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1月12日
10月7日(水)配信
無効審判においてサポート要件違反と判断した審決を知財高裁が取り消した事例。
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実施例では、ボルテゾミブとD-マンニトールとのエステル体であるBME化合物(本件発明)が原料であるボルテゾミブやD-マンニトールから単離されない混合状態(実施例1FD製剤)において再構成性や保存安定性の(課題に対応する)効果が確認されただけであるから、本件発明(BME化合物)が課題を解決できると認識できる範囲のものではなくサポート要件違反と判断した審決が妥当であるか。
サポート要件を充足するには、明細書に接した当業者が、特許請求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り、また、課題の解決についても、当業者において、技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであって、厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される。
・・・この課題が解決されたといえるためには、・・・BMEが相当量生成したこと、並びに当該BMEが保存安定性、溶解容易性及び加水分解容易性を有することが必要であると解される・・・実施例1として、・・・調製方法が開示されている。そして、本件出願日当時の技術常識に照らすと、同調製方法のように、・・・という条件の下では、ボルテゾミブとマンニトールとのエステル化反応が進行し、相当量のBMEが生成すると理解し得る。また、FAB質量分析により、BMEの形成を示すm/z=531の強いシグナルを示したこと、このシグナルはボルテゾミブとグリセロール(分析時のマトリックス)付加物のシグナルであるm/z=441とは異なっており、しかも、m/z=531のシグナルの強度は、m/z=441のシグナルと区別されるほど大きいことが開示されている。これらの事項からすれば、実施例1FD製剤は、相当量のBMEを含むといえる。
サポート要件の趣旨について、「明細書が、先願主義の下での時間的制約の中で作成されるものであることも考慮すれば、その記載内容が、科学論文において要求されるほどの厳密さをもって論証されることまで要求するのは相当ではないからである。」とも判示しており、科学論文の査読のような感覚でサポート要件を厳格に判断することがないように戒めている。平成30年(行ケ)第10158号等も同旨の判示。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村 明照)
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