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特許 令和6年(行ケ)第10020号「照明装置」
(知的財産高等裁判所 令和6年11月19日)

8月6日(水)配信

 

【事件概要】
 特許無効審判事件において、特許法164条の2第1項所定の審決の予告(本件審決予告)で指定された期間内に特許請求の範囲についての訂正請求がされ(本件訂正)、再度の審決の予告がされることのないまま、本件訂正を認めた上で特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本件発明1)に係る特許を無効とした審決(本件審決)について、その手続の違法性が争われた事例である。
 本件審決予告及び本件審決は、いずれも本件審判手続における審判甲1に記載された発明(甲1発明)を認定し、甲1発明と本件発明1との相違点(相違点1)を認定した上で、本件発明1は甲1発明、甲1に記載された事項、技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断したところ、原告(審判被請求人)は、本件審決が認定する相違点1は、本件審決予告が認定した相違点1と異なるから、本件審決予告に加えて更に、本件訂正によって訂正された請求項1について再度の審決の予告をすることなく本件審決をしたことは、違法な手続である旨主張した。
判決文を「IP Force 知財判決速報/裁判例集」で見る

 

【主な争点】
 手続違背(再度の審決の予告の要否)

 

【判示内容】
 裁判所は、上記争点について概略次のように判示して、原告の請求を棄却した。
 「特許法164条の2第1項の『経済産業省令で定めるとき』について、特許法施行規則50条の6の2は、『特許法第164条の2第1項の経済産業省令で定めるときは、被請求人が審決の予告を希望しない旨を申し出なかったときであって、かつ、次に掲げるときとする。』(柱書)とし、第1号ないし第3号を定め、第3号は、『前2号に掲げるいずれかのときに審決の予告をした後であって事件が審決をするのに熟した場合にあっては、当該審決の予告をしたときまでに当事者若しくは参加人が申し立てた理由又は特許法第153条第2項の規定により審理の結果が通知された理由(当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないものに限る。)によって、審判官が審判の請求に理由があると認めるとき。』と定める。」
 「・・・本件審決予告の内容と、本件審決の判断の内容・・・とを比較すると、審判甲1に記載された発明として認定した内容は同一である(甲1発明)。・・・本件審決予告と本件審決では、審判甲1に記載された事項の認定並びに甲1発明に組み合わせる技術常識及び周知技術1の認定は同一であり、請求項1に係る発明ないし本件発明1が、甲1発明、審判甲1に記載された事項、技術常識及び周知技術1に基づき当事者が容易に発明することができるものであるとの判断に関する説示の内容も実質的に同一である。
 そうすると、本件審決における・・・判断は、本件審決予告に示されていた判断と同一であるから、特許法施行規則50条の6の2第3号かっこ書き所定の『当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないもの』に該当せず、特許法164条の2第1項及び特許法施行規則50条の6の2により、本件審決の前に本件審決予告に加えて更に審決の予告をする必要があったとは認められない。
 ・・・本件訂正が行われたことにより、甲1発明と請求項1に係る発明(本件訂正後は本件発明1)との相違点1が、本件審決予告と本件審決との間で若干異なっている。しかし、このことの故に、本件審決の理由が『当該理由により審判の請求を理由があるとする審決の予告をしていないもの』に当たると解することはできず・・・。」

 

【コメント】
 特許法164条の2第1項は、特許無効審判において、事件が審決をするのに熟した場合であって、「省令で定めるとき」には審決の予告をしなければならないと定める。本件では、審決の予告がされた後であって再度事件が審決をするのに熟した場合において、どのようなときに再度の審決の予告をしなければならないのか、すなわち、上記省令(特許法施行規則50条の6の2の第3号)の該当性が争われた。判決は、本件審決と本件審決予告とを比較したときに、例えば、審判甲1を主引用例として認定された引用発明(甲1発明)が同一である、請求項1に係る発明ないし本件発明1が、甲1発明、審判甲1に記載された事項、技術常識及び周知技術1に基づき当事者が容易に発明することができるものである等、両者の判断の枠組みが同一であれば、甲1発明と請求項1に係る発明との相違点が両者の間で若干異なるものであっても、本件審決の前に本件審決予告に加えて更に審決の予告をする必要はない旨を判示した。この判断は、今後の実務において参考になると思われる。
 なお、同様の争点について判断した平成30年(行ケ)第10034号判決(知財高裁平成31年3月20日)が、「先に行われた審決の予告と実質的に同じ内容の理由により特許を無効にすべきものと判断する場合のように、実質的に訂正の機会が与えられていた場合は、審判長は、更に審決の予告をする必要はない」との解釈を示した上で、このような解釈は、「特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求につき、それに起因する特許庁と裁判所との間の事件の往復による審理の遅延ひいては審決の確定の遅延を解消する一方で、特許無効審判の審判合議体が審決において示した特許の有効性の判断を踏まえた訂正の機会を得られるという利点を確保するために、審決取消訴訟提起後の訂正審判の請求を禁止することと併せて設けられたものである」といった審決予告の制度趣旨にかなうと判示している点も、実務上の指針となりそうである。

 

(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 須藤 康洋)

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