ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和7(行ケ)10101 特許取消決定取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和8年9月3日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告北川工業株式会社 被告特許庁長官 |
| 対象物 | 磁気シールド材 |
| 法令 |
特許権 特許法36条6項2号3回 特許法70条1回 特許法29条2項1回 |
| キーワード | 進歩性5回 実施5回 特許権1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 本件は、 特許異議の申立てに基づく特許取消決定の取消しを求める事案である。 |
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令和8年9月3日判決言渡
令和7年(行ケ)第10101号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和8年7月7日
判 決
原 告 北 川 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁理士 板 谷 康 夫
板 谷 真 之
被 告 特 許 庁 長 官
同指定代理人 松 永 稔
小 川 将 之
中 野 浩 昌
田 邉 英 治
北 村 英 隆
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が異議2023-700722号事件について令和7年9月12日にした決定のうち、特許第7207706号の請求項1、5、6に係る部分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は、特許異議の申立てに基づく特許取消決定の取消しを求める事案である。1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著である。)
⑴ 特許原告は、発明の名称を「磁気シールド材」とする発明について、平成30年11月19日に特許出願(特願2018-216845号。その願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書等」という。また、【】の記号は、本件明細書等のうち、発明の詳細な説明の段落番号又は図面の番号を示す。甲5)をして、令和5年1月10日、特許権の設定登録を受け(特許第7207706号、請求項の数7。以下、この特許を「本件特許」という。)、同月18日、特許掲載公報が発行された。
⑵ 特許異議の申立て本件特許の請求項1から7までに係る特許に対し、令和5年7月12日、特許異議の申立てがされた(異議2023-700722号事件)。原告は、上記特許異議申立事件において、令和6年9月6日に提出し、令和7年1月8日に補正した訂正請求書により、特許請求の範囲の請求項2から4まで及び7を削除するとともに、請求項1、5及び6について訂正する旨の訂正(以下、この訂正を「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、令和7年9月12日、本件訂正を認めた上で、「特許第7207706号の請求項1、5、6に係る特許を取り消す。特許第7207706号の請求項2~4、7に係る特許異議の申立てを却下する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年10月1日、原告に送達された。原告は、令和7年10月31日、本件決定のうち、請求項1、5及び6に係る特許を取り消した部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲の記載本件特許に係る本件訂正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(下線部は本件訂正により訂正された箇所を示す。以下、本件訂正後の請求項記載の各発明を請求項の番号に応じて「本件訂正発明1」などという。)。
⑴ 請求項1(本件訂正発明1)磁性層と、導電層とを備える磁気シールド材であって、前記導電層は、一層のみであって、この一層の導電層が、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚みを有し、前記導電層の導電材料は、アルミニウムであり、前記遮蔽対象となる電磁波の発生源の上に、前記導電層を配し、さらにその上に、前記磁性層を配するようにしたことを特徴とする磁気シールド材。
⑵ 請求項5(本件訂正発明5)前記磁性層は、ナノ結晶が析出したアモルファス金属の金属箔であり、軟磁性材料から成ることを特徴とする請求項1に記載の磁気シールド材。
⑶ 請求項6(本件訂正発明6)前記磁性層は、20μmの厚みを有し、前記ナノ結晶が析出したアモルファス金属は、鉄(Fe)83wt%、珪素(Si)9wt%、ニオブ(Nb)6wt%、ホウ素(ボロン)(B)1wt%、銅(Cu)1wt%であることを特徴とする請求項5に記載の磁気シールド材。3 本件決定の理由の要旨
⑴ 取消理由1(進歩性欠如)についてア 引用発明本件出願日前に公開された甲1(国際公開2014/157526)には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。「厚み25μmのPETフィルムの一方側の面に厚み3μmの両面テープを介して貼り付けられた厚み30μmのアルミ箔と、前記PETフィルムの反対面に厚み20μmの粘着層を介して貼り付けられた薄板状磁性体と、を備える磁性シートであって、前記アルミ箔は電磁波シールドの機能を有する、磁性シート。」イ 対比本件訂正発明1と甲1発明を対比すると、次の一致点において一致し、相違点1及び2において相違する。(ア) 一致点「磁性層と、導電層とを備える磁気シールド材であって、前記導電層は、一層のみであって、この一層の導電層が、6.5~50μmの厚みを有し、前記導電層の導電材料は、アルミニウムである、ことを特徴とする磁気シールド材。」(イ) 相違点1本件訂正発明1では、導電層の厚みが、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚み」であるのに対し、甲1発明では、アルミ箔の厚み「30μm」が、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」ものであることは特定されていない点。(ウ) 相違点2本件訂正発明1では、「遮蔽対象となる電磁波の発生源の上に、前記導電層を配し、さらにその上に、前記磁性層を配するようにした」のに対し、甲1発明では、そのことが特定されていない点。ウ 相違点についての判断(ア) 相違点1について本件訂正発明1において、「この一層の導電層が、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚みを有し」との記載は、後記
⑵のとおり不明確であるが、原告は、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」との文言の有無にかかわらず、導電層の厚みは明確であると主張している。そうすると、甲1発明も、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」か否かにかかわらず、30μmの厚みのアルミ箔を有するものであるから、相違点1は実質的な相違点ではない。(イ) 相違点2について甲1発明において、遮蔽対象となる電磁波の発生源の上に配する層を、薄板状磁性体とアルミ箔のどちらにするかは、当業者が適宜選択すべき設計事項である。当該発生源の上にアルミ箔(導電層)を配し、その上に薄板状磁性体(磁性層)を配するようにすることも、適宜なし得たことである。発生源の上に配するのを導電層とするか、磁性層とするかにより効果に差異があったとしても、選択肢が2つの場合に当業者が予測する効果は、一方が他方より優れた効果を奏するか、両者に効果の差がないかのいずれかであるから、発生源の上に導電層を配した場合に他方より優れた効果が生じたとしても、当業者の予測の範囲内の効果である。エ 小括よって、本件訂正発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
⑵ 取消理由2(明確性要件違反)についてア 本件訂正発明1の「この一層の導電層が、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚みを有し」との記載における「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯」との事項は、本件訂正発明1に係る磁気シールドの製作者が任意に定める事項であり、かつ、完成物である「導電層」自体からは知り得ない事項である。イ 本件明細書等には、①ある厚みのアルミ箔13を用いた磁気シールド材1が最大の磁界シールド効果を得ることができる(電磁波の)周波数を、(その厚みのアルミ箔13を用いた磁気シールド材1の)「ピーク値周波数」ということ(【0026】)、②アルミ箔13の厚みと、その厚みのアルミ箔13を用いた磁気シールド材1のピーク値周波数との対応関係(組み合わせ)を示す近似直線のグラフEを求めること(【0028】)、③上記の近似直線のグラフEから、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯の中間値(平均値)が上記のピーク値周波数であるときのアルミ箔13(導電層3)の厚みを求めて、磁気シールド材1におけるアルミ箔13の厚みを、上記のグラフEから求めた厚みにすること(【0029】)が記載されているが、これらは、導電層の厚みの求め方の説明であり、当該求め方に従って選択された「導電層」とそうでない「導電層」が同じ厚みであった場合に、どのようにしてそれらを区別するのかを説明するものではない。ウ 仮に、任意に選択された「所定の厚みを有する導電層」について、何らかの「所定のピーク値周波数」が測定により得られたとしても、当該「所定のピーク値周波数」を中間値(平均値)とする「周波数帯」は一義的に特定できないから、上記「所定の厚みを有する導電層」が「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」厚みを有するか否かは判別できない。よって、本件明細書等の上記記載を参酌しても、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」「厚みを有し」の意味は依然として不明確である。エ 以上によると、「この一層の導電層が、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚みを有し」との記載を含む請求項1に係る発明は、本件明細書等の記載を考慮し、技術常識を基礎としたとしても、その「一層の導電層」の厚みについて、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといえる。よって、本件特許の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明を明確に記載したものではないから、特許法36条6項2号に規定する要件に適合しない。請求項1を引用する請求項5及び6の記載も同様である。
第3 原告主張の取消事由
1 取消事由1(進歩性判断の誤り)
⑴ 引用発明の認定の誤り
甲1の段落〔0055〕には、「薄板状磁性体のPETフィルムに覆われない側に、基板等への貼り付け可能とするための両面テープを貼り付けた」構成が記載されている。原決定は、甲1発明を認定するに当たり、この部分を恣意的に削除しており不当である。甲1発明は、次のとおり正しく認定されるべきである。「厚み25μmのPETフィルムの一方側の面に厚み3μmの両面テープを介して貼り付けられた厚み30μmのアルミ箔と、前記PETフィルムの反対面に厚み20μmの粘着層を介して貼り付けられた薄板状磁性体と、前記薄板状磁性体のPETフィルムに覆われない側に貼り付けた、基板等への貼り付け可能とするための粘着層と剥離ライナーが一体化された両面テープと、を備える磁性シートであって、前記アルミ箔は電磁波シールドの機能を有する、磁性シート。」
⑵ 相違点2の認定の誤り
上記⑴と同様の理由により、相違点2は次のとおり正しく認定されるべきである。(相違点2)本件訂正発明1では、「遮蔽対象となる電磁波の発生源の上に、前記導電層を配し、さらにその上に、前記磁性層を配するようにした」のに対し、甲1発明では、基板等の貼付被対象物に、両面テープを介して薄板状磁性体を配するようにしている点。
⑶ 相違点2の検討の誤り
ア 甲2から甲4までには、いずれも導電層を(図面上)下に配置した構成が開示されているが、甲2は電磁干渉抑制体の組成に関するもの、甲3は本件訂正発明1と導電層の材質が異なり、本件訂正発明1のような効果も記載されていないもの、甲4は導電層の材質、厚みが異なっているほか、導電層を(図面上)下に配置した意図が記載されていないものであって、いずれも、当業者にとって、電磁波発生源の上に配する層を導電層とする動機付けとなるものではないし、そのような構成を採用することにより磁界シールド効果を向上させる効果を予測することもできない。また、甲1発明では、貼付被対象物側から順に「薄板状磁性体」、「基材」、「導電層」とする積層順序自体が開示されているところ、一般に「基材」は、「薄板状磁性体」を支持する部材であるから、順に「基材」、「導電層」、「薄板状磁性体」という構成は成り立たないというべきである。そうすると、当業者において、甲1発明の導電層を磁性層よりも貼付被対象物側に配する構成を容易に想到し得たということはできない。イ 本件訂正発明1は、電磁波発生源の上に配する層を導電層としたときは、発生源の上に配する層を磁性層とした場合と比べて、周波数帯によっては約1.8倍ものシールド効果が得られることを見いだしたものであり、その効果は、甲1の記載から当業者が予測できなかった顕著な効果といえる。本件決定は、発生源の上に配する層を薄板状磁性体とアルミ箔のどちらにするかという選択肢が2つの場合において当業者が予測する効果は、一方が優れた効果を示すか、効果に差異がないかのいずれかであるとするが、甲1は磁性シートに係る発明であるから、発生源側に薄板状磁性体を配することが自然であり、アルミ箔をそれよりも発生源側に配することについては、記載も示唆もない。したがって、甲1発明において選択肢が2つあるという前提に誤りがある。
2 取消事由2(明確性要件違反の判断の誤り)
本件の発明者は、導電層の厚みと磁界シールド効果との相関性を見いだしたものである。そして、磁気シールド材が貼付される電磁波発生源に応じて、遮断すべきノイズが異なることは当然であるから、導電層の厚みを「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」とすることを発明特定事項とし、さらに、第三者に不測の不利益を及ぼすことがないように、「6.5~50μm」の範囲に限定しているのであるから、その意味は明確である。なお、請求項の記載に遮蔽対象となる電磁波の周波数帯の範囲と、対応する導電層の厚みの範囲を規定すれば、請求項の記載はより明確となったといえようが、本件明細書等に記載された実施例AからCまでは、特定の厚みを有する各導電層につき、周波数帯ごとにシールド効果を検証したものにすぎず、実施例間の閾値を明確に特定することは困難であるから、実際には、周波数帯の範囲と対応する導電層の厚みの範囲を規定することは困難である。本件訂正発明1の実施品には、ユーザが確認できる情報として、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯」が直接的(商品パッケージ等に記載)又は間接的(製品番号や二次元コードから照会)に記載されるから、当業者は、格別な困難を要さずともこれらの情報を確認することができる。このことからすると、本件における特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
第4 被告の反論
1 取消事由1(進歩性判断の誤り)について
⑴ 引用発明の認定
引用発明の認定に当たっては、進歩性判断の対象となる発明の発明特定事項に相当する事項を過不足のない限度で認定すれば足り、特段の事情がない限り、発明特定事項との対応関係を離れて、引用発明を必要以上に限定して認定する必要はない。これを本件についてみると、本件訂正発明1は、磁性層と導電層を備えることを発明特定事項としており、磁気シールド材を貼付可能とするための構成を備えていないのであるから、引用発明として甲1発明を認定するに当たっては、磁性層と導電層にそれぞれ対応する薄板状磁性体とアルミ箔を備えるものとして認定すれば足りる。また、甲1の「課題を解決するための手段」や「発明の効果」の欄には、貼付被対象物へ貼付可能とするための構成や、これに起因する効果も記載されていないから、「粘着層と剥離ライナーが一体化された両面テープ」を含めずに引用発明たる甲1発明を認定したとしても、甲1に記載された事項を必要以上に抽象化、一般化するものではない。したがって、本件決定による甲1発明の認定に誤りはない。
⑵ 相違点2の認定
上記⑴のとおり、本件決定による甲1発明の認定に誤りはないから、本件訂正発明1と甲1発明との相違点2の認定には、原告が主張するような誤りはない。
⑶ 相違点2の検討
甲1発明の磁性シートは、PETフィルムを挟んで薄板状磁性体とアルミ箔が層構造になったものであるところ、これを遮蔽対象となる電磁波の発生源に対して使用する場合を考えれば、発生源に近い側として、薄板状磁性体側を用いるか、アルミ箔側を用いるかの2つの選択肢しかない。当業者は、それぞれの場合におけるメリット・デメリットを考慮して、いずれかの使用態様を選択する。そうすると、甲1発明の磁性シートを使用する際に、導電層に相当するアルミ箔側と磁性層に相当する薄板状磁性体側のいずれの面を発生源に近い側とするかは、当業者が適宜選択し得る事項であるから、甲1発明のアルミ箔側の面を遮蔽対象となる電磁波の発生源の上とし、さらにその上に、薄板状磁性体側の面が配されるようにして、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。また、当業者にとって、いずれかの態様によればより高い磁気及び電磁波のシールド効果が得られるか、又は得られないかは、上記のとおり適宜選択する際に、その効果を予測するものであるから、一方の態様を選択した際に優れた効果が生じたとしても、それは当業者が予測し得た効果にすぎないというべきである。したがって、本件決定による相違点2の検討に誤りはない。なお、原告は、順に「基材」、「導電層」、「薄板状磁性体」とする構成は成り立たないと主張するが、本件決定は、そのような構成を認定していないから、
(原告の主張)
は前提を誤るものである。
2 取消事由2(明確性要件違反の判断の誤り)について
「周波数帯」とは、「ある二つの周波数の間の範囲」を意味するから、電磁波の周波数帯は、電磁波の周波数の上限値及び下限値によって特定されるものである。しかし、本件明細書等には、導電層の厚みと、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯の範囲(周波数の上限値と下限値)との対応関係についての記載がない。そうすると、導電層の厚みについて「6.5~50μm」の範囲に限定したとしても、ある導電層の厚みが、どの周波数帯の電磁波を遮蔽対象としたものであるのかを判別することはできず、本件訂正発明1は、本件明細書等の記載や技術常識を考慮しても、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというべきである。この点について、原告は、本件訂正発明1の実施品には、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯が、直接的又は間接的に記載されるから、当業者は格別な困難を要さずともこれらの情報を確認できるとする。しかし、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ、その技術的範囲の判断が、特許請求の範囲に記載されていない商品パッケージ等の表示や内容に依拠せざるを得ないとすれば、その特許請求の範囲は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというほかない。また、同じ磁気シールド材であっても、商品パッケージ等の直接的又は間接的な記載によって、本件訂正発明1の技術的範囲に含まれる場合と含まれない場合が起こり得ることからも、特許請求の範囲の記載は不明確であるといわざるを得ない。したがって、本件決定による明確性要件違反の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由2(明確性要件違反の判断の誤り)について
⑴ 本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
磁性層と、導電層とを備える磁気シールド材であって、前記導電層は、一層のみであって、この一層の導電層が、遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた6.5~50μmの厚みを有し、前記導電層の導電材料は、アルミニウムであり、前記遮蔽対象となる電磁波の発生源の上に、前記導電層を配し、さらにその上に、前記磁性層を配するようにしたことを特徴とする磁気シールド材。
⑵ 本件訂正発明1において、「一層の導電層」は、「遮蔽対象となる電磁波の周
波数帯に応じた6.5~50μmの厚み」を有するものとされているところ、「周波数帯」とは、「ある二つの周波数の間の範囲」という意義を有するから(乙1:電子通信用語辞典)、導電層の厚みと対応関係にある周波数の上限値と下限値が特定されなくては、当該導電層の厚みが、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯に応じた」ものであるか否かは判別できないというべきである。次に、本件明細書等をみると、次のとおり、【図3】として、導電層(アルミ箔)の厚みを6.5μm、11μm及び30μmとした磁気シールド材についての磁界シールド効果を計測したグラフが記載されている。しかし、【図3】の記載によっても、6.5μmから30μmまでの間の特定の厚みを有する導電層について、その厚みが、上限値と下限値により画される特定の周波数帯に「応じた」ものといえるか否かを判断することはできない。そうすると、本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといわざるを得ない。
⑶ この点について、原告は、本件訂正発明1の実施品には、ユーザが確認でき
る情報として、「遮蔽対象となる電磁波の周波数帯」が直接的(商品パッケージ等に記載)又は間接的(製品番号や二次元コードから照会)に記載されるから、当業者は、格別な困難を要さずともこれらの情報を確認することができるとして、特許請求の範囲の記載は不明確であるとはいえない旨主張する。しかし、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められ、その用語の意義の解釈に際しては、明細書の記載及び図面を考慮すべきところ(特許法70条)、商品パッケージ等による表示の有無及び内容によらなければ技術的範囲に含まれるか否かの判断ができないというのであれば、当該特許請求の範囲の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるといわざるを得ない。また、客観的に同一の物であっても、表示の有無及び内容によって本件訂正発明1の技術的範囲に含まれる物と含まれない物が存在し得るということになるが、そのような技術的範囲の解釈を第三者に強いることは、正に特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であることの帰結というほかはない。
⑷ 以上のとおり、本件訂正発明1に係る特許請求の範囲は不明確であるから、
特許法36条6項2号に規定する要件に適合しない。このことは、請求項1を引用する本件訂正後の請求項5及び6についても同様である。したがって、明確性要件違反についての本件決定の判断に誤りはなく、原告の主張する取消事由2には理由がない。
2 結論
上記1のとおり、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法114条2項、113条4号の規定により、取消しを免れない。したがって、取消事由1(進歩性判断の誤り)の有無は、本件決定の結論に影響を及ぼさない。よって、原告の請求には理由がないから、本件請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第1部裁判長裁判官増 田 稔裁判官頼 晋 一裁判官天 野 研 司
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