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7月5日
「未来の発明者を育てたい」、知財の “出張授業” に取り組む弁理士たち ~前編~
7月2日(木)配信
インタビューに協力してくださった日本弁理士会関東会のみなさん知的財産の専門家である弁理士は、発明、デザイン、ブランドといった知的財産の権利化から、その活用支援に至るまで幅広い業務に携わります。ときには訴訟の代理人として法廷に立ったり、権利の売買交渉やライセンス交渉に臨んだりすることもあり、高度な専門性を備えたプロフェッショナルとして知られています。
そんな弁理士たちが、未就学児から高専生までの幅広い年代を前に寸劇を演じたり、工作の授業を行ったりする取り組みを20年以上にわたって続けていることは、あまり知られていません。多忙な日常業務のかたわら、若年世代に向けた知財創造教育に力を注ぐ背景には、未来の発明者を育てたいという明確な想いがあります。
日本弁理士会関東会のみなさんに、学校などの教育機関に出張して行っている知財創造教育の取り組みについて、お話を伺いました。
※弁理士のみなさんの肩書は、インタビューを行った2025年度当時のものです。
――早速ですが、知財創造教育における出張授業では、どのような取り組みをされているのでしょうか。
遠田利明さん 未就学児から高校生や高専生ぐらいまでを対象に、依頼元からの要望に応じて内容を調整した知財授業を行っています。たとえば小学生くらいまでの子には、動物のキャラクターが登場する「電子紙芝居」で発明や知財について学んでもらったり、身近な特許商品に触れてもらったり、与えられた材料で日常の困りごとを解決する発明を体験する「発明工作」に取り組んでもらったりします。
中高生や高専生には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などについてそれぞれ説明する「知財講義」をします。著作権の場合は特許権などとは法的な考えが異なるため、教えるうえで特有の難しさがあります。ですので、著作権については別枠で知財講義を行っており、いずれの講義でも、基本知識に加えてトラブル事例なども取り上げています。さらに「キャリア教育」といって、弁理士を含めた知財に関係する様々な仕事について、講師である弁理士の実体験などを踏まえた講義も行っています。
――各授業の組み合わせは、依頼元が必要に応じてカスタマイズできるのですか?
遠田さん はい。依頼元は学校をはじめとする教育機関のほか、イベント運営者など様々ですが、事前に綿密なヒアリングを行い、要望に合わせて授業内容を組み立て、適任と判断した弁理士を派遣します。
遠田利明氏/弁理士 = 日本弁理士会関東会幹事。知財創造教育支援委員会委員長――小学生ぐらいの子どもたちは、弁理士と聞いてピンとくるものなのでしょうか。
遠田さん その点は、この取り組みを始めた頃からするとガラッと変わったところです。今の子どもたちは、弁理士について「普通に聞いたことがある」という子が多いですね。ドラマやテレビ番組などのメディアで取り上げられた影響も大きいのでしょう。発明や特許についても知っていて、「もっとその先を知りたい」という欲求に応えるために我々が教えに行く、というところがあります。
――取り組みを始めた頃と言うと、いつぐらいでしょうか。
遠田さん 1999年頃です。その当時は、弁理士と言うと「便利屋さん?」と聞き返されたり、弁護士と間違われるなどということも日常的にありました(笑)。
――その頃と比べると、知財を取り巻く環境が大きく変わってきているということですね。
遠田さん そう思います。1999年に弁理士会の付属機関として知的財産支援センターが発足すると、その中の第一事業部に小中学校支援チームが立ち上がり、熱意を持った弁理士たちが中心になって教育現場への出張授業がスタートしました。そこからすべてが始まったと言えます。
2004年に小泉内閣が「知的財産推進計画2004」を発表すると、それも追い風になり、技術立国日本の実現に向けて知財の重要性が社会全体で認識されます。そうした状況下で、「知的財産のマインドを教えに行くぞ」という意気込みとともに、支援チームも教育現場での取り組みにいっそう精力を注ぐようになりました。当時は、「母校(小学校・中学校)に戻ろう」というスローガンを掲げて活動していたと聞いています。
――現在の子どもたちの間で知財の認知度が高まっている背景には、メディアの影響や政府の施策だけにとどまらず、弁理士のみなさんの四半世紀にわたる精力的な取り組みがあったということなのですね。
遠田さん そうかもしれませんね。国の施策は現在も続いていますし、我々も脈々と活動を続けて今に至っています。

――ところで、先ほど伺った知財授業のメニューの中に「発明工作」という、一般にはあまり聞きなれない授業がありましたが、いったいどんなことをする授業なのでしょうか。
遠田さん 子どもたちに材料と道具だけをわたして、我々から提示する課題を解決するための発明をしてもらうという授業です。
たとえば、目の前に散らかった机があったとして、「この机をきれいに片づけたいけど、どうしたらきれいにできるかな? きれいに片づけられるような魔法のボックスをつくってみて」などと言ってテーマを与え、厚紙やのりなどの材料と道具だけを渡し、あとは子どもたちに任せます。
――子どもたちは、それだけで何かを作り出せるものでしょうか。
遠田さん はじめは、「ああでもない、こうでもない」などとやっているのですが、思案しながらも、子どもたちは手を動かし出します。一緒にいる親御さんの手を借りながらであったりはしますが、そんなふうに試行錯誤しながら作っていく過程を楽しんでもらいます。発明が生まれるプロセスを体験してもらうことで、発明とはどういうものかを理解してもらう。そこにこの授業のおもしろさがあると思っています。
――子どもたちに与えられる課題には、ほかにどんなものがありますか?
美川公司さん 小学校低学年向けですと、たとえば「スポーツ観戦時に食べ物や飲み物を片手で持ちながら応援できるようなグッズを作ってみて」という課題を出すこともあります。
課題は学年ごとに何種類か用意しているのですが、いずれも日常生活のちょっとした不便さを取り上げて、「それをそのまま放っておく? みんなだったらどうする?」と問いかけていくことで、子どもたちの中から「発明者マインド」を少しずつ引き出していきます。子どもたちがそれをきっかけに考え、工夫するようになることが重要で、考える習慣をつける契機にしてもらえたらいいなと思っています。
美川公司氏/弁理士 = 日本弁理士会関東会幹事(知財創造教育支援委員会担当)。神奈川委員会委員――実際のところ、そうした作業には向き不向きがありそうな感じがするのですが、子どもによって、個人差が大きいということはないのでしょうか。
遠田さん 個人差はけっこうあります。難しく感じて戸惑ってしまう子も少なくないですし、みんながみんな興味を持ってくれるわけではありません。なかなかアイディアが形にならないことも多いです。ですが、試行錯誤の過程をおもしろいと感じてくれる子もいますし、課題に対して工夫をこらし、柔軟な発想力を発揮する子もいます。
私たちは、そうした子どもたちの興味の芽を見逃さないことはもちろん、難しさを感じている子に対しても、どうすれば課題を解決できるかを一緒に考え、アイディアを形にするおもしろさを体験してもらうのが役割だと思っています。質問やアプローチがあれば、専門家として惜しみなくアドバイスを送り、未来の発明者を育てることに大きなやりがいを感じています。手弁当のボランティア活動ではありますが、子どもたちの創造力を引き出すことに誇りを持って取り組んでいます。
――子どもたちの反応はいかがですか?
遠田さん 授業後に感想文で、驚きや発見があった点などを書いてもらうのですが、たとえば、限られた枚数の紙で高いタワーを作る発明工作を体験した小学生からは、「どれだけペラペラの紙でも工夫すると重いものを乗せられるようになって、とてもびっくりした」といった感想が返ってきました。
ほかには、「特許を2人などでつくって、1人が出願してしまったら、もう1人は特許を登録できないんですか?」といった趣旨の質問が小学生から寄せられたこともありました。この質問には、先願主義や共同出願、冒認といった知財の制度や法的な面にかかわる要素が入っています。恐らくは知財授業でそれに近い話題が取り上げられた際に疑問を持った子が発したものではないかと思われますが、弁理士の私たちからみてもハッとさせられるような質問でした。
――大人が思っている以上に理解を深め、さらに先へ進もうとする子どもたちもいるということなのでしょうか。ところで、発明に興味のある子、意欲的な子には、その先でも何か機会や選択肢があるのでしょうか。
亀崎伸宏さん 個別の対応にはなりますが、小中学生の場合は、たとえば少年少女発明クラブのような、しっかりした講師がいる団体・組織をご紹介することができます。もともと知財授業自体、学校だけに限らず発明クラブから依頼を受けて行うケースもあるのですが。そのほかとして、高校生以上になるとパテントコンテストにも参加できます。
亀崎伸宏氏/弁理士 =日本弁理士会関東会幹事。広報委員会委員長。栃木委員会委員。埼玉委員会委員。弁理士の日記念イベントWG委員岩見晶啓さん パテントコンテストは弁理士会も主催者団体のひとつで、私も関わっています。発明したものを応募してもらい、入選した方には私たち弁理士が無料で相談に乗って、特許庁への権利出願から登録まで費用面も含めて支援するという企画です。そのほかには、山口大学などが主催する全国知財創造実践甲子園など、いくつかの機会があります。
美川さん ただ、私たちとしては、知財授業を受けた子どもたちには、そうした選択肢があることを知ってもらうだけ、もしくは興味を持ってもらうだけでも構わないと思っています。その後、その子たちが成長して、もし大学などに進学した場合、知的財産について学ぶ機会もあるかもしれません。私たち弁理士も実務家教員として大学で教壇に立つことがあり、そこでまた触れ合う機会があるかもしれないと思っていますので。
遠田さん どこかで会えますよね。
美川さん そうですよね。ですから、その子が発明に興味を持ってくれて、自分にはいくつかの選択肢があるのだなという意識が、発明工作で自らが作ったものとともに残っていくならば、それはそれで正解なのではないかと思います。
――子どもたちの中で発明についての意識や関心が少しでも芽生えて残るものがあるならば、それは未来の可能性につながっていくということですね。
岩見晶啓氏/弁理士 = 日本弁理士会関東会幹事。東京委員会副委員長。知的財産支援センターパテントコンテスト事業部運営委員。後編に続く
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