知財人特別インタビュー~LexisNexis IP Business Journal~

ホーム > IP Business Journal > ヤマハ株式会社 小杉直弘さん

現場に寄り添い、
アグレッシブな知財活動で事業貢献を

ヤマハ株式会社 技術本部 知的財産部長 小杉 直弘 さん

チャレンジングな模倣品対策

―― 模倣品対策にも力を入れていらっしゃるそうですが。

小杉さん現在、中国で民事訴訟が3件係属中です。その他にも、行政・刑事摘発、税関差止などの対策も実施しています。

特にアナログミキサー(マイクや楽器など複数の機器から音声信号を入力し、音量のバランスなどを調整して出力する音響機器)の模倣品が目立っており、広東省が主な生産地として一大産業のようになっています。外観形状の模倣がほとんどなので、商標権と意匠権に基づき権利行使しています。

また、最近の傾向としては、YAMAHAという商標を付さないデッドコピー品が多く出回るなど巧妙化していますので、意匠権による権利行使が増えています。一方で、当社の事業とはまったく関係のない製品、例えば靴、冷蔵庫、電源トランス、チェーンソーの刃などに、YAMAHAの商標を無断使用される例もあります。

―― それは裏を返すと、中国でのYAMAHAブランドの人気、認知度の現れでもあるのでしょうか。

小杉さん中国においてピアノは高級なイメージがあるようで、YAMAHAブランドの価値もそこそこ高いと認識しています。それが転じて日用品などへの商標無断使用の事態が起こっています。他にも、ネットで取引されている模倣品、例えばアリババ、タオバオといったECサイト上でブランドの無断使用があれば、ネット上から削除するよう申請しています。

――スムーズな取り締まりは実現できているのでしょうか

小杉さん摘発も年々難しくなってきています。しかもモグラ叩きといいますか、摘発しても摘発しても、また新たな模倣業者が出てくることの繰り返しで、なかなか収拾がつきません。そのため、過去の侵害業者をすべて記録して悪質業者ランキングリストを作成し、その上位8社くらいに絞って対策を進めています。

――模倣業者の特定にすら苦労する会社も多い中、複数の訴訟の同時進行にまで至っているのはアグレッシブさを感じます。

小杉さんこれには葛藤もあります。模倣品をすべて取り締まることが、当社事業への貢献につながるのかと問われたら、そうだと断言するのが難しいからです。エンドユーザーは、実勢価格とは明らかに値段の異なる模倣品を、必ずしも真正品と間違えて買っているわけではありません。多分、模倣品であることを承知で買っています。

そのようなユーザーが、例えば3万円の模倣品を根絶やしにしたからといって、10万円の真正品を買うようになるかというと、そうではないでしょう。「訴訟までやる必要があるのか」との迷いもあります。定量的な効果が見えず、費用対効果が分かりづらいのも確かです。

しかし、先ほどお話したように、中国でもYAMAHAブランドは認知されています。ブランド価値を維持し、そして、今以上に輝かせるためには、ブランド価値を毀損する模倣品に対して毅然とした態度で臨んでいくことが最終的にお客様の利益につながる、という思いで取り組んでいます。最近では、アフリカでの模倣品対策にも取り組み始めています。

――それは珍しいですね。

小杉さん一説によると、アフリカ市場は8割を模倣品が占めているそうです。その8割を将来的に駆逐することができれば、さすがに当社の販売機会にもつながるだろうとの期待から、このプロジェクトが始まりました。まだまだ法制度や運用が確立していない国も多く、ハードルは高いですが。

――そこに果敢にぶつかっていけるというのは、チャレンジングな風土を感じます。

小杉さん今までは会社全体が、どちらかといえば慎重で、“考えて、考えて、結局やらない”ということもあったのですが、今は“変えよう、改革しよう”という気運が高まっています。知財部も遅れを取らないように、先を見据えて、スピード重視でとりあえずやってみる。“やってなんぼ”という気概で取り組み始めています。もちろんPDCAを行うことが大切ですが。

1 2 3 4