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11月16日
11月13日(木)配信
これまで3回にわたり、私たちの研究室が学生主体で知財のアニメーション教材を「作る」プロセスについてお話ししてきました。しかし、どれだけ心を込めて良いコンテンツを作っても、ターゲット(特に若い世代)の目に触れなければ、存在しないのと同じで、「作って終わり」では本来の目的は達成されません。そこで今回は、私たちのもう一つの挑戦、いかにしてコンテンツを「届ける」か、そのプロモーション活動についてご紹介します。
成果は社会へ届けることで意味を持ちますので、2023年度以降は広報やプロモーションの実践にも力を入れるようになりました。教育機関の常識にとらわれない学生たちのアイデアによって、私たちの活動は少しずつ発展してきました。
まずは、キャラクターたちのSNSアカウント運用です。研究室の公式サイトやキャラクターのX(旧Twitter)、Instagram等では、キャラクターの紹介や完成した動画の紹介などを投稿しています。担当者がキャラクターに扮して、そのキャラクターの個性を尊重しながら投稿する形を取っており、日々の何気ない投稿であっても、キャラクターに命を吹き込み、少しずつですがフォロワーとの間で絆を育んでいると思います。
イラストの投稿も、キャラクターとの距離を縮めてもらう取り組みの一つです。ファンアートタグもあり、主に学生や卒業生がイラストを描いて投稿してくれますが、学外の方が描いてくださることもあります。また、CV(キャラクターボイス)を担当してくださった声優さん達が、キャラクターの投稿に対してご厚意で反応してくださることもあります。
新しいコンテンツが完成した後、公開前にまず考えるのはSNSでの情報発信です。例えば公開の数日前からカウントダウン投稿を行うなど、事前に少し議論してから投稿プランを考えます。学外の方からコメントを受け取ったり、再生回数や「いいね」が増えていく様子は、社会実装を再認識するきっかけになっています。
キャラクターのXアカウントまた、SNSは単なる広報手段ではなく、学生が自分の言葉でコンテンツを説明する練習の場でもあります。投稿の内容を考える中で、「どう伝えれば作品の魅力が伝わるか」を試行錯誤することが、結果的に作品理解やプレゼンテーション力の向上にもつながっている側面もあると思います。
デジタルでの活動を行う一方で、私たちはリアルな場での体験も重視しています。
2024年9月には、星野夜るなちゃんのCVを担当してくださった声優・真野美月さんをお招きして屋外無料イベント「ポップカルチャー×情報教育2024」を主催しました。学生たちが企画・運営を担い、音楽隊による演奏や警察車両の展示などで大分県警察にもご協力いただき、多くの方が訪れてくれました。
イベントでは、学生たちもステージに上がり、これまで制作してきたアニメーション教材の制作プロセスなどを自分たちの言葉で紹介しました。そして、声優さんのご登場で会場は盛り上がり、描き下ろしイラストにアテレコをしていただいた際には、誰もがその演技力に圧倒されました。キャラクターに命が吹き込まれる瞬間の感動は、参加者にとっても、運営した学生にとっても忘れられないものとなりました。
実は今年の12月にもイベント「ポップカルチャー×情報教育2025」を開催できることになりました。星野夜めまちゃんのCVを担当してくださった声優・首藤志奈さんと、星野夜るなちゃんのCVを担当してくださった声優・真野美月さんの2名にご出演いただけることになりましたので、気になった方はぜひ大分へお越しください。
「ポップカルチャー×情報教育2024」を主催
「ポップカルチャー×情報教育2025」は12月14日に開催予定主催イベントの他にも、学園祭では学生がデザインしたオリジナルグッズや手作り衣装の展示を行い、プロジェクトの世界観を楽しんでもらう試みも行っています。
芸短祭(学園祭)における展示また、高校生向けのオープンキャンパスでも、来場者にアニメーション教材やキャラクターを紹介しています。星野夜めまちゃんや星野夜るなちゃんのLive2Dモデルとの対話を通じて大学に関する質問に答えるコーナーもあり、画面の中のキャラクターがリアルタイムに反応して会話する体験が好評です。キャラクターへの親近感を持っていただき、そこからアニメーション教材への興味へと自然に橋渡しをしています。
オープンキャンパスこうした場面では、SNSでの発信とは異なり、相手の反応を直接受け取ることができます。「かわいい!」「わかりやすい」といった声をその場で聞けることが、大きな励みとなり、コンテンツ制作への原動力になっています。
研究室で行っているプロジェクトはこれまで地元メディアでもたびたび紹介されました。TVのニュースや新聞記事では学生の活動や教材が紹介され、取材対応を通して、短い言葉で作品の意図を伝える良い経験にもなっていると感じます。ラジオ番組に取り上げていただいた際には、学生がパーソナリティと一緒に研究室の活動をPRしましたが、声だけで伝える場面は、新しい挑戦として私にとっても良い経験になりました。
また、著作権啓発ミュージックビデオを制作した際には、大分駅の大型ビジョンでも放映され、通行中の多くの方々にキャラクターと取り組みを知っていただく機会になりました。さらに、一定期間、大分駅にある映画館のシネアドとしても上映され、上映前のスクリーンで流れることで、幅広い年代の観客にアプローチすることができました。
JRおおいたシティ大型ビジョンで「著作権のうた」が上映された2024年10月、私たちは大分を飛び出し、東京ビッグサイトで開催された「2024知財・情報フェア&コンファレンス」にブースを出展しました。周囲を大企業や特許事務所の立派なブースに囲まれる中、私たちのキャラクターを中心とした手作り感あふれるブースは異彩を放っていたかもしれません。
しかし、学生たちが普段なかなか触れ合わない知財業界の来場者の方々に、自らの言葉でプロジェクトについて説明する姿は、多くの人の足を止めました。「面白い取り組みだね」「大学でこんなことができるの?」という驚きの声は、学生たちにとって何よりの自信に繋がりました。
「2024知財・情報フェア&コンファレンス」にブースを出展さらに、2025年8月にはコミックマーケットC106にもサークル出展し、教育機関としては異色のブースを構え、オリジナルキャラクターや教材を来場者に直接PRしました。
準備では、配布物や展示物を学生たちがデザインし、卒業生を含め、これまで星野夜めまちゃん達に関わってきた多くの人のファンアートによって同人誌も制作しました。当日、一般来場者やクリエイターとの交流をしたことで、教材を「作品」として伝える喜びを実感することができました。
頒布した同人誌と不織布バッグこうした発信活動の積み重ねは、教材を広めるだけでなく、学生の成長を大きく後押ししていると思います。SNS運用、リアルイベント、メディア、そして東京ビッグサイトなど、それぞれの場に応じて「伝え方」を考えることは、学生たちが楽しく取り組むことができ、自分たちの活動に誇りを持つきっかけにもなっています。
これらの活動は、私がトップダウンで指示したものではありません。「もっと多くの人に見てほしい」「コミケに出展したい」「キャラクターのこんなグッズがあったら可愛い」「衣装を作ってみたい」といった、学生たちの純粋な「やってみたい!」という思いから始まっています。その情熱が、結果としてマーケティングやブランディング、イベントマネジメントといった実践的な学びに繋がっているのだと思います。
現在は、情報モラルに関する高校生向けアニメーション教材や、高校生と高大連携で取り組む新しい著作権啓発コンテンツの制作が進行中です。作品をつくるだけでなく、その価値を社会に伝えていく挑戦は、これからも続いていきます。
もちろん、すべてがうまくいくわけではなく、実際にはうまくいかないことや短大ならではの苦悩もたくさんあります。しかし、こうした活動を通じて、コンテンツの創出からマーケティングまでトータルで実践できることはとてもありがたいことだと感じています。
■筆者プロフィール
著者:野田 佳邦
大分県立芸術文化短期大学 情報コミュニケーション学科 准教授
知的財産支援室 次長/情報メディア教育センター 次長
弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記)/ビジネス著作権検定上級
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大分県生まれ。大阪大学大学院情報科学研究科修士課程修了(修士(情報科学))。その後、特許庁でIT分野の特許審査業務などの知財行政に従事。在職中、弁理士試験やビジネス著作権検定上級に合格するとともに、経営学修士課程を修了(修士(経営学))。故郷である大分県に貢献したいという強い思いがあり、2015年より大分県立芸術文化短期大学に着任。大分県知財戦略推進会議副議長、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)「10代のデジタルエチケット」教育コンテンツ検討委員、一般財団法人工業所有権協力センター(IPCC)特許検索競技大会実行委員、大分市DX推進アドバイザー、公益財団法⼈ハイパーネットワーク社会研究所共同研究員などを務める。近年は、学生参加型のアニメ教材制作プロジェクトなど、ポップカルチャーやデジタルコンテンツを取り入れた教育活動を展開している。
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