ホーム > IP Business Journal > データとAIを活用した意思決定プロセスの構築
田中康子(たなかやすこ)さん。弁理士、エスキューブ(株)、エスキューブ国際特許事務所代表。帝人、ファイザー、住友スリーエムにて知的財産部勤務。英語による知財実務、グローバルプロジェクトのマネジメントの経験を生かし、知財英語セミナーを数多く主催
田中さん米国特許の拒絶応答には知っておくべきことや ひと工夫で流れを変えることができると分かりました。出願人が真に理解して実践すべきことは何でしょうか。
ホルトさん大きく2つあります。 1つめは「出願人は、1つの小さな審査グループの中に、審査官のくじ引きが存在しているという事実を認識すること」。2つめは「拒絶応答に対する積極性をもっともっと高めること」。
赤色審査官は、どの出願人に対しても理不尽な対応をしているはずで、多くの人が激流に巻き込まれています。データを使って、いち早く激流から脱出してください。そうすれば、たとえ赤色審査官が担当するケースが数件の場合でも、簡単に1万ドルや2万ドルの審査費用を節約できるでしょうし、少なくとも、早くに質の高い特許を取得することにつながります。
ある日本企業の出願で、1件に約30万ドルもつぎ込んでいる係属案件を見つけました。これを許している企業があることには驚かされましたし、行き詰まっているのであれば、なぜ別のアプローチを試みないのか不思議に思いました。日本企業は製造プロセスの自動化を行って最適化に大成功しています。知的財産業務も最適化の例外ではありませんし、データを上手く活用することで、知財部は各企業のポリシーに見合ったプロセスを構築できるはずです。
田中さんこれまで説明していただいたような事実を日本企業では把握しているのでしょうか。PatentAdvisorに対してどういった評価をしているのですか。
ホルトさんいままで訪問した日本企業の誰もが、不公正な審査官に当たったことがあるようでしたが、その理由について、また対策についてはまったく知らない場合が多いと感じました。少なからず、自分の応答の仕方に問題を感じている担当者もいましたが、実際には多くの場合、赤色審査官に問題があるのです。訪問した日本企業の誰もがPatentAdvisorは便利で必要だと言っていました。ユーザーの中には、すでに出願権利化プロセスの中にPatentAdvisorのExaminer Reportを組み込んで活用している事例がありますが、まだまだ、どのように権利化プロセスに組み込んだらよいのですかと聞かれるケースも多いです。
田中さん具体的にはどのようにプロセスを明確にすればよいと思いますか。
ホルトさんまずは、案件のモニタリングから始めることです。これは事業のリスクマネジメントです。自社のすべての係属中案件をモニターして、赤色審査官の案件をいち早くキャッチする。そして、こういう場合にはこうするという、社内ルールを決めて、そのルールに従って代理人に指示をする。たとえば、赤色審査官に当たった場合には、代理人には、InterviewとSupervisorの介入を指示する。それが上手くいかなかった場合にはAppealを申請すること、など。
こうすれば自社内にデータを活用した意思決定プロセスができあがります。赤色審査官の難易度には幅がありますので、ETAを使って社内でさらに細分類してもよいかもしれません。米国には、Patent Advisorを使ってルールを細分化し、徹底的にプロセスを改善し、少ない経費で高品質な特許の取得に大成功している企業があります。世界中の誰もがよく知っている革新的な企業です。
自社のプロセスがうまく動き出したら、次に米国の代理人を自社のために教育することも大切です。いったん社内ルールを確立すれば代理人への教育は難しくない。アジアでは韓国の大手企業がこの取り組みを始めていますので日本企業もこの流れに乗り遅れないでください。
PatentAdvisorのユーザーは、米国特許の出願件数が数十件の小さなベンチャーから数万件の大企業まで多岐にわたります。それぞれの企業が知財を活かして成功したいと考えていますし、何より限りある時間や予算を効果的に使って、高品質な特許を早く安く取得することに大きな成果を出しています。データを利用した意思決定はNew Normalです。日本企業のみならず、世界中の企業が当たり前に実践するようになるでしょう。
『IP Business Journal 2018/2019』(レクシスネクシス・ジャパン)より転載