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特許 平成30年(行ケ)第10145号「海生生物の付着防止方法およびそれに用いる付着防止剤」(令和元年7月18日)

10月23日(水)配信

 

【事件概要】

 この事件は、特許無効審判の請求を不成立とした審決の取消しを求めた事案である。

 裁判所は審決を取消した。

判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【主な争点】

 本件発明が引用発明(甲1発明)に基づいて容易に発明をすることができたか否か。

 

【結論】

(相違点の容易想到性)

 甲1ないし3、5に接した当業者は、過酸化水素と有効塩素剤とを組み合わせて使用する甲1発明には、有効塩素剤の添加により有害なトリハロメタンが生成するという課題があることを認識し、この課題を解決するとともに、使用する薬剤の濃度を実質的に低下せしめることを目的として、甲1発明における有効塩素剤を、トリハロメタンを生成せず、有効塩素発生剤である次亜塩素酸ナトリウムよりも少量で付着抑制効果を備える海生生物の付着防止剤である甲2記載の二酸化塩素に置換することを試みる動機付けがあるものと認められるから、甲1及び甲2、3、5に基づいて、冷却用海水路の海水中に「…二酸化塩素と過酸化水素とを海水中に共存させる」構成(相違点1に係る本件発明1の構成)を容易に想到することができたものと認められる。

(本件発明1の予期し得ない顕著な効果(試験例4))

 海水に二酸化塩素と過酸化水素を添加した場合の二酸化塩素の残留率は、過酸化水素及び二酸化塩素の濃度条件及び添加の順序に応じて広範囲に変化し、この変化に伴って、スライムを主体とする汚れの付着防止効果も変化し得るものと理解できることからすると、表4の実施例1及び比較例4の対比の結果は、本件発明1の特許請求の範囲全体の効果を示したものと認めることはできない。

 甲1及び甲2に接した当業者は、甲1発明における有効塩素発生剤を二酸化塩素に置換し、二酸化塩素と過酸化水素を併用した場合、次亜塩素酸ナトリウムと過酸化水素を併用した場合よりも優れたスライム付着防止効果を奏することを予期することができるものといえるから、本件明細書の試験例4の実施例1及び比較例4の対比の結果は予期し得ない効果であるものと認めることはできない。

 

【コメント】

 原告らは、「二酸化塩素は、…、過酸化水素との組み合わせで一重項酸素を発生させるものではないにもかかわらず、過酸化水素と二酸化塩素の組み合わせの方がスライム汚れの付着防止効果が高まるという結果を予測することは困難であり、また、本件明細書の表4から、二酸化塩素又は次亜塩素酸ナトリウムのそれぞれ単独の結果から、それぞれの過酸化水素との併用効果を予測できないことが分かる」などと主張したが、裁判所は、甲1の記載に照らすと「二酸化塩素が過酸化水素と反応しても一重項酸素を発生しないとしても、そのことから直ちに、…、スライム汚れの付着防止効果や海生生物付着量の抑制効果が高まることが予測できないということはできない」として原告の主張を採用しなかった。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 吉住和之)

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