ホーム > 特別企画 シリーズ「特許庁に突撃!!」 > 「商標拳」はこうして生まれた (前編)
成田広報室がこのプロジェクトに携わって苦労した点などはあったのでしょうか。
鹿戸さん私が担った役割で重要だったのは、この動画の公開に向けて、庁内で理解を求めることでした。動画を公開することで、万が一にも庁内の業務に支障があったり、迷惑をかけてしまってはならないと考えていました。
鹿戸俊介さん=特許庁 総務部 広報室長。プロジェクト終盤に「商標拳」チームに参加、チームリーダーに。(写真提供:特許庁)
成田庁内でこの動画を初めて見せた時は、皆さん、どんな反応でした?
鹿戸さん数秒間、無言、という人が一番多かったように思います。皆さん、複雑な表情で……。私たちチームメンバーに気を使って否定的な言葉を口にしないようにしてくれた、という人もいたのかもしれません。
一方で、「おもしろいね」とか「クオリティが高いね」といった言葉をかけてくれた人も少なくはありませんでした。
成田無言だった人たちは、どんな感想を抱いていたのでしょう。
鹿戸さん「特許庁として、この動画を公開しても大丈夫なのか」という不安を含んだ複雑な感情を抱いていたように思います。
動画を一個人として一般的な立場から見た場合と、プロジェクトチームのメンバーとして見た場合、特許庁の職員として見た場合とでは、それぞれで違った感想を抱くのだろうと思いますが、そこはやはり、多くの人が特許庁の職員の立場で考えた結果ということなのでしょう。
成田実際、動画を見た人からはどんな声が上がってきたのですか?
鹿戸さん「どういう検討を経て最終的にこの動画となったのか、この特設サイトになったのか」という率直な質問が多かったです。その都度、私たちのチームが持っていた問題意識や、最終的にその動画や特設サイトに至るまでのプロセスについて説明しました。
成田皆さん、不安を感じたのはどの辺りなのでしょう。
鹿戸さん不安な点を挙げ出したらきりがないのでしょうが、やはり、「特許庁として前例がない」という点が一番大きかったのではと思います。私も、最後のメンバーとしてチームに合流し、「商標拳」のストーリーを初めて見たときには「大丈夫かな?」と思いました。
成田「大丈夫かな」というのは……。
鹿戸さん「炎上」してしまう可能性もなくはないと思いました。通常、特許庁が扱うコンテンツは極めて専門的な内容が多いため、炎上リスクについて思い悩むことはほとんどないのですが……。
「商標拳~ビジネスを守る奥義~」動画の1シーン
成田製作会社のカヤックさんはその辺、どう判断していたのでしょう。
鹿戸さんカヤックさんからは、だれが発信するかで炎上の仕方は変わります、という話がありました。たとえば民間企業が出すものと官公庁が出すものとでは、やはり違ってくると。それはその通りだと思いました。当然、最終的な判断は依頼元である特許庁でしなければなりません。
成田とても判断の難しいところですね。
鹿戸さん最終的に、特許庁としてどこまでが許され、どこからが許されないかという定量的な判断基準がなかったものに判断を下す必要があります。我々はプロジェクトチームとして、当然動画を公表したいという思いで庁内の方々に相談しましたが、突然動画を見せられて判断をして欲しいと言われる立場からみても、難しい判断だったのではないでしょうか。
成田チームのほかのメンバーの方はどうだったのでしょう。やはり不安だったのでしょうか、それとも「絶対にいける!」という気持ちだったのでしょうか。
藤村さんやはり、不安はぬぐえませんでした。「拡散」と「炎上」は紙一重だと考えていたので、どんどん拡散してほしいと思う反面、拡散すると炎上リスクも高まりそうだと思っていました。
ただ、私たちとしてはひどい炎上をしないように最大限の努力をしてつくったコンテンツでしたので、そこをよりどころにして見守っていくことができました。
石井さんもちろん、炎上リスクは意識していたのですが、何か月も同じ動画を試写でみていると感覚がマヒしてきて、そもそもこの動画はおもしろいのだろうかとか、無風で終わるのではないかといった懸念がわいてくることもありました。
成田なるほど、無風で終わるという懸念もあったのですね(笑)。最終的に、動画は無事に公開され、大きな話題になりました。
鹿戸さん最終段階で幹部職員に動画を見せたところ、「ぜひ、これで公開しよう」と後押ししてもらえました。そうしたリスクについてもっとも敏感だと思われる幹部の方たちが支持してくれたことには、感謝してもしきれません。