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平成26(ネ)10086特許権侵害差止等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成27年2月18日
事件種別 民事
当事者 控訴人X 株式会社テクノアオヤマ
被控訴人セキ工業株式会社
対象物 プロジェクションナットの供給方法とその装置
法令 特許権
特許法100条1項1回
キーワード 特許権5回
侵害5回
差止2回
許諾1回
実施1回
主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事件の概要 1 本件は, 発明の名称を「プロジェクションナットの供給方法とその装置」 とする特許権(特許番号第3309245号)を有する控訴人Xが,被控訴人 による原判決別紙「被告物件目録」記載の製品の製造販売等が上記特許権の侵 害に当たると主張して,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づく上記製 品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,不当利得に基づき,被 控訴人が上記製品の製造販売により得た利得1680万円及びこれに対する請 求の後の日(訴状送達日の翌日)である平成24年10月17日から支払済み まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め, 控訴人株式 会社テクノアオヤマが,控訴人Xから上記特許権の独占的通常実施権の許諾を 受けたと主張して,被控訴人に対し,特許権侵害(均等侵害)の不法行為(民 法709条,特許法102条2項類推適用)に基づき,被控訴人が上記製品の 製造,販売をしたことによる損害金と弁護士費用の合計4750万円及びこれ に対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である平成24年10月17 日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた 事案である。

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判決文

平成27年2月18日判決言渡
平成26年(ネ)第10086号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成24年(ワ)第10746号)
口頭弁論終結日 平成26年12月9日
判 決
控 訴 人 X
控 訴 人 株式会社テクノアオヤマ
上記2名訴訟代理人弁護士 松 本 司
同 田 上 洋 平
同 大 江 哲 平
被 控 訴 人 セ キ 工 業 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 北 山 元 章
同 植 松 祐 二
同 清 水 扶 美
同 大 澤 久 志
訴訟代理人弁理士 前 田 弘
同 竹 内 宏
主 文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人X
原判決中,控訴人X敗訴部分を取り消す。
被控訴人は,原判決別紙「被告物件目録」記載の物件を製造し,販売し又
は販売の申出をしてはならない。
被控訴人は,前項の物件を廃棄せよ。
被控訴人は,控訴人Xに対し,1680万円及びこれに対する平成24年
10月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 控訴人株式会社テクノアオヤマ
原判決中,控訴人株式会社テクノアオヤマ敗訴部分を取り消す。
被控訴人は,控訴人株式会社テクノアオヤマに対し,4750万円及びこ
れに対する平成24年10月17日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は, 発明の名称を「プロジェクションナットの供給方法とその装置」
とする特許権(特許番号第3309245号)を有する控訴人Xが,被控訴人
による原判決別紙「被告物件目録」記載の製品の製造販売等が上記特許権の侵
害に当たると主張して,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づく上記製
品の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めるとともに,不当利得に基づき,被
控訴人が上記製品の製造販売により得た利得1680万円及びこれに対する請
求の後の日(訴状送達日の翌日)である平成24年10月17日から支払済み
まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め, 控訴人株式
会社テクノアオヤマが,控訴人Xから上記特許権の独占的通常実施権の許諾を
受けたと主張して,被控訴人に対し,特許権侵害(均等侵害)の不法行為(民
法709条,特許法102条2項類推適用)に基づき,被控訴人が上記製品の
製造,販売をしたことによる損害金と弁護士費用の合計4750万円及びこれ
に対する不法行為の後の日(訴状送達日の翌日)である平成24年10月17
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた
事案である。
原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したので,控訴人らがそれぞれ控訴し
た。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり原判決を補正
するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1及び3並びに第3記載のとお
りであるから,これを引用する。
原判決7頁16行目の「上面に当たること」を「上面か,ねじ孔の角部に
接触すること」と改める。
原判決7頁19行目の「分かる。」の次に,「ガイドロッドの先端部がナ
ットの上面かねじ孔の角部に当たるということは,ガイドロッドの先端部が
ナットのねじ孔を貫通しないことを意味しているから,この場合に「串刺し
作用」が起こらないことは当然である。そうすると,上記②は独立して考慮
の対象とする必要がない。」を加える。
原判決7頁24行目の「ガイドロッド」から同頁26行目の「供給されな
くなること」までを「ガイドロッドの先端部がナットの上面かねじ孔の角部
に接触し,その結果,ナットが目的箇所へ供給されなくなる現象」と改める。
原判決7頁26行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 仮に被控訴人製品にロック状態(正規寸法よりも小さいプロジェクショ
ンナットが,ヒンジカバーとジェットピンで挟まれ,停止したままの状態)
が生じるとしても,被控訴人製品においては,正規寸法よりも小さいナッ
トがストッパ面に一時係止された場合に,ガイドロッドの先端部がナット
の上面又はねじ孔の角部に当たり,串刺し作用が生じないという点までは,
本件特許発明と全く同じ動作をする。被控訴人製品にヒンジカバーが存在
しなければ,正規寸法より小さいプロジェクションナットは「ジェットピ
ンの先端部がナットの上面かねじ孔の角部に接触し」,「当該ナットをは
ねて,空中を移動させて落下させる」こととなるのであって,ロック状態
は,被控訴人製品にヒンジカバーが設けられていることによって生じてい
るにすぎない。そして,本件特許発明の構成要件にヒンジカバーは含まれ
ない以上,被控訴人製品におけるロック状態とは,本件特許発明との関係
においては単にヒンジカバーを設けたことから生じる付加の構成にすぎ
ず,ロック状態が生じることが本件特許発明の構成要件充足性を否定する
理由とはなり得ない。」
原判決8頁11行目の「被告製品」を「平成12年製品」と改める。
原判決10頁2行目冒頭から5行目末尾までを次のとおり改める。
「また,平成24年製品及び平成15年製品においてロック状態が生じるの
が,被控訴人が主張するようにジェットピンのフランジ部分の形状が直角で
あることによるものであるとしても,以下のとおり,本来の被控訴人製品の
ジェットピンのフランジ部分は直角ではなく,なだらかなテーパー形状であ
る。
すなわち,ジェットピンは消耗品であるほか,ロッドが曲がった場合には,
供給ユニットごと交換することも推奨されているから,平成24年製品や平
成15年製品のそれらは交換されている疑いがある。しかも,平成24年製
品は事実実験(乙2の1)のために準備されたものであり,被控訴人が現実
に顧客に販売している製品と同一であるかも全く明らかではない。さらに,
平成11年に製造されたNUT FEEDER(製造番号M6-98,型式
NS-ARF)についても,単にジェットピンの写真(乙33の1)のみが
提出されているにすぎず,上記NUT FEEDER(製造番号M6-98,
型式NS-ARF)の本体銘板(乙33の2)との同一性も,ジェットピン
交換の有無についても全く明らかではない。被控訴人製品の取扱説明書(甲
7,乙1)に掲載されたジェットピンの図においても,フランジ部分の角が
なだらかになっているものがある。
以上によれば,平成24年製品及び平成15年製品についての実験結果か
ら,被控訴人製品の構成を認定することはできず,平成24年製品及び平成
15年製品についての実験結果においてロック状態が生じることは,被控訴
人製品一般においてロック状態を生じることを意味しない。」
原判決10頁5行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「ウ 予備的主張
仮に,平成24年製品及び平成15年製品のいずれにおいてもロック
状態が生じるものであり,かつ,本件発明の構成要件Eにおける「弾き
飛ばす」の意義が「供給ロッドのガイドロッドが,その進出時に,スト
ッパ面に当たって所定位置に停止した正規寸法よりも小さいプロジェク
ションナットのねじ孔内へ串刺し状に貫通せずに,ガイドロッドの先端
部を当該ナットの上面やねじ孔の角部に当てて,当該ナットをはねて,
空中を移動させて落下させることによって,当該ナットを排除するとい
う動きを意味する」としても,上記2製品の動作は,被控訴人がマツダ
株式会社(以下「マツダ」という。)の正規の規格品と主張しているM
6ナットを正規寸法とし,M5ナットを正規寸法より小さいナットとす
るという特定の条件下での動作にすぎない。
そして,被控訴人製品の正しい構成は平成12年製品及び平成17年
製品の構成であるから,被控訴人がマツダの規格品と主張するM6ナッ
トを正規寸法とする場合のマツダの規格品のM5が混入した場合を除い
ては,被控訴人製品が,本件発明の技術的範囲(均等侵害)に属するこ
とは明らかである。」
原判決12頁16行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 なお,控訴人らは,被控訴人製品におけるロック状態が,本件特許発明
との関係においては単にヒンジカバーを設けたことから生じる付加の構成
にすぎず,ロック状態が生じることが本件特許発明の構成要件充足性を否
定する理由とはなり得ない旨主張する。
上記控訴人らの主張が,「ロック状態」が「弾き飛ばす」に含まれるこ
とを前提とするのであれば,上記のとおりその前提は誤っているため失当
である。
仮に,「ロック状態」が「弾き飛ばす」に含まれないことを前提とする
場合でも,そもそも,被控訴人製品では,現に,ヒンジカバーの「先端ブ
ロックまできたナットを落とさないようにする壁の役割」により,最も先
端に位置するナットの落下が積極的に食い止められており,これにより本
件特許発明とは正反対の効果が生じているのであるから,ヒンジカバーは
現に存在する極めて重要な構成であって,単なる付加的構成と評価される
ものでもない。」
原判決13頁13行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「 被控訴人製品においてロック状態が生じる要点は,次のプロジェクショ
ンナットがジェットピンの直角のフランジ部分に引っ掛かることにある。」
原判決13頁19行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「オ 予備的主張について
平成12年製品及び平成17年製品は,いずれも製造当時と同じ構成
とは認められない。また,マツダの規格品のM6ナットを正規寸法とす
る被控訴人製品を除く被控訴人製品であれば「弾き飛ばす」現象が生じ
ることについての立証もない。
また,控訴人らの主張は,被控訴人製品が,正規寸法とするナットの
選定によっては「弾き飛ばし」をしないことを前提とするものであるが,
このような製品は,正規寸法より小さいナットを確実に弾き飛ばすこと
に本質的特徴があるはずの本件特許発明とは本質的部分において相違が
あるから,もはや本件特許発明の技術的範囲には属しないと解するほか
ない。」
第3 当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人製品は,本件特許発明の技術的範囲に属せず,控訴人
らの請求にはいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりで
ある。
1 「弾き飛ばす」の意義
原判決「事実及び理由」第4の1記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決33頁15行目末尾に,改行の上,次のとおり加える。
「なお,控訴人らは,仮に被控訴人製品にロック状態が生じるとしても,当該
現象は被控訴人製品にヒンジカバーが設けられていることによって生じている
にすぎず,被控訴人製品にヒンジカバーが存在しなければ,正規寸法より小さ
いプロジェクションナットは「ジェットピンの先端部がナットの上面かねじ孔
の角部に接触し」,「当該ナットをはねて,空中を移動させて落下させる」こ
ととなる ア),上
記主張は,本件特許発明の構成要件Eにおける「弾き飛ばすガイドロッド」を
備えるというためには,ジェットピンの先端部がナットの上面かねじ孔の角部
に接触し,当該ナットをはねて,空中を移動させて落下させ得る構成を備えて
いれば足りるのであって,構成要件Eは,上記作用を打ち消すヒンジカバーが
設けられているためにロック状態が生じる構成をも含む旨の主張であるとも解
し得る。
しかし,
すと,構成要件Eにおける「弾き飛ばすガイドロッド」の要件を充足するとい
うためには,上記説示のとおりにガイドロッドにより正規寸法よりも小さいプ
ロジェクションナットが弾き飛ばされて排除される効果を現実に奏するガイド
ロッドを備えている必要があるものと解するべきであり,そのような効果を奏
しない場合には,構成要件Eの「弾き飛ばすガイドロッド」を備えるものとい
うことはできない。
よって,控訴人らの上記主張は採用することができない。」
2 被控訴人製品の構成及び構成要件充足性
控訴人らは,平成12年製品と平成17年製品が被控訴人製品であるとして,
その構成要件充足性を主張する。これに対し,被控訴人は,平成24年製品と
平成15年製品が被控訴人製品である(これらの製品は,正規寸法より小さい
プロジェクションナットを弾き飛ばすことをせず,ロック状態を生じるので,
前記1説示の点に照らすと,構成要件Eを充足しない。)として,その構成要
件充足性を争う。
いずれの製品も,被控訴人が製造し,販売したものであり,型式も被控訴人
製品と同じであるところ,いずれの製品が被控訴人製品の具体的構成を示すも
のであるかについて以下検討する。
平成12年製品について
以下のとおり,平成12年製品は,正規寸法よりも小さいプロジェクショ
ンナットを弾き飛ばす構成を備えているが,ジェットピンの形状が被控訴人
製品のものと同一であると認めるには足りず,平成12年製品の構成をもっ
て,被控訴人製品の構成であると認定することはできない。
ア 平成12年製品の構成
平成12年製品を撮影した動画(甲6)においては,プロジェクション
ナット供給装置のジェットピンが,正規寸法よりも小さいと思われるナッ
トを「弾き飛ばす」状況が撮影されている。そして,証拠(甲17,20,
24)によれば,上記動画において撮影されたナット供給装置は,被控訴
人が平成12年●●に製造した平成12年製品(NUT FEEDER:
製造番号●●●●●●,型式NS-ARF)であると認められる。
なお,平成12年製品のジェットピンの形状は,フランジ部分の角がな
だらかなテーパー状になっていることが認められる(甲18)。
イ 平成24年製品及び平成15年製品の構成
他方,証拠(乙2の1,2,乙38の1,2)によれば,被控訴人が平
成24年に製造した平成24年製品(製造番号M6-3680,型式NS
-ARF)及び平成15年に製造した平成15年製品(製造番号M6-5
91,型式NS-ARF)では,選別機に,正規寸法のM6ナットと共に,
正規寸法よりも小さいM5ナットを混入させた場合,M5ナットについて
は,供給ユニットのロッドが前進を開始した後,その前進が途中で停止し,
M5ナットがヒンジカバーとジェットピンに挟まれた状態になったこと,
すなわち,ナットを弾き飛ばしていないことが認められる。
そして,平成24年製品のジェットピンの形状(乙2の1,写真9)及
び平成15年製品のジェットピンの形状(乙38の1,写真10)は,い
ずれもそのフランジ部分の角が直角になっていることが認められる。
また,
平成11年に製造されたとされるNUT FEEDER(製造番号M6-
98,型式NS-ARF)も,ジェットピンのフランジ部分の角が直角に
なっていることが認められる(乙33の1・2)。
ウ プロジェクションナットを弾き飛ばすか否かを決める原因
前記ア及びイ説示のとおり,被控訴人の製造に係る同一の型式の製品
であっても,平成12年製品ではプロジェクションナット供給装置のジ
ェットピンが,正規寸法よりも小さいと思われるナットを弾き飛ばすの
に対し,平成24年製品及び平成15年製品では,ロック状態が生じて
いる。
このような差異が生じる原因を検討すると,証拠(乙2の1,2,乙
38の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,平成24年製品及び平成1
5年製品において,M5ナットがヒンジカバーとジェットピンに挟まれ
た状態になったのは,ロッドの前進が停止したことによるものであると
考えられる。そして,ロッドの前進が停止したのは,ジェットピンが,
先端ブロックに停止したM5ナットのねじ孔内に串刺し状に貫通せずに
M5ナットを前方に押し動かし,供給ホース内にある後続のプロジェク
ションナットが下方に動き,ジェットピンのフランジ部分が,その角が
直角になっているために,後続のナットに引っ掛かるためと考えられる。
この点,平成15年製品を用いた事実実験(乙38の1,2)では,
ヒンジカバーとジェットピンに挟まれたM5ナットを取り除き,ヒンジ
カバーを開いた状態にしたところ,後続のナットの下部が仮止め室の前
面開口の上縁とジェットピンのフランジとに挟まれて後続のナットが傾
き,ジェットピンのフランジが後続のナットを供給ユニット前端のブロ
ックにロックした状態になっていたことが認められる。このことは,ジ
ェットピンのフランジ部分が後続のナットに引っ掛かることがロック状
態の原因であることを裏付けている。また平成24年製品を用いた事実
実験の結果(乙2の1,2)も上記説示の点と整合するものであると認
められる。
以上によれば,ジェットピンの形状の違いが,正規寸法よりも小さい
ナットを弾き飛ばすか否かに違いが生じる原因となっているものと認め
られる。
控訴人らは,ナットが進出する速度と,ジェットピンの前進速度とを
調整することにより,フランジ部分に次のナットが引っ掛からないよう
にすることは可能であると主張する。
確かに,ナットを弾き飛ばす平成12年製品と,ロック状態を生じる
平成24年製品を比較すると,これらにおけるジェットピンの前進速度
が異なることがうかがわれる(甲6,乙2の2,乙20の1,2)。
しかし,速度の違いだけがナットを弾き飛ばす原因であると断定する
に足りる証拠もなく,
事実実験の結果に照らしても,ジェットピンの形状が前記のロック状態
の原因であることを否定することはできないというべきである。
仮に,ジェットピンの前進する速度の違いが原因で,ナットを弾き飛
ばすか否かの違いが生じる可能性があるとしても,被控訴人製品におけ
るジェットピンの前進する速度の設定が,平成12年製品のものと同一
であると認めるに足りる的確な証拠はない。むしろ,証拠(乙1)によ
れば,平成24年製品はジェットピンの前進する速度を調整する機構を
備えていないから,同製品のジェットピンの前進速度は,被控訴人製品
の設定と同一であることもうかがわれる。
また,証拠(乙2の2,乙20の1,2,乙38の2,乙42の1,
2)によれば,平成15年製品についても,平成24年製品とほぼ同じ
時間を要することがうかがわれる。
そうすると,控訴人らの上記主張を認めることはできず,同主張は採
用することができない。
エ 平成12年製品が被控訴人製品と同一の構成かどうかについて
前記アないしウにおいて説示したところに照らすと,ナットを弾き飛
ばす平成12年製品が被控訴人製品と同一であるというためには,平成
12年製品のジェットピンの形状が被控訴人製品のものと同一であるか
どうかを検討する必要があることとなる。
この点,平成12年製品を保有する会社の担当者による平成25年1
0月23日付けの陳述書(甲20)には,平成12年●●月に平成12
年製品を購入した当時,スピンドルの先端の形状が平成12年製品を撮
影した写真のとおりであり,平成20年9月頃に控訴人会社に貸与する
までの間,部品の交換,修理,改造をしたことはない旨が記載されてい
る。
しかし,上記の陳述書は,上記会社の社員から聞き取った内容を記載
したにとどまり(甲24),上記の記載内容によって直ちに,製造され
た当初から平成12年製品のジェットピンのフランジ部分がなだらかな
テーパー状であったと認めるには足りない。
また,被控訴人製品の取扱説明書(甲7,乙1)に記載されたジェッ
トピンの図では,フランジ部分の角がなだらかになっている箇所もある
ことが認められる(甲7,15頁・38頁)。しかし,上記取扱説明書
には,フランジ部分が直角に記載されている箇所もあるほか(甲7,1
3・14・20・27・28・29頁),他の部分の取扱説明書の記載
内容にも照らすと,ジェットピンの図は,シリンダー部を構成する部品
の概要及び名称等を説明する趣旨で掲載されているにすぎず,必ずしも
部品の細部の形状まで精密に記載しているわけではないというほかな
い。したがって,上記取扱説明書記載のジェットピンの図を根拠に,被
控訴人製品のフランジ部分がなだらかなテーパー状であると認めるには
足りない。
そして,上記各点のほかに,平成12年製品のジェットピンの形状が
製造当時のものと同一であり,したがって,被控訴人製品と同一である
ことを認めるに足りる的確な証拠はない。
前記イ説示のとおり,被控訴人による事実実験の対象となった平成2
4年製品及び平成15年製品は,そのジェットピンのフランジ部分の角
が直角になっているほか,平成11年に製造されたとされるNUT F
EEDER(製造番号M6-98,型式NS-ARF)も,ジェットピ
ンのフランジ部分の角が直角になっている。
これに対し,控訴人らは,平成24年製品や平成15年製品のジェッ
トピンは交換されている疑いがある,平成24年製品は事実実験(乙2
の1)のために準備されたものであり,被控訴人が現実に顧客に販売し
ている製品と同一であるかも全く明らかではない,平成11年に製造さ
れたNUT FEEDER(製造番号M6-98,型式NS-ARF)
についても,単にジェットピンの写真(乙33の1)のみが提出されて
いるにすぎず,上記NUT FEEDER(製造番号M6-98,型式
NS-ARF)の本体銘板(乙33の2)との同一性も,ジェットピン
交換の有無についても全く明らかではないなどと主張する。
確かに,上記各製品についてジェットピンが交換されていないことを
示す客観的な証拠は提出されてないし, ,被
控訴人製品の取扱説明書の記載が,上記各製品のジェットピンの形状が
被控訴人製品と同一であることを示す根拠となるものともいえない。
しかし,控訴人らの主張するジェットピンの交換の事実を裏付ける的
確な証拠もなく, 上記取扱説明書の記載が
上記各製品のジェットピンの形状が被控訴人製品と同一であることと矛
盾するものでもない以上,控訴人らの主張するように,平成24年製品
や平成15年製品のジェットピンのフランジ部分の形状が被控訴人製品
のものと異なるということもできない。
したがって,平成24年製品及び平成15年製品に関する控訴人らの
オ 小括
以上によれば,現在の平成12年製品が,製造当時のものと同じ構成で
あると認めることはできず,平成12年製品をもって,被控訴人製品が,
本件特許発明の構成要件Eを充足するとの控訴人らの主張は採用すること
ができない。
平成17年製品について
弁護士法23条の2第2項による照会に対し,平成17年製品を保有する
会社は,工場内に,被控訴人が平成17年に製造した平成17年製品(製造
番号●●●●●●●,型式NS-ARF)を保有し,現在までに,改造,修
理又は部品の交換をしておらず,供給ホースにM8ナットと共にM6ナット
を混入した場合,M6ナットは,供給ユニットのロッドの進出時に,ジェッ
トピンの先端部で弾き飛ばされる旨回答している(甲25の1,2)。
しかし,上記回答書の記載からは,回答者がどのような根拠に基づいて改
造,修理又は部品の交換をしていない旨回答しているのか,また,上記会社
の工場内にあるプロジェクションナット供給装置,特に,ジェットピンがど
のような形状をしているか,あるいはどのような状況で供給装置を作動させ
たかといった点は必ずしも明らかではない。また,上記会社は,M6ナット
を混入した場合,供給ユニットのロッドの前進が途中で停止し,M6ナット
がヒンジカバーとジェットピンに挟まれたロック状態になることが「ありま
す。(一瞬ですが)」と,ロック状態が生ずるとも解し得る回答をしている。
したがって,上記回答書の記載から直ちに,平成17年製品によって,被
控訴人製品が正規寸法よりも小さいプロジェクションナットを弾き飛ばすと
いう構成要件Eに相当する構成を備えていると認めることはできない。
なお,控訴人らは, イ において,
M6ナットとM8ナットの内径をそれぞれ6㎜,8㎜と説明している。これ
は,甲25の2に基づく主張と考えられるが,これらのナットはJIS規格
に基づく規格品であり,上記寸法は,M6ナット,M8ナットに螺合するお
ねじの外径の基準寸法であり(甲10),実際のナットの内径の寸法とは異
なると考えられる。
そして,他に,被控訴人製品が本件特許発明の構成要件Eに相当する構成
を備えていると認めるに足りる証拠はない。
控訴人らの主張について
ア 控訴人らは,仮に被控訴人製品にロック状態(正規寸法よりも小さいプ
ロジェクションナットが,ヒンジカバーとジェットピンで挟まれ,停止し
たままの状態)が生じるとしても,当該現象は被控訴人製品にヒンジカバ
ーが設けられていることによって生じているにすぎず,被控訴人製品にヒ
ンジカバーが存在しなければ,正規寸法より小さいプロジェクションナッ
トは「ジェットピンの先端部がナットの上面かねじ孔の角部に接触し」,
「当該ナットをはねて,空中を移動させて落下させる」こととなり,本件
特許発明の構成要件にヒンジカバーは含まれない以上,被控訴人製品にお
けるロック状態とは,本件特許発明との関係においては単にヒンジカバー
を設けたことから生じる付加の構成にすぎず,ロック状態が生じることが
本件特許発明の構成要件充足性を否定する理由とはなり得ない旨主張する
ア)。
しかし,被控訴人製品のヒンジカバーは,「先端ブロックまできたナッ
トを落とさないようにする壁の役割」(乙1,16頁)を有し,最も先端
に位置するナットの落下を食い止めるという被控訴人製品において不可欠
な作用効果を有するものである上に,ヒンジカバーが存在することにより,
ロック状態が生じるという,本願発明における「弾き飛ばす」のとは異な
る作用が生じるものである以上,被控訴人製品におけるヒンジカバーが単
なる付加的な構成であるということはできない。
よって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
イ 控訴人らは,平成24年製品及び平成15年製品の動作は,被控訴人が
マツダの正規の規格品と主張しているM6ナットを正規寸法とし,M5ナ
ットを正規寸法より小さいナットとするという特定の条件下での動作にす
ぎず,被控訴人製品の正しい構成は平成12年製品及び平成17年製品の
構成であるから,上記特定の条件下でのものを除く被控訴人製品は,本件
特許発明の技術的範囲に属する旨予備的に主張する(前記第3の1-1【控
ウ)。
しかし,控訴人らの主張は,被控訴人製品の構成が平成12年製品及び
平成17年製品と同一であることを前提とするものであるところ,これら
の製品をもって被控訴人製品が本件特許発明の構成要件Eを充足すると認
よって,控訴人らの上記主張は,その前提を欠き採用することができな
い。
3 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの本件請
求はいずれも理由がない。
よって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,本件各
控訴はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとし,主文の
とおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官 石 井 忠 雄
裁判官 西 理 香
裁判官 神 谷 厚 毅

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