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特許 令和6年(行ケ)第10005号
「電子患者介護用のシステム、方法および装置」
(知的財産高等裁判所 令和6年11月27日)

3月19日(水)配信

 

【事件概要】
 本件は、拒絶査定不服事件において、「本件審判の請求は、成り立たない。」とした審決が取消された事例である。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 本件明細書の特許請求の範囲の記載は、明確性要件を満たしているか否かである。

 

【結論】
 審決は、本願発明の「ウェブ・サービス」がどのようなものであるのか、その技術的な意味が不明であるとして、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないと判断した。
 判決は、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者である当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきであるとし、各刊行物の記載によれば、「ウェブ・サービス」という用語は、「インターネット上に分散した複数のウェブアプリケーションシステムをシステム同士で連携させる技術であり、XML、UDDI、WSDL及びSOAPの規格に適合したもの」という意味で用いられ、本願の国際出願日の当時、技術常識となっていたと認められるから、出願当時における技術常識を踏まえると、本願各発明の「ウェブ・サービス」及び「トランザクション・ベースのウェブ・サービス」は、それぞれ、上記の意味で用いられているといえるので、本願明細書において、これらの用語の具体的な説明がされていなかったとしても、特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえないとして、審決を取り消した。

 

【コメント】
 被告は、本願明細書には「ウェブ・サービス」等の具体的な説明が一切ないから、本願との関係が明らかではない文献の記載を参照しても技術的な意味が明確であるということはならず、また、出願当時の技術常識を考慮して用語の技術的な意味を把握しようとしても、本願明細書にはその手掛かりさえないから、本願とは関係がない証拠の提出により用語の技術的な意味を自由に変更することができることになる旨主張したが、判決は、明確性要件の判断は、当業者の出願当時における技術常識を基礎とすべきところ、「ウェブ・サービス」及びウェブ・サービスに関係する「トランザクション」という用語自体の意味が技術常識であったと認められるから、本願明細書に具体的な説明がなくとも、「ウェブ・サービス」の技術的意味が不明確であるということはできないとして被告の主張を採用しなかった。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 阿部 寛)

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