ホーム > 特別企画 シリーズ「特許庁に突撃!!」 > 「知財普及の取り組み」について、聞いてみた(前編)
成田さて、先ほどからたびたび産業財産権専門官のお話が出ていますが、産業財産権専門官の業務内容についてもう少し詳しく聞かせてください。特許庁の「営業マン」のような位置付けにあるとのことですが。
鈴木さん産業財産権専門官の仕事は、特許や商標、意匠などの産業財産権をもっと中小企業に活用してもらうよう、個別に訪問して支援策の紹介をしたり、知財についての相談に乗るといったものです。企業や関係機関から依頼があれば、知財に関するセミナーも行っています。
インタビューに協力してくれた総務部 普及支援課 産業財産権専門官の鈴木貴久さん
成田以前聞いたお話では、産業財産権専門官が年間に訪問する企業数は全体で300社ほどにのぼり、実施するセミナーも約150件とのことでした。それだけの訪問やセミナーを何人くらいの人員で担当しているのでしょうか。
鈴木さん現在は5人体制です。
成田それだと、相当忙しいのでは? 基本的に、みなさんがいつもどこかに出張しているような状態なのでしょうか。
鈴木さんそうですね。大抵みんなどこかに行っています。5人全員がそろう日は月に何日もありません。
成田全国を地域ごとに分け、5人で担当地域を決めて回っているのでしょうか。
鈴木さん明確な地域の担当は決めていません。それよりも、いろいろなバックグラウンドを持った人材がそろい、それぞれに強みを発揮できる分野が異なることから、そうした特徴を生かす形で業務を担当できるような体制になっていると思います。
成田いろいろな人材、と言いますと。
鈴木さんベテランも若手もいますし、審査官から事務系の人間まで幅広く携わっています。
成田メンバーには審査官もいるのですね。
鈴木さん特許や商標の審査官もいます。私も、前職で地方の経産局に在籍していたので、地方における知財の現場を経験しています。
成田畑の違う5人が集まり、それぞれの経験や強みを生かして業務を担当しているのですね。
鈴木さんそうです。訪問する企業も依頼されるセミナーの内容もそれぞれで異なるので、やはり多様な人材がいたほうが適切に対応できると思います。
成田たとえば、どんなセミナーを依頼されることが多いのですか。
鈴木さん特許中心のセミナーから、商標やぞれぞれの地域ブランドに沿った内容のものまで、様々です。知財の活用や、経営に絡んだ内容のセミナーを依頼されることも多いですね。
成田そうした雑多な依頼に対応するのは、とても大変なのでは。
鈴木さん私たちは「特許庁の営業マン」と呼ばれるくらいですので、「お客さん」を選ぶことはありません。「これならやりますけど、これはやりません」といったスタンスではなく、「私たちはこんなこともできますよ、あんなこともやりますよ」という前向きな姿勢で仕事をいただいています。
成田まさに営業そのものですね。そのように中小企業に寄り添った活動は霞が関でも珍しいのではないでしょうか。
成田日々、中小企業を回り、知財についての相談を受ける中で思うことがあれば聞かせてください。
鈴木さんそうですね。たとえば、外国出願を検討している企業には、「うちの技術を守るために、海外でも特許をとらねば」と考えている方も意外と多いのですが、ビジネス展開をする予定のない国において権利を取得しなくても良いのではと思うときもあります。
成田ゼロとは言わないまでも、あまり必要なさそうですね。
鈴木さん特に、権利を取得するためだけでも何百万円とかかるのに対して、「よそに真似されたくない」という思いのほうが強く出てしまう企業にお会いすることがあります。気持ちとしては理解できるのですが、何のために権利を取るのか、そのコストに見合うだけの価値を見出せているのかを、今一度立ち止まって考えてみても良いのではないかと思ったことはあります。
成田確かに、中小の創業経営者の中には、自分たちが開発した技術への思い入れが強く、「お金のためだけにやっているわけじゃないんだ」という人は少なくないように思います。産業財産権専門官のお仕事では、そうした自社技術や製品への並々ならぬ思い入れを持った経営者の本音に触れる機会が多そうですね。
鈴木さん実際、そうですね。私の場合は、今の産業財産権専門官の業務に加え、以前の経産局の知財室でもたくさんの企業からお話をうかがいました。その中で、本音はちょっとした雑談から出てくるものだと実感しました。ですので、あまりかしこまらない雰囲気を作るように心がけています。
成田なるほど。地方の経産局での経験が、産業財産権専門官としての今の鈴木さんの強みにもなっているということですね。
鈴木さんそう思います。普及支援課内で中小企業の支援策をめぐって議論するときも、メンバーの意見に、「それって、本当に中小企業のことを考えているの?」と異論を唱えることがあるのですが、そういうときは、地方の経産局での経験も生きているような気がします。
成田そうした目線を持った人がいることは、課にとっても強みになりそうですね。
鈴木さん私のほかにも地方の経産局を経験している人は数名います。支援の在り方について検討するときは、こうした現場感覚のもとに議論を進めることができる良い環境になっています。
成田ちなみに、課内ではそうした議論をよくされるのでしょうか。
鈴木さん普及支援課は風通しのいい課で、議論はよくします。勉強会なども頻繁に開いています。私も若手の勉強会に入れてもらっているのですが、若手には「地方の経産局では、こういうことを問題意識として持っているんだよ」と伝えたりもします。逆に、若手から話を聞いて、発見することもあります。