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特許 令和元年(行ケ)第10136号等「パロノセトロン液状医薬製剤」(知的財産高等裁判所 令和2年12月15日)

4月7日(水)配信

 

  • 事件概要

 無効審判においてサポート要件違反と判断した審決を知財高裁が支持した事例。

判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

  • 争点

 請求項には、有効成分である「パロノセトロン」の濃度等の医薬製剤の組成を特定した上で、「少なくとも24ケ月の貯蔵安定性」(以下「24ケ月要件」という。)を有することが特定されている。一方、本件明細書には、「これらの製剤は、室温で24ケ月を超える期間、保存安定的であり」等との一行記載はあるものの、24ケ月要件に対応する実験データの開示はない。出願時に既に得られていた相応の実験データ(米国FDA提出書面)等を後出しすることでサポート要件が満足されるか。

 

  • 結論

 実施例1~3において、製剤が最も安定するpHの値、クエン酸緩衝液及びEDTAの好適な濃度範囲、マンニトールの最適レベルが示され、実施例4,5に代表的な医薬製剤が示されているが、実施例4,5においては、実際に安定性試験が行われていないため、そこに記載された医薬製剤が少なくとも24ケ月の貯蔵安定性を有することが記載されているとはいえない。
 本件明細書と技術常識によっては24ケ月要件を備えた製剤が記載されていると認識することができないにもかかわらず、本件出願後に実験データ(甲36,33)を提出して明細書の上記不備を補うことは許されないというべきである。

 

  • コメント

 サポート要件の適否は、明細書の記載に基づき判断されることを再確認させた判決である。たとえ出願時に既に得られていた実験データであっても明細書の記載に依拠しない後出しデータによっては記載不備が治癒されることはない。特許権者は、出願時には認識していなかった先行技術に対応するため予期しなかった24ケ月要件を追加した本件の事情や先願主義下で出願を急がざるを得ない一般的な状況も申し立てたが、裁判所には受け入れられなかった。審査手続を念頭においた明細書の記載の程度に関して考えさせられる事例である。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 田村 明照)

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