平成26(ネ)10094著作権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成27年2月25日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
控訴人X 被控訴人Y
株式会社日本文芸社
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法令 |
著作権
不正競争防止法2条1項2号1回 不正競争防止法2条1項1号1回
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キーワード |
侵害3回 差止3回 損害賠償1回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,控訴人が,被控訴人Y(以下「被控訴人Y」という。)が著作し,被
控訴人日本文芸社(以下「被控訴人会社」という。)が出版する原判決別紙被告書籍
目録1記載の書籍(題号「1日1分から 1本のバンドですっきりスリム 巻くだ
けでやせる!」。以下「被控訴人書籍1」という。)及び同目録2記載の書籍(題号
「腰痛・肩こり・ひざ痛 巻くだけで痛みをとる!」。以下「被控訴人書籍2」とい
い,被控訴人書籍1と合わせて「被控訴人書籍」という。)の発行は,控訴人の著作
した原判決別紙原告著作物目録記載の書籍(題号「バンド1本でやせる!巻くだけ
ダイエット」。以下「控訴人書籍」という。)の著作権(複製権,翻案権)及び著作
者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害し,又は不正競争防止法2条1項1
号若しくは2号の不正競争に当たると主張して,被控訴人らに対し,①控訴人書籍
に係る複製権,翻案権,同一性保持権又は氏名表示権(著作権法21条,27条,
20条1項,19条1項,112条1項)に基づき,被控訴人書籍の複製及び頒布
の差止め,②不正競争防止法2条1項1号,2号,3条1項に基づき,被控訴人書
籍の製造,販売,販売のための展示の差止め,③著作権法112条2項又は不正競
争防止法3条2項に基づき,被控訴人書籍の廃棄,④民法709条,719条,著 |
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判決文
平成27年2月25日判決言渡
平成26年(ネ)第10094号著作権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成25年(ワ)第28859号)
口頭弁論終結日 平成27年1月14日
判 決
控 訴 人 X
訴 訟 代 理 人 弁 護 士 勝 部 環 震
被 控 訴 人 Y
被 控 訴 人 株式会社日本文芸社
上記両名訴訟代理人弁護士 渡 辺 春 己
同 原 田 伸
同訴訟復代理人弁護士 武 藤 行 輝
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,原判決別紙被告書籍目録1及び2記載の書籍を複製し,頒布
してはならない。
3 被控訴人らは,原判決別紙被告書籍目録1及び2記載の書籍を製造し,販売
し又は販売のために展示してはならない。
4 被控訴人らは,原判決別紙被告書籍目録1及び2記載の書籍を廃棄せよ。
5 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して4546万8122円及びこれに対
する平成22年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,控訴人が,被控訴人Y(以下「被控訴人Y」という。)が著作し,被
控訴人日本文芸社(以下「被控訴人会社」という。)が出版する原判決別紙被告書籍
目録1記載の書籍(題号「1日1分から 1本のバンドですっきりスリム 巻くだ
けでやせる!」。以下「被控訴人書籍1」という。)及び同目録2記載の書籍(題号
「腰痛・肩こり・ひざ痛 巻くだけで痛みをとる!」。以下「被控訴人書籍2」とい
い,被控訴人書籍1と合わせて「被控訴人書籍」という。)の発行は,控訴人の著作
した原判決別紙原告著作物目録記載の書籍(題号「バンド1本でやせる!巻くだけ
ダイエット」。以下「控訴人書籍」という。)の著作権(複製権,翻案権)及び著作
者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害し,又は不正競争防止法2条1項1
号若しくは2号の不正競争に当たると主張して,被控訴人らに対し,①控訴人書籍
に係る複製権,翻案権,同一性保持権又は氏名表示権(著作権法21条,27条,
20条1項,19条1項,112条1項)に基づき,被控訴人書籍の複製及び頒布
の差止め,②不正競争防止法2条1項1号,2号,3条1項に基づき,被控訴人書
籍の製造,販売,販売のための展示の差止め,③著作権法112条2項又は不正競
争防止法3条2項に基づき,被控訴人書籍の廃棄,④民法709条,719条,著
作権法114条1項,不正競争防止法4条,5条1項に基づき,損害賠償金454
6万8122円及びこれに対する不法行為開始後の日である平成22年4月1日か
ら支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を,それぞれ
求める事案である。
原審は,①著作権及び著作者人格権に基づく請求については,控訴人書籍と被控
訴人書籍は,表現上の創作性がある部分において共通しているとはいえないとして
侵害を認めず,②不正競争防止法に基づく請求については,「巻くだけダイエット」
という表示及び折り畳んだバンドを添付するという控訴人書籍の「形態」が控訴人
の商品等表示であるとは認められず,控訴人書籍の表紙の画像も,控訴人を示す商
品等表示として著名であったとは認められない上,被控訴人書籍が同一又は類似の
商品等表示を使用したものともいえないとして,控訴人の請求を全部棄却した。原
判決を不服として,控訴人が本件控訴をした。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」
第2の2及び3並びに第3の1から4まで記載のとおりであるから,これを引用す
る(以下,原判決の引用中「原告」とあるのは「控訴人」と,
「被告」とあるのは「被
控訴人」と,それぞれ読み替える。。
)
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は,次のとおり原判決を補正して,当審における当事者の主張に対する判断を付加
するほかは,原判決の「事実及び理由」の第4の1ないし2記載のとおりであるか
ら,これを引用する。
(原判決の補正)
(1) 原判決22頁17行目の末尾に,行を改めて,次のとおり加える。
「控訴人は,控訴人書籍の表紙画像と被控訴人書籍1の表紙画像とを対比すると,
上記(2)イで適示した相違点①ないし③は表紙画像の本質的な特徴に関わるもので
はなく,各表紙画像は,むしろ,
「スリムアップされた女性の裸の後背部をクローズ
アップしている点」及び「同系色のバンドを裸の後背部に巻き付けている」という
点で酷似しており,これらと上記(2)イで適示された①ないし④の共通点を併せ考え
れば,両画像は表現上の創作性のある部分が共通すると主張する。
しかし,
「スリムアップされた女性の裸の後背部をクローズアップしている」とい
う点が共通しているといっても,原判決別紙対比表No.1のとおり,控訴人書籍
では,女性が真後ろを向いた状態で後背部が写っているのに対し,被控訴人書籍1
では,女性は左肩を撮影者側に向けて体をねじり,斜めになった状態の後背部が写
っているのであり,具体的な表現内容は異なるし,
「同系色のバンドを裸の後背部に
巻き付けている」という点も,前記のとおり,控訴人書籍では,バンドを女性モデ
ルの左上方向から右下方向に向けて巻き付け,さらに腰部でX字状に巻き付けてい
るのに対し,被控訴人書籍1では,女性モデルの右上方向から左下方向に向かって
巻き付け,腰部には巻き付けていないのであり,具体的な表現方法はまったく異な
っている。控訴人が上記において酷似していると主張する内容は,控訴人書籍の表
紙画像のうち具体的な表現それ自体ではないアイデアの部分であり,これらをもっ
て,表現上の創作性がある部分で共通しているとはいえないから,控訴人の主張に
よっても,前記認定判断は左右されない。」
(2) 原判決23頁7行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「控訴人は,被控訴人書籍2の表紙画像も,女性がバンドを体に巻き付けている
という独特のポージングをとっているという控訴人書籍の表紙画像の本質的特徴を
感得させると主張する。しかし,前記のとおり,控訴人書籍の表紙画像の女性モデ
ルは真後ろを向いた状態で,その後背部が写っているのに対し,被控訴人書籍2の
表紙画像の女性モデルは前を向いた状態で,その体の正面が写っている上,バンド
の体への巻き方も異なっており,具体的な表現内容において大きく相違するから,
両画像が表現上の創作性がある部分で共通しているとは認められず,控訴人の主張
を採用することはできない。」
(3) 原判決23頁17行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「控訴人は,例えば,控訴人書籍の「たすきがけ巻き」についての記述は,その
アイデア自体画期的なだけではなく,
「バンドを8の字にして」「両腕を上げて,バ
,
ンザイします」などの説明表現がその言葉の選択において個性的であり,画像も独
特であると主張する。しかし,バンドを一定の巻き方で巻くということ自体は,控
訴人も自認するとおりアイデア(思想)であるから,著作権法上の保護の対象とな
るものではないし,控訴人書籍の具体的な記述をみても(原判決別紙対比表No.
3)「バンドを8の字にして,両手首にかけます」「両腕を上げて,バンザイしま
, ,
す」という説明表現は,説明対象となる一連の動作を表現するための表現としては,
ごくありふれており,創作性がある表現とはいえない。また,同記述に付された画
像も,モデルが両手首にバンドを8の字状にかけたり,その手を頭上に挙げている
ポーズを撮影したもので,当該巻き方を表現するためのポーズとしてはごくありふ
れたものであり,ポーズ自体が創作性のある表現とはいえない。したがって,控訴
人の主張は理由がない。」
(4) 原判決25頁24行目冒頭から同27頁5行目末尾までを次のとおり改め
る。
「上記認定の控訴人書籍の販売数や,控訴人書籍がテレビ番組等で取り上げられ
たこと,さらには控訴人書籍がそもそもダイエットの方法を説明した内容の本であ
ることからすれば,
「巻くだけダイエット」の表示は,控訴人書籍の題号として,そ
の需要者に広く認識されていたのみならず,カイロプラクターとしての控訴人が提
唱している,バンドを「巻くだけ」のダイエット方法自体をも表示するものとして,
その需要者に広く知られていたものと認めることができる。
もっとも,
「巻くだけダイエット」の語は,
「巻くだけ」と「ダイエット」という,
バンドを使用したダイエット方法に関する分野においてはごく普通のありふれた用
語を組み合わせただけのものにすぎず,控訴人自身,自己が提唱するダイエット法
を「巻くだけ」の語のみで紹介したことや,同ダイエット法の名称自体を指すもの
として「巻くだけ」の語のみで宣伝,広告されていたことを認めるに足りる証拠は
ないことからすれば,この二つの普通の用語を組み合わせて初めて控訴人が提唱す
るダイエット方法であるとの自他識別機能を有するものになるといわざるを得ず,
「巻くだけ」と「ダイエット」のそれぞれ単独の用語では,自他識別機能を有する
ものとまでいうことはできない。
ウ そして,被控訴人らは,被控訴人書籍の題号の一部として,
「巻くだけでやせ
る!」(被控訴人書籍1)「巻くだけで痛みをとる!」
, (被控訴人書籍2)という表
示を使用しているものである。前記のとおり,書籍の題号は,普通は,その書籍の
内容を表示するものとして用いられるもので,需要者も,普通の場合は,書籍の題
号を,その書籍の内容を表示するものとして認識し,出所の識別表示としては認識
しないものと解される。また,被控訴人書籍の題号が,書籍の内容を表示するもの
以外のものとして使用されたことや,需要者が,これを書籍の内容を表示するもの
としてだけではなく,被控訴人Yの業務に係る商品又は営業であると認識していた
ことを裏付ける証拠はないから,被控訴人らが,これらの表示を,被控訴人Yの商
品等表示として使用していたものとは認められない。したがって,この点からすれ
ば,被控訴人書籍の題号が不正競争防止法2条1項2号に該当するとの主張は理由
がない。
エ また,控訴人が控訴人書籍において使用した題号は,「巻くだけダイエット」
であり,
「巻くだけ」と「ダイエット」の二つの普通の用語を組み合わせて初めて控
訴人が提唱するダイエット方法であるとの自他識別機能を有するものになることは
前記説示のとおりであるから,
「巻くだけ」の部分をもって自他識別機能を持った要
部であると認めることはできない。したがって,被控訴人らがその書籍に使用して
いる題号である「巻くだけでやせる!」「巻くだけで痛みをとる!」が,控訴人の
,
「巻くだけダイエット」と類似する表示であるともいえない。」
(5) 原判決27頁8行目冒頭から同頁9行目の「認められないし」までを,「上
記(1)のとおり,被控訴人らは,被控訴人書籍の題号の一部として,「巻くだけでや
せる!」「巻くだけで痛みをとる!」を使用しているだけで,これを出所の識別表
,
示としては使用していないのであり,また」に改める。
(6) 原判決28頁13行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「控訴人は,乙2書籍によってもゴムバンドが添付された書籍形態は需要者にそ
れほど認知されていなかったし,控訴人書籍は,
「巻くだけ」で減量・痩身効果が得
られるバンドを付録とするという書籍の商品形態を初めて示した点で画期的だった
のであり,特別顕著性があり,控訴人書籍の販売実績からすれば,控訴人書籍の形
態も特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていたと主張する。しか
し,控訴人書籍の販売実績が大きいものであり,控訴人書籍にはバンドが付録とし
て添付されていることが広く知られているとしても,一般に書籍に物品等の付録を
添付することはありふれた形態にすぎないというべきであり,そのバンドの具体的
な添付の形態自体が,需要者に控訴人の商品又は営業を表示するものとしての認識
されていたことを認めるに足りる証拠はなく,控訴人の主張は採用することができ
ない。」
(7) 原判決29頁8行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「控訴人は,控訴人書籍の販売実績からすれば,控訴人書籍の表紙画像も広く一
般需要者に知られるようになったのであり,控訴人を表示するものとして周知され
ており,控訴人の表紙画像と被控訴人書籍1は優に共通性が認められるから,被控
訴人書籍1は控訴人の商品等表示と同一又は類似した商品等表示を使用したと評価
すべきであると主張する。しかし,控訴人書籍の表紙画像と被控訴人書籍1の表紙
画像とは具体的な表現内容において異なることは前記判示のとおりであり,被控訴
人書籍1が控訴人書籍の表紙画像と同一又は類似の商品等表示を使用としたとは認
められない。したがって,控訴人の主張は採用することができない。」
2 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求は
いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 設 樂 一
裁判官 大 寄 麻 代
裁判官 平 田 晃 史
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