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平成19(行ケ)10065審決取消請求事件

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裁判所 審決取消 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成20年9月30日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官鈴木隆史
原告イー.アール.スクィブアンド
対象物 連結部材およびカップリン
法令 特許権
特許法159条2項6回
特許法29条2項2回
特許法29条1項3号2回
キーワード 審決32回
進歩性9回
分割4回
実施3回
拒絶査定不服審判2回
刊行物2回
特許権1回
優先権1回
新規性1回
主文 1 特許庁が不服2006−10408号事件について平成18年10月11日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成5年(1993年)5月10日(パリ条約による優先権主張外 国庁受理平成4年(1992年)5月12日,同年11月5日,英国)を国際 出願日とした特許出願(特願平5−519979号)の一部を分割して平成1 5年2月5日に特許出願(特願2003−28877号)をし,更にその一部 を分割して,平成16年7月8日に発明の名称を「連結部材およびカップリン 」 ( 。 「 」グ とする発明につき特許出願 特願2004−202311号 以下 本願 という )をした。。 原告は,本願につき平成17年5月9日付け手続補正書(甲6)により特許 請求の範囲の補正をしたが,平成18年3月29日付けの拒絶査定を受け(甲 10 ,同年5月19日,これに対する不服の審判(不服2006−1040) 8号事件)を請求し(甲11 ,本願につき同日付け手続補正書(甲7)によ) り特許請求の範囲の補正をした(平成18年5月19日付け手続補正書による 補正後の請求項の数は11である。以下,同補正後の明細書を「本願明細書」 という 。。)

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判決文

平成20年9月30日 判決言渡

平成19年(行ケ)第10065号 審決取消請求事件

平成20年8月26日 口頭弁論終結

判 決

原 告 イー.アール.スクィブ アンド

サンズ,インコーポレイテッド

訴訟代理人弁理士 谷 義 一

同 阿 部 和 夫

同 新 開 正 史

同 窪 田 郁 大

同 小 林 武 彦

被 告 特許庁長官 鈴木隆史

指 定 代 理 人 森 川 元 嗣

同 中 島 成

同 小 林 和 男

同 亀 丸 広 司

主 文

1 特許庁が不服2006−10408号事件について平成18年10

月11日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

主文同旨

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯原告は,平成5年(1993年)5月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成4年(1992年)5月12日,同年11月5日,英国)を国際出願日とした特許出願(特願平5−519979号)の一部を分割して平成15年2月5日に特許出願(特願2003−28877号)をし,更にその一部を分割して,平成16年7月8日に発明の名称を「連結部材およびカップリング」とする発明につき特許出願(特願2004−202311号。以下「本願」という。)をした。原告は,本願につき平成17年5月9日付け手続補正書(甲6)により特許請求の範囲の補正をしたが,平成18年3月29日付けの拒絶査定を受け(甲10 ),同年5月19日,これに対する不服の審判(不服2006−10408号事件)を請求し(甲11),本願につき同日付け手続補正書(甲7)により特許請求の範囲の補正をした(平成18年5月19日付け手続補正書による補正後の請求項の数は11である。以下,同補正後の明細書を「本願明細書」という。。)特許庁は,平成18年10月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月20日原告に送達された。特許請求の範囲本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである 以下,(請求項1記載の発明を「本願発明」という。。)「 請求項1】オストミー,失禁または創傷医療器具に装着して使用するた【めの連結部材であって,周方向連続壁を有する環状ボディを具え,前記周方向連続壁にはアンダーカット構造が設けられ,このアンダーカット構造は,円周方向に不連続な複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具え,前記複数のアンダーカット円弧状部は,前記環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有することを特徴とする連結部材。」審決の理由

(1) 別紙審決書写しのとおりであり,要するに,本願発明は,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平1−299552号公報(甲1)及び特開昭58−165842号公報(甲2)に記載された発明(以下,特開平成1−299552号公報(甲1)を「引用例1」 そこに記載された発明を「引,用発明1」といい,特開昭58−165842号公報(甲2)を「引用例2 」といい,そこに記載された発明を「引用発明2」という 。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,とするものである。

(2) 審決が,本願発明に進歩性がないとの結論を導く過程において認定した引用発明1,引用発明2の内容並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点,相違点について行った容易想到性の判断は,次のとおりである。ア 各引用発明の内容(ア) 引用発明1人工肛門用カップリングの第1要素12であって,半径方向外部壁124を有する環状溝形の形状を有し,半径方向外部壁124には,その内周全周に内方に延びるリム122が設けられた第1要素12。(イ) 引用発明2人工肛門形成用バッグの第1カツプリング要素24であって,横方向フランジ26,内部壁28および複数の弓形突出部32を有し,複数の弓形突出部32は周方向に各々離間されて環状列に配置されており,該弓形突出部32は,その内方に,なめらかに湾曲した面36とカツプリングの軸40に対し50°∼70°,好ましくは60°の角度で配置されているまつすぐなフツク面38で形成されるフツク部34を有し,該弓形突出部材32は周囲方向へ互いに一定間隔隔てて配置されている第1カツプリング要素24。イ 本願発明と引用発明1の一致点オストミー,失禁または創傷医療器具に装着して使用するための連結部材であって,周方向連続壁を有する環状ボディを具え,前記周方向連続壁にはアンダーカット構造が設けられた連結部材。ウ 本願発明と引用発明1の相違点アンダーカット構造に関し,本願発明は,円周方向に不連続な複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具え,複数のアンダーカット円弧状部は,環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有しているのに対して,引用発明1は,半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周にリム122が設けられていて,環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面を有しているか否かは明確でない点。エ 相違点についての容易想到性の判断その機能,構造からみて,引用発明2の「人工肛門形成用バツグの第1カツプリング要素24」「フツク部34」は,本願発明の「オストミー,,失禁または創傷医療器具に装着して使用するための連結部材」「アンダー,カット構造」に,それぞれ相当する。そして,引用発明2の「フツク部34」は,周方向に各々離間されて環状列に配置された各々の弓形突出部32に設けられているから,引用発明2においても,円周方向に不連続な複数の「フツク部34」が複数の空隙に対して交互に配置されているといえる。また,フツク部34に形成されたまつすぐなフツク面38は,カツプリングの軸40に対し50°∼70°,好ましくは60°の角度で配置されているから,「フツク部34」は,該軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有しているといえる。そうすると,引用発明2は,「オストミー,失禁または創傷医療器具に装着して使用するための連結部材」である点で本願発明,引用発明1と同じ技術分野に属し,引用発明2の「フツク部34」は,上記の様な構成を具えているといえるから,引用発明1,2に接した当業者ならば,引用発明1の半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周に設けられたリム122に代えて,引用発明2のフツク部34を採用し,本願発明の相違点に係る構成とすることは容易に想到し得た。

第3 取消事由に係る

(原告の主張)

審決は,次に述べるとおり,特許法159条2項に違反する手続の誤り(取消事由1 ),相違点についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2)があるので,違法として取り消されるべきである。

1 特許法159条2項に違反する手続の誤り(取消事由1)

引用例2(特開昭58−165842号公報,甲2)は,平成18年3月29日付け拒絶査定(甲10)の備考欄の中で,連結部材を円周方向に不連続であって複数の円弧状部にすることが周知技術であることを述べるために例示された2件の公開特許公報中の一つとして摘示されているにすぎないため,原告には,引用例2に対して意見を述べる機会を付与したものとはいえない なお,(引用例2によっても,連結部材を円周方向に不連続であって複数の円弧状部にするという技術が周知事項ともいえない 。。)したがって,審判官が,当業者が本願発明を引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明することができたという理由を通知しなかったことは,特許法159条2項に反する手続の誤りであり,審決には特許法159条2項に違反する手続の違法がある。

2 相違点についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

(1) 引用発明1のリム122に代えて引用発明2の突出部材32におけるフ

ック部34を採用することについての容易想到性ア(ア) 本願発明の技術的意義は ,アンダーカットリング部材の構造として,成形されたアンダーカットリング部材をコアから取り出す際に「回し抜き法」を採用するのに適した構造を提供することにより,ウィトネスラインの解消と深いアンダーカットの形成を実現し,もって確実な密閉機能が得られる連結部材を提供する点にある。これに対して,引用発明1の構造では,相対回転が第1要素12を拡径させるようなカム動作を生じないため,「回し抜き法」は,そもそも実行不可能である。したがって,第1要素12を成形コアから抜き出す目的で,単一の成形コアを用いる場合には,リム122を引き剥がし方向に弾性変形させて強制的に抜き出すことになり,深いアンダーカットを形成できないし,周囲方向に分割可能な組み合わせコアを用いる場合には,ウィトネスラインの生成が避けられない。他方,引用発明2の構造において「回し抜き法」が実行可能であるかどうかは,使用される成形コアの構造や型抜き方法が記載されていないため,必ずしも明らかでないが,引用例2には,少なくとも「回し抜き法」に関する記載や示唆はない。(イ) 本願発明のようにアンダーカット円弧状部を不連続とする一方で,壁部を殊更に周囲方向に連続したもの(周方向連続壁)とする構造に想到するためには,カップリングに柔軟性を付与するという引用例2に記載された作用効果を認識するだけでは足りず,型抜き方法として「回し抜き法」を採用するという着想が必要不可欠ある。したがって,引用発明2の突出部材32からフック部34のみを殊更に抽出して引用発明1に適用するための動機づけは,引用例1,引用例2に記載されていないのはもとより,およそ本願出願前にはなかった。(ウ) 引用発明2において,突出部材32を周囲方向に不連続にした目的は,カップリングに柔軟性を付与することにあると解されるところ,引用発明2の突出部材32からフック部34のみを殊更に抽出して引用発明1に適用し,本願発明のようにアンダーカット円弧状部を不連続とする一方で,壁部のみを殊更に周囲方向に連続したもの(周方向連続壁)とする構造を採ることは,突出部材32及びフック部34を共に不連続に構成する引用発明2の構造に比して,壁部が連続している分だけカップリングの柔軟性が大きく劣ることになり,柔軟性を付与するという引用発明2の発明の目的に反することになる。このため,カップリングに柔軟性を付与するという引用例2における作用効果の記載に接した当業者が,この作用効果に反することとなる周方向連続壁(引用例1,及び引用例1において言及された英国特許第1571657号(甲3),第1568860号(甲4))に記載されている。)を敢えて採用することは考えがたい。(エ) 以上のように,引用例1及び引用例2には本願発明の動機づけが一切存在せず,引用例2にはかえって本願発明の構成(周方向連続壁)の採用を妨げる記載が存在するから,たとえ周囲方向に連続した半径方向外部壁124が引用例1に記載され,またフック部34を有する周囲方向に不連続な突出部材32が引用例2に記載されているとしても,これらの技術事項に基づいて本願発明をなすことは,当業者において著しく困難である。イ 審決は,引用発明2における一連の突出部材32が空間33を隔てて周囲方向に互いに一定間隔に配されていることから,引用発明1のリム122に代えて引用発明2の突出部材32におけるフック部34を採用し,本願発明の相違点に係る構成とすることは容易に想到し得ると判断したが(審決5頁13ないし19行 ),前記ア(ア)ないし(エ)に述べたとおり,審決の判断は誤りである。

(2) 顕著な作用効果

ア(ア) 本願発明は,周方向連続壁にアンダーカット構造を設け,かつ複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙と交互に配しているので,「回し抜き法」の採用に好適であり,ウィトネスラインの解消と深いアンダーカットの形成を実現し,もって確実な密閉機能が得られる連結部材を提供することができ,このような作用効果は,引用例1,引用例2から容易に予測することができない。(イ) 引用例1では「回し抜き法」の実行自体が不可能である結果,単一の成形コアでは深いアンダーカットを形成できず,組み合わせコアでは深いアンダーカットを形成できたとしてもウィトネスラインの生成が避けられないため,いずれも製品の密閉機能に問題が生ずる可能性がある 。また,引用例2では,「回し抜き法」が実行可能であるかは明らかでないが,少なくとも「回し抜き法」に関する記載や示唆は引用例2には何ら存在しない。(ウ) 「回し抜き法」に係る着想自体,本願出願時において新規性及び進歩性を有するものであり,引用例1,引用例2のいずれにも記載,示唆されていなかった。(エ) 以上によれば,本願発明の作用効果は当業者に予期できない顕著なものであった。イ 審決は ,本願発明の作用効果につき, 上記相違点によって奏する作用,「効果は,引用発明1,2から予測される範囲のものであって,格別なものではない。」と判断したが(審決5頁20ないし21行 ),前記ア(ア)ないし(エ)に述べたとおり,審決の判断は誤りである。

(3) 本願発明の進歩性を肯定すべきその他の事情

ア 本願発明完成の経緯及び他の効果原告はオストミーカップリングの分野を専門とし,当該分野の世界的リーダーであり,引用例1,引用例2は,原告が開発に関与し,引用例1に係る特許権は原告が有している(甲13 )。このため,原告は両引用例の技術内容を熟知しており,かつ本願発明が両引用例に開示,示唆されていないものと明瞭に認識している。本願発明は ,「回し抜き法」を好適に実行できるため,深いアンダーカットの形成,係合面の急角度化,及びウィトネスラインの解消を一挙に実現することができる。本願発明では,密閉性の向上により,アンダーカットリング部材を薄肉にすることが可能になり,さらには薄肉化の結果である柔軟性の向上によって,結合・分離が容易となる。また結合・分離が容易になることよって,結合・分離時の患者の苦痛も軽減されるから,引用例1における第2部品24のような圧力吸収用の部品を省略してカップリングの軸方向寸法を小さくすることも可能となる(ただし,本願発明はこのような圧力吸収用の部品を使用する構成も排除していない。。これらの)効果は,本願発明の進歩性を判断するに当たり考慮されるべきである。イ 商業的成功本願発明の実施品の2004年,2005年及び2006年における年間売上高は,全世界でいずれも1億米ドル 約120億円 )( を超えており,日本でも1千万米ドル(約12億円)を超えている。このような商業的成功は本願発明の進歩性を判断するに当たり考慮されるべきである。

第4 被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。

1 特許法159条2項に違反する手続の誤り(取消事由1)

拒絶査定(甲10)には,周知技術として引用例2が示されているから,原告は,審判請求時に,引用例2の内容を検討し,審判請求書において意見を述べる機会があり,また,手続補正書を提出する機会があった。そして,原告は ,審決が引用した引用例2に対して,審判請求書(甲11)5頁3ないし8行,7頁15ないし22行において意見を述べており,また,これを踏まえて手続補正書(甲7)を提出し,特許請求の範囲を補正した。そのため,原告には,引用例2に対して,意見を述べる機会及び正当な攻撃防御の手段を活用する機会が与えられていた。したがって,本願の手続は特許法159条2項に違反しておらず,取消事由1に関する

(原告の主張)

は理由がない。相違点についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

(1) 引用発明1のリム122に代えて引用発明2の突出部材32におけるフ

ック部34を採用することの容易想到性についてア 主位的な反論(ア) 本願の特許請求の範囲の請求項1には,連結部材の構造が記載されているのみで,射出成形により製造されるための技術的手段(例えば,連結部材の材料等),型抜き方法として「回し抜き法」を採用するための技術的手段は何ら記載されていないから,本願発明の連結部材は,射出成形,「回し抜き法」以外の製造方法(例えば,鋳造等),型抜き方法(例えば,割り型等)によって製造されるものも含むものであり,本願発明が「回し抜き法」を採用するものであるとする原告の本願発明の技術的意義についての主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。(イ) 引用例2には,フック部34に関して,「各突出部材32は第1図から明らかな如く弓形で,それぞれ内方へ面するフツク部34を有する 。これは各弓形突出部32の全周辺長さに沿つて延びていてよい 。(4頁」右上欄7ないし10行)との記載があり,この記載からみて,突出部材32には,その周囲方向の全長にわたってフック部34が形成されているものばかりでなく,その周囲方向の一部にフック部34が形成されているものも示唆されているといえる。また,引用例2に,突出部材32の周囲方向の全長にわたってフック部34が形成されていることのみが記載されているとしても,そもそも突出部材32自体が円周方向に空隙を介して不連続に設けられているから,全体的に見て,フック部34は円周方向に空隙を介して不連続に第1カップリング要素24に設けられていることは明らかである。そして,フック部34は,第2カップリング要素24′のステップ構造54の表面62に係合して第1カップリング要素と第2カップリング要素を連結するものであるから,引用例1のリム122,本願発明のアンダーカット構造と同じ機能を奏するものである。そうすると,係合手段として,引用例1のリム122に代えて,引用例2のフック部34を採用し,本願発明の相違点に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たといえる。なお,原告は,引用例1,引用例2に,型抜き方法として「回し抜き法」を採用するとの着想,動機づけが記載されておらず,しかも,「回し抜き法」は本願出願前に知られていなかったと主張する。しかし,このような

(原告の主張)

は,連結部材が射出成形により製造されること,型抜き方法として「回し抜き法」を採用することを前提とするものであるから,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。(ウ) 原告は,引用例2における突出部材32の目的である「カツプリングに柔軟性を付与すること」は,本願発明の構成(周方向連続壁)を採用するに当たっての阻害要因であると主張する。しかし,カップリングに柔軟性を付与したことが,係合手段としてフック部34を採用する阻害要因にはならない なお,( 本願の特許請求の範囲には,周方向連続壁,アンダーカット構造の柔軟性に関して何ら記載されておらず,それらの柔軟性の大小は本願発明とは何ら関係のないことである。。)そもそも,引用例2には,第2カツプリング要素24′のステップ構造54の表面62に係合して第1カップリング要素と第2カップリング要素を連結するフック部34が記載されており,フック部34は,第1カップリング要素と第2カップリング要素を連結する係合手段として機能することが明確に記載されているから,この記載に接した当業者は,周方向連続壁等あらゆる部材について,係合手段としてのフック部34を採用することに,容易に想到し得る。(エ) 以上のとおりであるから,引用発明1のリム122に代えて引用発明2のフック部34を採用し,本願発明の相違点に係る構成とすることは容易に想到し得たことであるとした審決の判断に誤りはない。イ 予備的な反論(ア) 引用発明2の内容は,審決が認定したとおり(前記第2,3(2)ア(イ))である。(イ) そして,審決が認定したとおり,引用発明2の「人工肛門形成用バツグの第1カツプリング要素24」 フツク部34」 ,,「 は 本願発明の オ「ストミー,失禁または創傷医療器具に装着して使用するための連結部材」「アンダーカット構造」に相当し,また,引用発明2のフック部3,4は,カップリングの軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有していて,円周方向に不連続な複数のフック部34が複数の空隙に対して交互に配置されているといえる。さらに,引用発明2の内部壁28,横方向フランジ26,複数の弓形突出部32,フック部34は一体となっており(引用例(甲2)4頁左上欄18行ないし右上欄2行参照 ),そのうち,内部壁28と横方向フランジ26は,周方向に連続的な壁となっているから,一体として「周方向連続壁」であって,環状ボディを構成しているといえる。そして,横方向フランジ26(周方向連続壁)には,弓形突出部32を介してフック部34(アンダーカット構造)が一体に設けられている。したがって,引用発明2は,本願発明でいう「周方向連続壁を有する環状ボディを具え,前記周方向連続壁にはアンダーカット構造が設けられ」ており,引用発明2は,本願発明と同じ構成を備えている。(ウ) そうすると,引用発明2は,本願発明と同じ構成を備えており,本願発明は,特許法29条1項3号所定の発明に該当し,特許を受けることができない発明であるから,審決の判断に違法はない。

(2) 顕著な作用効果について

原告の本願発明の作用効果についての主張は,本願発明の連結部材が射出成形により製造されること,型抜き方法として「回し抜き法」を採用することを前提とするものであるから,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。

(3) 本願発明の進歩性を肯定すべきその他の事情について

発明の実施品が商業的に成功するか否かは,製品の経済性,販売方法等種々の要因に基づくものであり,進歩性のない発明の実施品であっても商業的成功を収める場合があることは明らかであるから,

(原告の主張)

は失当である。

第5 当裁判所の判断

1 特許法159条2項に違反する手続の誤り(取消事由1)について

(1) 特許法は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶理由を発

見した場合には,拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない旨を規定する 同法159条2項,( 50条 )。同法159条2項の趣旨は,審判官が,新たな事由により出願を拒絶すべき旨の判断をしようとするときは,あらかじめその理由を出願人(拒絶査定不服審判請求人)に通知して,弁明ないし補正の機会を与えるためであるから ,審判官が拒絶理由を通知しないことが手続の違法を来すか否かは,手続の過程,拒絶の理由の内容等に照らして,拒絶理由の通知をしなかったことが出願人(拒絶査定不服審判請求人)の防御権行使の機会を奪い,利益の保護に欠けるか否かの観点から判断すべきである。

(2) 手続の過程

本願発明に係る審査,審判の過程について,次の事実が認められる。ア 平成17年2月3日付け拒絶理由通知書(甲8)審査官は,原告に対し,平成17年2月3日付け拒絶理由通知書 甲8)(により,本願の出願当初の請求項1(アンダーカット構造が設けられた周方向連続壁を有する環状ボディを具え,前記アンダーカット構造が複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具え,オストミー,失禁または創傷医療器具に使用するための連結部材であって,前記複数のアンダーカット円弧状部は,この連結部材を相手方の圧入連結部材に装着する際に必要とされる信頼度を充分与えるため,前記環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有することを特徴とする連結部材。)を含む出願当初の請求項1ないし6,9ないし13について,これらの請求項に係る発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平成1−293867号公報(平成17年2月3日付け拒絶理由通知書における引用文献1),特開平1−299552号公報(平成17年2月3日付け拒絶理由通知書における引用文献2,審決の引用例1,甲1),特開昭63−255058号公報(平成17年2月3日付け拒絶理由通知書における引用文献3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない(理由1),との拒絶理由を通知した。イ 平成17年5月9日付け手続補正書(甲6)原告は,平成17年5月9日付け手続補正書(甲6)により,本願の請求項1を,「アンダーカット構造が設けられた周方向連続壁を有する環状ボディを具え,前記アンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具え,オストミー,失禁または創傷医療器具に圧入して使用するための連結部材であって,前記複数のアンダーカット円弧状部は,この連結部材を相手方の圧入連結部材に装着する際に必要とされる信頼度を充分与えるため,前記環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有することを特徴とする連結部材。」と補正した。ウ 平成17年5月9日付けの意見書(甲9)原告は,平成17年5月9日付け手続補正書とともに,同日付け意見書(甲9)を提出した。同意見書には,次のとおり記載された。(ア) 【意見の趣旨】には,「引用文献1∼3との差異が明確となるように特許請求の範囲の記載を補正したので,本願発明は特許法第29条第2項および同法第39条第2項の規定に該当せず,特許を受けることができるものであるとの認定を求める。(甲9【意見の趣旨】16行ない」し18行)と記載された。(イ) 【本願発明と引用文献との対比】には,「引用文献2に開示された発明は,人工肛門用カップリングに関するものであり,人工肛門用袋に取り付ける溝形の第1要素12と,医療グレードの接着剤パッドに取り付ける第2要素20とからなる。この引用文献2において第1要素12の半径方向外壁部124の内方に延びるリム122は,先の引用文献1の場合と同様に周方向に連続したものである。また,このリム122の断面形状は,図1から明らかなように面取りを施したものである。この引用文献2の人工肛門カップリングは,引用文献1の人工肛門連結器具と同様に本願発明のカップリングよりも部品点数が多くて製造コストが嵩む欠点を有する。(甲9【本願発明と引用文献との対比】19行ない」し26行)「この引用文献2におけるリム122は,先の引用文献1の,場合と同様に周方向に連続したものであるため,これを成形する場合,抜型の分割面によるウィトネスラインが形成されてしまう上,成形上の問題から大きなアンダーカットを形成することが基本的に困難である 。」(甲9【本願発明と引用文献との対比】33行ないし36行)と記載された。エ 平成18年3月29日付け拒絶査定(甲10)平成18年3月29日付け拒絶査定(甲10)には,「この出願については,平成17年2月3日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものである。なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない 。」と記載されており,「備考」として ,「なお,人工肛門器具のカップリングにおいて,連結部材を円周方向に不連続であって複数の円弧状部にすることは,従来周知 例[えば,特開昭58−165842号公報(突出部材32,空間33参照),特開昭63−68159号公報(突起20参照),等参照]の技術的手段にすぎないから,上記拒絶理由通知書の引用文献1∼3に記載の発明の連結部材において,アンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具えることは,当業者であれば容易に想到し得たことにすぎないものと認める。(上記の特開」昭58−165842号公報は,審決の引用例2で,甲2であり,特開昭63−68159号公報は乙1である 。)と記載された。オ 平成18年5月19日付け審判請求書(甲11)平成18年5月19日付け審判請求書(甲11)の【本願発明が特許されるべき理由】 引用文献の説明 〕〔 には, 引用文献2に開示された発明は ,「人工肛門用カップリングに関するものであり,人工肛門用袋に取り付ける溝形の第1要素12と,医療グレードの接着剤パッドに取り付ける第2要素20とからなる。この引用文献2において第1要素12の半径方向外壁部124の内方に延びるリム122は,先の引用文献1の場合と同様に円周方向に連続したものである。また,このリム122の断面形状は,図1から明らかなように面取りを施したものである 。 (4頁18∼23行)」 ,「なお,拒絶査定にて新たに提示された特開昭58−165842号公報には,フック部34が径方向内側に突出する突出部材32を空間33に対して交互に環状に配したカップリング要素24が開示されている。(5頁」3∼5行)と記載されており, 本願発明と引用例との対比〕には, なお,〔 「拒絶査定にて提示された特開昭58−165842号公報のカップリング要素24における突出部材32は,円周方向に連続したものではない。・・・つまり,これら2つの新たに提示された文献は,アンダーカット構造が設けられた本願発明の如き周方向連続壁を何れも開示していない。本願発明においては,半径方向内側および半径方向外側の円周方向に連続した2つの壁の存在により,汚物の漏れに対する二重のバリヤをもたらすことができ,漏れに対する安全性をより高めることができる。(7頁15∼2」2行)と記載された。カ 平成18年5月19日付け手続補正書(甲7)原告は,平成18年5月19日付け手続補正書(甲7)により,請求項1を次のように補正した。「オストミー,失禁または創傷医療器具に装着して使用するための連結部材であって,周方向連続壁を有する環状ボディを具え, 前記周方向連続壁にはアンダーカット構造が設けられ, このアンダーカット構造は,円周方向に不連続な複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具え, 前記複数のアンダーカット円弧状部は, 前記環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有することを特徴とする連結部材。」キ 審決審決は ,「引用発明2の『フツク部34』は,周方向に各々離間されて環状列に配置された各々の弓形突出部32に設けられているから,引用発明2においても,円周方向に不連続な複数の『フツク部34』が複数の空隙に対して交互に配置されていると云える。また,フツク部34に形成されたまつすぐなフツク面38は,カツプリングの軸40に対し50°∼70°,好ましくは60°の角度で配置されているから ,『フツク部34』は,該軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有していると云える。(5頁5∼12行 )とした上で, 引用発明2の『フツク部34』は,」 「上記の様な構成を具えていると云えるから,引用発明1,2に接した当業者ならば,引用発明1の半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周に設けられたリム122に代えて,引用発明2のフツク部34を採用し,本願発明の相違点に係る構成とすることは容易に想到し得たことである。」(5頁15∼19行)と説示した。ク まとめ上記の手続過程の要点は,以下のとおり整理することができる。すなわち ,(ア) 本願発明の進歩性に関し,原告は,平成17年5月9日付け手続補正(甲6,甲9)の段階から,アンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具えることが進歩性を基礎付ける旨の主張をしていた(前記(2)イ,ウ)。(イ) 平成18年3月29日付け拒絶査定(甲10)において,連結部材を円周方向に不連続な複数の円弧状部にすることが従来周知の技術手段であることを示すものとして引用例2(甲2)が挙げられ,連結部材においてアンダーカット構造が円周方向に不連続であって複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具えるという,引用発明2の「突出部材32 」 「空間33 」 「フック部34」に対応する構成に, ,ついて具体的な指摘がなされた(前記(2)エ)。(ウ) 原告は,平成18年5月19日付け審判請求書 甲11)( において,引用例2について,「フック部34が径方向内側に突出する突出部材32を空間33に対して交互に環状に配したカップリング要素24が開示されている。」とした上で,「突出部材32は,円周方向に連続したものではない」と主張し,引用発明2の「フツク部34」を含む「突出部32」が,アンダーカット構造が設けられた本願発明の如き周方向連続壁を開示するものではないと主張した(前記(2)オ)。

(3) 判断

上記認定した事実に基づき,審判官が,拒絶理由の通知をしなかったことが原告の防御権行使の機会を奪い,利益の保護に欠けるか否かを判断する。前記( 2)ク(ア)ないし(ウ)によれば,拒絶査定の理由の実質的な内容は,

①本願発明と甲1記載の引用発明1との間に , アンダーカット構造に関し,

「本願発明は,円周方向に不連続な複数のアンダーカット円弧状部を複数の空隙に対して交互に具え,複数のアンダーカット円弧状部は,環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面をそれぞれ有しているのに対して,引用発明1は,半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周にリム122が設けられていて,環状ボディの軸線に対して傾斜した径方向突出面を有しているか否かは明確でない」という相違点(審決で認定されたのと同様の相違点(前記第2,3(2)ウ))があること,②その相違点に係る構成は,甲1記載の引用発明1に,引用例2(甲2)や特開昭63−68159号公報に記載されている周知技術 引用例2に記載された フツク部34」( 「 に係る構造)を適用することにより容易に想到し得ること,であったものと認められる。そして,原告は,拒絶査定の理由の実質的な内容が上記のとおりであることを認識した上で,引用例2(甲2)に記載された「フツク部34」と「突出部材32」を検討し,審判請求書(甲11)において,甲2記載の引用発明2と本願発明が相違するという趣旨の反論をしたものと認められる。そうすると,当業者が本願発明を引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明することができたという理由が拒絶理由通知等の形式により通知されていないとしても,原告は,拒絶査定によって,その実質的な理由を認識し,それについて具体的に検討した上で反論,補正を行っていると認められるから,出願人である原告の防御権行使の機会を奪うことはなく,その利益保護に欠けることはないと解される。したがって,審判官が,当業者が本願発明を引用発明1,引用発明2に基づいて容易に発明することができたという理由を通知しなかったとしても,それが手続の誤りとして違法となることはないというべきである。この点に関する

(原告の主張)

は採用できない。相違点についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について以下,引用発明1のリム122に代えて引用発明2の突出部材32におけるフック部34を採用することについての容易想到性について判断する。

(1) 引用例2記載の発明の内容

ア(ア) 引用例2(甲2)には,次のとおり記載されている。a 「本発明は人工肛門形成用バッグ( ostomy bag)のカツプリング,更に詳しくは,人工肛門形成用バツグまたはパウチをパツドまたは包帯に接合するカツプリングに関する。(2頁右下欄5∼8行)」b 「第1カツプリング要素24は,横方向フランジ26および内部壁28を有する 。 (4頁左上欄2∼3行 ) 「内部壁28は小孔用開口」 ,部20を完全に取囲み,そして一連の突出部材32は周囲方向へ互いに一定間隔に保持され且つ内部壁28から半径方向へ一定間隔に保持されて,フランジ26に固定されるかあるいはこれと一体となっている。換言すれば,これらの突出部材は内部壁28を取巻く環状列に配置されている。それらは内部壁28と共に空間を形成し,該空間は当該カツプリングを接続する時後記リブ部材によつて占有される。各突出部材32は第1図から明らかな如く弓形で,それぞれ内方へ面するフツク部34を有する。これは各弓形突出部32の全周辺長さに沿つて延びていてよい。第3図で最も明らかな如く,各弓形突出部32はなめらかに湾曲した面36とまつすぐなフツク面38で形成されるフツク部を有していてよい。まつすぐなフツク面38は垂直軸横断面で明らかなように,カツプリングの軸40に対し50°∼70°,好ましくは60°の角度で配置されていてよい。(4頁左上欄18行∼右」上欄16行)c 「ここで詳しく説明し図示した本発明の人工肛門形成用バツグカツプリングは,公知の先行カツプリングと比較して,以下に示す有用且つ有利な改良された特徴を有する。第1に,当該カツプリングはより大なる柔軟性を有している 。 (5頁左下欄14∼19行 ) 「この特」 ,別な柔軟性は主に,空間あるいは隙間によって隔離された一定間隔の独立突出部の存在により達成され,これに対して硬質の構造は英国特許第1571657号に示される如く周辺溝配列の結果による 。(5」頁右下欄2∼7行)d 第1図には,環状に形成されたカップリング要素24であって,周方向に各々空間33により離間されて環状列に配置された複数の弓形突出部32を備えたものが図示されている。e 第3図には,横方向フランジ26に突出部32が形成されており,突出部32に,湾曲面36とフック面38を有するフック部34が形成されているものが図示されている。(イ) 上記aないしeによれば,引用例2(甲2)には,「環状に形成されたカップリング要素24であって,カップリング要素24は,周方向に連続する横方向フランジを有し,当該横方向フランジには,周方向に各々空間33により離間されて環状列に配置された複数の弓形突出部32が設けられており,弓形突出部32は,湾曲面36とフック面38により形成されているフック部34を有しており,フック面38は,カツプリングの軸40に対し50°∼70°,好ましくは60°の角度で配置されている構造」の発明が記載されているものと認められる。そして,前記(ア)cの記載によれば,引用例2(甲2)の「フック部34を有する弓形突出部32」が ,「周方向に各々空間33により離間されて環状列に配置され」た構成とされているのは,公知の連結部材に比べて柔軟性を具えることを目的としているものと認められる。イ 前記ア(イ)のとおり,引用例2(甲2)に記載された連結部材は,「周方向に各々空間33により離間されて,環状列に配置された複数の弓形突出部32」を具えることにより,公知の連結部材に比べて,より柔軟な連結部を構成することを目的とするものと認められる。このような目的に照らせば,引用例2に記載された連結部材は,「周方向に各々空間33により離間されて環状列に配置された複数の弓形突出部32」に「フック部34」を形成したものとして開示されており,「周方向に空間33により離間されたフック部34」単独からなる構成が開示されているとは認められない。引用例2には,フック部34に関して ,「各突出部材32は第1図から明らかな如く弓形で,それぞれ内方へ面するフツク部34を有する。これは各弓形突出部32の全周辺長さに沿つて延びていてよい。(4頁右上欄」7ないし10行)との記載があり,この記載から,引用例2には,各突出部材32の周囲方向の全長にわたってフック部34が形成されているものばかりでなく,その周囲方向の一部にフック部34が形成されているものも示唆されているといえる。しかし,それも,突出部材32にフック部34が形成されていることを前提とするものであって,そのような示唆があることを考慮しても, 周方向に空間33により離間されたフック部34」「単独からなる構成が開示されているとは認められない。

(2) 容易想到性の判断

ア 前記(1)イのとおり,引用例2には,「周方向に空間33により離間されたフック部34」単独からなる構成が開示されているとは認められないから,弓形突出部32から切り離してフック部34のみを取り上げ,これを引用発明1のリブ122に代えて採用することは,容易に想到し得たとはいえない。イ また,仮に引用例2に ,「弓形突出部32」とは独立した「周方向に空間33により離間されたフック部34」単独からなる連結部材の構成が開示されているとしても,引用発明1の半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周に設けられたリム122に代えて引用例2のフック部34を採用したとすると,フック部34自体は空間により離間されて不連続であるとしても,そのフック部34は,内周全周にわたって設けられている半径方向連続壁に設けられることになる。ところが,そうであるとすると,突出部材32及びフック部34を不連続に構成した引用例2記載の発明に比べて,カップリングの柔軟性が大きく劣ることになり,公知の連結部材に比べて柔軟性を具えるという引用例2の目的は減殺される。しかし,そのように引用例2の目的を減殺する方向での組合せを当業者が行うことは通常は考えられない。したがって,引用発明1のリム122に代えて引用例2のフック部34を採用することを当業者が容易に想到し得たとは認められない。ウ したがって,引用発明1を主引用例としてそれに引用例2を適用し,引用発明1の半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周に設けられたリム122に代えて引用例2のフック部34を採用することによって本願発明の相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たとは認められない。そうすると,引用発明1の半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周に設けられたリム122に代えて引用例2のフック部34を採用することによって本願発明の相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとした審決の判断は,誤りであることになる。特許法29条1項3号の該当性について被告は,本訴における予備的な反論として,引用発明2は,本願発明と同じ構成を備えており,本願発明は,特許法29条1項3号所定の発明に該当し,特許を受けることができない発明であるから,審決の判断に違法はない,と主張する。しかし,審決は,引用発明1を主引用例としてそれに引用発明2を適用し,「引用発明1の半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周に設けられたリム122に代えて引用発明2のフック部34を採用することによって本願発明の相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得た」との判断をしたものであり,被告の予備的主張は,審決の上記判断とは,理由を異にするものである。被告の予備的な反論は,審決とは異なる理由に基づいて,本願発明が特許を受けることができないとする主張であり,当審において,同主張の当否を判断することは適切を欠く。結論以上のとおり,引用発明1の半径方向外部壁124(周方向連続壁)の内周全周に設けられたリム122に代えて引用発明2のフック部34を採用することによって本願発明の相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとした審決の判断は誤りがあり,審決には,相違点についての容易想到性の判断の誤り(取消事由2)がある。よって,本訴請求は理由があるから認容し,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官 飯 村 敏 明裁判官 中 平 健裁判官 上 田 洋 幸

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