平成26(ワ)162職務発明対価請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成27年3月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告AvanStrate株式会社梶並彰一郎 原告A
|
法令 |
その他
民事訴訟法2条1回 特許法35条3項1回 特許法35条1項1回 特許法35条4項1回
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キーワード |
実施25回 許諾1回
|
主文 |
原告の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,被告の従業員であった原告が,被告に在籍中,被告の業務範囲に
属し,かつ,原告の職務に属する行為によってした発明(後記のとおり被告
による特許出願に基づいて別紙本件各特許目録1~5項の各(1)記載の特許と
して設定登録された同各(2)記載のとおりの各請求項の発明。以下,上記各
(1)記載の特許を順に「本件第4特許」,「本件第5特許」,「本件第6特
許」,「本件第8特許」及び「本件第9特許」といい,各(2)記載の各請求項
の発明を特許ごとにまとめて「本件第4発明」などという。また,上記特許
及び発明をそれぞれ「本件各特許」及び「本件各発明」と総称する。)をし,
それらについて特許を受ける権利を被告に承継させたと主張して,被告に対
し,① 主位的に,特許法35条3項及び5項に基づく相当の対価の一部であ
る3000万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成25年7月29
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,②
予備的に,支払日を平成27年4月1日とする将来請求として,後記被告特
許規程及び特許法35条3項に基づく評価期間を平成24年度から平成26
年度まで(平成24年4月1日から平成27年3月31日まで)とする本件 |
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判決文
平成27年3月19日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成26年(ワ)第162号 職務発明対価請求事件
口頭弁論終結日 平成27年2月5日
判 決
東京都西多摩郡瑞穂町<以下略>
原 告 A
同訴訟代理人弁護士 寒 河 江 孝 允
同訴訟復代理人弁護士 戸 田 順 也
三重県四日市市<以下略>
被 告 AvanStrate株式会社
同訴訟代理人弁護士 北 原 潤 一
梶 並 彰 一 郎
同 弁理士 古 橋 伸 茂
主 文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
(主位的請求)
被告は,原告に対し,3000万円及びこれに対する平成25年7月29
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
被告は,原告に対し,平成27年4月1日限り,3000万円を支払え。
第2 事案の概要
本件は,被告の従業員であった原告が,被告に在籍中,被告の業務範囲に
属し,かつ,原告の職務に属する行為によってした発明(後記のとおり被告
による特許出願に基づいて別紙本件各特許目録1~5項の各(1)記載の特許と
して設定登録された同各(2)記載のとおりの各請求項の発明。以下,上記各
(1)記載の特許を順に「本件第4特許」,「本件第5特許」,「本件第6特
許」,「本件第8特許」及び「本件第9特許」といい,各(2)記載の各請求項
の発明を特許ごとにまとめて「本件第4発明」などという。また,上記特許
及び発明をそれぞれ「本件各特許」及び「本件各発明」と総称する。)をし,
それらについて特許を受ける権利を被告に承継させたと主張して,被告に対
し,① 主位的に,特許法35条3項及び5項に基づく相当の対価の一部であ
る3000万円及びこれに対する請求の日の翌日である平成25年7月29
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,②
予備的に,支払日を平成27年4月1日とする将来請求として,後記被告特
許規程及び特許法35条3項に基づく評価期間を平成24年度から平成26
年度まで(平成24年4月1日から平成27年3月31日まで)とする本件
第4発明ないし本件第6発明の実績報奨金の一部である3000万円の支払
を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実。)
(1) 当事者等
ア 被告は,弁論分離前の相被告HOYA株式会社(以下「HOYA」と
いう。)の関連会社であり,液晶ディスプレイ・パネル用ガラス基板の
製造・販売を主たる事業とする株式会社である。
イ 原告は,平成21年11月から平成25年3月までの間,被告の従業
員であった者であり,それ以前はHOYAに在職していた。
(2) 原告の職務発明及び特許を受ける権利の承継
ア 原告は,被告に在籍中,単独で(本件第4発明及び本件第6発明)又
は他の従業員と共同で(本件第5発明,本件第8発明及び本 件第9発
明),本件各発明をした。本件各発明は,被告の業務範囲に属し,かつ,
発明をするに至った行為が被告における原告の職務に属するものであり,
特許法35条1項所定の職務発明に当たる。
イ 被告は,後記被告特許規程に基づき,平成22年7月26日に本件第
4発明及び本件第6発明について,平成23年3月25日に本件第5発
明,本件第8発明及び本件第9発明について,それぞれ特許を受ける権
利を原告から承継した。
(3) 被告の特許出願及び登録
被告は,別紙本件各特許目録1~5項の各(1)に記載のとおり,本件各発
明につき特許出願をし,特許登録を経た。本件各発明に係る本件各特許の
特許請求の範囲の請求項の記載は別紙本件各特許目録1~5項の各(2)に記
載のとおりである。
(4) 被告の職務発明に関する規程の定め
●(省略)●
2 争点
(1) 主位的請求
ア 本件各発明についての相当の対価の額
イ 被告特許規程の定めにより対価を支払うことの合理性の有無
ウ 被告特許規程による対価の支払時期に関する定め及びその到来の有無
(2) 予備的請求
ア 将来請求の可否
イ 本件第4発明ないし本件第6発明についての実績報奨金の額
ウ 被告特許規程の定めにより対価を支払うことの合理性の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1) 主位的請求
ア 本件各発明についての相当の対価の額
(原告の主張)
(ア) 被告による本件各発明の実施
被告及びその海外子会社は,型番がNA32SG以降の製品のうち,
●(省略)●
(イ) 相当の対価の額
a 本件第4発明及び本件第6発明は,ガラス板の冷却速度を調整可能
なガラス板製造方法,ガラス板製造装置及びガラス板冷却方法を提供
するものであり,これにより液相温度の高いガラスも液晶化させずに
冷却することが可能になる。また,冷却の設備がコンパクトになり,
制御性も高まることから,板ガラスの肉厚及び反りの品質が安定し,
冷却に要する消費電力も改善できる。
本件第5発明,本件第8発明及び本件第9発明は,シートガラスの
幅方向の収縮を効果的に抑制し,良好な製造効率でガラス基板を製造
することができるガラス基板の製造方法及び製造装置を提供するもの
であり,これにより板ガラスの肉厚及び反りの品質を改善することが
できるとともに,歩留りを向上させることができる。
b 被告の連結売上高は,被告単体の売上高として年100億円,それ
以外の売上高として年300億円の合計年400億円である。
そして,① 本件各特許が20年間存続すること,② 本件各発明の
実施によって製造される製品が全体の20%であること,③ 本件各
発明を実施許諾するのであれば実施料は少なくとも売上高の1%とな
るので,被告はそれだけの利益を得ているといえること,④ 本件各
発明についての被告の貢献度は30%を超えないこと,⑤ 本件第5
発明,本件第8発明及び本件第9発明については共同発明者がいるが,
共同発明者との関係での原告の貢献度は少なくとも80%であること,
⑥ 被告自身の売上げ以外の部分については,被告が他社に実施させ
て利益を得ているという点で,被告は本件各発明の独占によってその
50%を得たものといえることから,本件各発明についての相当の対
価の額は,別紙計算書のとおり,少なくとも合計43億1200万円
となる。
(被告の主張)
争う。
イ 被告特許規程の定めにより対価を支払うことの合理性の有無
(被告の主張)
●(省略)●
(原告の主張)
●(省略)●
ウ 被告特許規程による対価の支払時期に関する定め及びその到来の有無
(被告の主張)
仮に被告特許規程に基づき対価を支払うことが不合理であるとされる
としても,対価の支払時期は,被告特許規程に定められたところによる
ことになる。●(省略)●
(原告の主張)
●(省略)●
なお,仮に特許登録以降の実施については支払時期の定めがあるといえ
るとしても,特許登録より前の実施については実績報奨金の支払に関する
定めがないから,少なくとも本件各特許の特許登録より前の実施に係る相
当の対価の支払請求権については支払時期が到来している。
(2) 予備的請求
ア 将来請求の可否
(原告の主張)
原告は,平成25年7月28日,被告に対し,本件第4発明ないし本件
第6発明についての対価を請求したが,被告はその支払を拒絶した。この
経緯からして,被告が平成26年度までの評価期間についての実績報奨金
を将来支払う可能性は低く,原告にはあらかじめ請求をする必要がある。
(被告の主張)
被告特許規程によれば,上記各発明の実績報奨金の金額が決定するのは
評価期間が満了した平成27年3月31日よりも後である。実績報奨金の
算定基準となる寄与度等は今後変動し得るものであり,現時点で確定的に
は認定できない。したがって,上記実績報奨金につきあらかじめ請求をす
る必要があるとはいえない。
イ 本件第4発明ないし本件第6発明についての実績報奨金の額
(原告の主張)
前記(1)ア(原告の主張)で述べたところによれば,被告は,上記各発
明の実施により,その権利存続期間20年間において合計27億440
0万円の利益を得ることになる。したがって,上記各発明の登録から平
成26年度までの3年間の評価期間における実績報奨金の額は,上記利
益の20分の3に相当する4億1160万円となる。
(被告の主張)
争う。
ウ 被告特許規程の定めにより対価を支払うことの合理性の有無
前記(1)イの主位的請求に関する各当事者の主張と同じ。
第3 当裁判所の判断
1 主位的請求について
(1) 争点(1)ア(本件各発明についての相当の対価の額)について検討する。
原告は被告特許規程に基づき本件各発明について特許を受ける権利を被
告に承継させたところ,被告特許規程の定めにより対価を支払うことが特
許法35条4項の規定により不合理と認められる場合において,被告特許
規程に基づき支払われた金銭の額が同条5項の規定に従って定められる対
価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相
当する対価の支払を求めることができると解される。もっとも,被告は,
特許を受ける権利を承継しない場合でも本件各発明につき通常実施権を有
するのであるから(同条1項),対価額の算定に当たり考慮されるべき
「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」(同条5項)とは,被
告が通常実施権により得るべき利益を控除したもの,すなわち,特許発明
の実施を排他的に独占することにより得るべき利益(以下「独占の利益」
という。)をいうと解すべきものとなる。
そして,原告は,被告が自ら又は子会社において本件各発明を実施する
ことにより独占の利益を得ている旨主張し,被告の連結売上高を基礎とし
て算定した相当の対価の支払を請求するものであるから,これを認めるた
めには,本件各発明の実施の事実並びに独占の利益の発生及びその額を主
張し,立証しなければならないことになる。
(2) そこで判断するに,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば以下のとおり
解することができ,これによれば,本件各発明についてはいずれも実施の
事実を認めるに足りないと判断するのが相当である。
ア 本件各発明の実施の状況に関する原告の主張は,●(省略)●という
ものであるが,上記別紙に記載された各炉の構成及びこれを用いた製造
方法に関する説明は,要は,原告が実施を主張する本件各特許の請求項
の記載に沿うように炉の構成及び製造方法を特定して,当該請求項の文
言を充足すると主張するにとどまるということができる。
イ 原告の上記アの主張を裏付ける証拠として提出されているのは,いず
れも原告自身の作成した陳述書等(甲B23~26)であって,客観的
な裏付けに乏しい上,その内容は,ガラス板の製造工程や本件各発明の
内容に関する一般的な技術説明の域を出ないものであって,具体性を欠
くというほかない。
(3) 付言するに,従業者が使用者に対し職務発明について相当の対価の支払
を求める訴訟においては,一般に,使用者の側が実施の有無,独占の利益
等に関する証拠を多数保有しているので,従業者の側で発明の実施,独占
の利益の存在等を裏付ける事情をある程度具体的に示した場合であれば,
使用者の側で実施の有無,独占の利益の存否等について積極的に開示すべ
きものと考えられる。ところが,本件において,原告は,本件各発明が被
告又はその子会社の製品の2割について実施され,相当の対価の額は合計
で約43億円に上ると主張し,その支払を請求(一部請求)するというの
であるから,訴え提起に先立って事実関係を十分に調査し,可能な限り証
拠を収集して,訴状に具体的な請求原因事実を記載すべきところ(民事訴
訟法2条,民事訴訟規則53条1項参照),本件の訴状には実施の状況に
関して極めて漠然とした記載しかなく,当裁判所がこの点を明瞭にするよ
う再三求めたにもかかわらず,上記(2)の程度の主張立証しかされなかった
(以上は当裁判所に顕著である。)。なお,原告は実施の事実を立証する
ためとして,被告に対する文書提出命令の申立てをしたが,以上の経過に
照らすと原告の申立ては明らかに失当であるので,当裁判所はこれを採用
しなかった。
(4) 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の主位的
請求は理由がない。
2 予備的請求について
(1) 争点(2)ア(将来請求の可否)について
原告は,本件第4発明ないし本件第6発明につき被告特許規程に基づく
平成26年度までの評価期間に係る実績報奨金の支払を求めるところ,被
告は,評価期間の末日である平成27年3月31日が経過するまではその
算定ができず,予め請求する必要がない旨主張する。
そこで判断するに,証拠(甲13の1及び2,14)及び弁論の全趣旨
によれば,原告が被告に対し平成25年7月28日に上記各発明につき対
価の支払を請求したところ,被告がその支払を拒絶したことが認められる。
また,本件訴訟において被告が実績報奨金の支払義務に関する原告の主張
を争っていることは当裁判所に顕著である。以上によれば,原告があらか
じめ実績報奨金の支払を請求する必要があるものと認められる。
(2) 争点(2)イ(本件第4発明ないし本件第6発明についての実績報奨金の
額)について
原告は被告及びその子会社が上記各発明を実施していることを前提に実
績報奨金の支払を請求するものであるが,実施していると認めるに足りな
いことは前記1(2)のとおりである。
(3) 以上によれば,原告の予備的請求は,その余の点について判断するまで
もなく,理由がない。
第4 結論
よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 長 谷 川 浩 二
裁判官 髙 橋 彩
裁判官 植 田 裕 紀 久
(別紙一部省略)
別紙
本件各特許目録
1 本件第4特許
(1) 特許番号 特許第5154700号
発明の名称 ガラス板製造方法,ガラス板製造装置およびガラス板冷却方
法
出 願 日 平成23年8月4日(特願2011-542394)
優 先 日 平成22年8月4日
登 録 日 平成24年12月14日
(2) 本件第4発明
ア 請求項1
「 成形体(10)からオーバーフローした溶融ガラス(90)を,前記
成形体の両側面に沿って流下させた後,前記成形体の下端部近傍で合流
させてガラス板(91)を製造する,ガラス板製造方法であって,
前記溶融ガラスの合流ポイントより下方で,前記溶融ガラスの流れ方
向に沿って並列して配置され,前記ガラス板の冷却速度を調整する複数
の冷却調整板(41a,41b,41c,・・・)により,前記ガラス
板を冷却する冷却工程と,
前記各冷却調整板の温度を制御する温度制御工程と,
を備え,
前記各冷却調整板は,前記溶融ガラスの流れ方向に交差する水平方向
に延び,
前記温度制御工程において,前記各冷却調整板の全体は,流体によっ
て冷却される,
ガラス板製造方法。」
イ 請求項2
「 前記各冷却調整板の全体は,前記ガラス板と対向する面の裏面側から
冷却される,
請求項1に記載のガラス板製造方法。」
ウ 請求項3
「 前記複数の冷却調整板は,前記溶融ガラスの合流ポイントの近傍に配
置されて前記合流ポイントの上側雰囲気および下側雰囲気を仕切る上下
雰囲気仕切り部材(20)の下方に配置される,
請求項1または2に記載のガラス板製造方法。」
エ 請求項14
「 成形体(10)からオーバーフローした溶融ガラス(90)を,前記
成形体の両側面に沿って流下させた後,前記成形体の下端部近傍で合流
させて形成するガラス板(91)を冷却する,ガラス板冷却方法であっ
て,
前記溶融ガラスの合流ポイントより下方に配置され,前記ガラス板の
冷却速度を調整する第1の冷却調整板と,前記第1の冷却調整板に対応
して設けられ前記第1の冷却調整板の温度を制御する第1の温度制御ユ
ニットとによって前記ガラス板を冷却する第1冷却ステップと,
前記溶融ガラスの流れ方向に対して,前記第1の冷却調整板および前
記第1の温度制御ユニットの下流に配置され,前記第1の冷却調整板お
よび前記第1の温度調整ユニットにそれぞれ並列する第2の冷却調整板
および第2の温度制御ユニットであって,前記ガラス板の冷却速度を調
整する前記第2の冷却調整板と,前記第2の冷却調整板に対応して設け
られ前記第2の冷却調整板の温度を制御する前記第2の温度制御ユニッ
トとによって前記ガラス板を冷却する第2冷却ステップと,
を備え,
前記第1の冷却調整板および前記第2の冷却調整板は,前記溶融ガラ
スの流れ方向に交差する水平方向に延び,
前記第1の冷却調整板および前記第2の冷却調整板の全体は,流体に
よって冷却される,
ガラス板冷却方法。」
2 本件第5特許
(1) 特許番号 特許第5154713号
発明の名称 ガラス基板の製造方法およびガラス基板の製造装置
出 願 日 平成24年3月30日(特願2012-525564)
優 先 日 平成23年3月31日
登 録 日 平成24年12月14日
(2) 本件第5発明
ア 請求項1
「 ダウンドロー法により,溶融ガラスを成形体からオーバーフローさせ
てシートガラスに成形し,前記シートガラスを流下方向に引き伸ばしな
がら冷却することによりガラス基板を製造する方法であって,
前記シートガラスが前記成形体から離れた後,前記シートガラスの温
度が軟化点より高い温度から徐冷点近傍になるまでの温度領域にあると
き,前記シートガラスの側部に向かって張力を加えながら,前記側部の
粘度を109.0~1014.5Poiseの範囲内に維持して冷却し,
前記温度領域において,
前記シートガラスの板厚を幅方向に均一にするための板厚均一化工程
と,
前記板厚均一化処理の後に,前記シートガラスの反りを低減するため
の反り低減工程と,
を行い,
前記板厚均一化工程は,前記シートガラスの中央領域における幅方向
の温度分布を均一にし,かつ,前記シートガラスの両側部の温度を,前
記中央領域の温度より低くし,
前記反り低減工程では,前記板厚均一化工程より前記シートガラスの
幅方向の温度分布を低温にし,前記中央領域の中心部から前記側部に向
けて前記シートガラスの幅方向に温度勾配を形成する,
ガラス基板の製造方法。」
イ 請求項2
「 前記シートガラスの側部の粘度が,前記流下方向に沿って高くなるよ
うに冷却する,
請求項1に記載のガラス基板の製造方法。」
ウ 請求項3
「 前記成形体直下におけるシートガラスの粘度は,10 5.7~107.5Poi
seであり,
前記シートガラスの側部の粘度が109.0Poise以上になるように前
記シートガラスを急冷する,
請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法。」
エ 請求項4
「 前記シートガラスを急冷した後,急冷時よりも冷却能を低下させて前
記側部を冷却することにより,前記側部の粘度を10 9.0 ~10 14.5 Poi
seの範囲内に維持する,
請求項3に記載のガラス基板の製造方法。」
オ 請求項6
「 ダウンドロー法により,溶融ガラスを成形体からオーバーフローさせ
てシートガラスに成形し,前記シートガラスを流下方向に引き伸ばしな
がら冷却することによりガラス基板を製造する方法であって,
前記シートガラスが前記成形体から離れた後,前記シートガラスの温
度が軟化点より高い温度から徐冷点近傍になるまでの温度領域にあると
き,前記シートガラスの両側部に向かって前記シートガラスの幅方向に
張力を加えながら,前記側部の粘度を10 9.0 ~10 14.5 Poiseの範囲
内に維持して冷却し,
前記温度領域において,
前記シートガラスの板厚を幅方向に均一にするための板厚均一化工程
と,
前記板厚均一化処理の後に,前記シートガラスの反りを低減するため
の反り低減工程と,
を行い,
前記板厚均一化工程は,前記シートガラスの中央領域における幅方向
の温度分布を均一にし,かつ,前記シートガラスの両側部の温度を,前
記中央領域の温度より低くし,
前記反り低減工程では,前記板厚均一化工程より前記シートガラスの
幅方向の温度分布を低温にし,前記中央領域の中心部から前記側部に向
けて前記シートガラスの幅方向に温度勾配を形成する,
ガラス基板の製造方法。」
カ 請求項7
「 前記シートガラスの側部の粘度が,前記流下方向に沿って高くなるよ
うに冷却する,
請求項6に記載のガラス基板の製造方法。」
キ 請求項8
「 前記成形体直下におけるシートガラスの粘度は,10 5.7~107.5Poi
seであり,
前記シートガラスの側部の粘度が10 9.0 ~10 10.5 Poiseの範囲内
になるように前記シートガラスを急冷し,
前記シートガラスを急冷した後,急冷時よりも冷却能を低下させて前
記側部を冷却することにより,前記側部の粘度を10 10.5~1014.5 Poi
seの範囲内に維持する,
請求項6または7に記載のガラス基板の製造方法。」
ク 請求項9
「 冷却ローラを用いて,成形体直下における前記シートガラスを,前記
側部の粘度が10 9.0 ~10 10.5 Poiseの範囲内になるように急冷する,
請求項8に記載のガラス基板の製造方法。」
ケ 請求項10
「 前記冷却ローラにより急冷された前記シートガラスを,前記シートガ
ラスと離間して設置される冷却ユニットを用いて冷却することにより,
前記側部の粘度を10 10.5~1014.5Poiseの範囲内に維持する,
請求項9に記載のガラス基板の製造方法。」
コ 請求項11
「 前記反り低減工程では,前記シートガラスの幅方向に形成された前記
温度勾配が低減するように,前記シートガラスの歪点近傍に向かって前
記シートガラスを冷却する,
請求項6から10のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。」
3 本件第6特許
(1) 特許番号 特許第5190558号
発明の名称 ガラス板製造装置およびガラス板冷却方法
出 願 日 平成24年10月30日(特願2012-239417)
原出願日 平成23年8月4日(特願2011-542394の分割)
優 先 日 平成22年8月4日
登 録 日 平成25年2月1日
(2) 本件第6発明
ア 請求項1
「 成形体(10)からオーバーフローした溶融ガラス(90)を,前記
成形体の両側面に沿って流下させた後,前記成形体の下端部近傍で合流
させてガラス板(91)を製造する,ガラス板製造装置(100)であ
って,
前記溶融ガラスの合流ポイントの近傍に配置される断熱材(20)と,
前記断熱材の下方に配置され,前記ガラス板の冷却速度を調整する複
数の冷却調整ユニット(40a,40b,40c,・・・)と,
を備え,
前記冷却調整ユニットは,
前記ガラス板と対向する面を有し,かつ,前記溶融ガラスの合流ポイ
ントより下方で,前記ガラス板の流れ方向に沿って並列して配置され,
前記ガラス板の冷却速度を調整する冷却調整板(41a,41b,41
c,・・・)と,
前記冷却調整板に対応して設けられ,前記冷却調整板を冷却する温度
制御ユニット(50a,・・・)と,
を有し,
前記ガラス板は,前記温度制御ユニットによって冷却されて冷却源と
なった前記冷却調整板により,冷却速度が調整されて段階的に冷却され
る,
ガラス板製造装置。」
イ 請求項2
「 前記各冷却調整板は,前記ガラス板の流れ方向に沿って,隣接して配
置されている,
請求項1に記載のガラス板製造装置。」
ウ 請求項3
「 前記各冷却調整板の前記ガラス板と対向する面の反対側の空間は,断
熱部材(71)により,前記各冷却調整板に対応した空間に区切られて
いる,
請求項1または2に記載のガラス板製造装置。」
エ 請求項4
「 前記断熱材は,前記溶融ガラスの合流ポイントの上側雰囲気および下
側雰囲気を仕切る,
請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス板製造装置。」
オ 請求項5
「 前記冷却調整板は,チャンネルであり,
前記チャンネルの主部が,前記ガラス板と対向する,
請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス板製造装置。」
カ 請求項6
「 成形体(10)からオーバーフローした溶融ガラス(90)を,前記
成形体の両側面に沿って流下させた後,前記成形体の下端部近傍で合流
させて形成するガラス板(91)を,冷却調整板および温度制御ユニッ
トを有し前記ガラス板の冷却速度を調整する複数の冷却調整ユニットに
よって冷却する,ガラス板冷却方法であって,
前記溶融ガラスの合流ポイントより下方に配置され,前記ガラス板と
対向する面を有し前記ガラス板の冷却速度を調整する第1の前記冷却調
整板と,前記第1の冷却調整板に対応して設けられ前記第1の冷却調整
板を冷却する第1の前記温度制御ユニットとによって前記ガラス板を冷
却する第1冷却ステップと,
前記ガラス板の流れ方向に対して,前記第1の冷却調整板および前記
第1の温度制御ユニットの下流に配置され,前記第1の冷却調整板およ
び前記第1の温度調整ユニットにそれぞれ並列する第2の前記冷却調整
板および第2の前記温度制御ユニットであって,前記ガラス板と対向す
る面を有し前記ガラス板の冷却速度を調整する前記第2の冷却調整板と,
前記第2の冷却調整板に対応して設けられ前記第2の冷却調整板を冷却
する前記第2の温度制御ユニットとによって前記ガラス板を冷却する第
2冷却ステップと,
を備え,
前記冷却調整ユニットは,前記溶融ガラスの合流ポイントの近傍に配
置される断熱材の下方に配置され,
前記ガラス板は,前記第1冷却ステップおよび前記第2冷却ステップ
において,前記温度制御ユニットによって冷却されて冷却源となった前
記冷却調整板により,冷却速度が調整されて段階的に冷却される,
ガラス板冷却方法。」
4 本件第8特許
(1) 特許番号 特許第5349668号
発明の名称 ガラス基板の製造方法およびガラス基板の製造装置
出 願 日 平成24年10月30日(特願2012-239644)
原出願日 平成24年3月30日(特願2012-525564の分割)
優 先 日 平成23年3月31日
登 録 日 平成25年8月30日
(2) 本件第8発明
ア 請求項1
「 ダウンドロー法により,溶融ガラスを成形体からオーバーフローさせ
てシートガラスに成形し,前記シートガラスを流下方向に引き伸ばしな
がら冷却することによりガラス基板を製造する方法であって,
前記成形体直下における前記シートガラスの粘度は,10 5.7~107.5P
oiseであり,
前記シートガラスが前記成形体から離れた後,前記シートガラスの中
央領域の温度が軟化点より高い温度から徐冷点近傍になるまでの温度領
域にあるとき,前記シートガラスの両側部に向かって前記シートガラス
の幅方向に張力を加えながら,前記側部の粘度を10 9.0 ~10 14.5 Poi
seの範囲内に維持して冷却し,
冷却ローラを用いて,前記成形体直下における前記シートガラスを,
前記側部の粘度が10 9.0 ~10 10.5 Poiseの範囲内になるように急冷
し,
前記シートガラスを急冷した後,前記シートガラスと離間して設置さ
れる冷却ユニットを用いて,急冷時よりも冷却能を低下させて前記側部
を冷却することにより,前記側部の粘度を10 10.5 ~10 14.5Poiseの
範囲内に維持する,
ガラス基板の製造方法。」
イ 請求項2
「 前記シートガラスの前記側部の粘度が,前記流下方向に沿って高くな
るように冷却する,
請求項1に記載のガラス基板の製造方法。」
5 本件第9特許
(1) 特許番号 特許第5352753号
発明の名称 ガラス基板の製造方法およびガラス基板の製造装置
出 願 日 平成25年7月12日(特願2013-145984)
原出願日 平成24年3月30日(特願2012-239644の分割)
優 先 日 平成23年3月31日
登 録 日 平成25年8月30日
(2) 本件第9発明
ア 請求項1
「 ダウンドロー法により,溶融ガラスを成形体からオーバーフローさせ
てシートガラスに成形し,前記シートガラスを流下方向に引き伸ばしな
がら冷却することによりガラス基板を製造する方法であって,
前記シートガラスが前記成形体から離れた後,前記シートガラスの温
度が軟化点より高い温度から徐冷点近傍になるまでの温度領域にあると
き,前記シートガラスに接触するように設置される第1熱処理ユニット
により前記シートガラスの側部を熱処理し,その後,前記シートガラス
と離間して設置される第2熱処理ユニットにより前記シートガラスの前
記側部を熱処理して,前記側部に向かって張力を加えながら,前記側部
の粘度を109.0~1014.5Poiseの範囲内に維持して冷却する,
ガラス基板の製造方法。」
イ 請求項2
「 前記シートガラスの前記側部の粘度が,前記流下方向に沿って高くな
るように冷却する,
請求項1に記載のガラス基板の製造方法。」
ウ 請求項3
「 前記温度領域において,前記シートガラスの板厚を幅方向に均一にす
るための板厚均一化工程を行う,
請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法。」
エ 請求項4
「 前記成形体直下における前記シートガラスの粘度は,10 5.7~107.5P
oiseであり,
前記第1熱処理ユニットにより,前記シートガラスの前記側部の粘度
が109.0Poise以上になるように前記シートガラスを急冷する,
請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。」
オ 請求項5
「 前記シートガラスを急冷した後,前記第2熱処理ユニットにより,急
冷時よりも冷却能を低下させて前記側部を冷却することにより,前記側
部の粘度を109.0~1014.5Poiseの範囲内に維持する,
請求項4に記載のガラス基板の製造方法。」
以上
別紙
計算書
(本件第4特許につき被告AvanStrate以外の連結売上高にかかる利益)
300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第4発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第4発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
= 8億4000万円
(本件第4特許につき被告AvanStrate自身の単体売上高にかかる利益)
(400億円/年【被告AvanStrate自身の単体売上高を含む
被告AvanStrateの連結売上高】
-300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】)
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第4発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第4発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 50%【本件発明を独占していることによる
被告AvanStrateの利益の比率】
= 1億4000万円
(本件第6特許につき被告AvanStrate以外の連結売上高にかかる利益)
300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第6発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第6発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
= 8億4000万円
(本件第6特許につき被告AvanStrate自身の単体売上高にかかる利益)
(400億円/年【被告自身の単体売上高を含む
被告AvanStrateの連結売上高】
-300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】)
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第6発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第6発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 50%【本件発明を独占していることによる
被告AvanStrateの利益の比率】
= 1億4000万円
(本件第5特許につき被告AvanStrate以外の連結売上高にかかる利益)
300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第5発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第5発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 80%【共同発明者との関係での原告の貢献度】
= 6億7200万円
(本件第5特許につき被告AvanStrate自身の単体売上高にかかる利益)
(400億円/年【被告AvanStrate自身の単体売上高を含む
被告AvanStrateの連結売上高】
-300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】)
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第5発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第5発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 50%【本件発明を独占していることによる
被告AvanStrateの利益の比率】
× 80%【共同発明者との関係での原告の貢献度】
= 1億1200万円
(本件第8特許につき被告AvanStrate以外の連結売上高にかかる利益)
300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第8発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第8発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 80%【共同発明者との関係での原告の貢献度】
= 6億7200万円
(本件第8特許につき被告AvanStrate自身の単体売上高にかかる利益)
(400億円/年【被告AvanStrate自身の単体売上高を含む
被告AvanStrateの連結売上高】
-300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】)
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第8発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第8発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 50%【本件発明を独占していることによる
被告AvanStrateの利益の比率】
× 80%【共同発明者との関係での原告の貢献度】
= 1億1200万円
(本件第9特許につき被告AvanStrate以外の連結売上高にかかる利益)
300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第9発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第9発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 80%【共同発明者との関係での原告の貢献度】
= 6億7200万円
(本件第9特許につき被告AvanStrate自身の単体売上高にかかる利益)
(400億円/年【被告AvanStrate自身の単体売上高を含む
被告AvanStrateの連結売上高】
-300億円/年【被告AvanStrate以外の連結売上高】)
× 20年【権利存続期間】
× 20%【本件第9発明の適用のある製品の比率】
× 1%【売上高と本件第9発明により得られる利益との比率】
× (100%-30%【会社の貢献度】)
× 50%【本件発明を独占していることによる
被告AvanStrateの利益の比率】
× 80%【共同発明者との関係での原告の貢献度】
= 1億1200万円
(合計)
8億4000万円+1億4000万円+
8億4000万円+1億4000万円+
6億7200万円+1億1200万円+
6億7200万円+1億1200万円+
6億7200万円+1億1200万円+
= 43億1200万円
以上
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