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令和8(ネ)10040特許権に基づく差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和8年9月17日
事件種別 民事
対象物 γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法
法令 特許権
特許法100条1項1回
キーワード 特許権5回
実施5回
損害賠償3回
差止2回
侵害2回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事件の概要 1 請求の要旨 本件は、発明の名称を「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」とする特 許第6778931号(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴 人が、原判決別紙目録記載2の茶を製造する同目録記載1の製造方法を被控訴 人が使用することは、本件特許権を侵害する行為であるとして、被控訴人に対 し、①特許法100条1項に基づき同製造方法の使用及び同茶の製造等の差止 め、②同条2項に基づき同茶の廃棄、③特許権侵害の不法行為による損害賠償 請求権(損害賠償の対象期間は、令和2年9月から令和5年7月20日まで) に基づき損害賠償金7975万円の一部である1000万円及びこれに対する 請求に係る不法行為後の日(訴状送達の日の翌日)である令和5年8月29日 から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事 案である。

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判決文

令和8年9月17日判決言渡

令和8年(ネ)第10040号 特許権に基づく差止等請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和5年(ワ)第70445号)

口頭弁論終結日 令和8年7月28日

判 決

控 訴 人 株式会社流通サービス

同訴訟代理人弁護士 中 野 浩 和

同訴訟代理人弁理士 坂 手 英 博

石 田 理

同補佐人弁理士 中 島 崇 晴

小 幡 義 之

宮 本 美 紀

被 控 訴 人 株 式 会 社 田 頭 茶 店

同訴訟代理人弁護士 石 下 雅 樹

江 間 布 実 子

永 野 真 理 子

益 弘 圭

主 文

1 本件控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。2 被控訴人は、原判決別紙目録記載1の製造方法を使用してはならない。3 被控訴人は、原判決別紙目録記載2の茶を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、若しくは輸出し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

5 4 被控訴人は、前項の茶を廃棄せよ。5 被控訴人は、控訴人に対し、1000万円及びこれに対する令和5年8月29日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等(略語は原判決の例による。)

1 請求の要旨本件は、発明の名称を「γ-アミノ酪酸含量の高い茶の製造方法」とする特許第6778931号(本件特許)に係る特許権(本件特許権)を有する控訴人が、原判決別紙目録記載2の茶を製造する同目録記載1の製造方法を被控訴人が使用することは、本件特許権を侵害する行為であるとして、被控訴人に対し、①特許法100条1項に基づき同製造方法の使用及び同茶の製造等の差止め、②同条2項に基づき同茶の廃棄、③特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権(損害賠償の対象期間は、令和2年9月から令和5年7月20日まで)に基づき損害賠償金7975万円の一部である1000万円及びこれに対する請求に係る不法行為後の日(訴状送達の日の翌日)である令和5年8月29日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原判決は、控訴人の請求を全部棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴を提起した。2 前提事実及び争点本件の前提事実及び争点は、原判決の「事実及び理由」第2の2及び3(2頁18行目~5頁8行目)に記載のとおりであるからこれらを引用する。3 争点に対する当事者の主張争点に対する当事者の主張は、次のとおり、原判決を補正し、争点1-1(構成要件Bの充足性)についての控訴人の当審での補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の4(5頁9行目~10頁23行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。

5 ⑴ 原判決の補正原判決の5頁22行目から6頁4行目までを削る(控訴人は、当審において、構成要件Bの「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」の解釈について、嫌気処理、好気処理の順で各処理が少なくとも各1回行われれば足りる旨の主張を撤回した。)。

⑵ 争点1-1(構成要件Bの充足性)についての控訴人の補充主張ア 原判決は、構成要件Bの「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返した後」の解釈について、少なくとも、嫌気処理の後に好気処理を行った上で、更に嫌気処理及び好気処理という一連の操作を行うことを意味すると解釈した。しかし、このような解釈は、被控訴人が原審で主張していなかったものであり、控訴人にとって不意打ちとなる不当な解釈である。また、原判決の解釈によると、構成要件Bにおける処理は、必ず好気処理で終わることとなるが、そのような解釈は、続く構成要件Cが「嫌気処理を行った前記茶葉を原料として」として、前工程が嫌気処理で終わるとすることと矛盾する。特許請求の範囲における用語の用法によると、構成要件Bの解釈は、次のとおりとなる。すなわち、「繰り返す」という用語からは、嫌気処理又は好気処理のいずれかが複数回行われることが求められる。「交互に」という用語からは、嫌気処理と好気処理が互い違いに行われることが求められる。後に続く構成要件Cの文言との関係からは、構成要件Bの工程は嫌気処理で終了することが求められる。これらの要請を全て満たすための最小限の構成は、嫌気処理、好気処理及び嫌気処理が、この順で行われるものである。したがって、構成要件Bは、嫌気処理、好気処理及び嫌気処理がこの順で行われる工程を指すものと解すべきである。なお、本件明細書の【0019】には、嫌気処理及び好気処理が各2回

5 行われた旨が記載されているが、2回目の好気処理が記載されているのは、単に技術を説明するためにすぎず、実際には茶葉が大気に晒されることにより当然に満たされるものであるから、本件発明の発明特定事項としては、2回目の好気処理は加えられていない。イ 原判決は、構成要件Bの「好気処理」について、技術常識を加味するなどし、静置時間を10分から3時間までの間として行うものを意味すると解釈した。しかし、このような解釈は、被控訴人が原審で主張していなかったものであり、控訴人にとって不意打ちとなる不当な解釈である。特許請求の範囲の記載には、「好気処理」の時間について何らの限定はない。また、本件明細書には、例えば【0017】に、実施例として「1時間程度、静置する。」との記載があるが、あくまでも実施例の記載であって、好気処理の時間を特定の数値範囲に限定する趣旨の記載ではない。本件発明は、ギャバ臭味のない茶を製造することにあるところ、原判決が技術常識として加味した好ましい好気処理の時間に関する知見は、ギャバの生成量に関するものであって、本件発明の目的に直接関係するものではないから、当然にこれが本件発明にも適用されるというものではない。ウ 原判決は、構成要件Bの嫌気処理及び好気処理は、構成要件Cの「碾茶又は抹茶又は玉露に製造する」工程(碾茶等製造工程)の前に行われる工程であると限定的に解釈した。しかし、構成要件Cには、「抹茶に製造する」工程が含まれるところ、抹茶の原料となる碾茶の荒茶工程には、蒸熱以降の工程も含まれているから、構成要件Bの嫌気処理及び好気処理が、茶葉を蒸す作業より前の段階で行われるものに限るとの解釈は誤っている。そして、被告方法における「抹茶に製造する」工程の前工程には、荒茶製造工程として、「窒素ガス充填」という工程が含まれており、これは2回目の嫌気処理に当たるとい

5 えるから、被告方法は、構成要件Bを充足するというべきである。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も、控訴人の請求には理由がないものと判断する。その理由は、次

のとおり、原判決を補正し、控訴人の当審における補充主張に対する判断を示すほかは、原判決の「事実及び理由」第3(10頁24行目~22頁17行目)に記載のとおりであるからこれを引用する。

⑴ 原判決の補正

ア 17頁8行目から15行目までを削る。イ 17頁21行目から18頁10行目までを次のとおり改める。「(イ) これに対し、控訴人は、構成要件Bにおいて予定された処理は、嫌気処理2回と好気処理1回である旨主張する。しかし、控訴人の上記主張は、上記(ア)で説示したとおり、構成要件Bが嫌気処理及び好気処理という一連の操作を繰り返すこととしていることに反するものであり、採用することができない。」ウ 22頁10行目の「、あるいは嫌気処理と好気処理が1回ずつ」を削る。

⑵ 控訴人の補充主張に対する判断

ア(ア) 控訴人は、構成要件Bの「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返」す処理は、嫌気処理、好気処理及び嫌気処理が、この順で行われる工程を指すものと解釈されるべき旨主張する。しかし、補正の上引用する原判決の「事実及び理由」第3の1⑵ア(ア)(16頁1行目~17頁20行目)のとおり、特許請求の範囲の文言の記載に着目すると、「繰り返」されるべき対象は「操作」であり、その操作とは「嫌気処理した後、好気処理する操作」であると読むのが自然であるから、構成要件Bは、嫌気処理及び好気処理をした後、更に引き続いて嫌気処理及び好気処理(必要に応じて当該操作を繰り返す)を行うことを意味するものと解釈される。

5 また、本件明細書の記載をみても、嫌気処理及び好気処理がそれぞれ

2回行われた実施例が記載され、これを受けた【0020】では、「上記実施例においては、…嫌気と好気を繰り返した」としつつ、「本願発明にあっては、繰り返さなくても、少なくとも、茶葉(生葉)を嫌気的な環境下で処理した後、好気的な環境下で処理すれば良い。」と記載されている。すなわち、「繰り返す場合」と「繰り返さない場合」があり得、実施例に記載されているのは「繰り返す場合」である旨が説明され、その上で、構成要件Bには「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返し」と記載されているのである。そうすると、特許請求の範囲の構成要件Bの記載により特定されている工程は、本件明細書において記載されているもののうち、「繰り返」す工程、すなわち、嫌気処理後に好気処理をした後、更に嫌気処理及び好気処理を行う工程を指しているものと解するほかはない。(イ) これに対し、控訴人は、上記解釈について、構成要件Bに続く構成要件Cが「嫌気処理を行った前記茶葉を原料として」とし、その前工程が嫌気処理で終わる旨を規定していることと矛盾する旨主張する。しかし、構成要件Cは、単に「嫌気処理を行った前記茶葉を」として、構成要件Cにおける工程の対象となる茶葉が、嫌気処理を行ったものであることを特定するにとどまり、必ずしも前工程が嫌気処理で終わることを求めるものとは理解できない。控訴人は、「繰り返す」という用語からは、嫌気処理又は好気処理のいずれかが複数回行われることが求められる旨主張する。しかし、前記(ア)のとおり、構成要件Bにおいて「繰り返」されるべき対象は「操作」であって、その操作とは「嫌気処理した後、好気処理する操作」と読むのが自然であるから、嫌気処理又は好気処理のいずれかが複数回行われれば足りる旨の解釈を採用することはできない。

5 控訴人は、上記解釈について、原審で被控訴人が主張していない解釈

であり、控訴人にとって不意打ちとなる不当な解釈である旨主張する。しかし、特許発明の技術的範囲の解釈において、裁判所は、必ずしも当事者の主張には拘束されないと解すべきところ、被控訴人は、原審において「「嫌気処理」と「好気処理」を1回ずつ行っただけでは、…「繰り返した」には該当しない」(原審被告準備書面⑷2頁)などと主張して、構成要件Bの充足性を争っていたのであるから、上記のとおり構成要件Bを解釈して被告方法がこれを充足しないとすることが不当であるとはいえない。イ 控訴人は、構成要件Bの「好気処理」について、特許請求の範囲の記載には何らの限定がないこと等を理由として、静置時間を10分から3時間までの間として行うものを意味するなどと限定して解釈することは不当である旨主張する。しかし、特許請求の範囲の記載において、「好気処理」の時間について限定がないことは控訴人の主張するとおりであるが、そうであるからこそ、「好気処理」といい得るだけの実質を備えた処理の内容を、本件明細書の記載や技術常識から解釈することを要するのである。本件においては、本件明細書に記載された好気処理は、いずれも1時間とされている上に(【0014】、【0017】、【0019】)、本件明細書において先行技術文献として掲記されている甲6-1においても、「通常、好気処理は10分~3時間程度行えばよい。」などと記載されているのである。そうすると、これらの記載を考慮して、本件発明の技術的範囲の解釈として、「好気処理」といい得るだけの実質を備えた処理は静置時間を10分から3時間までの間として行うものを指すと解釈することは、不当であるとはいえない。控訴人は、上記解釈についても、原審で被控訴人が主張していない解釈

5 であり、控訴人にとって不意打ちとなる不当な解釈である旨主張する。し

かし、前記のとおり、裁判所は、特許発明の技術的範囲の解釈において、必ずしも当事者の主張には拘束されないと解すべきである上、本件においては、被控訴人は、原審において、公知技術を複数挙げた上で、「「好気処理」が、茶葉を当該容器に入れたままで、かつ容器を開封して酸素が存在する状態にした上で一定時間静置する処理であることを意味する」と主張しているから(原審被告準備書面⑻12~13頁)、当事者が主張していない解釈を原判決が採用したということもできない。ウ 控訴人は、構成要件Cに「抹茶に製造する」工程が含まれること等を理由として、構成要件Bにおける嫌気処理及び好気処理は、茶葉を蒸す作業よりも前の段階で行われるものに限られない旨主張する。しかし、本件明細書等には、嫌気処理及び好気処理を行った後、「通常の茶の製造、蒸煮、…」、「通常の玉露の加工(蒸し→粗揉→中揉→精揉→乾燥)を行った。」、「通常の碾茶の加工(蒸し→乾燥)を行った。」(いずれも【0019】)として、茶葉を蒸した後に嫌気処理又は好気処理を行う態様は開示されておらず、これによる効果も記載されていないほか、抹茶を製造する場合には、上記と異なる工程を採用する旨なども記載されていない。そうすると、構成要件Bにおける「嫌気処理した後、好気処理する操作を交互に繰り返」す工程は、これらの処理がされた茶葉を蒸す前に行われるものを指すと合理的に解釈できるのであって、控訴人の主張は採用することができない。エ 以上によると、本件発明においては、蒸す前の茶葉について、嫌気処理及び好気処理の操作に引き続いて更に嫌気処理及び好気処理が行われることが求められており、また、ここにいう「好気処理」は、静置時間を10分から3時間までの間として行うものをいうと解釈される。

5 そして、補正の上引用する原判決の「事実及び理由」の第3の1⑶(1

9頁19行目~22頁6行目)のとおり、被告方法においては、1回目の嫌気処理が施され8時間静置された茶葉が、その後開封されて大気に晒されるものの、早いもので開封から5分以内に次の工程(蒸熱)に移行するというのであるから、被告方法においては、2回目の「嫌気処理」に相当する処理があるとも、1回目の「好気処理」に相当する処理があるとも認められない。したがって、被告方法は、構成要件Bを充足しない。

2 結論

以上のとおり、控訴人の請求には理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴には理由がない。よって、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官増 田 稔裁判官頼 晋 一裁判官天 野 研 司

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