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特許 令和4年(行ケ)第10092号「プログラム、対戦ゲームサーバ及びその制御方法」(知的財産高等裁判所 令和5年3月27日)

6月21日(水)配信

 

【事件概要】
 拒絶査定不服審判において通知された最後の拒絶理由通知への応答として提出された第2次補正を、新規事項を導入するものであるとして却下した拒絶査定不服審判の審決が、取消された事例。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 当初明細書等の記載から、「強さ」が「攻撃力及び防御力の合計値」に限定されると判断し、それを前提に、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」と補正したことは新たな技術的事項を導入するものであるとした審決の判断の当否。

 

【結論】
 「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない。
 上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユーザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当であり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえて体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付加的な事項にすぎないと認められる。
 そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたものとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。

 

【コメント】
 本件で問題となった補正後の「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という記載は、当初明細書等に「強さ」を表すものとして明示的に記載されていた「攻撃力と防御力の合計値」の上位概念を表す記載と解される。当初明細書等に明示的に記載された事項の上位概念や中位概念に当たる技術的事項であって、当初明細書等には明示的に記載されていない技術的事項については、それを特許請求の範囲に導入する補正が新規事項を追加する補正に該当するか否かはしばしば問題となる。本件もそのようなケースの一例と解することができ、そのようなケースを考える際の参考になると思われる。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小曳 満昭)

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