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11月24日
9月6日(水)配信
【事件概要】
拒絶査定不服審判請求と同時にする補正の補正要件のうちいわゆる独立特許要件が新たな引用文献に基づいて判断される場合には、最初の拒絶理由通知がされ補正及び意見書提出の機会が与えられるべきであって、そのような機会のないままされた審決には適正手続違背の違法がある旨の原告主張(取消事由3)が排斥されるなどして、審判請求を不成立とした審決が維持された事例。
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【主な争点】
特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条所定の手続違背の有無
【判示内容】
「⑴ 手続違反の要件について
…、拒絶査定不服審判請求と同時にする補正が補正要件(同法17条の2第3項から第6項まで)に違反しているときはその補正を却下しなければならない旨が定められ(同法159条1項で読み替えて準用される同法53条1項)、この際、拒絶理由の通知や意見書提出の機会も付与されない(同法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書)。
しかしながら、新たな引用文献に基づいて独立特許要件違反が判断される場合、当該引用文献に基づく拒絶理由を回避するための補正については当該引用文献を示されて初めて検討が可能になる場合が少なくないとみられることを考慮すると、特許法159条2項により読み替えて準用される同法50条ただし書に当たる場合であっても、特許出願に対する審査手続や審判手続の具体的経過に照らし、出願人の防御の機会が実質的に保障されていないままに補正が却下されたと認められるような場合には、適正手続の観点から、審判手続が違法となる余地があると解される。」
「⑵ 原告の主張について
ア 原告は、…甲2文献ないし甲5文献は本件審決で初めて提示された…から、原告に最初の拒絶理由通知がされ、補正及び意見書提出の機会が与えられないままされた本件審決には適正手違背(ママ)の手続違反がある旨主張する。
…本件審決は、「油中における水粒の細粒化は、水粒の界面張力の低下により生じている蓋然性が高い」との本件拒絶査定で認定された技術的事項を、少なくとも甲2文献を含む文献から「界面張力の低下により水粒の細粒化が生じる」との技術常識として確定し、甲1文献に記載された発明(引用発明)とこの技術常識に基づいて本件補正発明は容易想到であるとしているのであり、その判断は本件拒絶査定と同旨であり、理由の論旨を変更するものではない。
…本件審決が…との技術常識を裏付けるものとして甲2文献を含む文献を用いたとしても、本件拒絶査定の理由とは異なる拒絶の理由を用いたとはいえず、不意打ちとも審理不尽ともいえないし、これと異なる認定をすべき事情もうかがわれない。
…原告の上記主張を採用することができない。」
【コメント】
本判決は、審判請求時の補正の補正要件のうち独立特許要件を検討するにあたり、出願人に対して実質的な防御の機会を保障しないまま、拒絶査定の理由と異なる理由で独立特許要件を欠如するものとして上記補正を却下することは適性手続違反となるおそれがある旨判示しており、同旨の判示をする例としては、平成26年(行ケ)第10272号判決(知財高裁平成28年2月17日)、平成19年(行ケ)第10074号判決(知財高裁平成20年3月26日)が挙げられます。他方で、実質的な防御の機会を保障しないまま拒絶査定の理由と異なる理由で補正却下することに手続上の瑕疵はない旨を判示すると思われる裁判例も存在するようです(平成15年(行ケ)第475号判決(東京高裁平成16年9月30日))。
なお、本判決は、「技術常識」について、「技術常識は、ある特許の出願前に頒布された刊行物に記載された刊行物記載発明(特許法29条1項3号)のような文献の記載そのものから認定されなければならないものではなく、社会経済的事実として認定されるものであり、技術常識が立証命題となった場合の各文献は、それを裏付ける一資料にすぎず、それら文献の追加によって立証すべき技術常識は変動しない」と説示しており、実務上参考になると思われます。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 須藤 康洋)
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