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「未来の発明者を育てたい」、知財の “出張授業” に取り組む弁理士たち ~後編~

7月9日(木)配信

インタビューに協力してくださった日本弁理士会関東会のみなさん インタビューに協力してくださった日本弁理士会関東会のみなさん

 知的財産の専門家である弁理士は、発明、デザイン、ブランドといった知的財産の権利化から、その活用支援に至るまで幅広い業務に携わります。ときには訴訟の代理人として法廷に立ったり、権利の売買交渉やライセンス交渉に臨んだりすることもあり、高度な専門性を備えたプロフェッショナルとして知られています。

 そんな弁理士たちが、未就学児から高専生までの幅広い年代を前に寸劇を演じたり、工作の授業を行ったりする取り組みを20年以上にわたって続けていることは、あまり知られていません。多忙な日常業務のかたわら、若年世代に向けた知財創造教育に力を注ぐ背景には、未来の発明者を育てたいという明確な想いがあります。

 日本弁理士会関東会のみなさんに、学校などの教育機関に出張して行っている知財創造教育の取り組みについて、お話を伺いました。

前編はこちら

※弁理士のみなさんの肩書は、インタビューを行った2025年度当時のものです。


未来の仲間を育てたい

――ところで、小学生向けの知財授業のパンフレットを拝見すると、授業のモデルケースとして紹介されている内容では、発明工作の前に、電子紙芝居だったり知財講義だったりと、必ず知財について説明する授業がセットで組まれています。発明を体験することで、それを権利として守ることの重要性を身をもって感じることができそうですし、両方を一緒に学べるカリキュラムはとてもバランスが取れているなと思いました。

遠田さん そうですね。ただ、そうは言っても、私たちとしては、まずは何よりも「発明者を育てたい」という思いが一番にあるという点は強調させていただきたいところです。発明者や技術者がいなければ、私たちとしてはサポートしたくてもサポートする相手がいないことになってしまいますから。せっかく生み出した発明が第三者に真似されてしまわないよう、確かな権利にして守り抜くサポートするのが私たち弁理士の仕事だと思っています。

 ですので、子どもたちには「権利を守ってほしい」とか、「弁理士になってほしい」などというよりも、むしろ最初は、「発明を楽しんでください」「発明者になってください」という思いで向き合っています。

――発明者を育てたい、というのが第一義なのですね。

遠田さん そうです。どちらかというと、そういう考えですよね。

美川さん そうですね。発明工作で、子どもたちに「考えてもらうきっかけ」を作れたらと思っています。できれば、その時に一緒にいる親御さんにも体験してもらうと、家庭に帰ってからも話が続くでしょうね。その行き着く先の何十年か後に、私たちと一緒に仕事ができるような人が育ってくれればいいなと、そんなふうに思いながら授業をしています。そこから派生して、私たちの仲間に入ってくれる人が出てくればいいなと思っています。

遠田さん 発明でもデザインでもブランドでも、いろいろな方面に興味を持つ子どもたちがいると思います。そういう子どもたちをバックアップしてあげたいという思いでやっています。

 ただ、せっかくつくったものが真似されたり誰かに盗まれたりしたら嫌ですよね。「そういうときにこういう権利があるんですよ」「誰かに真似されたり盗まれたりしたら相談してくださいね」と。そんなスタンスで、知財についての説明をしています。

――なるほど。あくまでも発明者を育てたい、知財をつくる人材を育てたいという思いによる取り組みであり、自らがつくった知財を守ることができるよう、知財についての説明も授業でしているということなのですね。一番根底にあるのが、発明者を育てたいという思いであることがよくわかりました。

子どもの発明が弁理士のスキルを向上させる

遠田さん そこが一番大きいところですが、そのほかに、授業を通じて私たち弁理士自身の能力を伸ばしたい、という考えもあります。

――と言いますと?

遠田さん 弁理士というのは、人から話を聞き出すとか、差異性を見つけるといったことが一番大切なスキルだったりするのですが、子どもたちの発明工作に携わると、そこが非常に鍛えられるのです。

 子どもたちがつくっているものを見ながら、どこに差異性や良さがあるのかを瞬時に判断するのはけっこう難しいもので、何を作っているのかすらよくわからないときもあります。また、似たようなものを作る子どもが必ず出てきます。そうしたときに、不躾に何を作っているのかを聞き出そうとして子どもたちを傷付けるようなことをせずに、差異性を見つけていく、いいところを見つけていくというのは、弁理士の能力のひとつです。世間には多くの発明がありますが、やはり似たような技術がたくさんあり、その中から差異性を見つけ、良さを見つけ、それを特許にする、それが私たちの仕事ですので。

――なるほど。

美川さん 子どもたちの考え方や行動は「予測不能」ですので、どういうアイディアを出してくるのか、もちろん事前にはわかりません。固まってしまう子もいますし。

遠田さん 時に、子どもたちを奮い立たせることも必要です。発明者の「背中を押してあげる」ことも必要になってくるのです。

美川さん 声かけをどうするかとか、そもそも「この子は何を考えているんだろう?」と理解しようとするとか。そういったアプローチは、私たちの仕事でも直接、役に立ちます。声かけひとつで引き出される答えも全く違ってきますので。

――そうなのですね。子どもたちの発明に携わることで、弁理士に必要な能力が向上する場合もあるというのは少し意外でした。

弁理士の多様なキャリアが強みに

――さて、ここまで小学校向けの発明工作授業などを中心にお話を伺ってきましたが、知財授業は、中高や高専をはじめ、様々な学校・教育機関にも出向いて行われると伺いました。

遠田さん そうですね。通常の中高や高専はもちろん、あとはデザイン系の学校からもよく依頼を受けて授業に出向きます。意匠権だけでなく、著作権について聞きたいというニーズが強いものですから。

美川さん デザインは、知財とかかわりがあることがパッと見で一番わかりやすい分野です。たとえばデザイン科の学生さんにとって、自身がデザインした製品を流通させたいと考えているときに、ほかの人が同じようなアイディアを持っていて先に権利化してしまったらどうなるのかといった話は、将来にかかわる大問題です。デザイン業界を志望する学生がそうした知識をまったく持っていないのは不幸なことだと、デザイン学校の先生がおっしゃっていました。

――そうした場合は、デザインについて専門性のある弁理士さんが派遣されるのでしょうか。

美川さん そうですね、デザイン分野に強みを持っている弁理士を派遣します。ご存じの通り、弁理士試験に合格すれば弁理士にはなれますので、本当に様々な経歴を持った人がいます。デザインに強い弁理士もいれば、法律を専門に勉強してきた人もいます。

遠田さん 海外経験の豊富な人もいれば、理工系の大学院を出て研究者生活をしていた人もいます。

――そうした弁理士さんの多様なバックグラウンドは、知財授業でキャリア教育をする上でも強みになりそうですね。

遠田さん 強みになっていると思います。幅広いバックグラウンドを持った弁理士が多く、そうした弁理士たちは様々なことを見聞きし経験してきているので、知財についてだけではなく、自身の経験も含めて本当にいろいろな話を生徒さんたちにしてあげることができます。実際、聞く側の生徒さんたちも、そういう実体験を踏まえた話を求めている場合が多いのかもしれませんね。

オーダーメイドで授業を組み立てる

――それでも、依頼元によって毎回異なる要望に応じて授業内容を組み立てるのは、大変な労力が求められるのではと思うのですが、どうなのでしょう。

遠田さん 確かに、事前準備が大変ですね。依頼元ともしっかり話す必要がありますし、オーダーメイドで授業を組み立てるので、授業に出向く弁理士自身も勉強していかなければいけません。

美川さん 私は2年ほど前に、特別支援学校からの要請を受けて、メインで授業をする弁理士と共に知財授業に出向いたことがあるのですが、そのときは周到な事前準備を行いました。著作権にまつわるところで、他人が権利を持つ画像などをSNSでアップロードしてはいけないといったことをなるべく簡単に教えてほしいという依頼でした。

 私たちは普段、パワーポイントを使って授業をすることが多いのですが、そうした資料の文字数もあまり多くしないでほしい、できるだけゆっくり話してほしいといった要望も受けました。そうしたリクエストに合わせ、決められた時間内で必要な内容をどう教えようかと綿密に調整した上で授業を行いました。事前に普段の授業風景を見学させてもらい、生徒さんの特徴も把握していたので、なんとかうまくいったと思います。

デスクワークを離れる楽しさ

――それは大変でしたね。本当に多様な要望に対応されていることがよくわかりました。

遠田さん 大変ですが、ここでの活動は楽しいですよ。

美川さん 私たちの委員会は女性が多く、お子さんがいらっしゃる方も多いです。そうした背景もあってか、自身の子どもがいる学校へ知財授業に行くというケースが少なくありません。私も、最初に出向いた知財授業は自分の息子がいる小学校の授業でした。

遠田さん 私たちは、衣装をまとって電子紙芝居のストーリーを実際の寸劇として演じることがありますが、以前、私の子どもとその友人の2人に劇を演じてもらったことがあります。彼らが中学生だったころに、小学校の授業で演じてもらいました。小学校も高学年の子になると、我々大人の劇ではあまりウケないんですよね(笑)。ですので、年の近い中学生の2人に演じてもらったら興味を持って聞いてくれました。

――授業のアットホームな雰囲気が伝わってくるような気がします。衣装も準備されているのですか。

遠田さん そういうグッズを揃えています。紙芝居に登場する犬のレオ君が被っているパン職人のハットですとか、犬の手の形状をした手袋ですとか。

――自作されるのですか?

遠田さん 先輩の弁理士たちが買ったり、作ったりしたものが脈々と受け継がれているのだと思います。衣装と言えば、「はっぴょん」をご存じですか?

――日本弁理士会のマスコットですよね。

遠田さん そうです。「アイディアが『ハッ』とわいたら、『ぴょん』と弁理士に相談してね」が名前の由来なのですが、あの黄色の着ぐるみも持っていまして、私たちが中に入ることもあります。

美川さん 身長制限があるのですけれども。

遠田さん 私も中に入ったことがあるのですが、すごく暑いです......。

――けっこう体を張った活動をされているのですね。でも、楽しそうに聞こえます(笑)。

美川さん そうですね。みんなで本当に楽しくやっています。普段、私たちがしている仕事は、発明者から話を聞き、権利取得の手続きを行い、権利化された後は訴訟などの対応をするなど、基本的にデスクワークが多い傾向にあります。ですから、私個人としては普段の業務とは異なる身体を使った活動ができるという意味で、この取り組みを長く続けさせてもらっているところがあります。

――確かに、通常の業務では見えない景色が見えそうですし、なかなか普段は触れ合えないような人たちとの交流も楽しめそうですね。

ひとつのチームとして

遠田さん 最後にひとつ申し添えたいのですが、私たちの活動は周囲のサポート体制がしっかりしているからこそ続けてくることができたと思っています。私たちが所属する知財創造教育支援委員会だけではなく、広報委員会の方々や、今回のインタビュー取材でも窓口となってくれた原田美紅さんのような事務局の方々など、みなさんがしっかりとバックアップしてくれているからこそ、こうしてスムーズに活動を行うことができています。まさにひとつのチームとして取り組んでいます。

――充実した教材や資料がそろえられている点や、ホームページをはじめ多様な媒体で情報発信されている点からも、弁理士会全体が総力を挙げて取り組まれていることがよく伝わってきます。

 さて、あっという間に時間が過ぎてしまいましたが、最後に、今後も活動を続けていかれる上での抱負を聞かせてください。

遠田さん 活動を通じていろいろな方々と触れ合い、頼りにされるような仕事をしていきたいです。やはり士業に携わる方はみなさん同じだと思うのですが、誰かがいて、その人に頼ってもらわなければ仕事にはなりませんし、やりがいもありません。そうした点をいつも大事にし、自身でスキルアップしていくのが私たちの使命だと思っています。

美川さん 知財授業を担当してくれる弁理士も増えてほしいですし、弁理士試験を受けて弁理士になる人も増えてくれるといいなと思っています。今、試験の受験者自体がだいぶ減ってしまっていますので。

――みなさんの活動が実を結び、知財の世界がますます盛り上がってくれることを祈りながらインタビューを終えたいと思います。本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

 

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