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平成20(行ケ)10194審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年12月11日
事件種別 民事
当事者 被告日本たばこ産業株式会社
原告株式会社武蔵野化学研究所
法令 特許権
特許法134条の21回
キーワード 審決19回
進歩性19回
無効13回
新規性9回
実施5回
侵害2回
特許権2回
無効審判2回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,被告を特許権者とする後記特許に係る発明の特許につき無効審 判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消し を求めた事案である。

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判決文

平成20年12月11日判決言渡
平成20年(行ケ)第10194号 審決取消請求事件(特許)
口頭弁論終結日 平成20年11月20日
判 決
原 告 株式会社武蔵野化学研究所
同訴訟代理人弁護士 松 本 直 樹
同訴訟代理人弁理士 八 田 幹 雄
奈 良 泰 男
宇 谷 勝 幸
藤 田 健
都 祭 正 則
長 谷 川 俊 弘
荒 木 一 秀
被 告 日本 たばこ 産業株 式会社
同訴訟代理人弁護士 深 井 俊 至
同訴訟代理人弁理士 泉 谷 玲 子
中 村 充 利
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2007−800064号事件について平成20年4月14日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告を特許権者とする後記特許に係る発明の特許につき無効審
判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消し
を求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を フライ食品用の具材」
「 とする特許第3544023号 出

願日:平成7年2月24日,登録日:平成16年4月16日,請求項の数6。以下
「本件特許」という。
)の特許権者である(甲1)。
原告は,平成19年3月28日付けで,本件特許の請求項1∼6に記載の発明に
ついての特許を無効とすることについて審判の請求をし 甲66) 無効2007−
( ,
800064号事件として係属した。
被告は,同年6月18日付け(甲68)及び同年10月4日付け(甲71)で,
それぞれ特許請求の範囲の訂正請求をした。
特許庁は,本件無効審判請求について審理した上,平成20年4月14日, 訂正

を認める。本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし,同月24日,その謄

本を原告に送達した。
2 訂正後の特許請求の範囲
上記平成19年10月4日付けの訂正(以下「本件訂正」という。 後の請求項1

∼6(以下「本件請求項1」などという。 に記載の発明(以下「本件発明1」など

といい,本件発明1∼6を総称して「本件発明」という。 の内容は,次のとおりで

ある(甲71。下線部は,訂正部分である。。

なお,上記平成19年6月18日付けの訂正請求は,特許法134条の2第4項
の規定により,取り下げられたものとみなされる。
【請求項1】冷凍フライ食品用の具材に対し,架橋澱粉または乳酸Naを添加してなり,該
フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴とする冷凍フライ食品用の具材。
【請求項2】架橋澱粉,乳酸Naの添加量が,具材100重量部に対してそれぞれ0.5∼1
0重量部,0.1∼5重量部である請求項1に記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項3】冷凍フライ食品用の具材に対し,「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラ
ギーナン」を添加してなり,該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴と
する冷凍フライ食品用の具材。
【請求項4】乳酸Na,架橋澱粉およびカラギーナンの添加量が,具材100重量部に対して
それぞれ0.1∼5重量部,0.5∼10重量部および0.05∼5重量部である請求項3に
記載の冷凍フライ食品用の具材。
【請求項5】請求項1から4のいずれかに記載の冷凍フライ食品用の具材を用いてなる冷凍フ
ライ食品。
【請求項6】冷凍フライ食品が春巻またはコロッケである請求項5に記載の冷凍フライ食品。
3 審決の判断
審決が用いた証拠は,次のとおりである。
甲2:特開昭59−175870号公報
甲3:特開平5−49424号公報
甲4:特開平6−181680号公報
甲5:特開平4−79861号公報
甲6:特開平7−313112号公報
甲10:特開昭50−129760号公報
甲11:特開平1−222743号公報
甲14:高橋雅弘監修「冷凍食品の知識」株式会社幸書房発行〔昭和57年4月10日発行〕
の207頁「表9.16『調理冷凍食品特定9品目における食品添加物の品目別リ
スト』」
甲16: 食添用有機酸とその誘導品」有限会社化学市場研究所発行

甲17: 指定品目食品添加剤便覧〔改訂第31版〕1993年版」株式会社食品と化学社発


甲18:特開平5−328912号公報
甲19: 冷凍食品年鑑
「 1995年版」株式会社冷凍食品新聞社発行
甲23:特開平3−247260号公報
甲24:特開平4−222584号公報
甲25: 食品安全委員会・添加物専門調査会の第41回添加物専門調査会配付資料2
「 意見
聴取要請の概要」
甲26: 新食品添加物マニュアル第2版」日本食品添加物協会発行

(1) 本件訂正の是認について
「請求項1∼6の訂正からなる上記訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書きおよび
同条第5項において準用する特許法第126条第3および4項に規定する要件を満たすもので
あるから,当該訂正を認める。(5頁10∼13行)

(2) 本件発明を無効とすることができないことについて
ア 「本件発明1は,甲第2∼5号証及び/または甲第14号証に記載された発明と,甲第
10∼11号証,甲第16∼至19号証,及び甲第23∼26号証に記載された発明に基づい
て当業者が容易に想到し得たものとはいえない。(25頁34∼37行)

「また,本件発明2∼6も,・・・甲第2∼5号証及び/または甲第14号証に記載された発
明と,甲第10∼11号証,甲第16∼至19号証,及び甲第23∼26号証に記載された発
明に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。(26頁2∼5行)

イ 「本件発明1は,甲第6号証に記載された発明と同一であるとはいえず,また同様に,
訂正後の請求項2∼6に係る発明も,甲第6号証に記載された発明と同一であるとはいえな
い。(28頁27∼29行)

第3 原告主張の審決取消事由の要点
以下のとおり,本件発明1は,①甲4記載の発明(以下,甲号証記載の発明につ
いては,審決で引用する場合を含め,「甲4発明」などという。
)と同一である(取
消事由1),②甲4発明に基づいて容易に発明することができた(取消事由2)
,③
甲14に基づいて容易に発明することができた(取消事由3)ものである。
1 取消事由1(本件発明1の甲4発明に対する新規性の不存在)
(1) 次のとおり,甲4に示されている乳酸ナトリウムの食品 エビ)
( への適用は,
本件特許の請求項にそのまま合致し,本件発明1には新規性がない。
ア 甲4は,次の手順でエビの加工を説明している。
「 0010】次に,エビをアミノ酸並びに有機酸及び/又は有機酸塩からなる水

溶液に浸漬させる。・・・」
「 0011】
【 本発明で使用される有機酸としては,例えば乳酸,酢酸,クエン酸,
リンゴ酸等を用いることができ,この中から選ばれた1又は2種類以上の有機酸を
使用すれば良い。特に,このなかでも乳酸,酢酸の使用が好ましい。また,有機酸
塩としては乳酸ナトリウム,乳酸カルシウム,酢酸ナトリウム,クエン酸ナトリウ
ム等を挙げることができ,このなかから選ばれた1又は2種類以上の有機酸塩を用
いればよい。特に,乳酸ナトリウム,酢酸ナトリウムが好ましい。・・・」
「 0013】このような2段階浸漬処理を施したエビは,そのまま調理に付して

も良く,また,冷凍処理して流通過程にのせても良い。本発明方法で得られるエビ
をてんぷら,フライ類に使用すると加熱しても食感が良く,しかも保存性に富むて
んぷら,フライ類を作ることが可能である。従って,弁当等の外食産業にとって極
めて有用な技術である。

イ 本件請求項 1 は, 冷凍フライ食品用の具材に対し,
「 架橋澱粉または乳酸Na
を添加してなり,該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在することを特徴と
する冷凍フライ食品用の具材」である。
これに対し,甲4では,上記アのとおり, 乳酸ナトリウム」で処理して「冷凍」

したエビで「てんぷら」や「フライ類」を作ると, 食感が良い」とする。甲4の説

明はこの例だけではないが,中でも特に具体的に説明されている手順が上記記載で
ある。
甲4の上記記載を本件請求項1と対比すると,すべての要件を充足する。すなわ
ち,甲4のこの例では,こうした処理をした「エビ」を「具材」とするのであり,
本件請求項1の「冷凍フライ食品用の具材」との要件に対して甲4の「冷凍処理し
て流通過程にのせても良い」 本件請求項1の「架橋澱粉または乳酸Na」との要件

に対して甲4の「乳酸ナトリウム」で処理,本件請求項1の「具材部分と表皮部分
とが存在する」 フライ食品」との要件に対して甲4の「てんぷら」や「フライ類」

である,とすべての要件を満たす。
(2) また,甲4には,「冷凍」することまでの記載があるから,本件請求項1の
「冷凍フライ食品」というのと有意な差異はない。
なお,本件請求項1中に「該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する」
との規定があり,冷凍の時点で表皮が付いている必要があると被告は主張するが,
本件請求項1の対象物は,結局, 冷凍フライ食品用の具材」であるところ,冷凍を

経て衣付きのフライにするのでありさえすれば,この 具材」
「 に当たるはずである。
冷凍の時点で,衣付きかどうかなどという要件が出てくる場面はない。
しかも,甲4は, 産業上の利用分野】として「本発明は,エビの処理方法及び該

エビを用いた冷凍食品に関する。 と記載する「冷凍食品に関する発明 」であるとこ

ろ,衣を付けた状態での冷凍を否定していない。本件請求項1の文言をもって「衣
付きでの冷凍」を意味するというなら,むしろ甲4も同様に理解するべきである。
(3) したがって,本件発明1は新規性がない。
2 取消事由2(本件発明1の甲4発明に対する進歩性の不存在)
(1) 仮に上記1(2)の点で本件発明1と甲4発明に差異があると解されるとして
も,それが進歩性の根拠となることはない。
所定の具材によるフライを作るにつき,衣を付けた後に冷凍しても,それで特許
性が認められるべきものではない。
(2) 甲4における乳酸ナトリウムの使用は,保存性だけが目的ではない。甲4に
は, 食感」の向上ということが明示されており,これを主目的とした場合に,その

フライを冷凍にすることも当たり前である。冷凍にする予定のフライの具材に混ぜ
るということでも同じである。
そして,冷凍の場合でも常温の場合でも,乳酸ナトリウムを混ぜることによるサ
クサク感の向上は,同じ作用機序で同じように働く。あえて言えば,冷凍にした場
合にこそ,サクサク感が失われる問題が大きいことは事実であるから,その改善の
必要性は大きいのであり,そういう意味では,乳酸ナトリウムを使うことはますま
す当たり前だともいえる。
また,乳酸ナトリウム添加が保存性の向上を目的とするものだったとしても,甲
4には冷凍することを禁止する記載もなく,さらに保存性を高めるために冷凍しよ
うと考えることも自然である。乳酸ナトリウムを添加したとしても,それだけでは
(=常温保存では) 冷凍の場合ほどに長期的に保存が可能となるものではなく,特

に夏場であれば,エビは(衣が付いていようとフライになっていようと)腐ってし
まうのは常識である。逆に,たとえ冷凍する場合でも,冷凍前(製造過程を含む)
又は解凍後の保存性は問題となり得る。
(3) なお,被告は,
「甲4に接した当業者が,主剤(アミノ酸)の微生物増殖抑
制作用を強化するために併用される助剤(有機酸塩)のみを甲4の引用発明から抜
き出して着目するはずがない」と主張するが,別に抜き出して着目しなくとも,本
件特許の無効のために十分である。本件請求項1にはグリシンなどの添加物を除く
規定は一切なく,例えば,グリシンとともに使う場合でもクレームと区別が付くわ
けではなく,無効に変わりはない。
また,冷凍食品につき,冷凍の間は保存に問題がなくても,製造過程や解凍後の
品質保持のために,日持ち向上剤を使うことは一般的である(保存料は普通は使わ
ないが)。甲4自体,「冷凍食品」を対象としながら,その保存性を問題とし,グリ
シンなどを「日持ち向上剤」として使う内容となっている。
以上によれば,被告が,甲4が乳酸ナトリウムをグリシンとともに使っているこ
とや,日持ち向上の目的であることを主張するのは,失当である。
(4) 乳酸ナトリウムが保存性を高めるのは,乳酸ナトリウムが余分な水分を吸い
寄せるため,その結果として,自由水の少ない微生物が繁殖しにくい環境を作るこ
とによると理解されている。すなわち,本件特許明細書に記載される「サクサク感
を向上させるという効果」と「保存性向上」とは,いずれも吸水性に基づく働きと
して共通である。
乳酸ナトリウムの物性として,吸湿性は昔からよく知られたものであるが,本件
特許明細書の内容であるサクサク感の向上は,この吸湿性から極めて自然に予期さ
れる,言わば当たり前の効果である。
甲4では,乳酸ナトリウムも当然に保水剤として働くものであり,硬くなるのを
防ぐ。もちろん,こうした働きにしても,他の処置と相まってのものであり,趣旨
を明白に切り分けできるものではない。そういう意味で,これだけが目的であると
か,乳酸ナトリウムだけで目的を達するというものではないが,乳酸ナトリウムが
こうした働きを有することは事実であり,それを趣旨としているものとみられる。
(5) 本件発明1の効果は,大した働きをするものではない。これが,仮に,具を
入れると,冷凍したときのサクサク感について,けた違いに顕著な効果があって,
絶対にへなへなにならない,とでもいうものであるならば,特許が認められてもよ
いかもしれないが,実際には,少しは効果がある場合もあるという程度である。
これで,特許が認められるべきものではない。
(6) したがって,本件発明1には進歩性がない。
3 取消事由3(本件発明1の甲14に対する進歩性の不存在)
(1)ア 審決は,甲14の「表9.16の記載は,冷凍エビフライおよび冷凍コロ
ッケの品質を改良するために乳酸ナトリウムを使用することを当業者に想起させる
ものであるということはできる。(18頁37∼39行)としながら, 乳酸ナトリ
」 「
ウムが冷凍フライ食品であるえびフライまたはコロッケにおいてどのような品質を
改良するのかは,依然として不明のままである。(19頁19∼21行)とし, 甲
」 「
第14号証の記載をもって,乳酸ナトリウムが当該冷凍フライ食品の具材に添加さ
れていたとは,直ちにいえない。(19頁24,25行)などとする。

そして, 何のための品質改良剤であるかが不明であり」 19頁28,29行)
「 ( ,
乳酸ナトリウムを「具材に添加する動機付け,理由は存在しないから,乳酸ナトリ
ウムをこれらの食品の具材に添加することは,
・・・甲第14号証の記載に基づいて
当業者が容易に想到し得るものとはいえない。(19頁31∼34行)とする。

イ しかしながら,
どのような品質かを特定していない先行文献であるにしても,
全く同様に「冷凍エビフライおよび冷凍コロッケ」に乳酸ナトリウムを使用するも
のがあるというのに,それに対して具材に添加するというだけで特許を受けること
ができる発明となるものではない。
甲14発明の実際は,どこへの添加かが明示されていないだけであり,そこで具
材に添加すると選択するだけのことが特許発明となるはずがない。
(2) 乳酸ナトリウムの添加は従来からされていることなのに ,本件発明1によれ
ば,冷凍フライの具に乳酸ナトリウムを添加した場合,それだけでクレーム文言に
該当してしまい,侵害とされてしまう可能性がある。
そして,効果という点では,衣の食感を特に目的としていなくても,自然とそれ
なりの程度には衣のサクサク感も改善されることになるが,そうであるからといっ
て,そうしたことが侵害とされるのは不合理である。
(3)ア 審決は,「えびフライとコロッケは,バッター層とパン粉層からなる衣材
を有することで他の7品目と相違するのであることからみて,乳酸ナトリウムは衣
材に添加するもののようにみえる。(19頁11∼13行)とし, 乳酸ナトリウム
」 「
をこれらの食品の具材に添加することは,
当業者の設計事項であるとはいえないし,
また,甲第14号証の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものともいえな
い。(19頁31∼34行)とする。

イ 確かに,甲14においては,使用対象が具であるのか,衣であるのか,直接
には明示されていない。しかしながら,甲14では, 用途区分」が「品質改良剤」

として乳酸ナトリウムが記載されており,具材に使用することを示唆しているし,
少なくとも,具材に使用することに何の障害もない。
ウ また,添加物としての乳酸ナトリウムの古くからの用途としては,ケーキな
どに混ぜて保湿性により口当たりを滑らかにするということがある。こうした使用
法が前提となっていることから,甲14のえびフライやコロッケの「品質改良剤」
というのも,むしろ具に混ぜることを指していると理解されるべきである。
甲83(特許出願公告昭61−43974号公報)は, 従来は清酒などの pH 調

整,風味改良,菓子類の老化防止および調湿剤,保湿剤などとして使用され ,
・・・
乳酸ナトリウムの塩味が極めて弱く,かつ,水に対する溶解性が高いという特性を
生かして,水分活性制御を主目的に使用する方法は,本発明が初の試みである。 2


頁3欄8∼16行)とし,肉に添加して水分活性制御によって保存性を良くするこ
とを開示している。また甲9(原告の子会社のパンフレット。平成3年4月作成)
に説明されているように,乳酸ナトリウムは, 冷凍障害防止,離水防止」を目的と

して「冷凍食品」に一般的に使われてきたものである( 農産加工品」欄中の「冷凍

食品」の項目)。
これらを前提として,甲14の「品質改良剤」としての「えびフライ」や「コロ
ッケ」への使用をみると, 品質改良」の対象としてまず考えられるのは,保湿性に

よる滑らかさである。また,甲9のように,冷凍食品の「冷凍障害防止,離水防止」
を目的として使用するともいわれてきており,これらも,いずれも具と衣があるも
のなら主に具の方で問題となるのは自明である。
甲85及び86はいずれも,遅くとも平成3年1月1日より前に作成された,原
告又はその子会社の乳酸ナトリウム(乳酸ソーダ)のパンフレットであるところ,
これらによれば,保湿性を主な効果としており,同時に離水防止などが説明されて
いる。甲86では自由水を減らすことによる水分活性低下なども強調されているが
(それによって保存性が良くなる) いずれにしても,フライの場合なら具材にこそ

適用されるべきものであることが理解できる。
4 本件請求項2∼5の無効について
本訴請求が認められるためには,単に本件請求項1が無効であるだけで十分であ
るが,補足するに,本件請求項2以下も同様に無効である。
審決はこれらについて,本件請求項1の内容の特許性に依拠した特許性しか認定
していない。本件請求項1が新規で進歩性があるなら,それの従属項である本件請
求項2以下にも特許性が認められるが,実際には,本件請求項1は非新規又は進歩
性なしであるところ,次のとおり,請求項2以下にそれと独立しての特許性が認め
られる可能性はない。
ア 本件請求項2及び4の数値範囲は極めて広範で,使用の可能性のある範囲を
むしろ超えるほどのもので,臨界性がない。
イ 本件請求項3の「架橋澱粉」や「カラギーナン」も,普通に使われる添加物
にすぎず,また,乳酸ナトリウムと併用することによる相乗効果などが主張されて
いるわけでもない。
ウ 本件請求項5は,対象が「冷凍フライ食品」となっているだけであり,本件
請求項6の「春巻またはコロッケ」も,単に冷凍フライ食品として典型的なもので
ある。
第4 被告の反論の要点
以下のとおり,審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本件発明1の甲4発明に対する新規性の不存在)に対して
(1) 原告は,本件発明1の 冷凍フライ食品用の具材」
「 という構成要件について ,
冷凍を経て衣付きのフライにするのでありさえすれば,この「具材」に当たるはず
であること,冷凍の時点で,衣付きかどうかなどという要件が出てくる場面はない
こと,などを主張する。
(2) しかしながら,本件請求項1には,「冷凍フライ食品用の具材」と記載され
ており, フライ食品用の冷凍具材 」とは記載されていない。そして,本件請求項1

には,「該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する」との記載がある。
したがって,本件発明1では,架橋澱粉又は乳酸Naが添加されている,具材部
分と表皮部分とが存在する冷凍フライ食品の具材が対象であると理解するのが,特
許請求の範囲の記載に基づく当業者の通常の理解である。
本件特許明細書(甲71)の発明の詳細な説明にも,【0005】 発明が解決し
「 【
ようとする課題】本発明は,特にプレフライ後,冷凍保存して使用された場合でも,
オーブントースターや電子レンジ等のより簡便な調理法によって,フライ直後のよ
うなパリパリ,サクサク,カリカリ等と表現されるクリスピーな食感の美味しく食
することのできるフライ食品,およびそのような食感を付与できるフライ食品用の
具材を提供することを目的とするものである。 と記載されており,
」 冷凍保存される
フライ食品が存在することを前提として,その冷凍フライ食品の具材を提供するこ
とが目的とされている。そして,本件特許明細書の上記記載以降の発明の詳細な説
明においても,具材と表皮部分がある冷凍フライ食品の説明とその具材に架橋澱粉
あるいは乳酸Na,又は「乳酸Na」と「架橋澱粉および/またはカラギーナン」
が添加されることが説明され,実施例が記載されている。
すなわち,本件発明1は,「フライ食品」
(具材部分に表皮部分が付いている)の
状態で冷凍される「冷凍フライ食品」の具材に関するものであって,具材のまま冷
凍し,解凍した後に衣を付けて常温のフライにする態様(すなわち,これは「冷凍
フライ食品用の具材」に当たらない。)は本件発明1には含まれない。
(3) 原告は,甲4の「 0013】このような2段階浸漬処理を施したエビはそ

のまま調理に付しても良く,また,冷凍処理して流通過程にのせても良い。
・・・」
との記載をもって,本件発明1の「冷凍フライ食品用の具材」という構成要件が甲
4に記載されていると主張するが,甲4に記載されているのは単なる「冷凍エビ」
にすぎない。ここで,甲4に記載の「冷凍エビ」など,魚類や食肉類を単に冷凍し
たものは「冷凍品」と呼ばれ,冷凍フライ食品などの「冷凍食品」と明確に区別さ
れることは,当業者の技術常識である(甲57)。
そして,甲4には,当該エビを「冷凍フライ食品」に用いることは一切記載され
ていない。甲4に「乳酸ナトリウムが添加された冷凍エビ」の開示があったとして
も,冷凍フライ食品の開示とその冷凍フライ食品の具材としての乳酸ナトリウムが
添加されたエビの開示がない以上,甲4に本件発明1が開示されているとはいえな
い。
(4) したがって,本件発明1と甲4発明の相違点として,審決が, ⅰ)前者で
「(
は冷凍フライ食品用の具材であるのに対して,後者では,保存性の向上を目的とし
て保存剤を添加するものであること及び常温流通の食品を対象とすることからみ
て,冷凍フライ食品用の具材ではない点」 15頁25∼28行)とした認定に誤り

はなく,本件発明1は,甲4発明に対して新規である。
2 取消事由2(本件発明1の甲4発明に対する進歩性の不存在)に対して
(1) 乳酸ナトリウムを冷凍フライ食品の具材部分に添加して表皮部分のクリス
ピーさを高めるという本件発明の技術思想を,甲4発明に基づいて当業者が想起す
ることは困難である。
甲4発明は,常温におけるエビの保存性を高めるために,保存料成分と乳酸ナト
リウムでエビを浸漬処理するものである。常温でのエビの保存性に関する甲4に基
づいて,当業者が冷凍フライ食品に関する本件発明に容易に到達できるものではな
い。
(2) 甲4【0002】【0019】及び実施例( 0018】
, 【 【表2 】)の記載に
よれば,甲4発明は,エビに特殊な浸漬処理を施してエビの常温での保存性を高め
るものである。
一方,甲4には,冷凍フライ食品に関する記載は一切なく,また,冷凍フライ食
品において表皮部分の食感をクリスピーにすることが重要な技術課題であることは
全く記載されていない。
(3) 甲4【0012】の記載から判断すると,有機酸塩の一種である乳酸ナトリ
ウムは,グリシンなどのアミノ酸が有する微生物増殖抑制作用を促進させるために
添加されていると推測される。そして,甲4【0011】や【0012】の記載か
ら判断すると,甲4発明において,乳酸ナトリウムは「pH調整剤」として添加さ
れていると考えられる。
このように,甲4発明は,グリシンなどのアミノ酸(日持ち向上剤)と有機酸塩
(pH調整剤)とを併用して日持ち向上剤であるアミノ酸の効果を促進させるもの
である。したがって,甲4に接した当業者が,主剤(アミノ酸)の微生物増殖抑制
作用を強化するために併用される助剤(有機酸塩)のみを甲4発明から抜き出して
着目するはずがない。また,甲4には,乳酸ナトリウムはpH調整剤として添加さ
れる旨が記載されているのであるから,甲4に接した当業者が,乳酸ナトリウムを
冷凍フライ食品の具材部分に添加することによって表皮部分がクリスピー化すると
いう本件発明1を認識する余地はない。
よって,甲4に対する本件発明1の進歩性について,審決が「甲第2∼4号証に
記載された発明は,食品の常温における優れた保存性を得るために,食品に対し乳
酸ナトリウムとグリシンあるいはグルコノデルタラクトン等の保存剤を併用・添加
するものであり,これにより所期の効果が得られるものであるから,これらの保存
剤を併用せず,乳酸ナトリウムのみを添加する食品は,そもそも甲第2∼4号証に
記載された発明に基づいては,容易に想起し得ないものである。(15頁35行∼

16頁2行)とした認定及び判断に誤りはない。
(4) 原告は,甲4には,「食感」の向上ということが明示されており,これを主
目的とした場合に,そのフライを冷凍することも全く当たり前である,冷凍にする
予定のフライの具材に混ぜるというのでも同じことである,などと主張する。
しかし,食感の向上を目的として,常温のフライ食品を冷凍フライ食品に置き換
えることなどない。 冷凍にした場合にこそ,
「 サクサク感が失われる問題が大きいこ
とは事実である」ならば,食感の向上を目的として,当業者が,常温のフライ食品
をわざわざ冷凍フライ食品に置き換えるはずがない。
また,甲4に記載されているのは「エビ自体」の食感を維持することであり,食
感の内容も「エビが硬くなることを防止」するものである。衣などの「表皮部分」
を「クリスピー化」する本件発明1とは,食感の対象,食感の内容ともに異なる。
したがって,食感の観点から,甲4発明と本件発明1とを論理付けることはでき
ない。
(5) 原告は,乳酸ナトリウム添加が保存性の目的だったとしても,甲4には冷凍
することを禁止する記載もなく,さらに保存性を高めるために冷凍しようと考える
ことも自然である,と主張する。
しかし,一般に冷凍食品にとって,貯蔵性が高いことは最も大きく,かつ,重要
な特性であり,冷凍食品には保存料や殺菌料は添加されない(甲35) この点は,

食品分野における当業者に広く知られるところである。
それに対し,甲4は,エビの常温での保存性を高めるための保存料に関するもの
であって,冷凍食品には不要な保存料に関するものである。
したがって,当業者の技術常識に照らして,甲4に記載のエビを当業者が冷凍フ
ライ食品に使用しようとするはずがない。それどころか,保存料で処理されたエビ
を冷凍フライ食品に使用することは,保存料フリーという冷凍食品のメリットを損
なうことになるのであるから,甲4に記載のエビを冷凍フライ食品にすることには
阻害事情がある。
したがって,日持ち向上剤などの保存料に関する常温食品に関する技術を,本件
発明のような冷凍フライ食品に適用することは,当業者の技術常識に照らして考え
られることではなく,甲4について,審決が, 常温における保存性を高めるために

保存料成分と乳酸ナトリウムを併用するものであり,この常温流通フライ食品をわ
ざわざ冷凍保存しようとすることは,当業者が容易に想起することではないといえ
る。(16頁28∼31行)とした認定及び判断に誤りはない。

(6) 原告は,本件特許明細書に記載される サクサク感を向上させるという効果」

と「保存性向上」とは,いずれも吸水性に基づく働きとして共通である,などと主
張する。
しかし,甲4で,保存料として使用されるのはアミノ酸(特にグリシン)であっ
て,乳酸ナトリウムは保存料であるグリシンの機能を強化するための助剤として併
用されるpH調整剤にすぎない。甲4には,そもそも,乳酸ナトリウムを保存料と
して使用することは記載されておらず,乳酸ナトリウムの保水性に関する記載もな
い。したがって,甲4に記載されていない乳酸ナトリウムの保水性を出発点として,
本件発明1の効果を論じる原告の主張は,理由がない。
また,仮に乳酸ナトリウムが保水性を有することが周知だったとしても,甲4の
記載に基づいて当業者が本件発明1の効果を予測することはできない。すなわち,
本件発明1の効果は,①架橋澱粉および/または乳酸ナトリウムの保水特性に基づ
いて,②具材部分からの離水を防止し,③それによって具材部分から表皮部分への
水分移行を抑制し,④最終的に冷凍フライ食品の表皮部分をクリスピー化する,と
いう過程を経て発現する。そして,このような作用メカニズムは,本件特許発明者
が本件発明において見いだしたものであり,本件発明の出願当時全く知られていな
かった。そもそも,①乳酸ナトリウムの保湿特性が知られていたとしても,②乳酸
ナトリウムを冷凍フライ食品の具材に添加した際に離水防止効果が実際に奏される
かは明らかでなく,また,③離水防止効果があったとしても,具材部分から表皮部
分への水分移行が現実に抑制できるかは容易に予測できるところではない。さらに,
④具材部分から表皮部分への水分移行が抑制できたとしても,最終的に表皮部分の
食感がクリスピー化されるかは,当業者が予測できる範囲を超えたものである。
したがって,本件発明1の効果について,審決が「本件発明1(A)においては,
具材部分と表皮部分とを有する冷凍フライ食品の具材に乳酸ナトリウムを添加する
ことにより,冷凍解凍,加熱の際,中の具材からの離水を防ぐことで,衣に水分が
浸透するのを防ぎ,冷凍保存した場合でも,表面の食感がクリスピーなフライ食品
が得られるという,冷凍保存ではなく常温保存を目的とする甲第3,4号証に記載
された発明からでは予測できない格別な効果を奏するものである。(16頁32∼

37行)とした認定及び判断に誤りはない。
3 取消事由3(本件発明1の甲14に対する進歩性の不存在)に対して
(1) 甲14は,昭和53年に制定された「調理冷凍食品の日本農林規格」の3条
及び4条(甲38)の内容を表にまとめたもので,冷凍食品のJAS規格は,使用
してもよい食品添加剤の種類を,添加品目,添加目的ごとにポジティブリスト方式
(食品添加物の添加を原則禁止した上で,添加してもよい添加物を,添加品目,添
加目的とともに限定列挙する方式)で規定したものであって(甲39) 冷凍食品の

JAS規格上,冷凍エビフライ及び冷凍コロッケに品質改良剤としての乳酸ナトリ
ウムを使用してもよいとされていたことを示すものにすぎず,乳酸ナトリウムが現
実に使用されていたことを示すものではない。
この点,甲14について,審決が, 必ずしも冷凍フライ食品で使用されていたこ

とを示すものとはいえず,表9.16の記載をもって,直ちに,乳酸ナトリウムを
添加した冷凍エビフライおよび冷凍コロッケが実際に存在したということはできな
い」(18頁33∼36行)とした認定及び判断に誤りはない。
本件特許の出願当時,当業者であれば,このような冷凍食品に関するJAS規格
の内容を知っていたはずであるから,技術的実体を伴わない単なる規格情報である
甲14に接したとしても,当業者が技術開発に有益な情報を得ることはない。
(2) また,以下のア∼ウのとおり,甲14には,乳酸ナトリウムの添加目的,添
加態様,添加効果及び製造例が一切記載されておらず,技術的な具体性を欠いてい
る。このような甲14は,技術文献としての価値が極めて低く,技術開発に当たっ
て,当業者に有益な技術情報を与えるものではない。
ア 甲14には,乳酸ナトリウムの用途区分が「品質改良剤」と記載されている
ものの,品質改良の具体的内容については何も記載されていない。この点,冷凍食
品のJAS規格は,使用が許可される食品添加剤の種類を,添加品目,添加目的ご
とにポジティブリスト方式で限定列挙したものであることにかんがみれば,甲14
に記載の乳酸ナトリウムの添加目的は,甲14に記載の他の用途区分以外の用途で
ある。
したがって,甲14に記載の乳酸ナトリウムの添加目的について,審決が, 乳酸

ナトリウムが冷凍フライ食品であるえびフライまたはコロッケにおいてどのような
品質を改良するのかは,依然として不明のままである。(19頁19∼21行)と

したことに誤りはない。
イ また,甲14には,乳酸ナトリウムをえびフライおよびコロッケに添加した
場合の効果について何の記載もない。
ウ 甲14には,乳酸ナトリウムの添加部位が一切記載されていない。そして,
甲14に接した当業者が,甲14から添加部位に関して何らかの示唆を受けるとす
れば,それは衣などの表皮部分への添加である。
すなわち,甲14に記載の品質改良剤としての乳酸ナトリウムは,えびフライと
コロッケにのみ添加が許されており,他の7品目(しゅうまい,ぎょうざ,春巻,
ハンバーグステーキ・ミートボール,フィッシュハンバーグ・フィッシュボール)
にはその添加が許されていない。ここで乳酸ナトリウムの添加が許されているえび
フライとコロッケは,衣材を有する。一方,添加が認められていない他の7品目は,
表皮部分が皮であるか,表皮部分がなく,いずれも衣材が存在しない。このような
甲14に接した当業者は,品質改良剤としての乳酸ナトリウムを衣材に添加するこ
とを示唆されるはずである。
よって,甲14に基づいて,当業者が本件発明1に想到することはできない。
(3) なお,原告は, 添加物としての乳酸ナトリウムの古くからの用途としては,

ケーキなどに混ぜて保湿性により口当たりを滑らかにするということがある。こう
した使用法が前提となっていることから,甲14のえびフライやコロッケの『品質
改良剤』というのも,むしろ具に混ぜることを指していると理解されるべきである。」
と主張する。
しかしながら,上記のとおり,甲14に添加部位に関する記載はなく,甲14に
接した当事者が何らかの示唆を受けるとすれば,それは表皮部分への添加である。
また,そもそも,訴訟段階において甲83を副引例とすることは許されない。さら
に,甲14に係る冷凍食品のJAS規格において, 保湿剤」としての使用が認めら

れているのは「D−ソルビトール」のみであって,保湿剤として乳酸ナトリウムを
使用することは禁止されていること,また,乳酸ナトリウムの使用が許される品目
は冷凍えびフライと冷凍コロッケのみであり,それ以外の品目について乳酸ナトリ
ウムの使用は許されていないことからすると,仮に「ケーキなどに混ぜて保湿性に
より口当たりを滑らかにする」という使用法が存在したとしても,乳酸ナトリウム
を保湿剤として用いる従来技術やケーキに関する従来技術を,甲14の記載と組み
合わせることはできない。
また,乳酸ナトリウムをケーキに使用する場合,ケーキの主原料である小麦粉や
ミックス粉に対して乳酸ナトリウムが添加されるものと推測されるが,そうであれ
ば,当業者は,具材側ではなく,てんぷらやフライの衣材側(ミックス粉など)へ
の添加を示唆されるはずである。
さらに,原告は,甲9(原告子会社のパンフレット)を前提として甲14を解釈
することを主張するが,甲9の頒布時期が本件発明の出願日後であると認められる
こと,甲9には,乳酸ナトリウムを小麦粉に対して添加することが記載されており,
甲9のこの記載を前提にして甲14を見た場合,当業者が想起するのは,当該冷凍
フライ食品の小麦粉を利用した部分である表皮部分への添加であることから,甲1
4から当業者が本件発明1を想到することはない。そして,このことは,甲85及
び86(原告又はその子会社のパンフレット)についてもほぼ同様である。
4 「本件請求項2∼5の無効」との主張に対して
本件発明1が新規性及び進歩性を有する以上,同様の理由により,本件発明2∼
6も新規性及び進歩性を有する。
また,甲4には,乳酸ナトリウムの具体的添加量に関する記載はなく,架橋澱粉
やカラギーナンの使用やその添加量に関する記載もないため,本件発明2∼4が甲
4に対して進歩性を有する。
甲4には,冷凍フライ食品が一切記載されていないから,本件発明5が甲4に対
して進歩性を有する。
甲4に記載されているフライ食品はエビフライとエビてんぷらのみであるから,
冷凍春巻や冷凍コロッケに関する本件発明6が甲4に対して進歩性を有することも
明らかである。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の甲4発明に対する新規性の不存在)について
(1)ア 本件特許明細書(甲71)には,次の記載がある。
「 0005】
【 【発明が解決しようとする課題】本発明は,特にプレフライ後,冷凍保存して
使用された場合でも,オーブントースターや電子レンジ等のより簡便な調理法によって,フラ
イ直後のようなパリパリ,サクサク,カリカリ等と表現されるようなクリスピーな食感の美味
しく食することのできるフライ食品,およびそのような食感を付与できるフライ食品用の具材
を提供することを目的とするものである。」
「 0006】
【 【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記課題を解決するため鋭意研
究を重ねた結果,具材に対し,架橋澱粉または乳酸Na,あるいは『乳酸Na』と『架橋澱粉
および/またはカラギーナン』を添加すると,これをプレフライして冷凍保存した後,電子レ
ンジで再加熱するだけで,フライ直後のようなクリスピーな食感のフライ食品が得られること
を発見し,しかも,α化澱粉を用いる従来法に比べて,その効果が著しいことを確認し,本発
明を完成するに至った。」
「 0009】本発明におけるフライ食品とは,春巻,揚げギョウザ,揚げシューマイ,揚げ

ワンタン,揚げパン,フライドパイ,てんぷら,コロッケ,トンカツ,クリームコロッケ等,
油で揚げて調理する食品であり,特にこれらは,中身の具材部分と通常衣と呼ばれる表皮部分
が存在し,さらに,コロッケ,トンカツ,クリームコロッケ等は,具材部分と表皮部分の間に
小麦粉と水を主成分とするバッター液に由来するペースト状の層が存在する。」
「 0010】フライ食品用の具材としては,通常使用されている原料を用いればよく,例え

ば,肉類,魚類,野菜類その他必要により添加されるものが挙げられる。肉類としては牛肉,
豚肉,鶏肉であり,通常はスライス状,細切り状,ミンチ状になったものである。魚類として
はタラ,ホキ,アジ,いわし等であり,通常はスリ身状になったものである。野菜類としては,
キャベツ,タマネギ,ジャガイモ,ニンジン等であり,通常は細かくカットあるいはペースト
状になったものである。その他澱粉,調味料等が例示される。」
「 0011】上記のような原料をカット,混練,加熱等して,中身の具材成形する。これを

パン粉,麺帯,春巻の皮等で包み込み,次いでフライし,冷凍等の工程を経てフライ食品とな
る。」
「 0013】添加法はフライ食品用具材を加熱する前に混合するだけでよいが,原料中の粉

末類と予め混合することが好ましい。本発明の具材を用いて,フライ食品を調製した後,通常
はプレフライし,冷凍保存することが好ましい。もちろん,冷凍保存することなく提供するこ
ともできるが,冷凍保存により流通させることが,より好ましい。通常,本発明の冷凍フライ
食品は,食用に供する前にオーブントースターや,電子レンジ等により加熱すればよいが,も
ちろん,油で処理することも可能である。油で処理する場合には,事前にプレフライすること
は不要となる場合が多い。パン粉の粒径,麺帯の厚さ,大きさ,形は公知の例に準ずることが
できる。」
【実施例】によれば,架橋澱粉及び/又は乳酸ナトリウムを添加した具材部分を春巻の皮で
巻きプレフライ後冷凍保存した春巻を再加熱後,また,架橋澱粉及び乳酸ナトリウムを添加し
た具材部分にパン粉付けをし未フライで冷凍保存したクリームコロッケをフライ後,それぞれ
官能検査を行ったところ,食感の良さ,パリパリ感あるいはサクサク感,食味の良さに優れる
という結果が得られたことが記載されている。
イ 以上の記載によれば,本件発明1における「冷凍フライ食品」とは, 中身で

ある具材部分と衣である表皮部分とが存在し,具材部分に架橋澱粉又は乳酸ナトリ
ウムが添加され,その状態で冷凍され,冷凍の前後又はそのいずれかにおいて油で
揚げて調理される食品」と認めることができる。
(2)ア 一方,甲4には,次の記載がある。
「 請求項1】エビを(1)塩類の水溶液に浸漬させた後に,(2)アミノ酸並びに有機酸及び/又

は有機酸塩からなる水溶液に浸漬させることを特徴とするエビの処理方法。

「 請求項5】有機酸塩が酢酸ナトリウム,乳酸ナトリウムである請求項1記載の処理方法。
【 」
「 0001】
【 【産業上の利用分野】本発明は,エビの処理方法及び該エビを用いた冷凍食品
に関する。」
「 0002】
【 【従来の技術】エビは弁当類の具剤として非常によく用いられる素材である。
エビフライ,エビてんぷら等を有する弁当類は美味の為デパート,コンビニエンスストア等で
広く販売されている。しかし,エビは常に微生物汚染から生じる食中毒の危険がつきまとう。
これは,調理加熱後,消費者が食する迄,一定期間室温で保存される為である。即ち,この室
温保存中に微生物が急激に増殖するからである。この為,製造業者は保存性を向上させる為に
厳しい加熱条件で処理し,次にグリシン等の市販の日持ち向上剤を添加する等の工夫を施して
いる。しかし,このような処理を施すと,保存性は確保できるが,エビは硬くなり食感,味が
悪くなるという欠点が生じる。」
「 0004】
【 【課題を解決するための手段】上記課題を解決する為に本発明者らは鋭意検討
を加えた結果,(1)エビを塩類の水溶液に浸漬させた後に,(2)アミノ酸並びに有機酸及び/又
は有機酸塩からなる水溶液に浸漬させることにより,本発明を完成するに至らしめた。
・・・」
「 0005】まず,原料となるエビを塩類の水様液に浸漬させる。ここに,塩類の水溶液と

は(a)エビの塩溶性タンパク質を可溶化させる作用の大きい塩類及び(b)水溶液にした場合にア
ルカリ性を呈する塩類の両方を含む水溶液を用いる。・・・」
「 0008】この浸漬処理によりエビに保水効果をもたせることができる。
【 ・・・」
「 0010】次に,エビをアミノ酸並びに有機酸及び/又は有機酸塩からなる水様液に浸漬

させる。この処理も本発明の特徴の一つである。本発明で用いられるアミノ酸として微生物の
増殖を抑制する作用を持つアミノ酸,例えばグリシン,スレオニン等である。・・・」
「 0011】本発明で使用される有機酸としては,例えば乳酸,酢酸,クエン酸,リンゴ酸

等を用いることができ,この中から選ばれた1又は2種類以上の有機酸を使用すれば良い。特
に,このなかでも乳酸,酢酸の使用が好ましい。また,有機酸塩としては乳酸ナトリウム,乳
酸カルシウム,酢酸ナトリウム,クエン酸ナトリウム等を挙げることができ,このなかから選
ばれた1又は2種類以上の有機酸塩を用いればよい。特に,乳酸ナトリウム,酢酸ナトリウム
が好ましい。本発明においては有機酸及び有機酸塩を組み合わせて用いても,それぞれを単独
に用いてもよい。添加量は処理液のpHが通常5.5−1.5,好ましくは4.5−4.0に
なるように添加すればよい。・・・」
「 0012】このようにアミノ酸と有機酸及び/又は有機酸塩の混合溶液に浸漬処理するこ

とによりエビのpHを7.5以下にすることができる。このpH7.5以下という条件で初め
て,味に影響の出ない少量で,グリシン等の微生物増殖抑制作用をもつアミノ酸の作用を発揮
させることができる。」
「 0013】
【 このような2段階浸漬処理を施したエビはそのまま調理に付しても良く,また,
冷凍処理して流通過程にのせても良い。本発明方法で得られるエビをてんぷら,フライ類に使
用すると加熱しても食感が良く,しかも保存性に富むてんぷら,フライ類を作ることが可能で
ある。従って弁当等の外食産業にとって極めて有用な技術である。」
【実施例】では,(1)生エビを炭酸水素ナトリウム2.8%と塩化ナトリウム5.0%の水溶
液に浸漬させた後,(2)乳酸0.6%とグリシン0.6%の水溶液に浸漬させた後,エビを凍結
保存し,このエビを解凍しててんぷらに調理すると,無処理のものに比べ,食感,常温におけ
る保存性に優れることが記載されている。
「 0019】
【 【効果】本発明の方法により処理したエビを用いて調製したてんぷら,フライ
等は味,食感とも優れ,かつ常温で長期保存可能という優れた特徴を有する。」
イ 以上によれば,甲4には,2段階浸漬処理を施したエビを,そのまま調理す
ること,冷凍処理して流通過程にのせること及び凍結保存後解凍しててんぷらに調
理することが記載されている。
しかし,甲4には,エビに衣を付けたまま冷凍することについては何ら記載され
ておらず,甲4記載のエビが,上記(1)イのとおりの,本件発明1にいう「冷凍フラ
イ食品用の具材」であるということはできない。
(3) 原告は,①本件発明1にいう「冷凍フライ食品用の具材」との要件に対して
甲4に「冷凍処理して流通過程にのせても良い」との記載がある,②本件発明1が
「該フライ食品には具材部分と表皮部分とが存在する」ことにつき, 冷凍を経て衣

付きのフライにするのでありさえすれば,この『具材』に当たるはずである」 ③甲

4は,『本発明は,エビの処理方法及び該エビを用いた冷凍食品に関する。 と記載
「 』
する『冷凍食品に関する発明』であるところ,衣を付けた状態での冷凍を否定して
いない。本件請求項1の文言をもって『衣付きでの冷凍』を意味するというなら,
むしろ甲4も同様に理解するべきである。,などと,本件発明1が甲4発明に対し

て新規性を有しないと主張する。
しかしながら,上記(1)のとおり,甲1発明の「冷凍フライ食品」は,「中身であ
る具材部分と衣である表皮部分とが存在し,
・・・その状態で冷凍され」
るものであ
るのに対し,上記(2)のとおり,甲4には,エビに衣を付けたまま冷凍することにつ
いては何ら記載されていないものであって,原告の上記主張は,いずれも採用する
ことができない。
(4) したがって,甲4に対して本件発明1が新規性を有さないものと認めること
はできず,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件発明1の甲4発明に対する進歩性の不存在)について
(1) 前記1(2)アのとおりの甲4の記載によれば,甲4発明は,味,食感及び常
温における保存性に優れるエビを提供するために,グリシン等のアミノ酸からなる
微生物増殖抑制成分と,乳酸ナトリウム等の有機酸及び/又は有機酸塩を併用する
ものであると認められ,この常温における保存性に優れるとされるエビにつき, 冷

凍フライ食品」とするために,このエビに衣を付けた上,更に冷凍保存しようとす
るための動機付けを,甲4が当業者に与えるものとはいえない。
そして,前記1(1)によれば,本件発明1は,具材部分と表皮部分とを有する冷凍
フライ食品の具材に架橋澱粉又は乳酸ナトリウムを添加することにより,プレフラ
イして冷凍保存した後に電子レンジで再加熱した場合,又は冷凍保存した後にフラ
イした場合,クリスピーな食感のフライ食品が得られるという効果を奏し得るもの
であり,このような効果は,エビ自体の味,食感や常温における保存性を目的とす
る甲4発明からは予測できない格別なものというべきである。
(2)ア 原告は, 甲4には, 食感』の向上ということが明示されており,これを
「 『
主目的とした場合に,そのフライを冷凍にすることも当たり前である。冷凍にする
予定のフライの具材に混ぜるということでも同じである。」と主張する。
しかしながら,甲4における「 食感』の向上」とは,前記1(2)アのとおりの甲

4の記載,特に甲4の「 0002】
【 ・・・製造業者は保存性を向上させる為に厳し
い加熱条件で処理し,次にグリシン等の市販の日持ち向上剤を添加する等の工夫を
施している。しかし,このような処理を施すと,保存性は確保できるが,エビは硬
くなり食感,味が悪くなるという欠点が生じる。,【0008】この浸漬処理によ
」「
りエビに保水効果をもたせることができる。
・・・」「 0013】このような2段
,【
階浸漬処理を施したエビはそのまま調理に付しても良く,また,冷凍処理して流通
過程にのせても良い。本発明方法で得られるエビをてんぷら,フライ類に使用する
と加熱しても食感が良く,しかも保存性に富む天ぷら,フライ類を作ることが可能
である。・・・」との記載によれば,エビの保水性を保ち,エビ自体が硬くなり,食
感や味が悪くなることを防ぐというものであって,本件発明1のようなフライ食品
のフライ後のクリスピーな食感を保持するということとは異なるものである。そし
て,食品を冷凍した上で解凍すれば,食感が劣化することはあっても向上すること
が一般的であるとは認め難いから,食感の向上を目的とする当業者にとって,甲4
記載の常温のフライ食品を冷凍することが当たり前であるとはいえない。
原告の上記主張は採用できない。
イ また,原告は, 乳酸ナトリウム添加が保存性の目的だったとしても,甲4に

は冷凍することを禁止する記載もなく,さらに保存性を高めるために冷凍しようと
考えることも自然である。
」と主張する。
しかしながら,常温保存可能とされる食品をさらに冷凍保存することが一般的で
あるとは認め難いから,グリシンや乳酸ナトリウム等の作用により,甲4「 001

9】 効果】本発明の方法により処理したエビを用いて調製したてんぷら,フライ等

は味,食感とも優れ,かつ常温で長期保存可能という優れた特徴を有する。 という

ように,常温における保存性に優れるとされる甲4に記載のエビてんぷら等のフラ
イ食品を,更に保存性を高めるために冷凍することが,甲4に接した当業者にとっ
て自然な行為であるとは認められない。
ウ さらに,原告は, 冷凍食品につき,冷凍の間は保存に問題がなくても,製造

過程や解凍後の品質保持のために,日持ち向上剤を使うことは一般的である(保存
料は普通は使わないが)
。甲4自体,
『冷凍食品』を対象としながら,その保存性を
問題とし,グリシンなどを『日持ち向上剤』として使う内容となっている。 と主張

する。
しかしながら,甲4では,グリシンが「日持ち向上剤」であれ「保存料」であれ,
エビの常温での保存性を高めるものであるから,甲4における常温における保存性
に優れるとされるエビをフライした食品を,更に冷凍保存しようとするための動機
付けを甲4が当業者に与えるものとはいえず,原告の主張は採用できない。
エ 原告は,本件特許明細書に記載される サクサク感を向上させるという効果』
「 『
と『保存性向上』とは,いずれも吸水性に基づく働きとして共通である。, 乳酸ナ
」「
トリウムの物性として,吸湿性は昔からよく知られたものであるが,本件特許明細
書の内容である,サクサク感の向上は,この吸湿性から極めて自然に予期される,
言わば当たり前の効果である 。,乳酸ナトリウムも当然に保水剤として働くもので
」「
あり,硬くなるのを防ぐ。
」と主張する。
しかしながら,甲4には,乳酸ナトリウムの吸水,保水及び吸湿性に関する記載
を見いだせず,また,乳酸ナトリウムの吸水,保水及び吸湿性という性質から,本
件発明1の上記効果が経験的又は理論的に導き出せるといえる根拠を甲4や審判時
の関係書証から見いだすこともできず,これが周知であるともいい難く,原告の上
記主張も採用することができない。
オ さらに,原告は,本件発明1の効果は大したものではなく,特許を認められ
るべきものではない,と主張する。
しかしながら,本件発明1の効果は,本件特許明細書の実施例において裏付けら
れており,一方,甲4には,このような効果を予測させる記載はないのであるから,
甲4から本件発明の進歩性が否定されるものではない。
(3) したがって,甲4発明に対して本件発明1は進歩性がないと認めることがで
きず,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明1の甲14に対する進歩性の不存在)について
(1) 甲14(髙橋雅弘監修「冷凍食品の知識」
〔株式会社幸書房〕昭和57年4
月10日発行の207頁「表9.16『調理冷凍食品特定9品目における食品添加
物の品目別リスト』)には,えびフライ,コロッケ,しゅうまい,ぎょうざ,春巻,

ハンバーグステーキ・ミートボール及びフイシュハンバーグ・フィッシュボールの
9品目のリストが記載され,えびフライとコロッケにのみ,品質改良剤として乳酸
ナトリウムを添加することが記載されている。
しかしながら,乳酸ナトリウムをえびフライやコロッケのどの部分に添加するの
か,また,乳酸ナトリウムを添加することにより,えびフライとコロッケのいかな
る品質をどのように改良するのか,については記載されていない。
以上によれば,このような甲14の記載から,甲14が乳酸ナトリウムをえびフ
ライやコロッケの具材部分に添加するための動機付けを当業者に与えるものとはい
えない。
そして,前記2(1)のとおり,本件発明1は,具材部分と表皮部分とを有する冷凍
フライ食品の具材に架橋澱粉又は乳酸ナトリウムを添加することにより,プレフラ
イして冷凍保存した後に電子レンジで再加熱した場合,又は冷凍保存した後にフラ
イした場合,クリスピーな食感のフライ食品が得られるという効果を奏し得るもの
であり,このような効果は,えびフライとコロッケのいかなる品質をどのように改
良するのか明らかでない甲14に記載された内容からは予測できない格別なもので
あると認められる。
(2) 原告は,「乳酸ナトリウムの古くからの用途としては,ケーキなどに混ぜて
保湿性により口当たりを滑らかにする,というものがある」とし,甲83を引用し
て 肉に添加して水分活性制御によって保存性を良くすること」甲9を引用して 乳
「 , 「
酸ナトリウムは, 冷凍障害防止,離水防止』を目的として『冷凍食品』に一般的に

使われてきたものであること 」 甲85及び86を引用して「乳酸ナトリウムは,保

湿性を主な効果としており,同時に離水防止などが説明されていること」などを指
摘し,これらを前提とすると,甲14の「品質改良剤」としての乳酸ナトリウムの
えびフライやコロッケへの使用をみると, 品質改良」
「 の対象としてまず考えられる
のは保湿性による滑らかさであり,乳酸ナトリウムは,フライの場合なら具材にこ
そ適用されるべきものであることが理解できる,と主張する(なお,甲83,85
及び86は,いずれも審判で提出されていない書証である。。

しかしながら,上記各号証のうち,甲83,85及び86においては,乳酸ナト
リウムを添加する対象の食品としてケーキなどの菓子類が挙げられているものの,
冷凍フライ食品に該当するものは記載されておらず,ケーキなどの食品における保
湿性の効果等の知見に基づいて,甲14記載の乳酸ナトリウムをえびフライやコロ
ッケの具材部分に添加するべきことを当業者が理解できるものとはいえない。
また,
甲9においては,乳酸ナトリウムを冷凍食品に添加することが記載されているが,
その「添加量%」につき「小麦粉の0.3∼2.0」と記載されていることからみ
て,その添加部位は,小麦粉を主成分とする部位であると認められる。そうすると,
甲9に接した当業者は,フライの冷凍食品ならば,小麦粉を主成分とする部位であ
る衣の部分が乳酸ナトリウムの添加部位であると理解するものと認められる。
さらに,上記各号証に記載された,保湿性によって口当たりを滑らかにするとい
うケーキ等における効果や上記冷凍食品における「冷凍障害防止,離水防止」とい
う効果から,本件発明1のサクサク感を向上させるという効果が当業者に容易に予
測し得たものとは認められない。
(3) したがって,甲14に対して本件発明1は進歩性がないと認めることができ
ず,取消事由3は理由がない。
4 「本件請求項2∼5の無効」との主張について
本件発明2∼4は,本件発明1を技術的に具体化又は限定したものであるから,
本件発明1と同様の理由で,甲4に記載されたものとはいえず,また,甲4又は甲
14に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
本件発明5及び6は,本件発明1∼4の冷凍フライ食品用の具材を用いた冷凍フ
ライ食品に係るものであり,本件発明1と同様の理由で,甲4に記載されたものと
はいえず,また,甲4又は甲14に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものとはいえない。
5 結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求は理由がないから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
塚 原 朋 一
裁判官
本 多 知 成
裁判官
田 中 孝 一

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