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9月28日
10月1日(水)配信
【事件概要】
特許権の存続期間延長登録の無効審判において請求不成立と判断した審決を知財高裁が支持した事例である。
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【争点】
現行特許法の125条の3第1項の①第1号(薬機法の処分対象品目<塩酸塩>と特許発明<フリー体>の同一性)および②第3号(特許発明の実施をすることができなかった期間)に係る2つの無効理由である。
そして、争点②の詳細は、本件の薬機法の処分対象品目<レミッチROD錠>に基づく延長登録期間の算定において、先行処分の対象品目<レミッチRカプセル>の臨床試験に要した期間も参入できるか、である。
※OD錠:口腔内崩壊錠(Orally Disintegrating Tablet)
【結論】
①第1号(薬機法の処分対象品目<塩酸塩>と特許発明<フリー体>の同一性)
『本件明細書をみた当業者は、本件発明の目的である止痒作用を発揮する化学物質は「κ受容体作動性化合物」であって、「薬理学的に許容される酸付加塩」の形態は、物質の止痒作用自体を変化させるためのものではなく、薬としての溶解性や安定性を向上させるための形態にすぎないことは容易に理解することができたはずである。・・・当業者において、請求項1に「オピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」とだけ記載されていることを理由に、その趣旨が、「これと薬理学的に許容される酸付加塩」は、本件発明1でいう有効成分には当たらず、特許の技術的範囲外であると解釈するとは考えられない。』
『そうすると、本件医薬品は、生体内において吸収され、オピオイドκ受容体作動性という属性に基づき止痒作用を及ぼし薬効を奏するナルフラフィンが、その酸付加塩であるナルフラフィン塩酸塩の形態で配合された医薬品であると認められるから、本件医薬品は、本件発明1の「一般式(Ⅰ)で表されるオピオイドκ受容体作動性化合物を有効成分とする止痒剤」の発明特定事項を備えるものと認められる。』
②第3号(特許発明の実施をすることができなかった期間)
『本件処分に係る本件医薬品(レミッチOD錠2.5㎍)の承認申請においては、「剤形追加に係る医薬品」の承認申請時に提出を求められる「生物学的同等性」資料だけでなく、既承認医薬品につき実施されたこれらの試験に関する記載のある添付文書(案)や、既承認医薬品(レミッチカプセル2.5㎍等)に関する審査報告書等の資料が提出されたことで、被告の行った前記ウの各臨床試験が、本件処分に係る医薬品の有効性及び安全性を検証及び確認するために必要な資料として各審査時点で評価試料として審査に用いられ、その結果、本件医薬品について「次の患者におけるそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)血液透析患者、慢性肝疾患患者」との用途で承認されたことが推認され、これを覆すに足りる証拠はない。』
『原告は、OD錠の承認に伴う本件延長登録に軟カプセル剤の臨床試験期間を再度算定することは、実質的に2重に臨床試験期間を回復することになり制度趣旨に反するなどと主張する。しかしながら、医薬品における「前記政令で定める処分を受けるために特許発明を実施することができなかった期間」は、薬機法に基づく当該医薬品の承認手続の内容、承認による禁止解除の範囲についての解釈を踏まえ、特許法の観点から個別に判断されるものであるから、本件医薬品の延長登録に関し、およそ既承認の医薬品の臨床試験期間を考慮することが許されないなどということはできない。』
【コメント】
争点①については、令和2年(行ケ)第10063号(知的財産高等裁判所 令和3年3月25日)判決において、処分対象品目<塩酸塩>と特許発明<フリー体>の同一性を否定した審決が取り消されて、本件の延長登録が認められた経緯があったことから、結論は明らかであった。
争点②については、判示されたように、実際に「本件医薬品(レミッチOD錠2.5㎍)の承認申請において、・・・既承認医薬品(レミッチカプセル)に関する審査報告書等の資料が提出され・・・審査に用いられ、その結果、本件医薬品について承認された」のであれば、先行処分の対象品目(レミッチカプセル)の臨床試験等に要した期間も本件医薬品(レミッチOD錠)の承認に基づく延長登録期間に参入するのが妥当であると考えられる。
また、原告(無効審判請求人)は、「実質的に2重に臨床試験期間を回復することになり制度趣旨に反する」と主張しているが、オキサリプラティヌム大合議判決(平成28年(ネ)第10046号・知財高等裁判所特別部・平成29年1月20日)において、特許法68条の2に基づく延長された特許権の効力は、薬機法の処分対象品目のせいぜい「実質同一なもの」にしか及ばないことが大前提となっており、既承認医薬品(レミッチカプセル)に基づく延長された特許権の効力は、本件医薬品(レミッチOD錠)には及ばないであろうことから、「2重に臨床試験期間を回復する」という指摘は、少なくとも特許法上のエンフォースメントの観点からは的を射ていないように感じる。
なお、本件と同日に言い渡された令和3年(ネ)第10037号判決において、被告2社には総額200億円を超える損害賠償の支払いが命じられたこともあり、本件の判決は、最高裁判所に上訴されている。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村 明照)
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