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1月12日
7月17日(水)配信
今回と次回は知財判決の紹介をお休みして、特許権侵害への対応に関する記事をお送りします。
1 はじめに
日本では、自社の特許権を他社が侵害していると考える場合であっても、いきなり特許権侵害で訴えを提起するケースは多くありません。多くの場合、特許権を侵害している可能性のある相手方に対し、事前に警告書(「通知書」「質問書」などの表題にすることも多いです)を送付し、書面のやりとりを通じて互いの主張を出し合い、話し合いによる解決の可能性を探るのが通常です。必要に応じて、直接話し合う場を設けることもあるでしょう。それでもなお、話し合いによる解決が困難である場合には、訴訟提起という手段を考える必要があります。
しかしながら、特許権の侵害訴訟は、多くの日本企業にとって、あまり馴染みのあるものではありません。訴訟に要するコストも気になります。そのため、交渉で解決できるならば、交渉で解決できるに越したことはありません。
そこで、前後編の2回に分けて、基本的な交渉戦略を踏まえつつ、特許権侵害訴訟をどのように活用すべきか、というところを考えてみたいと思います。
2 特許権侵害の交渉の始まり
警告書を送付するところから考えてみます。警告書を送付する場合に、最も重要なことの1つは、警告の目的を明確にすることです。典型的には、対象製品の製造、販売をやめてもらうか、対象製品の過去の販売について金銭の支払いを求めるか、ライセンス契約を締結したうえで継続販売を認めるか、又はそのいずれもが、要求の内容になることが多いでしょう。在庫の廃棄に言及することなどもあります。1通目の警告書の内容としては、販売の停止や金銭の支払いに言及せず、情報開示だけを求めるところから始めてもよいかもしれません。
警告書を受け取った当事者(「警告受領者」といいます。)としては、対象製品が警告者の主張するように特許権を侵害するものであるのか、検討しなければなりません。もしかしたら、その特許は無効であるという主張もできるかもしれません。非侵害または無効の主張が可能だと判断すれば、その旨を回答書で主張することが可能です。これにより、当事者間で議論、交渉が始まります。特許侵害、特許の有効性の議論と平行して、和解金やライセンス料の話が進むこともあるでしょう。
当事者間で主張の攻防が繰り返されるうちに、議論はいずれ収束していくか、あるいは平行線のまま動かない状況になります(非侵害の議論、有効性の議論については、議論が一致することの方が少ないです。)もし、双方ともが、話し合いでの解決を望むのであれば、それまでに出た互いの主張を踏まえ、互いに譲り合い、合意できる着地点を探ることになります。多くの場合において、一定の金額の支払いをもって解決する道を探ることがあります。
和解条件としては、もちろん互いにできるだけ良い条件で合意できるように努力します。解決金が問題になっている場合は、特許権者ならば、できるだけ多くの金銭を支払ってもらえるよう交渉を進めることになるでしょう。はじめは、やや高額のオファーをすることも考えられます。この金額に警告受領者が応じなければ、相対的に低い金額のオファーをすることにより、合意できる可能性を模索するのです。ここで、重要な問題は、「どこまで譲ることができるのか」という点です。
〈後編に続く〉
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁護士 寺下雄介)
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