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11月17日
12月9日(月)配信
知財教育の重要性を訴える声が強まる中、大学学部生の授業に知財科目を導入する動きが広がっている。いまだ環境の整っていない”黎明期”ともいえる状況で、知財教育を取り入れた現場ではどのような課題を抱え、どのような工夫をしているのか。
大分大学における唯一の知財専任教員として知財科目の導入拡大に努める、同校産学官連携推進機構・知的財産部門長部門長の富畑賢司教授に聞いたお話の第2弾をお届けする。(第1弾はこちら)
――どんな課題があるのか。
何よりも、知財教育を拡充するための教員や予算が圧倒的に不足している。大分大における知財の専任教員は私一人で、大学院と学部の授業のほかに、学内の知的財産部門の実務も担当している。新たな知財科目を開講する場合には教員の確保が必要になるのだが、そのための予算が足りていないのが現状だ。学内の教員にお願いできればいいのだが、これまでのところ、引き受け手を見つけることができていない。
実は、学部の知財授業としては、今年度から経済学部でも「知的財産論」をスタートさせている。こちらの授業は、なんとか東京と大分で弁理士事務所を開設している弁理士の方に講師をお願いし、担当してもらえることになった。
――東京で教員を探したのか。
そうだ。たとえば大阪や名古屋、福岡のような大都市圏にある大学ならば、知財の授業を担当できるような専門家をその地域で見つけることも可能かもしれない。しかし、大分大の場合、地元でそうした専門家を探すのは現実としてとても難しい。
そうなると、知財事務所や企業が林立し知財関係者が多く集まる地域で引き受けてくれる人を探し、大分に来てもらって授業をしてもらうことが必要になる。ただ、そのための経費負担に、現状では耐えきれない。講師料のほかに交通費や、場合によっては宿泊費も必要になる。
――知財教育の推進を支援するような補助金制度などはないのか。
残念ながら、現状でそうした制度はない。大きな金額でなくともよいので、講師を呼ぶための費用だけでもサポートしてくれる制度があると、非常に助かるのだが。おそらく、地方の大学はどこも似たような問題を抱えているはずなので、そうした制度のニーズは大いにあると思う。
――そうした支援制度がない中で、山口大のような共同利用拠点校のほかに、活用できるもの、頼りにできるものはないのか。
これまで築いてきた、知財関係者との個人的なネットワークにとても助けられている。他大学の知財教育担当の先生方とのつながりのほかに、企業在籍時に知的財産協会などで築いた他企業の知財関係者との人脈などがそれにあたる。
山口大の共同利用拠点の協力校となったことで、そうした人的ネットワークがさらに広がったという面もある。
――そうしたネットワークをどう活用しているのか。
情報共有などで大いに利用させてもらっている。たとえば、知財教員同士のネットワークでは、学部生への知財の授業で、こんな話題を取り上げたら学生がとても盛り上がっただとか、強い関心を示したといった情報を共有し合っている。どの先生も、学生の関心をそらさないよう試行錯誤しており、そうした情報には非常に有用なものが多い。
――そうしたネットワークの中で、知財教員を見つけることはできないか。
もちろん、そうした場としても有用だろう。今考えているのは、企業の知財関係者などとのネットワークを生かし、学部の授業で出張講義をしてもらうことだ。それぞれの会社の知財をめぐる事情や戦略について話してもらうことで、学生に現場で知財に関わる際のイメージを持ってもらえたらと思う。企業にとっては、学生をリクルートする場として活用してもらってもいいと考えている。実は、こうした取り組みは大学院の授業ではすでに行っており、有意義な結果をもたらしている。
――学生と触れ合う中で、学生に教えてみたいと思う知財関係者も出てくるかもしれない。
実は最近、企業から大学に移って知財教員となる人が増えているので、場合によっては、そうしたケースにも期待できるかもしれない。個人的には、そうした企業出身の知財教員とのネットワークもさらに強化したいと考えている。
――富畑先生は、企業でも知財教育をしていた経験があるとのことだが、学生に教えることとの違いは?
企業での知財教育は、当然のことではあるが、会社に利益をもたらすための教育という立ち位置からは離れられない。内容は戦略的なものに終始しており、どこかしら「切実」な感がある。
一方、学生を相手にした知財教育では、より知財のおもしろさを純粋に追求した話ができる。学生の好奇心に訴え、知りたいという欲求を引き出すための工夫や試行錯誤をするのは楽しいものだ。そうしたときには、自分が感じた知財のおもしろさを学生に伝えられたらいいなという気持ちがモチベーションになる。
――富畑先生が感じた知財のおもしろさとは。
どうやったら自分の仕事が新しく、価値あるものだと証明できるかについて考えをめぐらせ、実際に証明すること、そしてそれが権利として認められること――私の場合は、企業で共同開発と特許出願の両方に携わっていたことから、知財のおもしろさについて問われると、どうしてもそうした原体験にいき着く。
――なるほど。知財とのかかわりは、自身が携わった研究開発の技術について、自らが特許出願していたことが始まりで、その後、知財教育にも携わるようになったと。
医療機器などを医師や大学研究者と共同開発していたのだが、自分自身で特許出願をする傍ら、弁理士資格も取得した。その後、知財部門で知財管理をしたり、新入社員への知財教育プログラムの立ち上げから運営まで行う形で知財とかかわってきた。企業での知財教育の経験は、大分大学で学部生向けの授業を立ち上げる際に大いに役立った。
「学生を相手にした知財教育では、より知財のおもしろさを純粋に追求した話ができる」という富畑氏。「自分が感じた知財のおもしろさを学生に伝えたい」という気持ちをモチベーションに、大分大での知財教育の拡充に力を注ぐ。
――何か新しい取り組みをする計画は?
先ほども少し触れたが、今年度からすでにスタートした取り組みとして、経済学部での「知的財産論」の開講がある。使用する教材は、理工学部の「知的財産論」で使っているものと同じ山口大の教科書で、コマ・単位数も理工学部と同様に2単位・15コマだ。ただ、こちらは経済学部の授業なので、知的財産の仕組みに関する内容をベースにしながらも、ビジネスモデルの話なども入れている。担当は、先ほどお話した外部の弁理士の方なのだが、内容については私も相談を受けながら一緒に考えた。
そのほかの取り組みとしては、大分高専でも来年度から知財授業を本格的にスタートする予定だ。今年度はその前段階の取り組みとして、単発で知財の講演を行っている。
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