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特許 令和2年(行ケ)第10089号「車両シートに取り付けるためのチャイルドセーフティシート又はベビーキャリア及びそのようなシートのためのサイドインパクトバー」(知的財産高等裁判所 令和3年12月15日)

3月16日(水)配信

 

【事件概要】
 本件発明の容易想到性を否定した特許無効審判の審決が取消された事例。
 ▶判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 本件発明の解釈(それに基づく一致点、相違点の認定誤り、容易想到性判断誤りの有無)

 

【結論】
 発明の要旨認定は、特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきであり、発明が属する技術分野における優先日前の技術常識を考慮した通常の意味内容により特許請求の範囲の記載を解釈するのが相当である。もっとも、特許請求の範囲の記載の意味内容が、明細書又は図面において、通常の意味内容とは異なるものとして定義又は説明されていれば、通常の意味内容とは異なるものとして解される余地はあるものの、そのような定義又は説明がない場合には、上記のとおり解釈するのが相当である。
 本件審決は、本件発明の「支持部」が、シートシェルに係る技術常識により理解される「シートシェル」及び「子供を支える柔軟性のある素材」に相当し、本件発明の「シートシェル」は、「支持部」を内側に配置する、従来技術(技術常識)における「シートシェル」及び「子供を支える柔軟性のある素材」とは別異の、それらに更に追加される構造要素と解釈しているものと認められる。
 本件審決は、本件発明の「シートシェルが、従来技術とは異なり、子供を支持する支持部材とは別な部材である」と解する根拠として、本件明細書の・・・を引用するが、・・・、「シートシェル」が従来技術とは別異なものであるとの記載はないし、支持部については何らの記載もないことからすると、上記段落が本件審決の上記解釈を裏付けるものとはいえない。そして、本件発明の特許請求の範囲の記載や本件明細書の発明の詳細な説明の記載において、前記の本件審決の解釈を採用すべき根拠を見出すことはできない。したがって、前記の本件審決の解釈を採用することはできない。

 

【コメント】
 本件発明の要旨認定の誤りが引用発明との一致点、相違点の認定誤りの原因となっていることはままあることであり、本件もそのような事例の一つといえる。なお、本件のように、発明の要旨認定の誤りを理由として特許維持の審決が取消された場合には、当該審決が認定した発明の技術的範囲と同じ範囲になるように本件発明を訂正することができれば、再び特許維持の審決を得ることが可能な場合もあるように思われる。本件判決は、その点も考慮してのことと推察されるが、他の審決取消事由についても判断し、他の審決取消事由はいずれも理由がない旨判示している。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小曳 満昭)

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