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平成24(ワ)7151特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成25年9月26日
事件種別 民事
当事者 被告株式会社MTG
原告株式会社遊気創健美倶楽部
法令 特許権
特許法29条2項3回
特許法100条1項2回
特許法162条1回
特許法36条6項2号1回
キーワード 侵害15回
特許権7回
差止5回
実施3回
無効3回
進歩性1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,別紙被告製品目録記載の被告製品が,原告の特許権を侵害すると して,特許法100条1項,2項に基づき,その実施行為の差止め等を求めるととも に,その侵害が不法行為を構成するとして,原告の被った損害の賠償を求める事案で ある。 (なお,遅延損害金請求の起算日は,既に本訴訟手続において取り下げた不正競争防 止法違反を請求原因とするものであり,特許権侵害より導かれるものでない。)

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判決文

平成25年9月26日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官

平成24年(ワ)第7151号 特許権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成25年7月4日

判 決

原 告 株式会社遊気創健美倶楽部

同訴訟代理人弁護士 小原 望

同訴訟復代理人弁護士 赤嶺 雄大

同 増田 哲也

同訴訟代理人弁護士 古川 智祥

同 飯塚 一雄

同 岡井 加女代

同補佐人弁理士 西教 圭一郎

被 告 株式会社MTG

同訴訟代理人弁護士 櫻林 正己

同補佐人弁理士 小林 徳夫

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,別紙被告製品目録記載のイ号製品及びロ号製品を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。被告は,前項に記載の製品を廃棄せよ。被告は,1000万円及びこれに対する平成21年9月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告が,別紙被告製品目録記載の被告製品が,原告の特許権を侵害するとして,特許法100条1項,2項に基づき,その実施行為の差止め等を求めるとともに,その侵害が不法行為を構成するとして,原告の被った損害の賠償を求める事案である。(なお,遅延損害金請求の起算日は,既に本訴訟手続において取り下げた不正競争防止法違反を請求原因とするものであり,特許権侵害より導かれるものでない。)前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)

(1) 当事者ア 原告原告は,健康機器,健康器具等の製造販売等を目的とする株式会社である。イ 被告被告は,健康機器等の企画等を目的とする株式会社である。

(2) 原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許」といい,その明細書及び図面を「本件明細書」と,明細書記載の発明の内容を「本件特許発明」という。)特許番号 第4871937号発明の名称 美顔器出願日 平成20年8月31日出願番号 特願2008− 255137号登録日 平成23年11月25日

(3) 本件特許の特許請求の範囲,請求項1について本件特許の特許請求の範囲のうち,請求項1は次のとおりであり(ただし,段落の冒頭に付された(a)以下を大文字に改め,柱書をA’とする。,冒頭に符号を)付した構成要件に分説される(以下「構成要件A」などという。。)A’所定量の化粧水をカップ 29 に収納し,且つ炭酸ガス供給用ボンベ B から可撓性ホース P を介して導かれた炭酸ガスをスプレー本体 S の先端噴出ノズル 31から噴出させて前記カップ内の化粧水と共に,炭酸混合化粧水を霧状に噴射する様にした美顔器に於いて,A ソケット部 5 のネジ孔 6 に炭酸ガス供給用ボンベ B の上端噴出口頭部 3 に形成されたネジ 4 が,炭酸ガス供給用ボンベ B を取替え可能に,捻じ込まれるソケット部 5 とB 炭酸ガス供給用ボンベ B の上端噴出口頭部 3 の上部に対峙するようにソケット部 5 に設けられ,噴出用管 11,内孔 12,ノズル孔 13 を備えるノズル部 10であって,噴出用管 11 は炭酸ガス供給用ボンベ B をソケット部 5 に捻じ込んだ際,その噴出口頭部 3 の封印膜 3a を貫通するよう設けられ,炭酸ガス供給用ボンベからの噴出ガスを噴出用管 11,内孔 12,ノズル孔 13 に亘ってガス流通路を形成するノズル部 10 と,C ノズル部 10 とソケット部 5 とを収納すると共に,且つ該ソケット部に捻じ込まれた炭酸ガス供給用ボンベの下端が一定長さ食み出す様,ボンベの上端噴出口頭部 3 を隠蔽してソケット部 5 のネジ孔 6 に炭酸ガスボンベの上端噴出口頭部 3 に形成されたネジ 4 が捻じ込まれた状態で装填される下開口の上側筒体

1 であって,炭酸ガス供給用ボンベ B の下部の食み出し部 Ba は,前記捻じ込みおよび前記取替えのために保持されて回転できる様,上側筒体 1 の下端開口縁から下方へ一定長さ食み出し,下開口である上側筒体 1 と,D 上側筒体 1 の上部面 1b に,一方向および反対方向に水平回転する様,装着された円形調整用摘子 17 と,E 円形調整用摘子 17 に垂下装備され,その下端 18a がバネ 19 にて弁杆 15 の上端 15a を弾圧する押圧杆 18 と,F ノズル部 10 の内孔 12 に上昇,下降変位自在に設けられる弁杆 15 であって,弁杆 15 の上端 15a は,押圧杆 18 の下端 18a に当接し,弁杆 15 の下部は,下降時には内孔 12 からノズル孔 13 へのガス流通路を遮断し,上昇時には内孔 12 からノズル孔 13 へのガス流通路を形成する弁杆 15 と,G 円形調整用摘子 17 の前記一方向への水平回転によって,押圧杆 18 を連動下降させて弁杆 15 の下部が前記ガス流通路を遮断し,円形調整用摘子 17 の前記反対方向への水平回転によって,該押圧杆 18 を連動上昇させて弁杆 15 の下部が前記ガス流通路を形成する手段と,H 前記食み出し部 Ba を挿入収納し,上側筒体 1 の下端開口縁と着脱自在に嵌合する上開口であり,而も底部が着座し,上側筒体 1 と共に直立型ボンベ収納ボックス X を構成する下側筒体 2 とを有し,I 可撓性ホース P は,スプレー本体 S とノズル孔 13 とを接続することを特徴とする美顔器なお,本件明細書には,別紙本件明細書図面目録のとおり,図面4ないし6が添付されている。

(4) 被告製品の販売等被告は,平成21年9月ころから現在まで,別紙被告製品目録記載のイ号製品,ロ号製品(品番として「CMC− L1413」又はこれに符号を付したものが使用されている。以下,総称して「被告製品」という。)の美顔器を,業として,製造し,販売している。

(5) 被告製品の構成(甲2,弁論の全趣旨)被告製品は,次のとおり構成されている(以下「被告構成(a)」などという。。)(a') 所定量の化粧水・美容液をローションボトルに収納し,かつ炭酸ガスカートリッジから可撓性を有するエアホースを介して導かれた炭酸ガスを,エアブラシの先端にあるエアノズルから噴出させ,前記ローションボトル内の化粧水・美容液と共に,炭酸混合化粧水を霧状に噴射するようにした美顔器において,

(a) レギュレータ本体下部のネジ孔に,炭酸ガスカートリッジの頭部に形成されたネジが,炭酸ガスカートリッジを取替え可能に,捻じ込まれるレギュレータ本体下部(*ロ号では「アダプタを備えたレギュレータ本体下部」)と,

(b) 炭酸ガスカートリッジの頭部の上部に対峙するようにレギュレータ本体下部に設けられ,開栓ピン,バルブケース,バルブシート,シリンダ,レギュレータ本体上部内に形成された貫通孔を備えるレギュレータ本体上部であって,開栓ピンは炭酸ガスカートリッジをレギュレータ本体下部のネジ孔に捻じ込んだ際,その頭部の封板を貫通するよう設けられ,炭酸ガスカートリッジからの噴出ガスを開栓ピン,バルブケース,バルブシート,シリンダ,レギュレータ本体上部内に形成された貫通孔,レギュレータジョイントにわたってガス流通路を形成するレギュレータ本体上部と,

(c) レギュレータ本体上部とレギュレータ本体下部を収納すると共に,かつ該レギュレータ本体下部に捻じ込まれた炭酸ガスカートリッジの下端が一定長さ食み出す様,炭酸ガスカートリッジの頭部を隠蔽してレギュレータ本体下部のネジ孔に炭酸ガスカートリッジの頭部に形成されたネジが捻じ込まれた状態で装填される下開口のレギュレータカバーであって,炭酸ガスカートリッジの下部の食出し部は,前記捻込みおよび前記取替えのために保持されて回転できるよう,レギュレータカバーの下端縁から下方へ一定長さ食み出し,下開口であるレギュレータカバーと,

(d) レギュレータ本体上部の上側面に,一方向および反対方向に水平回転する様,装着された開閉ハンドルと,

(e) 開閉ハンドルに垂下装備された止めネジの下に配置されたばね受けと,ばね受けの下に配置されたばねと,ばねの下に位置しばねの付勢力により下向きに付勢されてその下端がバルブの上端を弾圧するピストンと,

(f) レギュレータ本体上部に設けられたバルブケース,バルブシート及びシリンダ内に上昇,下降変位自在に設けられるバルブであって,バルブの上端は,ピストンの下端に当接し,バルブの中央のテーパ部は,下降時にはバルブの中央のテーパ部がバルブケース上のバルブシートから離間してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を形成し,上昇時にはバルブの中央のテーパ部が前記バルブシートに接触してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を遮断し,

(g) 開閉ハンドルの前記一方向への水平回転によって,ピストンを連動下降させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を形成し,開閉ハンドルの前記反対方向への水平回転によって,該ピストンを連動上昇させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を遮断する手段と,

(h) 前記食出し部を挿入収納し,レギュレータカバーの下端縁と着脱自在に嵌合する上開口であり,而も底部が着座し,レギュレータカバーと共に本体を構成する本体ケースとを有し,

(i) エアホースは,エアブラシとレギュレータジョイントとを接続することを特徴とする美顔器。なお,被告製品の全体図は,イ号製品,ロ号製品とも,別紙被告製品目録添付の図面1のとおりであり,上記被告構成中のレギュレータの構成は,イ号製品は,同図面2の,ロ号製品は同図面3のとおりである。

(6) 充足に争いのない構成要件被告製品が,構成要件A’,AないしC,H及びIを充足することについては,当事者間に争いがない。争点

(1) 被告製品が,構成要件D,Eを充足するか

(2) 被告製品が,構成要件F,Gを充足するか

(3) 構成要件F,Gについて,均等侵害が認められるか

(4) 本件特許に無効理由があるか

(5) 差止めの必要性及び原告の被った損害争点に関する当事者の主張

(1) 争点(1) (被告製品が,構成要件D,Eを充足するか)について(原告の主張)ア 構成要件Dについて(ア) 構成要件Dは,「上側筒体 1 の上部面 1b に,一方向および反対方向に水平回転する様,装着された円形調整用摘子 17」を備えるものであるところ,「レギュレータ本体上部の上側面に,一方向および反対方向に水平回転する様,装着された開閉ハンドル」とする被告構成(d)は,これに該当する。(イ) 「装着」とは,部品等を対象に取り付けることを意味するが,対象に物理的に装着されることまで厳密に要求されるものではなく,本件特許明細書においても,「装着」を厳格に解する根拠となる記載はないから,ある部品が本体に付属して取り付けられ,外見上一体となる場合は「装着」に当たる。被告製品においては,円形調整用摘子 17 に対応する開閉ハンドルは上側筒体 1 に相当するレギュレータカバーの上部面自体には物理的に装着されていないが,レギュレータカバーの上部面と接続されたレギュレータ本体に接続されており,外見上レギュレータカバーの上部面と接続して一体となっているから,開閉ハンドルは,レギュレータカバーの上部面に「装着」されているといえる。イ 構成要件Eについて(ア) 構成要件Eは,「円形調整用摘子 17 に垂下装備され,その下端 18a がバネ

19 にて弁杆 15 の上端 15a を弾圧する押圧杆 18 と,」を備えるものであるところ,開閉ハンドルに垂下装備された止めネジの下に配置されたばね受けと,「ばね受けの下に配置されたばねと,ばねの下に位置しばねの付勢力により下向きに付勢されてその下端がバルブの上端を弾圧するピストンと」する被告構成(e)は,これに該当する。なお,本件特許発明は,円形調圧用摘子 17 に垂直装備される押圧杆 18 が弁杆 15 の上端を直接弾圧するが,被告製品は,開閉ハンドルに垂下装備される止めネジから,ばね受け,ピストンを介してバルブを弾圧するものであり,これらはいずれも水平回転を上下運動に変換して弁を上下させる手段である点で違いはなく,本件特許発明の作用効果に違いをもたらすものではないから,上記相違は,構成要件Eの充足に影響しない。(イ) 被告は,構成要件Eにおいて,押圧杆 18 と円形調整用摘子 17 は上下に相対移動できないため,押圧杆 18 にバネ 19 の弾性力が働かない旨主張する。しかし,円形調整用摘子 17 内部の押圧杆 18 の上部と接続する部分には一定の空間が存在しており,押圧杆 18 が上下動できる空間が存在しているため,押圧杆 18 と円形調整用摘子 17 は一緒に上下動するしかないというものではなく,またバネ 19 は下部にあるバネ 16 に対して力の均衡を保つ役割を果たしているものである。なお,押圧杆 18 に抜け止め用つばを設けることで(このようなつばを設けることは周知技術である)円形調整用摘子 17 が上昇しても押圧杆 18 が取り,残されることなく,円形調整用摘子 17 に連動して押圧杆 18 を上昇させることができるから,本件特許に明確性に欠ける点はない。(ウ) 被告は,バネ 16 が本件特許の特許請求の範囲に記載されていない旨主張する。この点,確かにバネ 16 は,クレーム自体には記載されていないものの,明細書及び図面にはその存在及び作用が明記されている。これをふまえると,クレーム中にバネ 16 への言及がないことが,

第三者に不測の不利益を及ぼす

ほどに不明確であるとは到底言えない。(被告の主張)ア 構成要件Dについて被告構成(d)は構成要件Dを充足しない。被告製品において,円形調整用摘子 17 に対応する開閉ハンドルは,レギュレータ本体上部の上側面に装着されており,上側筒体2の上部面 1d に相当するレギュレータカバーの上部面に装着されていないから,被告製品は,構成要件Dを充足しない。また,「装着」を原告主張のような意味に解することはできない。イ 構成要件Eについて被告構成(e)は構成要件Eを充足しない。構成要件Eは,「円形調整用摘子 17 に垂下装備され,その下端 18a がバネ 19にて弁杆 15 の上端 15a を弾圧する押圧杆 18」というものであるが,本件特許明細書添付図面を参照する限り,押圧杆 18 は円形調整用摘子 17 とは上下に相対移動できないため,押圧杆 18 は円形調整用摘子 17 と一緒に上下動するしかなく,押圧杆 18 にはバネ 9 の弾性力は作用しない。このため,バネ 19 は弁杆

15 に弾圧の作用をもたらさない。この点につき,原告は,円形調整用摘子 17 内部の押圧杆 18 の上部と接続する部分に空間があると主張するが,そのような構成は,本件明細書や図面に存在せず,また構成としても不合理,不自然である。その上,そのような構成にした場合,押圧杆 18 に円形調整用摘子 17 の動力を伝達する構成がないので,円形調整用摘子 17 を上昇させても押圧杆 18 はなお同じ位置にとどまることになる。原告の説明では,本件明細書の記載を合理的に説明することはできない。また,このような説明によると,明細書上必須であるバネ 16 が本件特許の構成要件に含まれないことになるから,本件発明は当業者が実施することができないものに帰することになる。

(2) 争点(2)(被告製品が,構成要件F,Gを充足するか)について(原告の主張)ア 構成要件Fについて構成要件Fは,「ノズル部 10 の内孔 12 に上昇,下降変位自在に設けられる弁杆 15 であって,弁杆 15 の上端 15a は,押圧杆 18 の下端 18a に当接し,弁杆 15 の下部は,下降時には内孔 12 からノズル孔 13 へのガス流通路を遮断し,上昇時には内孔 12 からノズル孔 13 へのガス流通路を形成する弁杆 15」を内容とするものであるところ,被告構成(f)は,「レギュレータ本体上部に設けられたバルブケース,バルブシート及びシリンダ内に上昇,下降変位自在に設けられるバルブであって,バルブの上端は,ピストンの下端に当接し,バルブの中央のテーパ部は,下降時にはバルブの中央のテーパ部がバルブケース上のバルブシートから離間してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を形成し,上昇時にはバルブの中央のテーパ部が前記バルブシートに接触してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を遮断」する構成となっている。ここで,弁杆ないしバルブがガス流通路を形成するのが,上昇時であるか下降時であるかの違いはあるが,これは単に弁の構造として,上昇時にガス流通路を形成する弁を使用するのか,下降時にそうなる弁を使用するのかという違いにすぎず,本件発明の作用効果に違いを生ずるものでないから,被告構成(f)は構成要件Fを充足する。イ 構成要件Gについて構成要件Gは,「円形調整用摘子 17 の前記一方向への水平回転によって,押圧杆 18 を連動下降させて弁杆 15 の下部が前記ガス流通路を遮断し,円形調整用摘子 17 の前記反対方向への水平回転によって,該押圧杆 18 を連動上昇させて弁杆 15 の下部が前記ガス流通路を形成する手段」を内容とするものであるところ,被告構成(g)は,「開閉ハンドルの前記一方向への水平回転によって,ピストンを連動下降させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を形成し,開閉ハンドルの前記反対方向への水平回転によって,該ピストンを連動上昇させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を遮断する手段と,」を備えるところ,円形調整摘子(開閉ハンドル)の上昇下降と,弁杆 15(バルブ)の上昇下降が逆であることが本件発明の作用効果に違いを生ずるものでないことは,構成要件Fで述べたのと同様であるから,被告構成(g)は,構成要件Gを充足する。(被告の主張)ア 本件特許発明の出願経過本件特許発明の出願後,原告は,次のとおり,5度にもわたって,本件特許発明の構成要件を補正しているところ,本件特許は,このような補正を経て,特許査定を受けるに至ったものである。

① 平成21年11月12日付けの自発的補正(乙2の2。以下「補正①」という。)

② 平成22年6月23日付け拒絶理由通知(乙2の5の1)に対応した,平成22年8月24日付け補正(乙2の7,8。以下「補正②」という。)

③ 平成22年11月9日付け拒絶理由通知(乙2の9の1)に対応した,平成23年1月17日付け補正(乙2の10,11。以下「補正③」という。なお,この補正は却下されている。)

④ 平成23年6月22日審判請求の審査前置において,同日付け補正(乙2の15。以下「補正④」という。)

⑤ 平成23年9月14日拒絶理由通知(乙2の21)に対応した,同年10月24日付け補正(乙2の22,23。以下「補正⑤」という。)イ 上記補正による構成要件E,F,Gの変遷(ア) 出願当初は,水平回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆「を上下動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調節用摘子,並びに前記上側筒体の下端開口縁より食み出した炭酸ガス供給用ボンベの該食出し部を収納する」ものとされていた。(イ) 補正②において「該上側筒体に装着されると共に,回転により前記上端噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を連動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調節用摘子と,前記上側筒体の下端開口縁より食み出した炭酸ガス供給ボンベの該食み出し部を挿入収納する」ものとされた。(ウ) 補正④において,上記構成要件は,(E) 円形調整用摘子 17 に垂下装備「され,その下端 18a がバネ 19 にて弁杆 15 の上端 15a を弾圧する押圧杆 18と,

(F)ノズル部 10 の内孔 12 からノズル甲 13 へのガス流通路を遮断し,上昇時には内孔 12 からノズル孔 13 へのガス流通路を形成する弁杆 15 と,

(G)円形調節用摘子 17 の前記一方向への水平回転によって押圧杆 18 を連動下降させて弁杆 15 の下部が前記ガス流通路を遮断し,円形調整用摘子17の前記回転方向への水平回転によって,該押圧杆 18 を連動上昇させて弁杆 15 の下部が前記ガス流通路を形成する手段」であるとされた。ウ 上記をふまえた構成要件Fの構成の限定上記の補正④において,当初出願の構成であった「水平回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を上下動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調節用摘子」の構成は極めて具体的に限定された上,平成23年6月22日付け審判請求書では,補正④における(E)の構成は,「ノズル部の弁杆を上下動させて炭酸ガス噴出を調整する」との構成を,更に具体化して限定したものであると説明している。このような限定が必要であったのは,公知の先行技術である「化粧水と炭酸ガスとの混合液を顔肌に噴霧状に吹き付ける美顔器」が存在しており(平成19年11月1日公開の実用新案登録3136465号,乙2の5の2),本件特許発明が「むき出しの炭酸ガスボンベを工夫した容器で覆う」ことを課題の解決手段とするところ,ボンベを収納する本件特許の対象たる容器は単純な構造であって,公知の先行技術(乙2の5の3から8までの文献参照),とりわけ,ガスの開閉機構については,引例7(特開昭62− 226208公報,乙2の5の8)が存在したことから,これを回避する必要があったからである。エ まとめ上記出願経過を参照すると,構成要件F,Gの意味内容は,本件明細書に記載されている文言のとおり「弁杆 15 が下降することによってガス流通路が遮断され,他方,上昇時には内孔 12 からノズル孔 13 へのガス流通路が形成される構成」に限定されている。被告構成(f)は,上記このような構成を備えておらず,本件特許の構成要件Fを充足しないことは明らかであり,被告構成(g)についても同様である。なお,本件特許の構成は,ガス圧がかかることによって流路を閉塞する自然な構成を採用せず,技術的合理性のないものであり,それゆえに先行技術がなく,特許査定されたものである。原告の販売する製品も,上記構成を備えていないはずである。

(3) 争点(3)(構成要件F,Gについて,均等侵害が認められるか)について(原告の主張)仮に被告製品が構成要件F,Gを充足しないとしても,以下の通り,被告製品は,本件特許発明の均等の範囲内である。ア 相違点が本件特許発明の本質的部分でないこと本件特許発明と被告製品の相違部分(弁杆(バルブ)がガス流通路を形成するのが上昇時か下降時か)は,本件発明の本質的部分は炭酸ボンベを覆い隠す構造を採用し,それによって使用者が炭酸ガス供給ボンベを直接目にすることなく,不必要な不快感を与えることなく,噴出調整を軽快に操作できるようにするものであるところ,弁杆の上下動の差異は,本件特許発明の本質的要素に該当しない。イ 置換可能性被告製品においても,本件特許発明における炭酸ガス供給ボンベの隠蔽などの作用効果を発揮しており,本件特許発明の目的を達することができるから,置換可能性がある。ウ 想到容易性被告製品において採用されているガス流通路の形成方法は,広く採用されている公知技術であり,置換が容易かつ自明である。エ 公知技術からの想到困難性本件特許発明の本質的部分である,炭酸ボンベを覆い隠す筒体の上部面に水平回転する円形調整用摘子を装着し,円形調整用摘子に垂下装備された押圧杆が,円形調整用摘子の水平回転によって,上昇又は下降することにより,押圧杆により弾圧された弁杆が上昇又は下降し,それによってガス流通路が開通又は閉栓するような機構を採用した点が,本件特許発明の中核的特徴であり,その出願時において公知技術と同一又は当業者がこれら出願時に容易に推考できたものでない。オ 意識的除外について本件特許発明の出願及び審査経過において,被告製品のような構造のものを意識的に除外したなど,均等を妨げる事情は存しない。被告指摘の引例は,技術分野が全く異なり,引用されるべき公知技術とはいえない上,仮にそうであるとしても,原告は,拒絶理由通知に対して特許請求の範囲を縮減した補正をしただけであり,意見書で該引例と特許発明の構成及びその効果の相違を主張していないから,意識的除外は成立しない。(被告の主張)ア 意識的除外本件特許発明の前記(2)(被告の主張)イ・ウに記載の出願経過からすれば,本件特許の構成要件Fに関して,先行技術や被告製品が有する構成は意識的に除外されているから,均等侵害阻却要件(第5要件:意識的除外)に該当し,均等侵害は成立しない。イ 容易想考また,被告製品は,後記争点(4)の(被告の主張)で述べるとおり,本件特許の出願前の公知技術により容易に推考できたものであるから,やはり均等侵害阻却要件(第4要件:容易想考)に該当し,均等侵害は成立しない。ウ その他の要件(第1ないし第3要件)に関する原告の主張は,いずれも争う。

(4) 争点(4)(本件特許に無効理由があるか)について(被告の主張)ア 被告製品は,本件特許発明の出願以前に公知となった文献に開示された技術を,当業者において容易に組み合わせることにより実現できるものである。すなわち,(ア) 文献1(実用新案第3136465号公報,乙2の5の2)は,前記のとおり「化粧水と炭酸ガスとの混合液を顔肌に噴霧状に吹き付ける美顔器」であって,被告製品の構成のうち(a )(i)が,,(イ) 文献2(平成20年6月5日発行の特開2008− 128257号公報,乙3)は,減圧弁に関する発明であって,被告製品の構成のうち

(a)(b)(d)(e)(f)(g)が,(ウ) 文献3(平成19年10月25日発行の実用新案登録第3136356号公報,乙4)は,ボンベを交換可能なガス供給器の発明であって,被告製品の構成のうち,(c)(h)が,おのおの開示されている。イ そして,被告製品は,文献1から3までを組み合わせることにつき,当業者であれば容易に想到可能であるから,仮に被告製品が本件特許の技術的範囲に含まれるとするならば,本件特許もまた上記公知文献から容易に想到し得た構成にほかならないから,そうであるとすると,本件特許には進歩性欠如の無効理由(特許法29条2項)がある。(原告の主張)争う。

(5) 争点(5) (差止めの必要性及び原告の被った損害)について(原告の主張)ア 被告は,原告の本件特許権を侵害する被告製品の製造販売を続けているものであるから,特許法100条1項,2項により,請求の趣旨1項,2項の差止めの裁判を求める。イ 被告は,原告が本件特許を登録した平成23年11月25日から現在まで,被告製品を販売しており,その販売数は6500台を下らない。原告が被告の侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額は,1万8000円を下らないから,被告が,被告製品の販売によって得た利益は,1億1700万円を下らず,その額は原告の損害額と推定される。(被告の主張)争う。

第3 判断

後掲各証拠及び弁論の全趣旨に前提となる事実を総合すると,次の事実を認めることができる。

(1) 本件特許の出願経過(乙2(枝番含む)

)ア 原告は,平成20年8月31日,特許庁長官に対し,本件特許についての出願をした(特願2008− 255137)。当初出願の際の請求項1は,次のとおりとされていた(乙2の1)。「所定量の化粧水を収納するカップ及びこのカップから滴下された化粧水を引き込む導管,並びに導管内において前記滴下化粧水と炭酸ガスとを混合させて炭酸混合化粧水を霧状に噴出させる先端噴出ノズルとでスプレー本体を構成し,この炭酸ガス供給用ボンベと前記スプレー本体とを可撓性ホースにて接続し,而も該炭酸ガス噴出を調整用摘子にて調整できる様にした美顔器に於いて,前記炭酸ガス供給用ボンベの上端噴出口頭部を隠蔽し,且つ下端が一定長さ食み出す下開口の上側筒体,及びこの上側筒体の上部に装着されると共に,水平回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を上下動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調整用摘子,並びに前記上側筒体の下端開口縁より食み出した炭酸ガス供給用ボンベの該食出し部を収納すると共に,前記上側筒体の下開口縁と着脱自在に嵌合する上開口で,而も底部が着座する下側筒体とで構成された直立型ボンベ収納ボックスと,更に前記スプレー本体とノズル部とを接続する可撓性ホースとで成したことを特徴とする美顔器。」イ 原告は,平成21年11月21日付けで,前記出願につき,請求項1を次のとおり改める自発的補正(補正①,下線は補正箇所)をした(乙2の2)。「所定量の化粧水を収納し,且つ炭酸ガス供給用ボンベから可撓性ホースを介して導かれた炭酸ガスをスプレー本体の先端噴出ノズルから噴出させて前記カップ内の化粧水と共に,炭酸混合化粧水を霧状に噴射する様にした美顔器に於いて,前記炭酸ガス供給用ボンベの上端噴出口頭部を隠蔽し,且つ下端が一定長さ食み出す下開口の上側筒体,及びこの上側筒体に装着されると共に,回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を連動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調整用摘子,並びに前記上側筒体の下端開口縁より食み出した炭酸ガス供給用ボンベの該食出し部を収納すると共に,前記上側筒体の下開口縁と着脱自在に嵌合する上開口で,而も底部が着座する下側筒体とで構成された直立型ボンベ収納ボックスと,更に前記スプレー本体とノズル部とを接続する可撓性ホースとで成したことを特徴とする美顔器。」ウ 特許庁審査官は,平成22年6月23日,上記出願にかかる請求項の全てについて,特許法29条2項により,拒絶理由通知を発し,備考として,押圧杆によりガスの供給を可能とする点,ボンベ上部の封板(封印幕)を貫通させてガスを通孔,ガス供給口に導く構成は周知技術(引例7:特開昭和62− 226208公報,乙2の5の8)であるとして,請求項1− 8に係る発明のように構成することは当業者が容易に想到しえたものであると記載したところ(乙2の5の1),引例7は,後記(3)認定のとおり,バルブを上昇,下降変位自在とし,バルブ下降時にガス流通路を形成し,上昇時に流通路を遮断するとの構成を有するものであった。エ 原告は,平成22年8月24日付けで補正(補正②)の手続をしたが(乙2の7,8),同年11月9日,同補正は,新規事項の追加に当たるとされるとともに,特許法29条2項に定める発明に該当するとして拒絶理由通知がされた(乙2の9の1)オ 原告は,平成23年1月17日付けで,請求項の1を次のとおりとする補正(補正③,下線は補正箇所)の手続をした(乙2の10)。「所定量の化粧水を収納し,且つ炭酸ガス供給様ボンベから可撓性ホースを介して導かれた炭酸ガスをスプレー本体の先端噴出ノズルから噴出させて前記カップ内の化粧水と共に,炭酸混合化粧水を霧状に噴射する様にした美顔器に於いて,前記炭酸ガス供給用ボンベの上端噴出口頭部が捻じ込まれるソケット部を有し,且つ前記上端噴出口頭部がソケット部に捻じ込まれた際,該ソケット部に備えられた噴出用信管が前記上端噴出口頭部の封印膜を貫通すると共に,前記炭酸ガス供給用ボンベの下端が保持して回転できる様,前記上端噴出口頭部は外部に触れない状態で,且つ一定長さ食み出して装填される下開口の上側筒体と,該上側筒体の上端面に水平回転する様,装着された円形調整用摘子と,該円形調整用摘子に押圧杆を垂下装備し,前記円形調整用摘子の一方向への水平回転により該押圧杆をバネ力に抗して下降させると共に,ノズル部内孔の弁杆を連動下降させ,更に円形調整用摘子の逆方向への水平回転により該押圧杆をバネ力にて上昇させると共に,弁杆を連動上昇させる様にしてノズル孔を開閉口して前記炭酸ガス供給ボンベの噴出口頭部に差込まれた噴出用信管からの噴出ガスを前記ノズル部内孔からノズル孔に亘って流通,或いは遮断し,更に前記上側筒体の下端開口縁より食み出した炭酸ガス供給用ボンベの該食出し部を挿入収納すると共に,前記上側筒体の下開口縁と着脱自在に嵌合する上開口で,而も底部が着座する下側筒体と,該下側筒体と前記上側筒体とで構成された直立型ボンベ収納ボックスと,更に該収納ボックスの側面に着脱自在に装着された前記スプレー本体と,前記上側筒体の側面から引出されると共に,前記ソケット部のノズル部とを接続する必要長さの可撓性ホースとで成したことを特徴とする美顔器。ノズル孔を閉塞し,」カ 特許庁審査官は,同年3月14日,上記補正③につき,新規事項を追加するものであって,特許法17条の2第3項の規定に違反する上,請求項1にかかる発明は,「ノズル孔を閉塞し,」との意味不明な記載があり,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないとして,補正を却下する決定をし,併せて拒絶査定をした。キ 原告は,同年6月10日弁理士を本件の出願について代理人として選任した上,同月22日審判を請求し(乙2の14の4,乙2の15),同時に補正をした(乙2の16,補正④)。なお,当該不服審判事件は,特許法162条の規定により審査官に前置審査されることとなった。ク 原告は,補正④として,請求項1を次のとおりとした。「所定量の化粧水をカップ29に収納し,且つ炭酸ガス供給用ボンベBから可撓性ホースPを介して導かれた炭酸ガスをスプレー本体Sの先端噴出ノズル31から噴出させて前記カップ内の化粧水と共に,炭酸混合化粧水を霧状に噴射する様にした美顔器に於いて,

(a)(i) 炭酸ガス供給用ボンベBの上端噴出口頭部3が捻じ込み可能であって,

噴出用管11を備え,ノズル孔13を有するノズル部10であって,

(ii) さらに噴出用管11の上部からノズル孔13にわたるガス流通路を形

成する内孔12を有するノズル部10と,

(b) ノズル部10が設けられるソケット部5であって,

ソケット部5に炭酸ガス供給用ボンベBの上端噴出口頭部3が,炭酸ガス供給用ボンベBを取替え可能に捻じ込まれ,上端噴出口頭部3がソケット部5に捻じ込まれた際,噴出用管11の下部が封印膜3aを貫通するソケット部5と,

(c) ノズル部10とソケット部5とを収納すると共に,且つ該ソケット部に捻

じ込まれた炭酸ガス供給用ボンベの下端が一定長さ食み出す様,ボンベの上端噴出口頭部3を隠蔽してソケット部5のネジ孔6に炭酸ガスボンベの上端噴出口頭部3に形成されたネジ4が捻じ込まれた状態で装填される下開口の上側筒体1であって,炭酸ガス供給用ボンベBの下部の食み出し部Baは,前記捻じ込みおよび前記取替えのために保持されて回転できる様,上側筒体1の下端開口縁から下方へ一定長さ食み出し,下開口である上側筒体1と,

(d) 上側筒体1の上部面1bに,一方向および反対方向に水平回転する様,装

着された円形調整用摘子17と,

(e) 円形調整用摘子17に垂下装備され,

その下端18aがバネ19にて弁杆15の上端15aを弾圧する押圧杆18と,

(f) ノズル部10の内孔12に上昇,

下降変位自在に設けられる弁杆15であって,弁杆15の上端15aは,押圧杆18の下端18aに当接し,弁杆15の下部は,下降時には内孔12からノズル孔13へのガス流通路を遮断し,上昇時には内孔12からノズル孔13へのガス流通路を形成する弁杆15と,

(g) 円形調整用摘子17の前記一方向への水平回転によって,

押圧杆18を連動下降させて弁杆15の下部が前記ガス流通路を遮断し,円形調整用摘子17の前記反対方向への水平回転によって,該押圧杆18を連動上昇させて弁杆15の下部が前記ガス流通路を形成する手段と,

(h) 前記食み出し部Baを挿入収納し,

上側筒体1の下端開口縁と着脱自在に嵌合する上開口であり,而も底部が着座し,上側筒体1と共に直立型ボンベ収納ボックスXを構成する下側筒体2とを有し,

(i) 可撓性ホースPは,

スプレー本体Sとノズル孔13とを接続することを特徴とする美顔器。」ケ 原告は,前記審判請求に際し,補正④による新請求項(f)について,同構成要件は,旧請求項1における「ノズル部の弁杆を連動させて炭酸ガス噴出を調整する」との記載を更に具体化して限定したものである,と説明した。また引例7(特開昭62− 226208公報,乙2の5の8)との対比においては,引例7の発明を「二次圧側のガス量をシール部材とともに調整する装置であり,密閉された圧力調整機構内に,バルブ,バルブハウジング,主動ピストン,従動ピストン,バネなど,主要な構成を封入したものであり,とりわけシール部材保護のため,一次圧力側と二次圧力側を繋ぐバルブハウジングに一次ガス圧をシール面の導く横孔,縦溝などの導路を設けた点に特徴を有する」とした上,本件特許発明は,「このようなバルブハウジングを発明の構成としない。」とし,加えて,引例7の装置は,装置全体が密閉され,ガスノズル部や流路を有せず,本願発明の構成(補正④による補正後のもの)(a)および(f)を備えていないとした。コ 特許庁審査官は,上記の補正④による補正について,新請求項1の(a)(i)記載の「炭酸ガス供給用ボンベ B の上端噴出口頭部 3 が捻じ込み可能」であることが当初明細書に開示されておらず新規事項の追加に当たること,請求項1においてノズル部,噴出用管,ソケット部,内孔,ノズル孔の相互の具体的関連構成が不明であるとして,拒絶理由通知をした(乙2の21)。サ 原告は,平成23年10月24日付けで請求項1を補正して(乙2の22,補正⑤)これを本件特許の請求項1(前提事実(3)記載)のとおりとし,同年11月8日,特許査定を受けた(乙2の24)。

(2) 本件特許発明におけるガス流通機構(甲1)

ア 本件明細書には,ガスの流通,遮断を制御する機構について,以下の記載がある(下線は省略,以下同様)。「【0021】このノズル部 10 は,図4,5に示す如く,噴出用管 11 を備えており,この噴出用管 11 が炭酸ガス供給用ボンベ B を捻じ込んだ際,その噴出口頭部 3 の封印膜 3a に貫通し,炭酸ガス供給用ボンベからの噴出ガスを噴出用管 11,内孔 12,ノズル孔 13 に亘ってガス流通路を形成する。またノズル部 10 の底部には噴出口頭部 3 の封印膜 3a に圧着してガス漏れ防止パッキン 14 が備えられている。ノズル部 10 の内孔 12 には上下動する弁杆 15 を挿通しており,常にバネ 16にて上方向に弾圧されている。而して,図5,6に示す如く,この弁杆 15 の上下動によってノズル孔 13 の開閉を行う。【0022】上側筒体 1 の上部面 1b には炭酸ガス噴出調整用の円形調整用摘子 17 が位置しており,該円形調整用摘子 17 の内側面 17b からは押圧杆 18 が垂下しており,その下端 18a がバネ 19 にて弁杵 15 の上端 15a に弾圧しており,且つそのバネ力は弁杆 15 のバネ 16 の力より勝っている。即ち弁杆 15 は下方の噴出用管 11 の側にバネ 16 に抗して弾圧されている。而して,押圧杆 18 と共に円形調整用摘子 17 も常に下方向に引張られている。」イ 同様に,使用動作の説明として,【0031】には,ガスボンベを装着した状態で,「ノズル部 10 の弁杆 15 は下方向に下降しており,内孔 12 とノズル孔

13 との間は遮断されている。 (中略)

・・ ・・図5に示す如くバネ 16 に抗して弁杵 15 を下方向に弾圧下降状態に維持されており,ガス漏れはない。」とされている。ウ ガス流通路の形成(開通状態にする動作)に関して,【0032】【0033】には,「上記状態より円形調整用摘子17を反時計方向に回転させる。 (中・・略)・・而して,図6の夫々の矢印に示す如く円形調整用摘子 17 の押圧杆 18はバネ 19 に抗して上昇する。この押圧杆 18 の弾圧開放により弁杆 15 はバネ

16 にて上昇して,維持される。弁杆 15 の上昇にて,噴出用管 11,内孔 12,ノ

ズル部 10 のノズル孔 13 に亘ってガス流通路を形成される。との記載がある。」エ ガス流通路の閉塞動作に関しては,【0034】において,「次にスプレー本体 S からの炭酸混合化粧水の噴出を停止・・(中略)・・する場合は,円形調整用摘子 17 を時計方向に回転し,円形調整用摘子 17 の凸状スパイラル 23 を上側筒体 1 の凹状スパイラル 24 に噛合緊締させると共に押圧杆 18 を下降させる。これにより図5に示す如くバネ 15 に抗して弁杆 15 は下方向に弾圧下降し,ノズル部 10 のノズル孔 13 と噴出用管 11 とのガス流路を遮断し,ガス供給は断たれる。」との記載がある。

(3) 公知技術の存在及び内容(乙2の5の8,前記(1)の引例7)

特開昭62− 226208公報には,次の発明が開示されている。なお,当該発明について,その明細書上,簡便な酸素補給器等に使用される例は示されているが,これ以上に特定の技術分野に限る旨の記載は存しない。ア 発明の名称 ガス量調節器イ 特許請求の範囲(請求項1)筒状の本体の軸線上にボンベカット装置と,バネ及びガス圧により自身の大径部がシール部材と協働して流出ガス通路を一次圧力側と二次圧力側に遮断する傾向のあるバルブが内蔵されたガス量調節器において,該シール部材の該バルブと協働してガス流通路の開閉を掌る側の面とこの面と反対側の面が,少なくともガス流出時にそれぞれこのガスの一次圧力側に導結されていることを特徴とするガス量調節器ウ 実施例 別紙引例7添付図面記載のとおりなお,ガスの開閉に関する動作については,上記図面を前提として,「6は圧力調整機構で,これは圧縮バネ61とその量(ママ)側に摺動自在に配設されて互いに反発する主動ピストン 62 及び従動ピストン 63 とで構成される。バルブ4は,絞り 71 付きのガス供給口 7 に通じる二次圧力側空間部 8 で柔道ピストン 63 に接触するので,従動ピストンが下降すればこれに押されて下降し,これが上昇すればばね 46 とガス圧により上昇する。」(ガスボンベを取り付け,一次側にガスがある状態で)「圧力調整機構6の桿体 65 を頭部 65a の下面がカバー64 の上面に当たるまで押し込む。するとバルブ4がバネ46に逆って押下げられ・・(中略)・・一時圧力ガスが二次圧力側空間部8に流入し,圧力調整機構 6 により調整された二次圧力を以って,供給口7から供給される。」ものとされている。

(4) 被告製品の備える弁の開閉機構

被告製品においては,下記構成(f),(g)のとおり,「(f) レギュレータ本体上部に設けられたバルブケース,バルブシート及びシリンダ内に上昇,下降変位自在に設けられるバルブであって,バルブの上端は,ピストンの下端に当接し,バルブの中央のテーパ部は,下降時にはバルブの中央のテーパ部がバルブケース上のバルブシートから離間してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を形成し,上昇時にはバルブの中央のテーパ部が前記バルブシートに接触してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を遮断し,

(g) 開閉ハンドルの前記一方向への水平回転によって,ピストンを連動下降さ

せてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を形成し,開閉ハンドルの前記反対方向への水平回転によって,該ピストンを連動上昇させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を遮断する手段」との機構においてガスの流通,遮断の制御を行っている。争点(2)(被告製品が,構成要件F,Gを充足するか)について

(1) 構成要件F,Gの解釈

ア 構成要件Fは,弁杆 15 の下降時に,ガス流通路を遮断し,弁杆 15 の上昇時にガス流通路を形成することを内容とするものであり,構成要件Gは,連動下降,連動上昇という語が使用されていることから,円形調整用摘子 17 自体が下降すると,これと連動して押圧杆 18 が下降し,更に弁杆 15 が下降してその株がガス流通路を遮断し,また円形調整用摘子 17 を反対方向に回転してこれを上昇させると,これと連動して押圧杆 18 が上昇し,さらに弁杆 15 が上昇してガス流通路を形成することを内容とするものと解される。イ また,前記 1(2)で指摘した本件明細書及び図面において,上記アと異なるガス流通路の形成及び開閉の制御の方法を示唆する記載はなく,すべて押圧杆 18,弁杆 15 が下降した場合にガス流通路が遮断され,押圧杆 18,弁杆 15 が上昇した場合にガス流通路が形成されることを示す記載となっている。ウ 更に,前記 1(1)で認定した本件特許の出願経過によれば,原告は,当初,ノズル部の弁杆の上下動とガス流路の形成遮断の関係について何らの限定もなかったところ,補正③において弁杆の連動下降,連動上昇という要素を加え,補正④において,弁杆の下降時にガス流通路を遮断し,上昇時にガス流通路を形成するとの構成を明示するに至った経緯が認められる。エ 以上,本件特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載,及び本件特許の出願経過を総合すれば,構成要件F,Gは,弁杆下降時にガス流通路が遮断され,弁杆上昇時にガス流通路が形成される構成のみを内容とし,弁杆の上昇下降と,ガス流通路の遮断形成の関係がこれとは異なる構成となるものを含まないことは明らかと言わざるをえない。

(2) 被告製品の構成

被告製品においては,前記(4)認定のとおり,「レギュレータ本体上部に設けられたバルブケース,バルブシート及びシリンダ内に上昇,下降変位自在に設けられるバルブであって,バルブの上端は,ピストンの下端に当接」する構成を有し,ガス流通路の開通,遮断にあっては,バルブの中央のテーパ部が,下降時に,シリンダへ至るガス流通路を形成し(開通し),上昇時には,前記バルブシートに接触してガス流通路を遮断するのであって,構成要件F,Gの弁杆 15 は,被告構成(f),(g)のバルブに相当すると認められる一方,弁杆 15 に相当するバルブが上昇したときにガス流通路が開通し,下降したときに閉じる構造となっている点で構成要件F,Gとは異なる。

(3) 結論

以上によれば,被告構成(f),(g)は,構成要件F,Gを充足せず,結局,被告製品は,本件特許の技術的範囲に属しないこととなる。弁の構造の違いは本件特許発明の作用効果に影響しないから,構成要件F,Gの属否の判断に影響がないとの

(原告の主張)

は,上記説示に照らし,採用できない。争点(3)(構成要件F,Gについて,均等侵害が認められるか)について

(1) 原告は,本件特許の構成要件F,Gにつき,被告製品の構成(f),(g)が均等

の範囲内であると主張する。しかし,前記1(1)に認定した本件特許の出願経過からすると,原告は,本件特許発明のうちのガス流通路の開閉機構に関して,前記引例7(特開昭62− 226208公報,乙2の5の8)が公知文献であることを指摘された状況において,補正④において前記1(1)クのとおり特許請求の範囲を補正し,審判請求書において,当初出願の構成であった「水平回転により前記噴出口頭部と連結されたノズル部の弁杆を上下動させて炭酸ガス噴出を調整する円形調節用摘子」の構成を,更に具体化し限定したものである。

(2) 前記1(1)の認定によると,前記引例7は,バルブが上昇した際に閉塞され,

バルブが下降した際に開栓する機構を有していたのであるから,本件特許発明は,ガス流通路の開閉機構に関して,引例7に開示された構成を意識的に除外したものといわざるを得ない。

(3) これまで述べたところを総合すると,原告は,本件特許出願時に存在してい

た一定の技術について,これを含まないものとするよう特許請求の範囲の補正を行い,本件明細書においても同旨の記載をしたのであるから,特許権成立後に,前記除外された範囲について,均等の主張ができないことは明らかと言うべきであり,均等のその他の要件を検討するまでもなく,

(原告の主張)

には理由がない。結論以上の次第で,争点(2),(3)についての

(原告の主張)

は理由がなく,被告製品については本件特許の文言侵害及び均等侵害のいずれも成立しないから,争点(1),(4),

(5)を判断するまでもなく,原告の請求を棄却することとする。

大阪地方裁判所第21民事部裁判長裁判官 谷 有 恒裁判官 松 阿 彌 隆裁判官 松 川 充 康(別紙)被 告 製 品 目 録イ号製品(a') 所定量の化粧水・美容液をローションボトルに収納し,かつ炭酸ガスカートリッジから可撓性を有するエアホースを介して導かれた炭酸ガスを,エアブラシの先端にあるエアノズルから噴出させ,前記ローションボトル内の化粧水・美容液と共に,炭酸混合化粧水を霧状に噴射するようにした美顔器において,

(a) レギュレータ本体下部のネジ孔に,

炭酸ガスカートリッジの頭部に形成されたネジが,炭酸ガスカートリッジを取替え可能に,捻じ込まれるレギュレータ本体下部と,

(b) 炭酸ガスカートリッジの頭部の上部に対峙するようにレギュレータ本体下部に

設けられ,開栓ピン,バルブケース,バルブシート,シリンダ,レギュレータ本体上部内に形成された貫通孔を備えるレギュレータ本体上部であって,開栓ピンは炭酸ガスカートリッジをレギュレータ本体下部のネジ孔に捻じ込んだ際,その頭部の封板を貫通するよう設けられ,炭酸ガスカートリッジからの噴出ガスを開栓ピン,バルブケース,バルブシート,シリンダ,レギュレータ本体上部内に形成された貫通孔,レギュレータジョイントにわたってガス流通路を形成するレギュレータ本体上部と,

(c) レギュレータ本体上部とレギュレータ本体下部を収納すると共に,

かつ該レギュレータ本体下部に捻じ込まれた炭酸ガスカートリッジの下端が一定長さ食み出す様,炭酸ガスカートリッジの頭部を隠蔽してレギュレータ本体下部のネジ孔に炭酸ガスカートリッジの頭部に形成されたネジが捻じ込まれた状態で装填される下開口のレギュレータカバーであって,炭酸ガスカートリッジの下部の食出し部は,前記捻込みおよび前記取替えのために保持されて回転できるよう,レギュレータカバーの下端縁から下方へ一定長さ食み出し,下開口であるレギュレータカバーと,

(d) レギュレータ本体上部の上側面に,一方向および反対方向に水平回転する様,装

着された開閉ハンドルと,

(e) 開閉ハンドルに垂下装備された止めネジの下に配置されたばね受けと,

ばね受けの下に配置されたばねと,ばねの下に位置しばねの付勢力により下向きに付勢されてその下端がバルブの上端を弾圧するピストンと,

(f) レギュレータ本体上部に設けられたバルブケース,

バルブシート及びシリンダ内に上昇,下降変位自在に設けられるバルブであって,バルブの上端は,ピストンの下端に当接し,バルブの中央のテーパ部は,下降時にはバルブの中央のテーパ部がバルブケース上のバルブシートから離間してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を形成し,上昇時にはバルブの中央のテーパ部が前記バルブシートに接触してバルブケースからシリンダへ至るガス流通路を遮断し,

(g) 開閉ハンドルの前記一方向への水平回転によって,

ピストンを連動下降させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を形成し,開閉ハンドルの前記反対方向への水平回転によって,該ピストンを連動上昇させてバルブの中央のテーパ部が前記ガス流通路を遮断する手段と,

(h) 前記食出し部を挿入収納し,

レギュレータカバーの下端縁と着脱自在に嵌合する上開口であり,而も底部が着座し,レギュレータカバーと共に本体を構成する本体ケースとを有し,

(i) エアホースは,

エアブラシとレギュレータジョイントとを接続することを特徴とする美顔器。ロ号製品イ号製品の構成(a)につき,次の構成とし,他は,イ号製品と同一の構成を備える製品

(a) レギュレータ本体下部のネジ孔に,

炭酸ガスカートリッジの頭部に形成されたネジが,炭酸ガスカートリッジを取替え可能に,捻じ込まれるアダプタを備えたレギュレータ本体下部と,被告製品目録添付図面図面1 全体図(イ号,ロ号共通)図面2 イ号のレギュレータの構成図面3 ロ号のレギュレータの構成(別紙)本件明細書図面目録図面4図面5図面6(別紙)引例7添付図面

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実務におけるノウハウ管理基礎

11月12日(木) - 大阪 大阪

特許侵害予防調査の基礎

11月12日(木) - オンライン

営業秘密管理セミナー

11月13日(金) - オンライン

米国での特許権利化(機械)

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