イオンを有するめっき浴に成形体2を浸漬させて、保護層3が形成されている部分以外の成形体2の表面に置換めっき層を形成する。本実施例では、めっき浴として硫酸銅70g/L、硫酸30g/Lからなる溶液を用い、室温にて30秒間浸漬させた。このとき、成形体の表面に露出するアモルファス系鉄粉とめっき浴中の銅イオンとの置換反応は急激に進行する。そのため、短時間の浸漬で成形体の表面に露出するアモルファス系鉄粉の表面に薄い銅めっき皮膜が形成される。これによって、その後のめっき処理の成膜効率を高めるとともに、成形体の外部電極を形成する表面に導電性が付与される。【0019】また、本実施例で用いためっき浴は酸性の溶液だが、置換めっき処理で用いるめっき浴はそれほど酸の濃度を高くする必要がない。さらに、めっき浴に長時間浸漬させる必要がないため、成形体に与えるダメージは少ない。なお、本実施例では置換めっき浴にCuイオンを有するめっき浴を用いたが、NiなどのFeよりもイオン化傾向の小さい金属イオンを有するめっき浴であれば成形体の表面に置換めっき層を形成することができる。【0020】(アルカリ中和、水洗工程S105)置換めっき処理
5 後、すぐに成形体をリン酸三ナトリウムで中和し、さらに水洗する。
置換めっき処理後は、すぐに中和しないと成形体中のアモルファス系鉄粉が置換めっき液に溶け出してしまい成形体へのダメージが大きくなってしまう。【0021】(無電解めっき工程S106)中性もしくはアルカリ性のめっき浴を用いて無電解めっき処理を行って、成形体2の表面の保護層3が形成されていない部分に無電解めっき層を形成する。…【0022】(電気めっき工程S107)強酸性ではないめっき浴を用いて電気めっき処理を行って、成形体2の表面に電気めっき層を形成し、本発明のモールドコイルの外部電極を完成させる。本実施例では、ピロリン酸銅浴(ピロリン酸80g/L、銅分30g/L、ピロリン酸カリウム300g/L、アンモニウム4mL/L、硝酸カリウム10g/L)を建浴し、小型バレルを用いて0.7Aで1時間電気めっき処理をした。続いて、アルカリ錫めっき浴(錫酸ナトリウム120g/L、金属錫53g/L、水酸化ナトリウム12g/L)を建浴し、バレルを用いて0.3Aで30分電気めっき処理を行って、図5に示すように外部電極4を形成した。【0023】成形体の表面は、置換めっきと無電解めっきによって外部電極を形成する部分には十分な導電性が付与されている。そのため電気めっき処理を行えば、成形体の表面に緻密で厚い密着性の良好なめっき層が形成される。また、電気めっき処理においては、弱酸性~アルカリ性のめっき浴を用いることができる。これは、電気めっき処理においてめっき層の形成速度が置換反応よりも上回るため、成形体の表面に深刻なダメージを与える前にめっき層を形成することができる。なお、本実施例ではCuとSnで電気めっき層を形成したが、これに限ることなく、Ni、Ti、Wなど必要に応じて適宜選択する
5 ことができる。また、めっき処理後に必要に応じて中和や洗浄などを
行っても良い。b 第2の実施例【0024】…第2の実施例は第1の実施例とは異なり、置換めっき処理後に無電解めっき処理を行わずに、電気めっき処理を行って外部電極を形成する。…【0026】(置換めっき工程S204)鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向の小さい金属イオンを有するめっき浴に成形体2を浸漬させて、保護層が形成されている部分以外の成形体の表面に置換めっき層を形成する。第1の実施例と同様に、めっき浴として硫酸銅70g/L、硫酸30g/Lからなる溶液を用い、室温にて30秒間浸漬させた。【0027】先にも述べたように、置換めっき処理では成形体の表面に露出する鉄系金属磁性体粉末の表面に薄い銅めっき皮膜が形成される。そのため、成形体の表面に露出する鉄系金属磁性体粉末の面積が大きいほど、成形体の表面に形成される置換めっき層の面積も大きくなる。そして、磁性体モールド樹脂中の鉄系金属磁性体粉末の充填率が60Vol%以上、好ましくは70Vol%以上であれば、成形体の表面に鉄系金属磁性体粉末の表面が均一且つリッチに露出した状態となる。本実施例のように磁性体モールド樹脂のアモルファス系鉄粉の充填率を60Vol%にすると、成形体の表面にはアモルファス系鉄粉の表面が十分に露出している。そのため、置換めっき処理だけで成形体の外部電極を形成する表面に十分な導電性が付与される。【0028】(アルカリ中和、水洗工程S205)第1の実施例と同様に、置換めっき処理後、すぐに成形体をリン酸三ナトリウムで中和し、さらに水洗する。置換めっき処理後は、すぐに中和しないと成
5 形体中のアモルファス系鉄粉が置換めっき液に溶け出してしまい成形
体へのダメージが大きくなってしまう。【0029】(電気めっき工程S207)強酸性ではないめっき浴を用いて電気めっき処理を行って、成形体の表面に電気めっき層を形成し、本発明のモールドコイルの外部電極を完成させる。第1の実施例と同様に、ピロリン酸銅浴(ピロリン酸80g/L、銅分30g/L、ピロリン酸カリウム300g/L、アンモニウム4mL/L、硝酸カリウム10g/L)を建浴し、小型バレルを用いて0.7Aで1時間電気めっき処理をした。続いて、アルカリ錫めっき浴(錫酸ナトリウム120g/L、金属錫53g/L、水酸化ナトリウム12g/L)を建浴し、バレルを用いて0.3Aで30分電気めっき処理を行って、外部電極を形成した。【0030】電気めっき処理によって、成形体の外部電極を形成する表面と成形体の表面から露出する空芯コイルの端部の表面に電気めっき層が形成される。これによって、空芯コイルと電気めっき層は電気的に接続した状態となる。また、成形体の外部電極を形成する表面は置換めっきによって十分な導電性が付与されており、電気めっき処理を行えば成形体の表面に緻密で厚い密着性の良好なめっき層が形成される。イ 前記アによれば、甲24特許発明の技術的意義は次のとおりである。すなわち、甲24特許発明は、モールドコイルの製造方法に関する従来技術について、無電解めっき処理によって形成されためっき層の不要な部分を除去するために高濃度の酸によるエッチングや機械的剥離を行うことで、成形体へ大きなダメージを与えるという課題があった(【0004】ないし【0007】)ところ、これを解決するため、特許請求の範囲請求項1記載の構成を採用することで、成形体の表面の外部電極を形成する部分に
5 のみ良好な外部めっき電極が形成され、高濃度の酸によるエッチングや機
械的剥離によるめっき層の除去を行う必要がなく、成形体にダメージを与えないとの効果を奏する(【0010】)。
⑵ 実施の有無について
ア 構成要件1Dの「第1のめっき電極層」の意義構成要件1Dは、「該鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向が小さい金属イオンを含むめっき浴を用いて置換めっき処理を行って該成形体の表面の一部に第1のめっき電極層を形成」することを発明特定事項とするものである。そして、「めっき」や「置換めっき」の一般的な内容(前記前提事実⑼)、一般に「電極」が導電性を有する金属等と理解されること、「めっき電極層」という文言が用いられていること等 からすれば、「第1のめっき電極層」とは、鉄系金属磁性体粉末よりイオン化傾向が小さい金属イオンを含む水溶液に成形体を浸漬して置換めっき処理を行うことによって成形体の表面の一部に形成される導電性を有するめっき層を意味するものと理解するのが自然である。このことは、本件明細書に、電気めっき処理は成形体の表面に導電性がないとめっき層を形成することができないため、樹脂成形体などの表面に予め無電解めっき処理によってめっき層を形成しておく必要がある(【0006】)と記載されていることに加えて、実施例の置換めっき工程について、①「これによって、その後のめっき処理の成膜効率を高めるとともに、成形体の外部電極を形成する表面に導電性が付与される。」(【0018】)、②「置換めっき処理だけで成形体の外部電極を形成する表面に十分な導電性が付与される。」(【0027】)、③「成形体の外部電極を形成する表面は置換めっきによって十分な導電性が付与されており、電気めっき処理を行えば成形体の表面に緻密で厚い密着性の良好なめっき層が形成される。」(【0030】)などと記載されていることによって
5 も裏付けられているということができる。
以上の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の文言等によれば、構成要件1Dの「第1のめっき電極層」は、置換めっき処理を行うことによって成形体の表面の一部に形成される導電性を有するめっき層であると解され、更に「層」という文言や上記のような「第1のめっき電極層」の技術的意義にも照らせば、一定の広がりを有するものと解するのが相当である。イ 被告製品④及び⑤におけるモールドコイルの製造方法の構成要件1D充足性(ア) 前記前提事実⑻(別紙被告方法説明書記載1及び2)のとおり、被告製品④及び⑤におけるモールドコイルの製造方法は、モールドコイルの外部電極を形成する箇所の表面(コイルのリードを含む。)に、●省略●、電解めっきを施して外部電極を形成するもの(被告製品⑤)であり、鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向が小さい金属イオンを含むめっき浴を用いた置換めっき工程は採用されていない。また、鉄系磁性体粉末の含有率が60vol%以上の磁性体モールド樹脂を用いているかは判然としない。(イ) そこで検討するに、前記前提事実⑼のとおり、電解めっきは、金属イオンを含む水溶液中に対象物を浸漬(めっき浴)させるめっき処理方法であり、水溶液中に対象物を浸漬してから電気めっきを開始するまでの間に、置換めっきの効果によって対象物の表面にめっきが析出されることがないとはいえない。しかしながら、本件明細書の実施例において、置換めっき工程では、酸性の溶液(硫酸銅70g/L、硫酸30g/Lからなる溶液)が使用されている(【0018】、【0019】、【0026】)のに対し、電気めっき工程では、アルカリ中和、水洗工程(【0020】、【0028】)を
5 経て、強酸性でない溶液(ピロリン酸銅浴(ピロリン酸80g/L、銅
分30g/L、ピロリン酸カリウム300g/L、アンモニウム4mL/L、硝酸カリウム10g/L)及びアルカリ錫めっき浴(錫酸ナトリウム120g/L、金属錫53g/L、水酸化ナトリウム12g/L))が使用され(【0022】、【0029】)、「電気めっき処理においては、弱酸性~アルカリ性のめっき浴を用いることができる。」(【0023】)と記載されているように、置換めっきと電気めっきでは、めっき処理に適する水溶液の成分やPhが異なる(乙8参照)。そうすると、電気めっきに使用される水溶液中に対象物を浸漬したからといって、置換めっきの効果が十分に生じるものと直ちにはいえないところ、被告製品④及び⑤において使用されるめっき液の構成は、少なくとも、本件明細書に記載された置換めっき工程で使用されるめっき液とは異なるものである(弁論の全趣旨)。また、前記(ア)のとおり、被告製品④及び⑤では、●省略●が置換めっきとは別の方法●省略●で実施されていることからすれば、置換めっきの効果によってめっき層が形成されていなくても、電解めっきによって外部電極を形成することに支障はないものと考えられる。以上に照らせば、被告製品④及び⑤のモールドコイルの製造方法は、置換めっきの効果によって成形体の表面の一部に導電性を有するめっき層が一定の広がりをもって形成されるものと認めるに足りないから、少なくとも構成要件1Dに対応する構成を有していると認めることはできない。(ウ) これに対し、原告は、電解めっきの前に30秒程度漬けている間に置換めっきによる電極層が形成されるから、構成要件1Dを充足すると主張するが、被告製品④及び⑤におけるモールドコイルの製造方法について、そのように認められないことは前記(イ)で認定、説示したとおり
5 であり、採用することはできない。
⑶ 以上によれば、被告製品④及び⑤におけるモールドコイルの製造方法及び
そのモールドコイルが、構成要件1D及びこれを引用する同2D、3C、4D、5B及び6Aを充足するとはいえない。また、その余の被告製品において甲24特許発明を実施していることについての的確な主張立証はない。したがって、被告又は村田製作所が、甲24特許発明を実施していることを認めることはできない。
2 争点2(本件一括譲渡における本件各特許権の譲渡対価)について
⑴ 前記前提事実、証拠(乙1、3ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、以
下の事実が認められる。ア 本件一括譲渡は、被告の完全親会社である村田製作所がグループ会社の保有する知的財産権を一元管理する目的でされたものであり、本件各特許権を含む合計●省略●の知的財産権を譲渡対象とし、譲渡対価は、第三者評価機関による免除ロイヤリティ法に基づく評価結果に基づき、43億1000万円と定められた。免除ロイヤリティ法は、インカム・アプローチの一つであり、知的財産権を保有することにより、仮に当該知的財産権を保有していない場合に第三者に支払う必要があるロイヤリティを支払わなくて済むという考え方を前提に、支払わなくて済むロイヤリティに基づいて知的財産権の価値を算出する評価方法である。イ 本件一括譲渡に係る価値評価において、被告が保有する特許権等についての第三者評価機関からの問合せに対する回答で、①実施されている特許権及び②特に重要と考える特許技術を列挙しているが、本件各特許権はいずれの回答でも挙げられなかった。ウ 被告又は村田製作所は、平成20年10月24日(本件各特許の最初の出願日)以降、本件各特許発明を実施しておらず、そのような予定もない
5 (前記1)。
⑵ そこで検討するに、本件一括譲渡は、本件各特許権を含む合計●省略●の
知的財産権を対象とするもので、その譲渡対価は免除ロイヤリティ法により評価されたものである(前記⑴ア)。そして、免除ロイヤリティ法は、知的財産権を保有していなければ支払う必要があるロイヤリティに基づくものであるから(同ア)、実際に実施される知的財産権を基礎とする評価方法といえるところ、本件各特許発明は、第三者評価機関からの問合せに対する回答に挙げられておらず(同イ)、また、実施されておらず、実施予定もない(同ウ)。そうすると、本件各特許権については、多数の知的財産権のうちの1つとして、その他の権利とともに厳密な検討を経ることなく譲渡の対象とされたものというべきであり、多数の知的財産権群を構成するものとして初めてその価値を把握され得るものであって、本件一括譲渡の譲渡対価の算定に対する特段の寄与を認めるには足りないというべきである。したがって、被告が本件各特許権の譲渡対価を得たと評価することはできない。
⑶ 原告は、被告が本件各特許権の譲渡対価は特許権1件当たり●省略●を下
らないと主張し、その根拠として、①甲24特許発明が実施されていること、
②被告の有価証券報告書(甲11)に本件各特許に関するシリーズ以外は売
上げの上昇が見込めない旨記載されていること、③被告又は村田製作所が本件各特許の手続費用を負担して移転登録手続がされ、その後も特許料を納付して本件各特許権を維持していることを主張する。しかしながら、①について、甲24特許発明が実施されていると認められないことは前記1のとおりである。また、②について、被告の有価証券報告書(甲11)に本件各特許発明の実施についての言及はなく、本件各特許権の経済的価値を裏付けるものとはいえない。③について、前記⑴の認定事実
5 に加えて、原告退職後の事実経過(乙2)等にも照らせば、被告又は村田製
作所が、本件各特許権の移転登録手続費用及び特許料を負担していることは、本件各特許権の経済的価値を表すものとは直ちに認め難く、前記認定を左右するものとはいえない。
3 争点3(本件各特許発明に係る被告実績報奨金又は相当の対価の請求権の有
無及びその額)について
⑴ 被告実績報償金について
本件一括譲渡は、被告の完全親会社である村田製作所がグループ会社の保有する知的財産権を一元管理する目的でされたグループ会社間の知的財産権の一括譲渡であり(前記2⑴ア)、グループ会社外の第三者との関係で売上げや利益を生じるものではないから、算定基準における評点を基礎付ける売上げや利益(前記前提事実⑸イ(イ)(ウ))を生じるものではなく、本件規程10.1の「第三者」に対する工業所有権の譲渡に該当するものと直ちにはいえない。この点を措くとしても、前記2のとおり、被告が、本件一括譲渡により本件各特許権の譲渡の「対価」を得たことは認められないから、この意味からも、本件規程10.1の支給事由があるということはできない。
⑵ 相当の対価について
前記1のとおり、甲24特許発明の実施は認められず、その余の本件各特許発明の実施をしていることも認められないこと(弁論の全趣旨)、前記2のとおり、本件各特許権の譲渡に際して被告が譲渡対価を得たと評価することはできないこと、ほかに被告が本件各特許発明に係る独占の利益を得たことを示す具体的な事情の主張立証もないことからすれば、被告が、「その発明により使用者等が受けるべき利益」(特許法35条5項)を得たとは認められず、原告が、本件各特許発明に係る相当の対価の請求権を有すると認めることができない。
5 ⑶ したがって、原告が、被告に対し、本件各特許発明に係る被告実績報奨金
及び相当の対価の請求権を有すると認めることはできない。
4 争点4(本件アイデアに係る被告実績報奨金又は相当の対価の請求権の有無
及びその額)について
⑴ 原告は、本件規程8.1がアイデアの使用に対する実績報奨金の支給事由
を定めるものであること、アイデアの使用について特許法35条3項の適用があることを前提に、原告が、被告に対し、本件アイデアに係る被告実績報奨金又は相当の対価の請求権を有すると主張する。
⑵ しかしながら、前記前提事実⑸アのとおり、本件規程は、発明及び考案の
創作を報奨金の支給対象とする(1.1)ものであり、この発明又は考案に基づく特許若しくは実用新案登録を受ける権利又は特許権若しくは実用新案権が被告に譲渡される(3.1)のであるから、ここにいう発明及び考案は、特許や実用新案登録の対象となる完成された技術的思想の創作(特許法2条1項、実用新案法2条1項参照)を意味することは明らかであって、そのような発明や考案に当たらないアイデアを含むものとはいえない。また、特許法35条3項が、発明の完成を前提に、当該発明に係る特許を受ける権利の承継がされた場合について、対価の支払を受ける権利を定めたものであることは、文言上明らかである。以上によれば、
(原告の主張)
は前提を欠くものであって、原告が、本件アイデアに係る被告実績報奨金及び相当の対価の請求権を有すると認めることはできない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 髙 橋 彩裁判官 西 山 芳 樹裁判官 瀧 澤 惟 子(別紙)特許目録
1 特許番号 特許5232594(甲14)
5 出願日 平成20年10月24日(特願2008-274067)
登録日 平成25年3月29日発明の名称 モールド成形体発明者 原告
2 特許番号 特許5422191(甲16)
出願日 平成20年12月12日(特願2008-316567)登録日 平成25年11月29日発明の名称 モールドコイルの製造方法発明者 原告
3 特許番号 特許5256010(甲18)
出願日 平成20年12月19日(特願2008-323400)登録日 平成25年4月26日発明の名称 モールドコイルの製造方法発明者 原告
4 特許番号 特許5329202(甲20)
出願日 平成20年12月19日(特願2008-323401)登録日 平成25年8月2日発明の名称 モールドコイルの製造方法発明者 原告
5 特許番号 特許4961441(甲22)
出願日 平成21年1月30日(特願2009-19232)登録日 平成24年3月30日発明の名称 モールドコイルの製造方法発明者 原告
6 特許番号 特許4961445(甲24)
出願日 平成21年2月13日(特願2009-30835)登録日 平成24年3月30日発明の名称 モールドコイルの製造方法およびそのモールドコイル発明者 原告(別紙)特許出願目録
1 特許出願公開番号 特開2009-94428(甲28)
5 出願日 平成19年10月12日(特願2007-266168)
発明の名称 高透磁率磁性体モールド成形材料発明者 原告
2 特許出願公開番号 特開2009-260116(甲29)
出願日 平成20年4月18日(特願2008-108794)発明の名称 モールドコイルおよびモールドコイルの製造方法発明者 原告(別紙)特許請求の範囲【請求項1】
5 鉄系金属磁性体粉末と樹脂とを混練した、該鉄系磁性体粉末の含有率が60
vol%以上の磁性体モールド樹脂を用い、巻線からなるコイルを該磁性体モールド樹脂でプラスチック成形法を用いて封止して成形体とし、該成形体の表面に該コイルの端部を露出させ、該鉄系金属磁性体粉末よりもイオン化傾向が小さい金属イオンを含むめっき浴を用いて置換めっき処理を行って該成形体の表面の一部に第1のめっき電極層を形成し、該成形体から露出した該コイルの端部と該第1 のめっき電極層の両方と電気的に接続する第2のめっき電極層を電気めっき処理を行って形成することを特徴とするモールドコイルの製造方法。【請求項2】前記置換めっき処理において、あらかじめ前記成形体の表面の所定の位置に保護層を形成し、該保護層の形成されている部分以外の該成形体の表面に前記第1 のめっき電極層を形成することを特徴とする請求項1に記載のモールドコイルの製造方法。【請求項3】前記電気めっき処理において、強酸性ではないめっき浴を用いて前記第2のめっき電極層を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモールドコイルの製造方法。【請求項4】前記置換めっき処理の後に、中性もしくはアルカリ性のめっき浴を用いた無電解めっき処理によって第3のめっき電極層を形成し、その後前記電気めっき処理をすることを特徴とする請求項1 乃至請求項3
5 に記載のモールドコイルの製造方法。
【請求項5】前記第1のめっき電極層がCuもしくはNiを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載のモールドコイルの製造方法。【請求項6】請求項1乃至請求項5に記載のモールドコイルの製造方法を用いて製造されたことを特徴とするモールドコイル。(別紙)被告方法説明書
1 被告製品④
5 (4-1)樹脂と金属磁性体粉末を混錬させた磁性体モールド樹脂でコイルを
封止したモールドコイルの製造方法である。(4-2)平角線を、●省略●巻回して、コイルを形成する。(4-3)●省略●(4-4)●省略●(4-5)これらを加熱・押圧して、エポキシ樹脂を本硬化させる。●省略●(4―6)●省略●(4-7)成形したモールドコイルをバレル研磨する。(4-8)●省略●(4-9)モールドコイルの外部電極を形成する箇所の表面(コイルのリードを含む。)に、●省略●電解めっきにより銅めっきを施し、次いで、電解めっきによりニッケルめっき、電解めっきによりスズめっきを施して、外部電極を形成する。
2 被告製品⑤
(5-1)樹脂と金属磁性体粉末を混錬させた磁性体モールド樹脂でコイルを封止したモールドコイルの製造方法である。(5-2)平角線を、●省略●巻回して、コイルを形成する。(5-3)●省略●(5-4)●省略●(5-5)金型のキャビティ内に、●省略●(5-6)キャビティを加熱するとともに、パンチで押圧して、コイルを埋設した磁性体モールド樹脂を硬化・成形する。(5-7)成形したモールドコイルをバレル研磨する。(5-8)モールドコイルの外部電極を形成する箇所の表面(コイルのリードを含む。)に、●省略●電解めっきにより銅めっきを施し、次いで、電解めっきによりニッケルめっき、電解めっきによりスズめっきを施して、外部電極を形成する。(別紙)図面目録【図3】【図4】【図5】
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