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特許 令和4年(行ケ)第10009号「ガス系消火設備」
(知的財産高等裁判所 令和5年3月27日)

7月19日(水)配信

 

【事件概要】
 本件発明は本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとして、特許取消決定が取り消された事例。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 メインバルブ22、ラプチャーディスク16a及びラプチャーディスク16bのそれぞれの開放時間をずらすことで、複数の高圧不活性ガス貯蔵シリンダー12a~12cのそれぞれからのガス供給を開始する時点をずらした結果として、不活性ガスが制御された速度で、保護された部屋14に順次放出される旨の技術的事項(甲2技術的事項)に接した当業者は、複数本数の容器弁付き窒素ガス貯蔵容器を備えた自動起動式の窒素消火設備(甲1発明)において、窒素ガスを制御された速度で防護区画に順次放出するために、各窒素ガス貯蔵容器に付いた容器弁の開弁時期をずらすことを容易に思い付くか。

 

【結論】
 …甲1には、各貯蔵容器の容器弁の開弁時期や、一つの貯蔵容器と別の貯蔵容器とから放出される窒素ガスのピーク圧力が重なることを防止して防護区画へ窒素ガスが導入されることについて記載や示唆はない。
 …甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、配管等の内部のあらかじめ決められた圧力により動作(破裂)し、一旦動作(破裂)した後は再閉鎖されない、使い捨ての部材…であり、弁が繰り返し開閉する「容器弁」とは、動作及び機能が異なる…。
 …甲2には、①甲2記載の火災危険抑制システムは、複数(第1及び第2)のガスシリンダー間にラプチャーディスクを取り付け、第1のガスシリンダー内のガスが保護された部屋(密閉された部屋)に放出されて第1のガスシリンダー内の残存ガスのレベルが低下すると、第1及び第2のガスシリンダー間の圧力差で、ラプチャーディスクが破裂して第2のガスシリンダー内のガスが保護された部屋に放出され、このように複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスが放出されることによって、保護された部屋の過圧を防止できること…、②…必要に応じてより多くのガスシリンダー及びラプチャーディスクを使用して、閉鎖された部屋(保護された部屋)を適切に保護することができること…の開示がある…。
 …甲2には、バルブ…の開閉によりガスシリンダーから配管へのガス流を制御することの記載はあるものの、…ラプチャーディスクを使用せずに、各バルブの開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することよって保護区域又は保護された部屋の加圧を防止することについて記載や示唆はない。
 …甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異なること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシリンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護された部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することができたものと認めることはできない。

 

【コメント】
 被告(特許庁長官)は、甲2には、過剰圧力がかからないように制御された速度で不活性ガスを放出するという課題を解決する手段として、複数のシリンダーからのガス供給を開始する時点をずらすという技術思想が記載されており、ラプチャーディスクはそのための手段にすぎないと主張したが、裁判所は、甲2には、バルブの開閉によりガスシリンダーから配管へのガス流を制御することの記載はあるものの、ラプチャーディスクを使用せずに、各バルブの開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することについて記載や示唆はないことに照らすと、甲2技術的事項から、被告が主張するような技術思想を読み取ることはできないとして、被告の主張を退けた。
 原告(特許権者)が主張するとおり、被告の主張は、甲2技術的事項からどのようにしてガスの供給タイミングをずらすかという点を捨象している点で、上位概念化が過ぎると思われる。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小林 紀史)

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