シリーズ「特許庁に突撃!」~特別編 「商標拳」はこうして生まれた 前編 ~

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最近……、活発ですよね?
 特許庁の広報活動・知財普及活動。
中の人に聞いてきました!

特別編 「商標拳」は、こうして生まれた
~ 前編 ~

特許庁 デザイン経営プロジェクト
「商標拳」チーム インタビュー

知財を“自分事化”してもらう

成田それはどんな仕組みですか?

藤村さんできるだけメッセージを絞ってつくったわかりやすい動画で、ターゲット層の人たちに興味を持ってもらい、それを拡散して特設サイトに誘導し、そこで知財の基本的な知識を知ってもらう、という仕組みです。

成田動画は、知財を「自分事化」してもらうための仕組みの一部だったのですね。動画を含めた一連のコンテンツの制作はどのように進めたのですか?

藤村さん企画の方向性を定めてから公募にかけ、そこで選定した制作会社のカヤック(株式会社カヤック)さんとともに制作を進めました。

成田公募で制作会社に求めたことは?

藤村さん知財を「自分事化」してもらうための仕組みを私たちがつくろうとしていることを伝えた上で、2つのメッセージ「商標権はビジネスの基本ですよ」と「商標権を知らずにビジネスをするのは経営上の大きなリスクですよ」をいかにして中小企業の人たちに届けるか、その方法を提案してほしいと伝えました。

成田具体的に「こういうものをつくってほしい」という指示はしなかったのですか?

野口さん公募時に示した仕様書で、チームが考えた「仕組み」を説明した上で、「特設サイトをつくること」と「特設サイトに誘導する仕掛けをつくること」を求めました。調達仕様書だけで私たちがイメージしているものが伝わるのか不安でしたが、チーム内で何度も議論を重ね、応札企業に求める内容を詰めていきました。

野口聖彦さん 特許庁 特許審査官。デザイン経営プロジェクトチームの一員として「商標拳」のプロジェクトに参加。コンテンツの拡散などを担当。

野口聖彦さん=特許庁 特許審査官。デザイン経営プロジェクトチームの一員として「商標拳」のプロジェクトに参加。コンテンツの拡散などを担当。(写真提供:特許庁)

キーワードは“拡散力”

成田「仕組み」を機能させる上で、鍵になったのは何だと思いますか?

野口さん「情報拡散戦略」を持つことと、「情報拡散力」を備えたコンテンツを準備することの2つだと思います。私たちのチームはその2点を重視していました。

私たちは、それまで実施していた知財制度説明会や作成したパンフレットによるアプローチでは、ターゲット層に十分にリーチできていないと感じていました。そこで今回は、SNSなどを通じて爆発的に情報拡散させることで話題を呼び、ターゲットとしていた中小企業経営者などの層にリーチする戦略をとることにしたのです。

成田具体的にどんなことをしたのですか?

野口さんツイッターを使った動画プロモーションを行ったり、「ねとらぼ」や「ライブドアニュース」などのネットメディアに記事を配信しました。さらには、中小企業庁さんや中小企業基盤整備機構さんなどの協力を得て、中小企業の経営者層にメルマガも配信しました。

成田インターネット上で影響力の大きい情報拡散手法を積極的にとっていったのですね。では、コンテンツ自体に「情報拡散力」を持たせるためにしたことは?

野口さんスキップせずに見てもらえる動画、おもしろいと感じてもらえる動画にするためにはどうしたらいいのかを突き詰めて考えていきました。たとえば「商標拳」の動画では、「商標権」も含め、知財に関連する用語をいっさい使っていません。ユーザーヒアリングを重ねた結果、知財の専門用語から離れることにしたのです。

成田専門用語を使わず、ユーザーの関心をそらさないようにすることが、コンテンツの「拡散力」につながると考えたのですね。

野口さんそうです。ヒアリングでは、「特許」を含め、難しい専門用語が動画に出てくると、意味が理解できずについていけなくなってしまう、興味を失ってしまうという声が複数聞かれました。

成田確かに、シンプルなメッセージだけに焦点を絞ったわかりやすい動画のほうが印象に残りますし、拡散もしやすそうですね。

野口さんタイトルも「商標拳~ビジネスを守る奥義~」というキャッチーなものにしました。さらに、特設サイトは動画の世界観を維持し、動画のテイストそのままにつくるなどの工夫もしました。

「商標拳~ビジネスを守る奥義~」動画の1シーン

「商標拳~ビジネスを守る奥義~」動画の1シーン

経験したことのない苦労

成田そうした情報拡散や、広告・販促に近い取り組みは、特許庁のこれまでの業務からかけ離れたイメージがあるのですが、実際、難しさはなかったのでしょうか。なかなか発想がわいてこなかった、といったようなことはなかったのでしょうか。

野口さん確かに、とても苦労しました。ただ、カヤックさんが、そうした情報拡散やコンテンツの企画・制作を過去にたくさん手掛けてノウハウを持っていたので、なんとかやりきることができました。

最近では、特許庁の広報室も情報拡散に重きを置いた広報戦略を展開していますし、経済産業省にも民間企業から出向してきている広報戦略官がいるので、そうした担当者からもアドバイスをもらいました。

成田様々なノウハウを活用したのですね。ところで、今回の「商標拳」チームのみなさんは、これまで広報関連の業務を経験されたことがあったのですか?

佐々木さんまったくありません。初めての経験でした。

石井さん私も初めての経験でした。これまで地方の中小企業を対象に知財制度の普及啓発セミナーを行った経験はありますが、今回の広報のような業務はまったく毛色の違うものでした。

野口さん私もこうした業務はまったく初めてだったので、多くの人にアドバイスを求めたり、インターネットで調べたりしながら、「こんな方法もあるんだな」と思いながら取り組んできました。

須崎さん私も特許庁の業務として広報や広告に携わったことはありませんが、学生時代に広告のベンチャー企業でアルバイトとして働いた経験はありました。ホームページのレイアウト案をつくったり、商品のイベント企画を出したり、動画の絵コンテをつくったりといった仕事です。

成田須崎さんの学生時代の経験を除くと、広報・広告に関してはみなさんがほぼ未経験で今回のプロジェクトに携わったということですね。

鹿戸さん私は、前任者が異動になった関係で、動画公開の2か月前くらいの時期にこのプロジェクトに携わる形になったのですが、その頃、須崎さんや野口さんを始めチームメンバーがいろいろな人にアドバイスを求めて動いていたのが印象的でした。

成田特許庁として前例のない取り組みだったからこその苦労があった一方で、そうしたノウハウが庁内に蓄積された意義も大きそうですね。

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