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令和4(ワ)8985特許権侵害差止等請求事件

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裁判所 一部認容 大阪地方裁判所
裁判年月日 令和7年9月30日
事件種別 民事
当事者 原告因幡電機産業株式会社
被告丸井産業株式会社
対象物 交差連結具
法令 特許権
特許法102条2項6回
特許法100条1項2回
特許法36条6項2号1回
特許法36条6項1号1回
特許法101条1号1回
キーワード 実施26回
特許権14回
侵害13回
差止8回
無効7回
損害賠償4回
進歩性3回
主文 1 被告は、別紙「被告製品目録」記載1及び2の製品を輸入し、製造し、販売し
2 被告は、別紙「被告製品目録」記載1及び2の製品及び同製品の製造に供する
3 被告は、原告に対し、2718万1604円及びうち1359万0802円に
0月1日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担と
6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事件の概要 ・ 本件特許 : 発明の名称を「交差連結具」とする特許(特許第614150 2号) ・ 本件特許権: 本件特許に係る特許権 ・ 本件発明 : 本件特許の【特許請求の範囲】 【請求項4】に係る発明 ・ 本件明細書: 本件特許に係る明細書及び図面 ・ 被告製品1、同2: 別紙「被告製品目録」記載1、同2の製品(これらの総 称は「被告製品」 ) ・ 乙1公報 : 特開2014-52014号公報(平成26年3月20日公開) ・ 乙1発明 : 乙1公報に記載された発明 ・ 乙20発明: 特開平7-324426号公報(乙20)に記載された発明

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判決文

令和7年9月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第8985号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和7年7月16日
判 決
原告 因幡電機産業株式会社
同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 田上 洋平
同訴訟復代理人弁護士 小野 夏海
10 同訴訟代理人弁理士 北村 修一郎
同補佐人弁理士 伏木 和博
同 飯田 淳也
被告 丸井産業株式会社
15 同代表者代表取締役
同訴訟代理人弁護士 古城 春実
同 岡田 健太郎
主 文
1 被告は、別紙「被告製品目録」記載1及び2の製品を輸入し、製造し、販売し
20 又は販売の申出をしてはならない。
2 被告は、別紙「被告製品目録」記載1及び2の製品及び同製品の製造に供する
金型を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、2718万1604円及びうち1359万0802円に
対する令和4年9月30日から、うち1359万0802円に対する令和5年1
25 0月1日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担と
する。
6 この判決は、第1項及び第3項に限り、仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
5 第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は、原告に対し、7148万4000円及びうち3574万2000円に
対する令和4年9月30日から、うち3574万2000円に対する令和5年1
0月1日から各支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。
10 第2 本判決における略称
・ 本件特許 : 発明の名称を「交差連結具」とする特許(特許第614150
2号)
・ 本件特許権: 本件特許に係る特許権
・ 本件発明 : 本件特許の【特許請求の範囲】【請求項4】に係る発明
15 ・ 本件明細書: 本件特許に係る明細書及び図面
・ 被告製品1、同2: 別紙「被告製品目録」記載1、同2の製品(これらの総
称は「被告製品」)
・ 乙1公報 : 特開2014-52014号公報(平成26年3月20日公開)
・ 乙1発明 : 乙1公報に記載された発明
20 ・ 乙20発明: 特開平7-324426号公報(乙20)に記載された発明
第3 事案の概要
本件は、本件特許権を有する原告が、被告が本件発明の技術的範囲に属する被
告製品(なお、被告製品はボルトを固定して使用されるところ(甲12、乙6)、
ボルトが固定されている状態の被告製品を指して、特に「被告製品(使用状態)」
25 ということがある。)を輸入し、製造・販売等することは本件特許権の侵害に当た
ると主張して、被告に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の
輸入・製造・販売等の差止め並びに被告製品及び金型の廃棄を求めるとともに、
不法行為(民法709条)に基づき、損害賠償金7148万4000円及びうち
令和4年9月30日までに生じた損害賠償金3574万2000円に対する同
日から、うち同年10月1日から令和5年9月30日までに生じた損害賠償金3
5 574万2000円に対する同年10月1日から各支払済みまで民法所定の年
3パーセントの割合による遅延損害金の支払(一部請求)を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定で
きる事実)
(1) 当事者
10 ア 原告は、電子部品・デバイス、プラスチック製品、金属製品、建築材料の
設計、製造、加工及び販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は、建築資材、設備資材、電設資材の製造及び販売並びに建築金物の
製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。
(2) 本件特許権
15 原告は、次の本件特許権を有している。本件特許の書誌的事項は、次のとお
りである(甲2)。
ア 登録番号 特許第6141502号
イ 原出願日 平成26年12月19日
ウ 出願日 平成28年9月9日
20 エ 登録日 平成29年5月12日
オ 発明の名称 交差連結具
(3) 構成要件の分説
本件発明(請求項4。ただし、請求項1を引用するもの。)の構成要件は、別
紙「被告製品の構成」の「構成要件」欄のAないしJのとおり分説される。
25 (4) 被告製品の構成
ア 被告製品1の使用状態を含む客観的な形状は、別紙「被告製品説明書」の
図面及び写真のとおりであり、また、被告製品2は、被告製品1と比較して
寸法や係止部の形状に差異があるものの、本件発明の構成要件に関わる部分
の構成は被告製品1と同一である(なお、これら対象製品に係る訴えの変更
について、被告が異議を述べた点については、後記の「当裁判所の判断」で
5 判断を示すこととする。)。
イ 被告製品は、構成要件A及びJを充足する。
(5) 被告の行為等
被告は、遅くとも令和3年10月頃から、被告製品を製造し、販売し、販売
のための申出をしている。
10 (6) 訴訟の経過
本件訴訟においては、令和5年8月25日及び同年9月7日の各弁論準備手
続期日において、侵害論の心証開示が行われた後、損害論の審理に入り、令和
6年11月28日の弁論準備手続期日では、損害論の心証開示も行われた。そ
の後、両当事者とも和解を検討し、関連事件との一体的解決を含めた調整が続
15 けられたが、令和7年6月24日の弁論準備手続期日で和解の試みは打ち切ら
れた。
2 争点
(1) 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
(2) 本件発明の無効理由の有無(争点2)
20 ア 明確性要件違反の有無(争点2-1)
イ サポート要件違反の有無(争点2-2)
ウ 乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2-3)
(3) 損害の有無及び額(争点3)
第4 争点についての当事者の主張
25 1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)
被告製品の構成についての当事者の主張は、別紙「被告製品の構成」の「原告
の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載のとおりである。
本件発明に係る構成要件BないしIの充足性についての当事者の主張は、別紙
「本件発明に関する充足論」の「原告の主張」欄及び「被告の主張」欄各記載の
とおりである。
5 2 本件発明の無効理由の有無(争点2)
本件発明の無効理由(明確性要件違反、サポート要件違反及び乙1発明に基づ
く進歩性欠如)の有無についての当事者の主張は、別紙「無効理由」の「被告の
主張」欄及び「原告の主張」欄各記載のとおりである。
3 損害の有無及び額(争点3)
10 (1) 被告の限界利益について
原告は、令和3年10月1日から令和5年9月30日までの間に被告が本件
特許権の侵害行為により受けた限界利益の額は、原告が受けた損害の額と推定
される旨主張するところ(特許法102条2項)、上記限界利益(税抜)につい
ての当事者の主張は、別紙「限界利益」の「原告の主張(右欄は金額)」欄及び
15 「被告の主張(右欄は金額)」欄各記載のとおりである(金額については1円未
満四捨五入。以下、特に記載しない限りは同じ。)。
これを前提に、原告は、被告の限界利益について、消費税抜きの金額で算定
された●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●に10%の消費税分を加算した金額であると主張
20 するのに対し、被告は、被告の限界利益は●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であると主張
するとともに、別紙「限界利益」中の金額がいずれも税抜きのものであること
を認めつつ、消費税分を加算すべきとする原告の主張は時機に後れた攻撃防御
方法として却下されるべき旨を申し立てている。
25 (2) 推定覆滅について
損害額の推定覆滅についての当事者の主張は、別紙「推定覆滅」の「被告の
主張」欄及び「原告の主張」欄各記載のとおりである。
(3) 弁護士費用
原告は、被告による本件特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用
は、差止請求を実現するために要する費用も合わせれば、特許法102条2項
5 により推定される損害額の15%(前記(1)の一部である6216万円の1
5%に相当する932万4000円)を下らない旨主張し、被告はこれを争っ
ている。
第5 当裁判所の判断
1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について
10 前記第3の1(4)イのとおり、被告製品は、本件発明の構成要件A及びJを充
足する。
そこで、構成要件BないしIの充足性につき、それぞれ検討する。
(1) 構成要件Bの充足性(被告製品が「第一保持部」の構成を有するか)及び構
成要件Cの充足性(被告製品が「第二保持部」及び(「第二保持部」が)
「第一
15 保持部に対して相対変位可能に連結され」の各構成を有するか)について
ア 「第一保持部」、
「第二保持部」及び「第一保持部に対して相対変位可能に
連結され」の意義について
(ア) 構成要件Bは「第一棒状体を保持する第一保持部」と規定し、構成要件
Dは「第一保持部が、板状に形成されたベース板部を含み」と規定してい
20 る。また、構成要件Cは、
「第二保持部」は「第一保持部に対して相対変位
可能に連結され」ていること、
「第二保持部」が第二棒状体のそれぞれの軸
方向に沿って対応する第二棒状体を挟み込んで保持することを規定し、構
成要件Fは、一対の「第二保持部」の一方が一対の取付基部の一方に、他
方が取付基部の他方にそれぞれ連結されることを規定する。
25 これらの規定には、
「第一保持部」と「第二保持部」が部材を共有しては
ならないことを定める文言はない。また、本件特許の特許請求の範囲の請
求項5(「前記第一保持部が、前記ベース板部との間に前記第一棒状体を
挟み込んで保持する第一保持板部をさらに含む請求項1から4のいずれ
か一項に記載の交差連結具。」)及び請求項6(「前記第一保持部が、前記第
一棒状体の軸方向の2箇所に対して係合する一対の係合部を有する請求
5 項1から4のいずれか一項に記載の交差連結具。」)では、
「第一保持部」を
限定する規定があるが、請求項1を引用する請求項4に係る本件発明の
「第一保持部」についてこのような限定がされていないことは明らかであ
る。
(イ) 本件明細書には、概要、以下の記載がある。すなわち、本発明は、交差
10 する複数の棒状体を連結する交差連結具に関するものであること
(【0001】)、従来の交差連結具では、吊りボルトに交差する長ボルトは、固
定片の挿通孔に挿通された状態で一対のナットを用いて両側から締め付
けられて固定片に固定されているところ、計4か所でナットの締付操作が
必要であり、かつ、長ボルトを固定するのに1本当たり2つのナットの締
15 付操作が必要であることや、長ボルトが長い場合等は、長ボルトを固定す
るために固定片の挿通孔に挿通させることが容易でないことから、1本の
吊りボルトと2本の長ボルトを連結するのに多くの労力を要すること
(【0003】、
【0004】)、発明が解決しようとする課題として、第一棒状体とそ
れに対して交差する2つの第二棒状体との連結作業を容易に行うことが
20 できる交差連結具が望まれること(【0006】)、課題を解決するための手段
として、本発明に係る交差連結具は、第一棒状体と、前記第一棒状体に対
してそれぞれ交差する2本の第二棒状体とを連結する交差連結具であっ
て、前記第一棒状体を保持する第一保持部と、前記第一保持部に対して相
対変位可能に連結され、かつ、前記第二棒状体のそれぞれの軸方向に沿っ
25 て対応する第二棒状体を挟み込んで保持する一対の第二保持部と、を備え
ること(【0007】)、この構成によれば、2つの第二保持部がいずれも対応す
る第二棒状体を挟み込んで保持するので、その保持のための保持操作が容
易であり、例えば従来仕様の交差連結具のように固定片の孔部に第二棒状
体を挿通させる必要がなく、第二棒状体が長い場合であっても、外周側か
らその第二棒状体を容易に挟み込んで保持することができ、また、それぞ
5 れの第二保持部は、いずれも対応する第二棒状体をその軸方向に沿って挟
み込むので、仮保持状態で対応する第二棒状体の軸方向に沿って移動させ
ることができ、各第二保持部の位置調整も容易であって、第一棒状体とそ
れに対して交差する2本の第二棒状体とを相互に連結固定するための連
結操作を容易に行うことができること(【0008】)が記載されている。また、
10 発明の実施形態として、第1の実施形態(【0025】~【0054】、図1~図4)、
第2の実施形態(【0055】~【0058】、図7)及びその他の実施形態(【0059】
以下、図8~図10)が説明されており、第1の実施形態に関しては、第
二締結部材59の不完全締結状態では、ブレースボルト82の軸方向L2
(L3)に沿って第二保持部5を移動させ、その位置決めを容易に行うこ
15 とができ、また、第一保持部3に対して第二保持部5を容易に相対変位さ
せることができ、この相対変位に伴って、吊りボルト81とブレースボル
ト82との交差角度変更操作を容易に行うことができること、このように、
少なくとも施工の途中段階において位置拘束された状態で相対変位可能
なことを含めて、本件明細書では「相対変位可能に連結される」と言うこ
20 と(【0050】)、第2の実施形態に関しては、第一保持部3と第二保持部5が
ベース板部30を共有する構成により、部品点数の低減によって低コスト
化を図ることができる旨が記載される(【0057】)。さらに、明細書記載の本
発明の好適な態様例によって本発明の範囲が限定される訳ではないこと、
明細書に開示された実施形態は全ての点で例示であり、本発明の範囲はそ
25 れらによって限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が
可能であることが記載されている(【0009】、【0071】)。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)の特許請求の範囲の請求項及び本件明細書の各記載か
らすると、
「第一保持部」と「第二保持部」が部材を共有できないことを定
める文言はなく、むしろ共有し得ることを前提とする記載(本件明細書
【0057】)が存在するから、
「第一保持部」と「第二保持部」について、両
5 者が部材を共有してはならないとの限定がされているとはいえない。また、
「第一保持部」について、ベース板部と第一保持板部の包囲部との間に第
一棒状体を挟んで、一個の締結部材でベース板部と保持板部を緊結するこ
とにより第一棒状体を保持するものでなければならないとの限定がされ
ているとも認められない(本件明細書にそのような構成が好適な態様等と
10 して説明されていたとしても、本件発明がそれに限定されないことは、本
件明細書の記載からも明らかである。)。
そうすると、本件発明における「第一保持部」は、構成要件BないしD
記載の文言どおり、
「第一棒状体を保持する」ものであり、
「板状に形成さ
れたベース板部を含み」、
「第二保持部」と「相対変位可能に連結され」る
15 構成を有する部位をいうと解すべきである。
また、
「第二保持部」は、構成要件C及びF記載の文言どおり、
「第一保
持部に対して相対変位可能に連結され」、
「第二棒状体のそれぞれの軸方向
に沿って対応する第二棒状体を挟み込んで保持」し、一対の「第二保持部」
の一方が(ベース板部の両側に設けられた)一対の取付基部の一方に、他
20 方が取付基部の他方にそれぞれ連結される構成を有する部位をいうと解
すべきであり、前示のとおり、
「第一保持部」と「第二保持部」が部材を共
有してはならないとの限定がされているとはいえないから、かかる構成を
有する部位は、
「第一保持部」と部材を共有するとしても「第二保持部」に
該当するというべきである。
25 さらに、
(第二保持部が)
「第一保持部に対して相対変位可能に連結され」
(構成要件C)は、本件明細書(【0050】)の記載をも参照すると、施工の
途中段階において、
「第一保持部」に対する「第二保持部」の相対変位に伴
って、吊りボルト81(第一棒状体)とブレースボルト82(第二棒状体)
との交差角度変更操作を容易に行うことができることを含むものと解さ
れるところ、前示のとおり、
「第一保持部」と「第二保持部」が部材を共有
5 してはならないとの限定がされているとはいえないから、「第一保持部」
に対する「第二保持部」の相対変位に伴って、第一棒状体と第二棒状体と
の交差角度変更操作を容易に行うことができる場合、連結される部材が第
一保持部と第二保持部で共有されているとしても「相対変位可能に連結さ
れ」に該当するというべきである。
10 イ 被告製品の構成要件充足性について
被告製品1の使用状態を含む客観的な構造(形状)の概要は、別紙「被告
製品説明書」の図面及び写真のとおりであり、被告製品2も、本件発明の構
成要件に関わる部分の構成は被告製品1と同一である(前記第3の1(4)
ア)。
15 被告製品において、固定部材30の中央部の当接面31、それぞれ先部4
01を有する二つの挟持板40及び二つの締結部材59からなる第一ユニ
ット3は、締結部材59の締付けにより、
「第一棒状体」に相当する吊りボル
ト81を固定(保持)することが認められる。
また、被告製品の、それぞれ連結部材5、挟持板40及び締結部材59か
20 らなる一対の部位である第二ユニットは、挟持板40(後延部405)と連
結部材5との間に「第二棒状体」に相当する振止めボルト82のそれぞれの
軸方向に沿って、対応する振止めボルト82を挟み込んで保持すること、一
対の第二ユニットの一方が一対の固定部35の一方に連結され、他方が固定
部35の他方に連結されることが認められる。
25 さらに、第二ユニットは、その一部を構成する連結部材5が、挟持板40
と回動可能に連結されること(この点は被告も争っておらず、弁論の全趣旨
から認められる。)、それにより、第一ユニット3に保持される吊りボルト8
1(第一棒状体)と第二ユニットに保持される振止めボルト82(第二棒状
体)との交差角度変更操作を容易に行うことができることが認められる(甲
12、乙6)。挟持板40は、第一ユニット3の一部であるから、第二ユニッ
5 トは、第一ユニット3に対して「相対変位可能に連結され」るといえる。
そして、後記(2)及び(3)のとおり、被告製品の固定部材30が「板状に形
成されたベース板部」に該当すること、固定部35が「取付基部」に該当す
ることがいずれも認められる。
以上によれば、被告製品の第一ユニット3は、
「第一棒状体」に相当する吊
10 りボルト81を保持するものであり、「板状に形成されたベース板部」に相
当する固定部材30を含み、一対の第二ユニットは、第一ユニット3に対し
て「相対変位可能に連結され」、
「第二棒状体」に相当する振止めボルト82
のそれぞれの軸方向に沿って対応する振止めボルト82を挟み込んで保持
し、一対の第二ユニットの一方が一対の「取付基部」に相当する固定部35
15 の一方に、他方が固定部35の他方にそれぞれ連結される構成を有するとい
える。
そうすると、被告製品は、原告主張の構成b及びcを備え、第一ユニット
3が「第一保持部」に、第二ユニットが「第二保持部」にそれぞれ該当し、
第二ユニット(第二保持部)は、第一ユニット3(第一保持部)に対して「相
20 対変位可能に連結」されていると認められるから、構成要件B及びCを充足
する。
ウ これに対し、被告は、①本件発明は、第一棒状体を保持する「第一保持部」
と、第二棒状体を保持する「第二保持部」が、別個独立にそれぞれの棒状体
を締結固定する保持部であることを要求するが、被告製品には「第一ユニッ
25 ト3」、
「第二ユニット」などのまとまりのある構成は存在しないし、被告製
品の二つの挟持板40及び二つの締結部材59は、原告のいう「第一ユニッ
ト3」と「第二ユニット」とで部材が共通している以上、被告製品において
は、
「第二保持部」から別個独立した「第一保持部」は存在しない、②本件発
明において、
「第一保持部」は、
「平板部を有する第一ベース板部」と「包囲
部を有する第一保持板部」という2つの部材を含むユニットとして構成され、
5 ベース板部と第一保持板部の包囲部との間に第一棒状体を挟んで、一個の締
結部材でベース板部と保持板部を緊結することにより、第一棒状体を保持す
るものであるが、被告製品はそのような構成を有しない、③被告製品では、
「第二保持部」を構成する挟持板40及び締結部材59が固定部材30の固
定部35に対して固定されており、相対変位可能に連結されていないし、
「第
10 二保持部」を構成する連結部材5は、同じ「第二保持部」である挟持板40
に対して回動可能に連結されているにすぎないから、「第二保持部」が相対
変位可能に「第一保持部」に連結されているといえないと主張する。
前記①の主張につき、被告製品の「固定部材30、二つの挟持板40、4
0、及び二つの締結部材59、59からなる部分」は、場所的に近接して「第
15 一棒状体」に相当する吊りボルト81を保持する機能(作用)を有し、
「それ
ぞれ連結部材5、挟持板40、及び締結部材59からなる一対の部分」は、
場所的に近接して2本の「第二棒状体」に相当する2本の振止めボルト82
を保持する機能(作用)を有するから、いずれもまとまりのある構成という
ことができる。両者は一部の部材を共有するものの、それぞれ独立して「第
20 一棒状体」及び2本の「第二棒状体」を保持するものであるから、それぞれ
「第一ユニット3」及び一対の「第二ユニット」との構成として特定するこ
とができる。そして、前記アのとおり、
「第一保持部」と「第二保持部」が部
材を共有してはならないとの限定がされているとはいえないから、被告製品
の第一ユニット3と第二ユニットとが一部の部材を共有しているとしても、
25 第二ユニットに対応する「第二保持部」から別個独立した第一ユニット3に
対応する「第一保持部」が存在しないということはできない。被告は、本件
明細書に記載される先行技術、本件発明の実施態様、実施形態のいずれもが
第一棒状体及び第二棒状体をそれぞれ別個独立の保持部によって個別に締
結保持する構成であることを指摘するが、それらの記載によって本件発明の
「第一保持部」及び「第二保持部」の構成が限定されるとは解されないし、
5 本件明細書にもその旨が明記されている。被告の主張は理由がない。
前記②の主張につき、前記アのとおり、
「第一保持部」について、ベース板
部と第一保持板部の包囲部との間に第一棒状体を挟んで、一個の締結部材で
ベース板部と保持板部を緊結することにより第一棒状体を保持するもので
なければならないとの限定がされているとは解されないから、被告の主張は
10 採用できない。
前記③の主張につき、前記イのとおり、被告製品においては、それぞれの
第二ユニットの一部を構成する連結部材5が、挟持板40と回動可能に連結
される。挟持板40は第二ユニットと第一ユニット3とで共有されているが、
前示のとおり、第一保持部と第二保持部が部材を共有してはならないとの限
15 定がされているとはいえず、第二ユニットが第一ユニット3を構成する挟持
板40に対して回動可能に連結されるといえるから、挟持板40及び締結部
材59が固定部35に固定されるとしても、「第二保持部」が相対変位可能
に「第一保持部」に連結されていると認められる。被告の主張は採用できな
い。
20 (2) 構成要件Dの充足性(被告製品は「板状に形成されたベース板部を含み」と
の構成を有するか)及び構成要件Eの充足性(被告製品は「ベース板部」の構
成を有するか)について
ア 「ベース板部」の意義について
(ア) 構成要件Dは「前記第一保持部が、板状に形成されたベース板部を含み、」
25 と規定し、構成要件Eは「前記ベース板部が、前記第一棒状体の保持位置
に対して板面に沿う方向の両側に設けられた一対の取付基部を有し、」と
規定している。
(イ) また、本件明細書には、発明の実施態様として、ベース板部30は板状
に形成され、吊りボルト81の軸方向L1に対して略直交する方向に延び
る帯板状に形成されており、当該ベース板部30の延在方向の中央部に位
5 置するベース本体部31と、このベース本体部31の両側に位置する一対
の取付基部35とを有し、ベース本体部31及び取付基部35は、それぞ
れ平板状(平坦な板状)に形成され、一対の取付基部35のそれぞれは、
ベース本体部31に対して鈍角状に交差するように配置され、ベース板部
30を構成するベース本体部31と一対の取付基部35とは、連続して形
10 成されている態様(【0033】)、第1の実施形態で説明したベース板部30
(図4を参照)に比べて板幅が大きく(幅広に)形成され、ベース板部3
0の両端部において当該ベース板部30を屈曲させてなる取付基部35
は、略正方形状に形成されている態様(【0056】)が示され、また、他の態
様として、ベース板部30と第一保持板部40との両方に、協働して吊り
15 ボルト81の外周に沿って当該吊りボルト81を包囲する部分包囲部が
設けられても良く、第二保持部5に関しても同様であり、連結板部50(又
は取付基部35)と第二保持板部60との両方に、協働してブレースボル
ト82の外周に沿って当該ブレースボルト82を包囲する部分包囲部が
設けられても良い(【0062】)と記載される。
20 (ウ) これらの文言から、「ベース板部」は、板状に形成され、「第一保持部」
を構成する部位に含まれるものであり、第一棒状体の保持位置に対して板
面に沿う方向の両側に一対の取付基部が設けられていること、実施態様と
して、ベース板部30の延在方向の中央部に位置するベース本体部31と、
その両側に位置する一対の取付基部35とを有し、ベース本体部31及び
25 取付基部35は平板状(平坦な板状)に形成され、一対の取付基部35の
それぞれは、ベース本体部31に対して鈍角状に交差するように配置され、
ベース本体部31と一対の取付基部35とが連続して形成されているも
のを含むことが理解できる。一方、
「ベース板部」が一定以上の長さを要す
ることを特定する文言はなく、かかる限定がされるものとは認められない。
また、
「ベース板部」は、
「板状に形成され」ることを要し、
「板」は金属や
5 石などを薄く平たくしたもの等の意義を有するところ(乙3の3)、
「ベー
ス板部」が完全な平坦面に形成されることまで特定されているとはいえず、
上下が若干折れ曲がっていたとしても、「板状に形成され」を充足するも
のと解される。
イ 被告製品の構成要件充足性について
10 被告製品の客観的な構造(形状)
(前記第3の1(4)ア)からすると、固定
部材30は、上下に若干折れ曲がった部分があるものの、大部分が薄く平た
く板状に形成されていること、固定部材30(の中央部の当接面31)が第
一ユニット3の一部を構成し、「第一棒状体」に相当する吊りボルト81を
保持するものであること(前記(1)イ)、固定部材30は当接面31と吊りボ
15 ルト81の保持位置に対して板面に沿う方向の両端に設けられた一対の固
定部35で構成されることが認められる。また、後記(3)のとおり、一対の固
定部35は、「一対の取付基部」に該当するものと認められる。
以上によれば、被告製品は、原告主張の構成d及びeを備え、その固定部
材30は「ベース板部」に該当すると認められるから、構成要件D及びEを
20 充足する。
ウ これに対し、被告は、①被告製品の固定部材30は、接着部材を取り付け
る左右の固定部35が最も大きく、中央の当接面は、2つの固定面を互いに
直交配置するために形成された短い繋ぎ部分であるから、「板状に形成され
たベース板部」とは異なる、②固定部材30は上下が折れ曲がっており、平
25 らな形状とはいえないため、
「板状に形成された」とはいえない、③被告製品
の固定部材30が「ベース板部」といえない以上、被告製品は構成要件Eも
充足しない旨主張する。
しかし、前記アのとおり、
「ベース板部」につき、
「ベース板部」が一定以
上の長さを要するとの限定がされるものとはいえないし、
「ベース板部」は、
「板状に形成され」ることを要するが、完全な平坦面に形成されることまで
5 特定されているとはいえない。したがって、固定部材30が「ベース板部」
に該当するとの前記イの判断は左右されず、被告の主張は理由がない。
(3) 構成要件Fの充足性について
ア 構成要件Fは、「一対の前記第二保持部の一方が一対の前記取付基部の一
方に連結され、一対の第二保持部の他方が一対の前記取付基部の他方に連結
10 され、」と規定している。また、構成要件Eの規定は前記(2)ア(ア)記載のとお
りである。
被告製品の客観的な構造(形状)
(前記第3の1(4)ア)からすると、被告
製品につき、一対の固定部35は、固定部材30の中央部の当接面31と吊
りボルト81の保持位置に対して板面に沿う方向の両端に設けられている
15 こと、一対の連結部材5、挟持板40及び締結部材59からなる第二ユニッ
トの一方が一対の固定部35の一方に連結され、前記一対の第二ユニットの
他方が一対の固定部35の他方に連結されることが認められる。そして、被
告製品の「固定部材30、二つの挟持板40、40、及び二つの締結部材5
9、59からなる部分」及び「それぞれ連結部材5、挟持板40、及び締結
20 部材59からなる一対の部分」は、一部の部材を共有するものの、それぞれ
独立して「第一ユニット3」及び一対の「第二ユニット」との構成として特
定することができることは、前記(1)ウのとおりである。そうすると、被告製
品は、原告主張の構成fを備え、第二ユニットは「第二保持部」に、固定部
35は「取付基部」にそれぞれ該当することは明らかであり、構成要件Fを
25 充足するものと認められる。
イ これに対し、被告は、審査過程で提出された意見書(乙7)からすると、
構成要件Fは、
「第一保持部」に対して「相対変位可能」に連結される「第二
保持部」の直接の連結位置が「取付基部」であることを意味すると解される
ところ、被告製品の挟持板40が本件発明の「第二保持部」を構成するので
あれば、挟持板40は固定部材30の固定部35に対して「相対変位可能」
5 に連結されていないから、被告製品において、
「第一保持部」に対して「相対
変位可能」に連結される一対の「第二保持部」の直接の連結位置が一対の「取
付基部」になっていない旨主張する。前記意見書(乙7)は、特許庁からの
拒絶理由通知に対し、原告が、請求項1における「一対の前記第二保持部が、
前記ベース板部における前記第一棒状体の保持位置に対して板面に沿う方
10 向の両側に設けられた一対の取付基部に対して個別に相対変位可能に連結
されている」との発明特定事項を、構成要件E及びF記載の文言に補正した
ものである。原告は、拒絶理由通知において、引用文献(甲10)に記載さ
れた発明の…第2、第3連結部材5B、5Cは、第1連結部材5Aにおける
吊りボルト3の保持位置に対して板面に沿う方向の両側に設けられた一対
15 の操作板部5e(取付基部)に対し、個別に相対変位可能となっているなど
と指摘されたのに対し、前記意見書において、引用文献の第2連結部材5B
及び第3連結部材5Cは、単に中央部において第一連結部材5Aの中央板部
5bに連結されているだけであり、補正後の構成要件F記載の構成とは相違
することを示すため、第一保持部に対する一対の第二保持部の具体的な連結
20 位置を特定し、一対の第二保持部の直接の連結位置が「第一保持部のベース
板部における一対の取付基部」であることを明確にした。そうすると、前記
意見書の趣旨からしても、構成要件Fの「第二保持部の一方が…取付基部の
一方に連結され」とは、
「第二保持部」の「第一保持部」に対して「相対変位
可能」な部分が「取付基部」に連結されることまで特定するものではなく、
25 「第一保持部」に対して「相対変位可能に連結され」る「第二保持部」が「取
付基部」に連結されていることを特定するものと解される。前記(1)のとお
り、被告製品の一対の第二ユニット(「第二保持部」)は第一ユニット3(「第
一保持部」)に対して「相対変位可能に連結され」ていると認められるとこ
ろ、前記アのとおり、一対の第二ユニットが一対の固定部35に連結される
のであるから、挟持板40が固定部35に対して相対変位可能に連結されて
5 いなくとも構成要件Fの充足性の判断は左右されない。被告の主張は採用で
きない。
(4) 構成要件G、H及びIの充足性について
ア 構成要件G、H及びIは、使用状態における交差連結具の構成を特定する
ものであるところ、被告製品の客観的な構造(形状)(前記第3の1(4)ア)
10 及び証拠(甲12、乙6)によれば、被告製品(使用状態)は、通常の使用
態様において、吊りボルト81が、交差する2つの仮想平面の交線に沿って
配設され、2本の振止めボルト82が、吊りボルト81に対する交差姿勢で
2つの前記仮想平面に沿ってそれぞれ配設され、一対の固定部35が2つの
前記仮想平面に沿ってそれぞれ配設されることが認められるから、原告主張
15 の構成g、h及びiを有し、少なくとも当該使用態様において、これらの構
成要件は充足される。
イ これに対し、被告は、交差連結具をどのように使用するかは使用者次第で
あるし、使用状態における交差連結具の構成を特定するものであるとすれば、
使用していない状態(販売時等の状態)の被告製品につき、本件発明の全て
20 の構成要件を充足する実施行為は存在しない旨主張する。
構成要件G、H及びIは、本件発明に係る交差連結具の通常の使用態様に
おける構成を特定するものであることは当業者にとって明らかであり、被告
製品(使用状態)は、前記のとおり、通常の使用態様において、これらの構
成要件を充足するといえる。一方、被告主張のとおり、使用していない状態
25 においては、被告製品はこれらの構成要件を直接侵害するものとはいえない。
しかし、証拠(甲12、乙6)によれば、商品カタログ等において、前記ア
認定の使用態様、すなわち、別紙「被告製品説明書」の1(5)に示される使用
状態と同じ態様で、被告製品の使用方法が説明されて、「締込みナット2箇
所とも締付けてご使用ください。1箇所のみの締付けではボルトが固定され
ません。」、「本製品はそのままご使用いただけます。分解組立は行わないで
5 ください。」、
「本製品の正規の使用目的、用途、方法以外に使用された場合に
は責任を負いかねます」などと記載されていることが認められる一方、経済
的・商業的・実用的な他の具体的使用態様は認められないから、原告が予備
的に主張するとおり、被告製品は、構成要件G、H及びIを充足する使用態
様でのみ使用されているものということができる。そうすると、使用してい
10 ない状態の被告製品は、構成要件G、H及びIを充足する被告製品(使用状
態)の生産にのみ用いる物(特許法101条1号)に該当すると認められる。
(5) 小括
したがって、被告製品(使用状態)は、本件発明の技術的範囲に属し、使用
していない状態(販売時等の状態)の被告製品は本件発明の全ての構成要件を
15 充足する被告製品(使用状態)の生産にのみ用いる物に該当すると認められる。
2 明確性要件違反の有無(争点2-1)について
被告は、本件発明の「第一棒状体を保持する第一保持部」
(構成要件B)や「第
一保持部に対して相対変位可能に連結され…第二棒状体を挟み込んで保持する
一対の第二保持部」
(構成要件C)の文言につき、①本件発明の特許請求の範囲の
20 請求項の文言及び本件明細書の記載からは、
「第一保持部」と「第二保持部」とが
別個独立の保持部であり、
「第一保持部」は「第二保持部」とは離れた位置にある
ことが理解されるが、被告製品の構造も前記文言を充足するとすれば、「第一保
持部」と「第二保持部」が、
「第一保持部」でもあり「第二保持部」でもあるベー
ス板部30によって接続され、挟持板40と締結部材59はいずれも「第一保持
25 部」でも「第二保持部」でもあることになり、前記文言の意義を当業者は理解す
ることができない、②原告は、本件特許の審査過程において、特開2015-1
24856号(乙14)の図11に示された吊りボルトQと全ねじボルトPを一
体として保持(締結固定)する構造(吊りボルトQに接する部位と全ねじボルト
Pに接する部位とは異なる部位である。)について、本件発明とは構成が全く異
なる旨述べており、そうであれば、被告製品も本件発明とは構成が異なることに
5 なるとして、本件発明には明確性要件違反の無効理由がある旨主張する。
本件発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細
書の記載を考慮し、また、当業者の本件特許原出願当時における技術的常識を基
礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明
確であるかという観点から判断されるべきである。
10 前記1(1)のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載
を考慮し、当業者の技術的常識を基礎としても、本件発明の「第一保持部」及び
「第二保持部」が部材を共有してはならないとの限定がされているとはいえず、
「第一保持部」と「第二保持部」が別個に離れた位置にあることが特定されてい
るとはいえない。そうすると、被告製品が構成要件B及びCを充足すると解釈す
15 るとしても、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不
明確であるということはできず、本件発明が明確性要件(特許法36条6項2号)
に違反する旨の被告の主張は採用できない。
3 サポート要件違反の有無(争点2-2)について
被告は、本件明細書には、
「第一保持部」と一対の「第二保持部」とで各「ユニ
20 ット」を形成する部材が重複したり、
「第一保持部」と一対の「第二保持部」が締
結部材を共用することで一体的に締め付け保持されたりする態様のものは一例
も存在しないのであり、被告製品の構造(第一棒状体と第二棒状体を共通する締
結部材によって締め付けて一体として保持する構造)も、「第一棒状体を保持す
る第一保持部」や「第一保持部に対して相対変位可能に連結され…第二棒状体を
25 挟み込んで保持する一対の第二保持部」に該当するとすれば、そのような構成は
本件明細書には記載されていないから、本件発明はサポート要件を満たさない旨
主張する。
本件発明に係る特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、
特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に
記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の
5 記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであ
るか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許原出願当時の技術
常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否
かを検討して判断すべきである。
本件明細書には、
「第一保持部」と一対の「第二保持部」を形成する部材が重複
10 したり、第一保持部と一対の第二保持部が締結部材を共有されて一体的に締め付
け保持されたりする態様のものは記載されていないが、「第一保持部3と第二保
持部5とでベース板部30を共有するので、部品点数の低減によって低コスト化
を図ることができるという利点がある。」
(【0057】)、
「本明細書において開示され
た実施形態は全ての点で例示であって、…本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変
15 された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。」
(【0071】)との記載が
ある。そうすると、当業者は、本件明細書のかかる記載から、本件発明は各部位
間で部品を共有して部品点数を低減するものを含み、
「第一保持部」と一対の「第
二保持部」とで部材が重複したり、締結部材が共有されて一体的に締め付け保持
されたりする態様のものも含むことを理解できる。また、本件発明の課題は「第
20 一棒状体とそれに対して交差する2つの第二棒状体との連結作業を容易に行う
ことができる」
(【0006】)ことであるところ、特許請求の範囲に記載された本件発
明が当該課題を解決するための手段を反映することを、当業者は認識できるもの
と認められる。したがって、本件発明にサポート要件(特許法36条6項1号)
違反があるとはいえない。
25 4 乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無(争点2-3)について
(1) 乙1発明の構成並びに乙1発明と本件発明との一致点及び相違点は、別紙
「無効理由」の「無効理由」欄3記載の「乙1発明の構成」、
「乙1発明と本件
発明との一致点」及び「乙1発明と本件発明との相違点」の各欄における「被
告の主張」欄記載のとおりであると認められる。
(2) 乙1発明と本件発明との相違点に係る構成の容易想到性について
5 ア 上記のとおり、乙1発明と本件発明との相違点は、本件発明の第二保持部
は、第二棒状体を挟み込んで保持するのに対し、乙1発明の斜め支持体3は、
挿通孔付きの板片とその両側の2つのナットとを用いて長ボルトQを保持
する点、すなわち、「挟み込み」の構成の有無である。
イ 容易想到性等
10 被告は、乙1発明に、公知例(乙9、11、12、20~26)で開示さ
れている周知技術を適用することによって、上記相違点に係る本件発明の構
成(第二棒状体を挟み込んで保持する第二保持部)に容易に想到できる旨主
張するので、以下検討する。
(ア) 乙1発明の概要
15 乙1発明は、 発明の名称を「吊りボルト用振れ止め金具」とする発明で
あり、発明の課題を「吊りボルトを極めて合理的且つ安全に振れ止めする
ことができ、しかも、天井吊り形エアコンやファンコイル等のボックス状
の軽量機器を吊りボルトで吊下げる場合でも、この吊りボルトを極めて合
理的且つ安全に振れ止めすることが可能な吊りボルト用振れ止め金具の
20 提供を目的」
(【0013】)とし、発明の作用効果を「連結環体4の内部を挿通
した連結ボルト2により、外側挟着体1Aと内側挟着体1Bとを連結環体
4を介して固定するように構成したので従来のように挟着体1相互を締
め付けると、斜め支持体3も締め付けられて上下揺動調整ができなくなる
不都合は解消された。この結果、高所での取付け作業が容易になり、各吊
25 りボルトPに対して安全に装着することができる。」こと(【0019】)、
「特殊
な振れ止めに使用する多数本の長ボルトであっても、極めて合理的に装着
することができ、高所作業において安全な施工が可能になる。」こと
(【0024】)とする。
(イ) まず、乙20発明は、発明の名称を「長尺ボルトに対する長尺部材の連
結金具及びその製造方法」とする発明であり、その解決しようとする課題
5 は、
「(連結作業が繁雑との)問題に鑑みて、本発明の第一の目的は、汎用
の長尺部材を連結可能であると共に簡単に制作できる割には長尺ボルト
の長手方向に対してずれ難い連結金具及びその製造方法を提供すること」
及び「本発明の第二の目的は、一ヶ所の締付操作で長尺ボルトに対し他の
長尺部材を傾斜状に交差させて連結することの可能な連結金具を提供す
10 ること」
(【0005】
【0006】)にあり、発明の作用効果は、
「湾曲させた板材に
突起を突出させる簡単な加工をもって、汎用の長尺部材を用いながら長尺
ボルトの長手方向に対する連結金具のずれを十分に阻止すること」及び
「長尺ボルトに対し他の長尺部材を適宜角度で傾斜状に交差させた状態
で、これら両部材を一ヶ所の締付用ボルトの締付操作で連結することの可
15 能な連結金具を提供し得る」ことにある(【0014】
【0015】)。そして、乙2
0発明は、長尺ボルトに対して振れ止めボルトを両ボルトの交差位置にお
いて適宜の角度で傾斜状に交差させた状態で、これら両部材を、2つの締
付部材及びこれに備えられた締付用ボルト30の締付操作で連結し、長尺
ボルト2と振れ止めボルト5とを締付部材で挟み込んで保持するとの技
20 術的事項を開示するものといえる。
他方、 本件発明は、従来技術の問題を「計4ヵ所でナットの締付操作が
必要であり、かつ、長ボルトQを固定するのに1本当たり2つのナットの
締付操作が必要なので、1本の吊りボルトPと2本の長ボルトQとを連結
するのに多くの労力を要する。また、長ボルトQを固定片3Bに固定する
25 には固定片3Bの挿通孔に長ボルトQを挿通させる必要があるところ、例
えば長ボルトQが長い場合等にはそのような挿通操作が容易ではない場
合もあり、この点からも吊りボルトPと長ボルトQとを連結するのに多く
の労力を要する。」こと(【0004】)とし、発明の課題を「第一棒状体とそれ
に対して交差する2つの第二棒状体との連結作業を容易に行うことがで
きる交差連結具が望まれ」ること(【0006】)とし、発明の作用効果を「2
5 つの第二保持部がいずれも対応する第二棒状体を挟み込んで保持するの
で、その保持のための保持操作が容易である。例えば従来仕様の交差連結
具のように固定片の孔部に第二棒状体を挿通させる必要がなく、第二棒状
体が長い場合であっても、外周側からその第二棒状体を容易に挟み込んで
保持することができる。また、それぞれの第二保持部は、いずれも対応す
10 る第二棒状体をその軸方向に沿って挟み込むので、仮保持状態で対応する
第二棒状体の軸方向に沿って移動させることができ、各第二保持部の位置
調整も容易である。従って、第一棒状体とそれに対して交差する2本の第
二棒状体とを相互に連結固定するための連結操作を容易に行うことがで
きる。」こと(【0008】)とする。さらに、第二保持部5が、第一保持部3に
15 対して「相対変位可能」に連結されていること(構成要件C)の技術的意
義について、「この第一保持部3に対する第二保持部5の相対変位に伴っ
て、吊りボルト81とブレースボルト82との交差角度変更操作を容易に
行うことができる。」(【0050】)とするものでもある。
すなわち、本件発明は、第二棒状体の固定方法を挟み込みとすることで、
20 単に保持操作を容易にしたというものではなく、第二棒状体の固定方法を
挟み込みとすることで、仮保持状態での第二棒状体の軸方向の移動調整を
可能、容易にするとともに、第二保持部そのものが第一保持部に対して相
対変位可能に備えられていることも第二棒状体の位置ないし角度の調整
にあわせて利用し、簡便な位置調整を可能とする構造を二重に備えること
25 で、交差する2本の第二棒状体の位置調整を、従来技術よりも格段に容易
にするという作用効果を生じさせ、もって、連結操作を容易にするという
課題解決とした点に、その特徴があるものといえる。
この点、乙1発明と本件発明との相違点に関する前記アの検討によれば、
乙1発明の長ボルトQの固定方法として、乙20発明に開示されている上
記技術的事項を適用すれば、本件発明の構成に至ること自体は否定できな
5 いし、乙1発明及び乙20発明は、いずれも長尺棒状体の連結金具に関す
る発明であり、技術分野や課題の一部において共通するものとはいえる。
しかしながら、本件発明の特徴は、上記のとおりであるところ、そのよう
な一連の課題解決の着想につながる示唆等は、主引用発明である乙1発明
に係る文献(乙1)のみならず、乙20発明に係る文献(乙20)にも記
10 載がない。そうすると、乙1発明の構成に接した当業者において、乙1発
明の長ボルトQの固定方法につき、上記のような課題解決や作用効果を企
図して、乙20発明の技術的事項を適用するとの動機付けがあると認める
ことはできず、本件発明に容易に想到できたとはいえないものである。
(ウ) また、被告が指摘する本件特許の出願前に公開された他の公知例のうち、
15 特開2007-177487号公報(乙21)、実開昭47-27125
号公報及びその願書に添付された明細書・図面(乙22の1・2)、特開2
014-134011号公報(乙23)、特開2013-36268号公
報(乙25)並びに特開2008-31822号公報(乙26)が、乙2
0発明と同様の上記技術的事項を開示するものとみたとしても、上記で述
20 べたのと同様の理由により、乙1発明の構成に接した当業者において、乙
1発明の長ボルトQの固定方法につき、上記技術的事項を適用するとの動
機付けがあると認めることはできず、やはり本件発明に容易に想到できた
とはいえない。
(エ) 一方、特開2005-207493号公報(乙9)においては、
「第1ホ
25 ルダー・第2ホルダー」が「吊りボルト」を挟み込むこと、特開2004
-68979号公報(乙24)においては、
「取着体」を「吊りボルト」に
取り付けることはそれぞれ開示されているが、本件発明の第二棒状体に当
たる部材を挟み込んで保持することはいずれも開示されていない。したが
って、乙1発明に上記各発明を組み合わせたとしても、本件発明の構成に
至ることはない。
5 (オ) また、意匠登録第1511188号公報(意匠に係る物品:棒状材交差
金具、乙11)及び意匠登録第1144494号公報(意匠に係る物品:
吊りボルト振れ止め交差金具、乙12)において前記アの相違点に係る構
成が開示されているとしても、各意匠公報をみても、その性質上当然なが
ら、技術的観点に立っての課題や作用効果の記載はない。よって、これら
10 公報の記載事項について、乙1発明との技術分野に共通性があるといえる
としても、その課題や作用効果が共通であるとは認められず、当業者にお
いて、これらを組み合わせる動機付けがあると認めることはできない。
(カ) さらに、被告は、乙1発明に乙20発明等として開示されている技術的
事項を適用することは設計事項にすぎず、別途の動機付けの論証は不要で
15 ある旨主張する。しかし、設計事項とは、一定の課題を解決するために、
当業者が通常の創作能力の発揮として行う公知材料の中からの最適材料
の選択、数値範囲の最適化又は好適化、均等物による置換、技術の具体的
適用に伴う設計変更の設計的事項の採用等をいうものと解される。乙1発
明における挿通孔付きの板片とその両側の2つのナットとを用いて長ボ
20 ルトQ(本件発明の「第二棒状体」に相当する。)を保持する構成を、ボル
トを挟み込んで保持する構成とする場合、長ボルトQを保持する部材の形
状や配置が変更され、その結果、固定強度や固定方法等にも変化が生じ得
るのであって、かかる変更は、当業者の通常の創作能力の発揮にとどまる
ものとはいえない。したがって、単なる設計事項にすぎないことを前提と
25 する被告の上記主張は採用できない。
ウ 以上によれば、本件発明は、乙1発明に基づいて容易に発明をすることが
できたものとはいえない。
5 小括
(1) 以上より、被告は、被告製品の製造、販売等によって、原告の本件特許権を
侵害したもので、当事者間の紛争の経過等に照らし、輸入も含めた差止め及び
5 廃棄の必要性が認められる。被告は、本件訴訟提起後の令和5年9月14日ま
でに被告製品の製造・販売を中止したとするが、差止め等の必要性を否定する
理由にはならない。
(2) なお、原告は、侵害論に関する心証開示後の訴えの変更申立書(令和5年9
月29日付け)により、差止めの対象として輸入行為を追加したところ、被告
10 はこれに異議を述べたが、かかる訴えの変更により著しく訴訟手続を遅滞させ
ることとなるとは認められない。
また、原告は、訴え提起の段階では、被告製品1につき「注文品番 M-5
2DF」との記載を付加して製品を特定していたところ、同製品の製造等は本
件特許権を侵害する旨の心証開示があった後、上記訴えの変更申立書(令和5
15 年9月29日付け)により、別紙「被告製品目録」記載1及び2のとおりに被
告製品を特定する旨の訴えの変更を行い、被告はこれに異議を述べたものであ
る。しかし、被告製品1については、同目録記載1の製品名及び型式によって
製品の特定として十分であり、原告が上記注文品番を削除したのは、
「卍(マン
ジ)ロックLXセット」と称するセット商品に含まれる同一製品(注文品番は
20 異なる。)を追加するためにすぎないものと認められる(甲12、乙6、弁論の
全趣旨)。また、被告製品2については、前記のとおり、本件発明の構成要件に
関わる部分の構成は被告製品1と同一である。そうすると、この点の訴えの変
更も、著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとは認められない。
したがって、これらの訴えの変更を不許とする理由はなく、適法である。
25 6 損害の有無及び額(争点3)について
原告は、本件特許の実施品を製造販売し、被告製品はこれと市場において競合
するものである(甲8、15、19、乙27の1、弁論の全趣旨)ところ、被告
製品の製造販売による本件特許権の侵害により、原告には損害が発生したもので、
その損害額の算定においては、特許法102条2項の推定規定を用いることがで
きる。
5 (1) 被告の限界利益について
「利益」(特許法102条2項)は限界利益であると解されるところ、別紙
「限界利益」中の金額はいずれも消費税別のものが記載されているが、「当裁
判所の判断(右欄は金額)」欄に記載のとおり、令和3年10月1日から令和5
年9月30日までの間における被告製品の売上げの額(値引き後)は●●●●
10 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●と認められる(原告も、経費につい
て、税抜きで計算された総額に消費税10%を加算して算定することを受け入
れている〔第22回弁論準備手続期日〕。)から、被告の限界利益は8060万
15 5346円と認められる。
なお、本件訴訟における当事者双方の損害論に係る主張は、いわゆる税抜き
価格を基礎とされていたが、原告が弁論終結直前となって、消費税分を加えた
算定がされるべきである旨の主張をしたものである。被告は、これを時機に後
れた攻撃防御方法の提出に当たるものとして却下されるべき旨申し立ててい
20 るが、原告の上記主張は、利益ないし損害算定上の不備を正そうとするものに
とどまり、これによって訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められない
から、被告の上記申立ては理由がないものとして却下する。
(2) 推定覆滅について
特許法102条2項は損害額の推定規定であるから、侵害者の側で、侵害者
25 が得た利益の一部又は全部について、特許権者が受けた損害との相当因果関係
が欠けることを主張・立証した場合には、その限度で上記の推定は覆滅される
ので、以下検討する。
ア 被告製品は、別紙「被告製品説明書」記載のとおりの構成を有するもので
あるが、交差する2本の第二棒状体の固定方法を挟込み(バネによるもの)
とすることで、仮保持状態での位置調整を容易にしている。この点は、具体
5 的な固定方法こそ被告が権利を保有する特許発明(特許第7042460号、
乙5)を実施するものではあるものの、まさに本件発明の技術的思想を用い
たものといえ、空調機振れ止め金具という製品の性質上、相当に顧客を誘引
する差別化要因となる機能といえるし、被告自身が、被告製品のパンフレッ
ト(乙6)において、
「施工性UPの3つのポイント」の2番目として、
「振
10 れ止めボルトへの仮止め機能」を挙げるものでもあり、被告製品の販売によ
る利益をもって、原告が受けた損害の額と推定することに沿った具体的事情
が存在するといえる。
イ 他方で、上記パンフレットが「施工性UPの3つのポイント」としてまず
1番目に挙げるのは、本件発明の「第一棒状体」に相当する吊りボルトをバ
15 ネ式の挟込みで仮止めする機能を備える点である。本件発明は、本件明細書
上の言及はともかく、第一棒状体の具体的な固定方法や仮止め機能に係る構
成を特定するものではないところ、上記の点は、本件発明の技術的思想によ
らずして製品の差別化要因としている部分といえるし、仮止めの具体的方法
としてバネを用いることで施工性を向上させることは、本件明細書にも言及
20 のない技術的工夫であり、被告が権利を保有する特許発明(特許第7042
459号、乙4)を実施するものでもある。
また、被告製品は、2か所の締付け操作をもって、2本の第二棒状体のみ
ならず、第一棒状体も含めた計3本の棒状体の固定を可能とする構成を有す
るもので、
「施工性UPの3つのポイント」の3番目として「締付け固定2箇
25 所」が挙げられているのもこれを指すものである。これは、2本の第二棒状
体の固定方法を挟込みとする点において、本件発明の構成を前提とするもの
ではあるものの、これをもって、第一棒状体の固定方法まで兼ねさせるとい
う面については、本件発明とは異なる技術的思想が具現化されているものと
いわざるを得ず、被告が権利を保有する特許発明(特許第7042459号、
乙4)を実施するものでもある。
5 そして、被告製品は、これらの機能の総合によって、本件明細書の実施例
とほぼ同じ構成を有する原告実施品1(乙27の1)と比べても、棒状体の
位置調整を伴う施工をより容易にしたものであることは否定できない(乙2
7の1~4、弁論の全趣旨)。
ウ 被告製品と原告の本件特許の実施品(原告実施品1、原告実施品2〔甲8〕)
10 は、その競合市場における需要者にとって二者択一の選択ではなく、機能面
での相違はあるものの、同一用途の他社競合品が相当数存在している(乙3
8、44、46、47、51~53)。特に、
「ガッチリロック」
(乙38)は、
バネ機能を用いた仮止めで吊りボルトの位置調整を容易にした上、2か所の
締付け操作で、振れ止めボルト2本のみならず、吊りボルトも含めての固定
15 を可能とし、施工時間の大幅短縮を差別化要因としているもので、被告製品
との機能面での類似性があるといえる。「ガッチリロック」を含めた各競合
品の販売規模等の詳細は証拠上明らかでないものの、「ガッチリロック」を
製造販売する会社の事業規模やその原告及び被告との比較など(甲17、1
8、乙54、55)も踏まえると、原告実施品2について被告製品との機能
20 面での類似性があることを勘案しても、推定覆滅事由として、一定の考慮を
せざるを得ないものといえる。
エ 被告は、原告と被告とで製品の販売形態に違いがある旨主張するが、需要
者層の異同を含め、推定を覆滅するに足るだけの事情があるとは認められな
い。また、販売促進費用及び運送費用については、限界利益の算定において
25 経費としての控除を認めた以上に、推定覆滅を認めるべき事情があるとは認
められない。
オ 以上より、被告製品が、本件発明の実施以外の機能面で顧客を誘引する差
別化要因を有し、総合的にも高い施工性を獲得しているほか、市場における
競合品の存在も踏まえ、相当程度の推定覆滅を認めざるを得ない。
他方で、被告製品は、前記アのとおり、本件特許の技術的思想を利用し、
5 これを製品差別化要因の柱の1つともするものであり、特許法102条2項
の立法趣旨にも照らし、過度な推定覆滅は控えるべきところでもある。
これら諸要素に加え、本件訴訟の経過も含めた諸般の事情を考慮し、本件
においては70%の限度で損害額の推定が覆滅されると認めるのが相当で
ある。よって、推定覆滅後の損害額は、2418万1604円(80,605,346
10 円×0.3)となる。
(3) 弁護士費用について
被告による本件特許権の侵害行為(不法行為)と相当因果関係のある弁護士
費用は、上記認容額、本件訴訟の難易度及び差止等請求が認容されていること
などの事情を総合考慮して、300万円とするのが相当である。
15 (4) 小括
したがって、原告の損害額は、2718万1604円(2418万1604
円+300万円)となる。そして、その半額である1359万0802円につ
いては令和3年10月1日から令和4年9月30日までに、残額である135
9万0802円については令和4年10月1日から令和5年9月30日まで
20 にそれぞれ発生したものである(第22回弁論準備手続期日)こととなり、そ
れぞれに応じた遅延損害金の附帯請求を認容することになる(原告は、前者に
ついては令和4年9月30日からの、後者については令和5年10月1日から
の遅延損害金を請求しており、いずれも理由がある。)。
7 結論
25 よって、原告の請求は、特許法100条1項及び2項に基づき、被告製品の輸
入、製造、販売及び販売のための申出の差止め並びに被告製品及び同製品の製造
に供する金型の廃棄を求める部分と、不法行為に基づく損害賠償金2718万1
603円及びうち1359万0802円に対する令和4年9月30日から、うち
1359万0802円に対する令和5年10月1日から各支払済みまで年3パ
ーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれら
5 を認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
なお、主文第2項につき、仮執行宣言は相当でないから付さないこととする。
大阪地方裁判所第21民事部

裁判長裁判官
松 川 充 康
裁判官
阿 波 野 右 起
裁判官
西 尾 太 一

(別紙)
被告製品目録
1 製品名 空調機振れ止め金具「卍(マンジ)ロックL型」
5 型式 W3/8
2 製品名 空調機振れ止め金具「卍(マンジ)ロックL型」
型式 W1/2
以 上

(別紙)
被告製品説明書
1 図面
(1) 図1 被告製品の正面側斜視図

(2) 図2 被告製品の正面側分解斜視図

(3) 図3 被告製品の背面側分解斜視図

(4) 図4 被告製品の使用状態を示す斜視図1

(5) 図5 被告製品の使用状態を示す斜視図2

(6) 符号の説明
1 交差連結具
5 3 第一ユニット
5 連結部材
9 吊設機器
30 固定部材
35 固定部
10 40 挟持板
59 締結部材
81 吊りボルト
82 振止めボルト
84 吊りボルト81の間に規定されるスパン
5 84A 第一スパン(第1の仮想平面)
84B 第二スパン(第2の仮想平面)
2 写真
(1) 写真1 被告製品の正面写真

(2) 写真2 被告製品の背面写真

(3) 写真3 被告製品の上面写真


(4) 写真4 被告製品の使用状態を示す写真(ただし、
「保持ユニット3」は「第
一ユニット3」をいうものである。)

以 上

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