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【令和7年度パテントコンテスト受賞者インタビュー】東京農工大学——森林火災に挑む学生たち

5月22日(金)配信

「令和7年度 パテントコンテスト・デザインパテントコンテスト」の表彰式が、去る3月16日に行われた。

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 本稿では受賞作品の中から特に目を引いた発明に焦点を当て、受賞者の着眼点や発想を紹介していく。

森林火災に挑む発想——“液体で運び、火元で固める”消火剤

 森林火災という大きな社会課題に、3人の学生が挑んだ。

 工学部化学物理工学科2年生の大塚修平さん、生命工学科2年生の柳下未禮さん、化学物理工学科2年生の小川翔也さんによるプロジェクト「アルギネーター」。2025年12月16日、特許庁主催のパテントコンテストで「選考委員長特別賞」を受賞した。

 日々の学びや研究の中で生まれた着想が、社会課題と結びつき、実用化を見据えた発明へと育っていった。

写真(左)柳下未禮さん 写真(真ん中)大塚修平さん 写真(右)小川翔也さん

発想の出発点は、研究の延長線上にあった

 きっかけは、アルギン酸の研究だった。

 アルギン酸の新たな用途を模索する中で、目に留まったのが大規模な森林火災のニュースだったという。「アルギン酸を使って、消火剤はつくれないだろうか。」
そんな問いから、この取り組みは動き始めた。

 森林火災には、火を消す難しさだけではなく、その後に再燃や延焼が起こるという厄介な問題もある。火元にとどまりやすい“ゲル状の消火剤”は有効な手段の一つとされてきたが、一方で扱いにくさも抱えていた。

 性能が高くても、使いにくければ広がらない。現場で使えなければ意味がない。そんな現実的な視点が、今回の発明の出発点にあった。

相互する性能をどう両立するか

 着想を形にするうえで、次に立ちはだかったのは、水とゲル、それぞれの特性だった。

 水は遠くまで放水しやすく、扱いやすい。しかし火元にとどまりにくく、消火性能には限界がある。対してゲルは、付着性が高く消火性能にも優れるが、その粘性ゆえに放水しにくい。

 どちらかを選べば、どちらかが失われる。

 そこで3人は、選択肢そのものを変える発想にたどり着いた。

 液体として放ち、火元でゲルに変える——その仕組みだ。

 アルギン酸がカルシウムイオンと接触するとゲル化する性質を利用し、2つの液体を火元で混合させることで、その場でゲルを生成する。運びやすさと、とどまりやすさ。放水性と消火性能。これまで両立しにくかった要素を、一つの構造で結びつけた。

 “火を消すための薬剤”というより、“火元で機能を変える薬剤”。そこに、この技術の新しさがある。

「火を消す」から「再燃させない」へ

 この発明が見据えているのは、消火のその先だ。

 森林火災では、表面の炎が収まっても、木の内部に残った火種が風によって再び燃え広がることがある。現場では、それらを一つずつ確認し、人の手で処理していく必要があるという。

 そこで着目したのが、ゲルの“とどまる力”だった。

 火元に消火剤が残り続ければ、再燃の可能性を下げられる。そう考え、付着性だけでなく、必要な強度や保水率を維持できるよう、配合も設計された。単にその場の炎を消すだけではない。火が消えた後まで視野に入れた構造になっている点に、この発明の特徴がある。

実装を見据えた設計と、その先にある課題

 開発を通して一貫していたのは、「本当に使えるものになるか」という視点だった。

 消火性能だけを追い求めるのではなく、薬剤コスト、環境負荷、法規制への適合、消防士にとっての使いやすさといった現実的な条件も同時に考える。さらに、既存設備で扱えるか、追加の動力や燃料を必要としないかといった運用面まで検討が重ねられた。

 理論として成立するだけでは足りない。現場で無理なく使えるかどうか。その問いが、発明を現実に近づけていった。

 ただ、現場を見据えたからこそ、新たな課題も見えてきた。森林火災では、航空機による消火が主流であり、消防車による地上からの放水は補助的な位置づけにとどまる。そのため、放水設備を前提とした今回の技術との間には、実際の運用面でギャップもある。

 設備への組み込み方法や輸送・保管体制の確立など、具体的な設計はこれからの段階だ。実機での検証を重ねながら、“使える技術”として完成させていく挑戦は、今も続いている。

チームでつくりあげた発明

 この開発は、3人の力を持ち寄ることで進められた。

 発案や全体計画、実験構成から発表までを主導した大塚さん。データ分析や数値計算、図表作成に加え、特許範囲や実施例の整理まで担った柳下さん。会計や対外連絡など、プロジェクト全体を円滑に進める役割を担った小川さん。

 それぞれの得意分野を活かしながら役割を分担しつつ、実験そのものは全員で進めていく。

 一人で抱え込むのではなく、任せるところは任せ、必要な場面では全員で動く。そんなバランスの良さが、短期間で成果を積み上げる原動力になっていたようだ。

試行錯誤の中にあった“大学生っぽさ”

 話を聞いていて印象的だったのは、研究の空気感だ。実験はときに自宅でも行われ、その合間には自然と息抜きも生まれていたという。

 「家で実験しながら、合間にチャーハン作って食べてました。」
限られた時間の中で研究を進める、学生らしい等身大のエピソードだ。

 さらに、消火実験で使った薪は、そのまま別の用途でも活躍したという。
「実験に使用した薪でBBQしたりもしました。」
真剣な実験のすぐ隣には、大学生らしい他愛ない楽しさも同居していた。

 もちろん、楽しいことばかりではない。木材を燃やす実験を繰り返すうちに、
”気づけば全身が煙の匂いになっていた” という苦労話もあった。

 そして、取材の中で思わず笑みがこぼれたのが、研究初期に購入した25kgの塩化カルシウムの話だ。

 「これは絶対たくさん使うだろう、と思って買ったんですけど……一回も開けてないです。」結局、その大袋の出番はまだない。

 今でも部屋の片隅に置かれたまま、なぜかしっかりとした存在感を放っている。どうやらこの研究で、一番“出番を待ち続けている存在”かもしれない。

(写真)研究中の3人の様子

社会課題に向き合う研究へ

 今回の受賞は、単なる結果というより、ここまで積み上げてきた時間が形になった瞬間だったのだろう。受賞の受け止め方は、3人それぞれに少しずつ違っていた。

 完成度には手応えがあったという。
それでも、結果を知ったときに最初に浮かんだのは、驚きよりも「ほっとした」という感覚だったと大塚さんは振り返る。想定以上の評価に対しては、率直な驚きもにじんでいた。

 一方で、受賞そのものにはある程度の手応えを感じていたと語るのは柳下さんだ。ただ、それ以上の評価を得たことについては「予想外だった」と話し、その結果を誇らしく受け止めている様子が印象的だった。

 また、今回が初めての研究活動だった小川さんにとっては、「率直に嬉しい」というシンプルな言葉が、そのまま実感として伝わってくる。客観的な評価を得られたことへの安心感も大きかったようだ。

 それぞれ立場や関わり方は異なりながらも、自分たちの取り組みが確かに届いたという手応えが、言葉の端々から感じられた。

 その背景にあるのが、発明を「形にする」だけでは終わらなかった点にある。今回の取り組みでは、特許出願までを自分たちで進めている。特許範囲の考え方や文章の組み立てには独特の難しさがあり、完成させるまでに相当苦労したという。

 アイデアを思いつくだけでなく、それをどう定義し、どう守るのか。そのプロセスに踏み込んだことで、発明に対する見方も大きく変わっていった。

 今回の開発は、性能だけを追い求めたものではない。コストや運用、制度といった現実的な条件を一つひとつ乗り越えながら、「社会の中で使えるか」という問いに向き合い続けたものだった。

 そうした積み重ねの先に、今回の評価がある。アイデアは、思いつくだけでは終わらない。現実の中で機能する形にまで引き上げてはじめて、発明になる。

 “使える技術”として社会に届くかどうか
——その問いに向き合い続けた時間そのものが、今回の発明の本質なのかもしれない。