ホーム > 知財人材インタビュー企画 > 弁理士 桐山大さん
成田 知財や商標に対する意識としては、経営者などのトップマネジメントから事業部長やプロジェクトリーダーなど、事業の戦略を立てて指揮をとる人たちについても、意識の差があるように感じます。少し前の話ですが、東京オリンピックのエンブレムのゴタゴタもありましたし。
桐山 そうですね。その点では、先にお話ししたBリーグは、かなり上手にやった例だと思います。当時、事務局長の葦原さん(公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(B.LEAGUE)執行役員の葦原一正氏)が商標について非常に意識が高くて、Bリーグの立ち上げ段階からブランド戦略に商標戦略を含めて考えていましたから。弁理士もその当初から必要だということを認識していて、私が呼ばれていましたし。
成田 Bリーグの成功の裏には、そのような取り組みがあったのですね。
桐山 はい。組織としてあれほど商標に対して高い意識を持っている例は、あまりないと思います。大きなビジネスを成功させるためには、立ち上げ段階から商標をしっかり意識し、それを戦略に組み込み、そのための体制を整えることが重要だと、改めて認識させられました。
成田 非常に教訓的な事例ですね。先ほど地方での商標の現状について話がありましたが、同じような視点から「中小企業はもっと商標を」という声もありますよね。弁理士会や特許庁は中小企業への啓蒙や支援に力を入れていますし。その一方で、私のようにちょっと斜めから物事を見るクセが付いてしまった人間は、「じゃあ、大企業やビッグプロジェクトは大丈夫なの?」って思うことがありまして。ブランドにしても「そこまで強力な日本のブランドってあるのか?」って思いますし。例えば自動車にしたって、消費者だけでなく、自動車業界の人達みずからが「ジャーマンスリーに比べて」で物事を語ってしまう状況ですし。
桐山 トップマネジメント層への啓蒙は、私ももっとやっていきたいと考えています。もちろん優秀な方々なので商標のことは当然知っているのですが、事業を進める上でそれを具体的にどう意識してどう動くべきかまでは、なかなか思い至っていないように思います。この点は我々弁理士が世の中に対してやり残している宿題のように感じています。逆に言えば、まだまだ世の中に必要とされ、活躍する場所があるということですが。
成田 最近、特許庁が、「デザイン経営」を掲げて、人や組織の思考プロセスに変化を与えることで企業のイノベーションを促進しようとする活動をしていますが、あれもなかなか面白い取り組みだと思っています。そうすると桐山さんの今のお話は、「ブランド経営」といったところでしょうか。
桐山 そうですね。「ブランド思考によって事業を成功に導く」ですね。今でも企業の経営層に対する研修を頼まれることがあるのですが、今後もトップマネジメント層への啓蒙には力を入れていきたいですね。
成田 ところで、弁理士の仕事って、どんなところが面白いと思いますか?
桐山 弁理士の仕事という観点でいうと、企業(広告代理店の顧客企業)の顧問の弁理士や弁護士によっては、ややコンサバというか、慎重な見解を述べる人がいて、見解が合わないことがときどきあります。でも広告代理店はクライアントに提案をして、プロジェクトを前に進めて行きたいじゃないですか。
成田 ビジネスですからね。
桐山 まあ、だめならだめで、こんな手段もありますとか、何かしら進めて行かないといけない。商品とサービスについて突き詰めて考えると、この商品では使ってないといえるから「外れてもいい」という考え方もある。私はよくレーサーとタクシードライバーの例を使って説明しています。
成田 というと?
桐山 同じ「車を運転する」という仕事であっても、目的が違うという意味です。自分はレーサーみたいな仕事をしていると思っています。タクシードライバーは安全に送り届けるのが仕事。それはそれでとても重要な仕事です。一方、レーサーは、事故もあり得る前提で、ギリギリを攻めるのが仕事。
成田 事故の可能性があることを前提にした上で、物事を進めるのが仕事だということですね。
桐山 事故ったときはこうすればいい、ということを考えた上で進めることですね。死にはしない、けがで済むとか(笑)。ただ重傷になるんだったらやめておいた方がいいとか。顧客にも説明して、判断を求める感じですね。
成田 一般的には、弁理士というか士業自体が、コンサバな人が多いように思います。でも桐山さんは、前に進めていく、攻めていくわけですね。
桐山 専門家によって本当にいろいろな見解がありますからね。もちろん正解は一つじゃないという世界ですから。
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