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特許 令和6年(行ケ)第10013号
「多角形断面線材用ダイス」
(知的財産高等裁判所令和7年2月27日)

7月16日(水)配信

 

【事件概要】
 本件は、無効審判事件において、本件訂正を認めた上で、「本件無効審判の請求は、成り立たない。」とした審決が取消された事例である。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 本件訂正は、訂正要件(特許法134条の2第9項、126条5項:新規事項の追加)に適合するとした本件審決の判断に誤りがあるか否かである。

 

【結論】
 無効審判事件において、被告は、請求項1において、「前記略多角形は、基礎となる多角形の少なくとも1の角を少なくとも半径0.8㎜の曲率の円弧でつないだものに置き換えたもの」(以下「C-2事項」ともいう。)を付加し、引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部が有する略多角形の断面形状を具体的に特定し限定する訂正を行った。
 審決は、本件明細書の「引抜加工用ダイスのベアリング部の開口部の一つの「角」を半径0.8㎜程度の曲率の円弧(曲線)で結ぶ。」、「これにより、潤滑剤がたまる「角」がなくなる。結果として、このダイスでは円断面のダイスと同じような潤滑剤の挙動になり、潤滑剤の塊ができにくくなる。」との記載から、「C-2事項」は、本件明細書等に実質的に記載されていたといえ、新たな技術的事項を導入するものであって新規事項を追加するものであるとまではいえないと判断した。
 これに対し、判決は、円弧の曲率半径「0.8㎜程度」という数値の技術的意義については、本件明細書には何ら記載されておらず、これを示唆するような記載もなく、本件実施例は辺の長さ4mm の略四角形で内接円の円弧で角を置き換えるものにすぎず、多角形の形状の種類や、その1辺の長さの程度、円弧の中心の位置にかかわらず、角を置き換える円弧の曲率半径の最低値を「0.8mm」とすることの技術的意義は、本件明細書には記載されていなかった事項である。また、「C-2事項」は、断面形状である基礎となる多角形の形状やその1辺の長さ、円弧の中心の位置について何ら特定・限定していないところ、本件実施例は、引抜加工対象の棒材が四角形断面であり、作成される棒材の1辺が4㎜であることを前提とするものであって、本件明細書には、本件実施例以外の実施例は掲げられておらず、本件実施例の各数値の組合せの技術的意義又は本件発明における効果の発生機序・原理についての一般的な説明もないのであるから、本件明細書には、具体的な技術的事項として、本件実施例に開示された事項の範囲を超える事項は記載されていないというべきである。そうすると、「C-2事項」は、本件明細書の当初記載事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ないと判示した。

 

【コメント】
 被告は、本件明細書の「半径0.8㎜程度」の記載等からすると、曲率「半径0.8㎜の円弧」及び曲率「半径0.8㎜近傍の円弧」については、本件明細書に開示されており、加えて、角に潤滑剤の塊が溜まるという課題は、曲率半径が大きいほど角部の曲がり度合いが緩やかになり、円断面に近づく結果、潤滑剤の塊が溜まりにくくなって改善されることは明らかであるから、本件訂正1等の曲率「半径0.8㎜以上の円弧」であれば、発明の効果が得られることは本件明細書の記載から自明であるなどと主張したが、判決は、本件明細書の記載から「角」に置換される円弧につき、1辺の長さや円弧の中心の位置にかかわらず、最低曲率「半径0.8㎜以上の円弧」であれば発明の効果が得られる構成が開示されていると認めることはできないとして、被告の主張を採用しなかった。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 阿部 寛)

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