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特許 令和5年(行ケ)第10078号「オーディオコントローラ、超音波スピーカ、オーディオシステム、及びプログラム」
(知的財産高等裁判所 令和7年4月24日)

7月2日(水)配信

 

【事件概要】 冒認及び共同出願違反を理由とする特許無効審判の請求を不成立とした審決が維持された事例。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】 本件発明の発明者の認定(本件特許の特許公報に発明者として記載されている、被告の代表取締役であるAら、が発明者であるか否か)。


【結論】 発明者とは、当該発明における技術的思想の創作、とりわけ従前の技術的課題の解決手段に係る発明の特徴的部分の完成に現実に関与した者、すなわち当該発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者を指すものと解される。
 しかるところ、・・・本件発明の課題は、複数のスピーカから構成され、各スピーカをリスナの周囲に配置する必要があるオーディオシステムにおいて、例えば、リスナの背後にスピーカを設置することができないときは、このようなオーディオシステムを利用することができなくなる等といった使用環境による制約を取り除くことである。
 ・・・可聴音の音波形に沿って変調した超音波(搬送波)が空気中を伝わると可聴音を発生させる(自己復調)という現象を利用した、複数の超音波トランスデューサを備える超音波スピーカ(パラメトリックスピーカ)自体は、・・・被告(注:特許権者)がAらにおいて本件発明を完成させたと主張する平成25年1月ころにおいても、周知の技術であったと認められる。
 本件発明1は、このような周知の技術を前提に、特許請求の範囲に記載されたオーディオコントローラにより、任意に定めることができる焦点位置(【0113】)のリスナに音を届けることを可能にし、前記課題を解決するものである。すなわち、特許請求の範囲のうち、オーディオコントローラが「オーディオ信号に基づいて、各超音波トランスデューサを個別に制御するための制御信号を生成し、且つ、少なくとも1つの焦点位置で集束する位相差を有する超音波を各超音波トランスデューサが放射するように、前記制御信号を、各超音波トランスデューサに出力する制御手段を備える」という部分は、本件発明の課題を解決する発明の特徴的部分であると認められる。・・・
 本件実験機(注:Aと被告取締役(技術担当役員)であるBが平成27年4月以前に製作した空中超音波集束装置)で発生することができる可聴音が1023Hz以下の範囲(1Hz刻み)で変調された矩形波の可聴音であったという点を考慮しても、本件発明の特徴的部分は当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されており、本件発明は完成していたと認められる。・・・
 以上によれば、Cら(注:原告代表取締役)は、本件発明の特徴的部分を当業者が実施することができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成した者ということはできず、本件発明の発明者(共同発明者)ではないと認められる。他方、本件発明に係る特許公報(甲1)には、Aらが発明者として記載されているところ、前記認定及び弁論の全趣旨によれば、本件発明の発明者はAらであると認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

 

【コメント】 本件の背景には、被告(特許権者)の前身会社が本件発明を具現化した本件実験機を平成27年4月以前に作製した後、原告(無効審判請求人)に対し本件試作機の作製を依頼し、原告は本件試作機を実用に耐えうるものにすべく、自身の知見や創作をも盛り込んで本件試作機を作製し、平成27年11月に被告の前身会社に納品し、その約2年後である平成29年10月3日に至ってようやく本件特許の出願が被告によりなされた、という事情がある。そのため、原告には、本件発明を実用に耐えうるものとして完成させたのは自分たちであるという自負があったのかもしれない。しかし、特許請求の範囲に記載された本件発明の特徴的部分がAらのみによって完成されていたと評価される以上、原告の主張には無理があったといわざるを得ないように思われる。
 被告による本件特許の出願が遅くなった理由は不明であるが、もしも被告が本件実験機を作製後原告に本件試作機の作製を依頼する前に本件特許の出願をしていれば、本件の紛争が生じることはなかったものと思われる。また、仮に本件特許の出願前に原告が本件発明の改良発明というべき発明についての出願をしていた場合には、本件特許は成立せず、原告が原告の貢献に見合った特許を取得できた可能性もある。いずれにしても、早期の出願の大切さが教訓として認識される。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小曳 満昭)

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