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WIPO日本事務所、「スポーツと知財」で講演会

5月9日(木)配信

会場となった国連大学の会議場。多くの知財関係者や学生などが参加した(提供:WIPO日本事務所)

 世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所は4月26日、知的財産とスポーツをテーマとした講演会を国連大学(東京都渋谷区)で開催した。同日は、ちょうど52年前(1967年)にWIPOが設立された日であることから「世界知的所有権の日(World IP Day)」とされ、毎年テーマを変えて世界各地で知的財産に関連したイベントが開催される。

挨拶に立ったWIPO日本事務所所長の大熊雄治氏。「世界知的所有権の日にちなんでWIPOという存在を覚えてほしい」と訴えた 挨拶に立ったWIPO日本事務所所長の大熊雄治氏。「世界知的所有権の日にちなんでWIPOという存在を覚えてほしい」と訴えた(提供:WIPO日本事務所)

 今回、日本事務所が主催した講演会の冒頭で挨拶に立ったWIPO日本事務所所長の大熊雄治氏は、「世界知的所有権の日にちなんでWIPOという存在を覚えてほしい」と訴えた。さらに、「スポーツと知的財産は一見関係ないようにも見えるが、実は深い関係がある」とした上で、今年開催されるラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック・パラリンピックを観戦する際などに、「今日の知的所有権の話を思い出してほしい」と話した。
 今回の講演会では、スポーツとテクノロジー、イノベーション、知的財産などとの関係をめぐるテーマで3人の講演者が登壇。
 パラリンピック車いす陸上競技メダリストの永尾嘉章氏は、選手による研鑽に加え、競技用車いすを始めとする競技ツールの技術的な進化が競技レベルを大きく押し上げてきた経緯について講演した。
 東京五輪・パラリンピック組織委員会の法務部長を務める五十嵐敦氏は、オリンピックがスポンサーや放映権者からの資金で成り立つ大会であることから「知財とオリンピックは切っても切れない関係だ」と強調し、関連する知財を保護することの重要性を説いた。
 さらに、富士通スポーツ・文化イベントビジネス推進本部第二スポーツビジネス統括部長の藤原英則氏は、国際体操連盟(FIG)が導入を決めた、3Dセンシングによる体操競技採点支援システムについて紹介。63件の特許を出願中だという同技術をプラットフォームにした他領域へのさらなる展開の可能性や展望についても話した。

競技ツールの進化で、競技レベルが向上

永尾嘉章氏は、車いす陸上競技T54クラス100メートルの日本記録保持者で、30年以上にわたり車いす陸上競技界をリードしてきた(提供:WIPO日本事務所) 永尾嘉章氏は、車いす陸上競技T54クラス100メートルの日本記録保持者で、30年以上にわたり車いす陸上競技界をリードしてきた(提供:WIPO日本事務所)

 永尾氏は、近年、パラリンピックへの注目度が高まってきている理由のひとつとして、「競技のレベルがどんどん上がっていることがある」として、車いす陸上競技でも年を追うごとに記録が更新されてきた経緯に言及。その背景には、選手本人の努力はもちろん、テクノロジーの進歩と国内メーカーの尽力によって、競技用車いすなどの機能水準が年々向上し、それによってトレーニングの内容が効率化され、選手の競技レベルが高まっていったことがあるとの考えを示した。
 進化したのは車いすだけでなく、テーピングのみを手に巻いてレースに臨んでいた時代を経て、プラスチックのグローブが現れ、さらに現在では3Dプリンターを使ったグローブの量産が可能になるなど、周辺ツールが飛躍的に進化したことも、選手のレベル向上に大きな役割を果たした。さらに、多機能のスピードメーターや小型カメラといった競技用車いすの付属品が充実するようになり、トレーニングの質の向上につながっているという。

「知財とオリンピックは切っても切れない」

東京五輪・パラリンピック組織委員会の法務部長を務める五十嵐敦氏。「知財を適切に保護していかなければ、オリンピックは開催できない」と強調した(提供:WIPO日本事務所) 東京五輪・パラリンピック組織委員会の法務部長を務める五十嵐敦氏。「知財を適切に保護していかなければ、オリンピックは開催できない」と強調した(提供:WIPO日本事務所)

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の法務部長を務める五十嵐氏は、14人の弁護士と1人の弁理士からなる法務部において、スポンサー契約やライセンス契約、個人情報などを含めた複数の法律問題を手がけるが、「もっとも重要な部分は知的財産」だと話した。
 その理由は、大会運営の源泉となる国際オリンピック委員会(IOC)の収入の大部分を放映権料やパートナー企業からのスポンサー料が占めるからだ。中でも、放映権料はIOCの収入の実に75%に達する規模だという。こうした映像コンテンツの権利や、ライセンスなどを知財関連の法と照らし合わせながら保護するのが、法務部の役割だ。
 オリンピックの知的財産はすべてIOCに所属するとされるが、開催国の五輪組織委員会は開催都市契約により、期間を限定してこれらの知財の使用が認められる。法務部では、著作権法や商標法、意匠法、不正競争防止法などをもとに、時に必要となりそうな法案の成立に向けた働きかけも行いながら、関連する知財を管理・保護・利用する重責を担っている。こうした事情から、五十嵐氏は、「知財を適切に保護していかなければ、オリンピックは開催できない」と強調した。

体操の採点システムで63件の特許出願、目指すは世界のルールメーカー

富士通の藤原英則氏「採点支援システムでこれから体操のルールを変えていく。ルールメーカーになる」と意気込みを示した 富士通の藤原英則氏。「採点支援システムでこれから体操のルールを変えていく。ルールメーカーになる」と意気込みを示した(提供:WIPO日本事務所)

 藤原氏は、富士通が開発した3Dセンシングによる体操競技の採点支援システムについて紹介した。体操競技の採点作業はこれまで審判員が目視でのみ行ってきたが、競技者の動きのデータを3Dセンサーで取得、教師データと照らし合わせることで、より客観的で公平な採点を行えるようサポートする取り組みだ。富士通は同システムの開発を国際体操連盟(FIG)とともに進めてきたが、2018年11月にFIGが同システムを正式採用することを発表している。
 このプロジェクトは採点を支援するだけでなく、提供映像やアプリなどを介してリアルタイムで技の情報や選手のすごさを視聴者に伝えることが可能になったり、これまでは気づかなかったような現場の「ドラマチックな」出来事に気づかせてくれるなど、多くの新たな可能性を秘めているという。本物の映像を二次利用したエンターテインメント・コンテンツの作成や、他のスポーツへの展開も期待できる。
 同システムについて、富士通ではすでに63件の特許を出願済み。これらの特許を取得することについて、藤原氏は、「ルール作りの鍵になり、ビジネスの主導権を握ることができる。それがマーケティングの促進やブランディングの向上につながる」として、非常に重視していると話した。
 さらに、「様々な特許を擁してやっていくと、色々な人から使いたいというニーズが出てきて、オープンイノベーション・モデルができる」として、同システムをプラットフォームとした隣接領域へのビジネスの拡大にも意欲を示した。

 

取材・記事:知財ポータルサイト「IP Force」 編集部

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