知財人特別インタビュー~LexisNexis IP Business Journal~

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データとAIを活用した
意思決定プロセスの構築

米国特許弁理士 / PatentAdvisor 開発者

クリストファー・L・ホルト さん

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弁理士 / エスキューブ代表

田中康子 さん

特許審査には“審査官のくじ引き”が存在する

クリストファー・L・ホルト さん。米国弁理士、Vice President of Patent Analytics、Reed Tech、LexisNexis Company。電気・機械、ならびにコンピュータ・ハードウェアとソフトウェア分野の国内外の特許を専門として15年間の経験を有する。LexisNexis PatentAdvisorの共同開発者

ホルトさんユーザーの特許権利化業務にとって、PatentAdvisorが使いやすいシステムであることが重要です。私たちはAIの技術を使って「ETA」という審査官の評価指標を新たに開発しました。ETAを使って審査官の難易度を赤・緑・黄(以降、赤色・緑色・黄色)の3色で示しています(図表1)。データを使って対策を立てることができるのです。ETAを見れば、担当審査官が赤色なのか、緑色なのかが一目瞭然です。これはある種の警告システムなので出願人への注意喚起になります。審査官の許可率には落とし穴があります。許可率からは、許可されるまでの道のりや困難さ、時間は見えてきません。この機能は、無料サービスとの大きな違いです。

<図1>審査官のタイプ

ホルトさんUSPTOには約9000名の審査官が審査に従事していて、新たな特許出願は、技術内容により適切な審査グループに割り当てられます。たとえば、ある審査グループに30名の審査官が所属しているとします。そのうち、8名が経験豊かな審査官だとすると、そのグループ全体で許可した特許出願の約半数をこの8名が許可しているのです。この8名の審査官の難易度はほとんど緑色となるでしょう。あなたが緑色審査官たちに当たったらラッキーです。経験豊かな審査官は、毎日特許庁にやってきて許可通知を出している。一方、新しい審査官に当たった場合、彼らはただ拒絶を繰り返す赤色審査官なのです。特許審査には“審査官のくじ引き”が存在している、これが実態です。

田中さんこれは確かにくじ引きですね。私も赤色審査官に当たって大変苦労した経験があります。

ホルトさん一般的には、当たりくじ(緑色審査官)に当たることが多いと思います、なぜなら彼らは非常に多くの案件を処理して許可しているからです。赤色審査官に当たった場合、拒絶を繰り返すので出願人側はRCEを申請してクレームを補正するパターンにはまります。そうすると、赤色審査官からは高品質の特許を取得することはほぼ不可能です(図表2)。

AppealやInterviewなどを実施して審査官にプレッシャーをかけないと、この流れを変えることが難しいと言えます。これは日本の企業風土かもしれませんが、興味深いことに日本の代理人は審査官を刺激したくないと思っているようです。緑色の審査官は経験豊かで公正なので彼らに従うのが好ましいですが、赤色審査官の場合には、勇気を持ってプレッシャーをかけなければなりません。なぜなら彼らは公正でない行いをしているからです。

<図表2>赤色審査官に当たった例 (クリックで拡大表示します)

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