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特許 令和3年(行ケ)第10063号「屋内のネット等の吊張体の吊張り方法、及びその装置」(知的財産高等裁判所 令和4年3月28日)

7月6日(水)配信

 

【事件概要】
 特許請求の範囲の記載は、明細書の記載を参酌すると、第三者に不測の損害を被らせるほどに不明確ではないとして、特許無効審判の請求不成立審決を維持した事例。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【争点】
 請求項1の「任意の吊り上げワイヤーにおけるウインチワイヤーとの取り付け位置と、…基準となる吊り上げワイヤーにおけるウインチワイヤーとの取り付け位置との高さ方向の距離に対応した長さを、…調整」するという記載は、明確か。

 

【結論】
 「高さ方向の距離に対応した長さ」は、吊り上げワイヤーの一部分を指し、「任意の吊り上げワイヤーにおけるウインチワイヤーとの取り付け位置」と「基準となる吊り上げワイヤーにおけるウインチワイヤーとの取り付け位置」との高さ方向の距離に対応した長さである。
 「調整手段」は、吊り上げワイヤーの「高さ方向の距離に対応した長さ」を、吊り上げワイヤーの他端側で調整するものをいう。図では、吊り上げワイヤーの床面側で「高さ方向の距離に対応した長さ」を調整する手段を有することが理解でき、調整された「高さ方向の距離に対応した長さ」に応じた距離だけ吊り上げワイヤーが吊り上げられた後、吊張体を持ち上げるように構成されている。
 そうすると、請求項1には、「高さ方向の距離に対応した長さ」を吊り上げワイヤーの「他端側」(床面側)で調整する手段が特定され、明細書の記載を参酌すると、調整手段は、「高さ方向の距離に対応した長さ」に応じた距離だけ吊り上げワイヤーが吊り上げられた後、吊張体を上方に持ち上げるように構成されていると解されるから、請求項1の記載は、第三者が発明の内容を把握することを困難にするとはいえず、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確とはいえない。

 

【コメント】
 「高さ方向の距離に対応した長さ」が吊り上げワイヤーの一部分を指し、「任意の吊り上げワイヤーにおけるウインチワイヤーとの取り付け位置」と「基準となる吊り上げワイヤーにおけるウインチワイヤーとの取り付け位置」との高さ方向の距離に対応した長さだとすると、その長さは各吊り上げワイヤーの取り付け位置に応じて一意に定まると解される。これを「調整」するとは何を意味するのか理解が難しいが、裁判所は、吊り上げワイヤーが「高さ方向の距離に対応した長さ」だけ吊り上げられた後、当該吊り上げワイヤーが吊張体を持ち上げるように構成することであると判示した。これは、特許権者が主張するとおり、各吊り上げワイヤーの長さを調整して、吊張体を床面まで下ろすのに必要な長さよりも「高さ方向の距離に対応した長さ」分だけ長くすれば実現できる。請求項1に調整対象として記載された「高さ方向の距離に対応した長さ」を調整量と理解すれば、つじつまは合うが、文言の解釈にやや無理があるように思われる。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小林 紀史)

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