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Alice Corporation Pty. Ltd. v. CLS Bank International米最高裁判決

11月19日(火)配信

 今年6⽉、⽶国最⾼裁判所はAlice Corporation Pty. Ltd. v. CLS Bank International裁 判(以下、Alice裁判)において、コンピュータによって実施されるAlice Corporation の⽅法クレームおよびシステムクレームに特許対象性はないという判決を下した。この 判決により、ある種のソフトウエア関連特許を取り巻く環境は厳しくなったといえる。 Alice裁判における⽶最⾼裁判決とその後の状況について、情報通信分野の⽶国特許事 情に詳しい ⽶国弁護⼠、前川有希⼦⽒が解説する。

 

1.Alice Corporation Pty. Ltd. v. CLS Bank International米最高裁判決

 ⽶最⾼裁は過去の判決の中で、特許の対象とならないカテゴリーとして、(1)Law of Nature (⾃然法則)、 (2)Physical Phenomena(物理現象)、(3)Abstract Ideaを挙げてきた。

 2012年のMayo 裁判では、“Law of Nature (⾃然法則)”を含むクレームの特許対象 性が問われたが、Alice裁判では、“Abstract Idea”を含むクレームの特許対象性が問われ た。2009年のBilski 裁判においても、特許対象性が問われたクレームが“Abstract Idea” を記載しているに過ぎず、特許の対象とならない、という判決が下っている。Alice裁 判では、さらにコンピュータによって“Abstract Idea”が実施されることがクレームに⽰ 唆されている場合(陰のクレジットおよびデビット記録を⽣成するステップ)にそのク レームは特許の対象となるか、という点が問われた。

 ⽶最⾼裁は、特許対象性の有無を判断する ⼿法として、Mayo最⾼裁判決にならい、 2つのステップを提唱した。第1のステップは、問題のクレームが特許の対象とならな い“Abstract Idea”を含むものであるかどうかを分析することである。もし、クレームが 特許の対象とならない“Abstract Idea”を含むと判断された場合には、第2のステップと して、クレームに記載されている“Abstract Idea”の 応⽤/実施の部分に、特許の対象に 変換するに⼗分な“inventive concept (発明的なコンセプト)”を含むかどうかを判断す る、とした。

 第1のステップにおいて、Aliceのクレームは⾦融取引におけるリスクを軽減するた めの仲介処理を対象としており、基本的な経済業務であるので、 Bilskiクレームと同様 に“Abstract Idea”を対象としている、と⽶最⾼裁は判断した。しかし残念ながら、⽶最 ⾼裁は“Abstract Idea”の詳細な定義を提⽰することを避けている。

 第2のステップは、“⾃然法則”を含むクレームの特許対象性を判断したMayo ⽶最⾼ 裁判決の論理をベースとしている。Mayo判決で⽶最⾼裁は、⾃然現象/⾃然法則を応 ⽤/実施する⼿法/⼿段に新規性あるようにクレームが記載していなければ、そのクレ ームは特許の対象とはならない、とした。Alice裁判でも同様に、⽶最⾼裁は、クレー ムが“Abstract Idea”を応⽤/実施するように記載している場合も、単にコンピュータを⽤いるという点だけではそのクレーム特許の対象とすることはできないとした。さらに ⽶最⾼裁は、“Abstract Idea”を応⽤/実施する点に“inventive concept”がなければ、特許 の対象とすることができない、とした。

 ⽶最⾼裁は、Alice の特許クレームが 電⼦記録を⽣成、複数の取引を観察、指⽰を発 ⾏する、というコンピュータの⼀般的な機能を記載しているに過ぎないとし 、 これら の⼀般的なコンピュータの機能は“Abstract Idea”を特許の対象とできる発明に変換させ るには⼗分ではない、という判決を下した。また、Aliceのシステムクレームおよび記 録媒体クレームは、⼀般的な“データ処理システム”、“コミュニケーションコントローラ ー”、“データ保存ユニット”を含むと記載しているが、単に⼀般的な機能が記載されてい るだけで、⽅法クレームと同様、“Abstract Idea”を特許の対象とできる発明に変換させ るには⼗分ではない、という判決を下した。しかし、どのようなことが“Abstract Idea” を特許の対象とできる発明に変換させるのに⼗分なのか、というガイドラインについて は、⽶差最⾼裁は述べていない。

 

2.USPTO の予備的審査ガイドライン

 Alice⽶最⾼裁判決を受け、早速USPTOは予備的審査ガイドラインを発表してい る。予備的審査ガイドラインでは、従来の⽶国特許法101条に関するガイドラインと異 なる点として、(1)全ての例外項⽬に対して同じ分析を⾏うこと、(2)全てのカテ ゴリーのクレーム(例えば、製品クレームとプロセスクレーム)に対して同じ分析を⾏うこと、としている。ただし、特許対象性の有無を調べるための 基本的な問いは、従来と同じである。すなわち、(1)クレームが、⽶国特許法101条 で規定されている特許対象性を有するカテゴリーの⼀つ(process, machine,manufacture, またはcomposition of matter(プロセス、機械、製造物、または合成物 質) を対象としているか否かを判断する、(2)もしクレームが、⽶国特許法101条で 規定されているカテゴリーの⼀つを対象としていると判断できる場合、さらに特許の対 象とならない例外カテゴリー(Law of Nature 、Physical Phenomena、Abstract Idea)の ⼀つを対象としているか否かを判断する。

 ⽶最⾼裁は、特許の対象とならないAbstract Ideaの明確な定義を提⽰することを避け たが、USPTOは従来の判決を参照し、Abstract Ideaの例といくつか挙げている。基本 的な経済活動、⼈間の活動を組織するある種の⽅法、アイデアそのもの、数学的に表現 できる関係/数式などである。

 もし、クレームがこのようなAbstract Ideaを含む場合には、そのAbstract Ideaを応 ⽤/実施するための単なる指⽰をクレームが記載しているに過ぎないのか、あるいは、 そのAbstract Ideaを応⽤/実施する⼿法/⼿段に発明性があるのか、という点を判断す る、としている。前者であれば、クレームに特許対象性はないと判断し、後者であれ ば、クレームに特許対象性があると判断する、としている。クレームに特許対象性があ ると判断してから、さらに⽶国特許法112条、102条、103条などの観点から、特許として認可できるか否かを判断する、としている。

 

3.Alice 最高裁判決後のUSPTOの状況

 Alice ⽶最⾼裁判決後、USPTOは既に特許許可通知を送付したが、まだ特許として交 付されていない特許出願に対して、改めてAlice最⾼裁判決を適⽤し、審査を続⾏して いるケースがあると発表している。特許対象性が無いと判断した場合には、USPTOは 送付した特許許可を取り下げ、⽶国特許法101条に関する拒絶通知を改めて送付している。

 

4.Alice 米最高裁判決後の裁判状況

 明確にコンピュータによって実施されるように記載された⽅法クレームでも、Alice ⽶最⾼裁判決を適⽤し、特許対象性を否定する判決を、⽶連邦巡回裁判所(CAFC)が いくつか出している。

 Planet Bingo, LLC v. VKGS LLC 裁判では、ビンゴゲームのコンピュータによる管理 ⽅法およびシステムを記載したクレームの特許対象性が争われた。CAFCは、問題のク レームがBilski裁判およびAlice裁判でその特許対象性が争われたクレームと同様に、 ⼈間の活動を⼿配する⽅法を記載しているとし、”Abstract Idea”を対象としたクレーム である、と判断した。さらにCAFCは、問題のクレームはコンピュータによって実施さ れる⽅法として記載されているが、単にビンゴの数字を“保存し”、“取り出し”、 取り出 したビンゴの数字が勝ちとなるビンゴの数字かどうかを“確認する”という、コンピュー タの基本的機能を記載しているに過ぎない、とした。その結果、CAFCはビンゴゲーム のコンピュータによる管理⽅法/システムクレームは、”Abstract Idea”が特許対象性を 有するように変換させるほどの”inventive concept”を含んでいないと判断し、特許対象 性無しという判決を下した。

 Buysafe, Inc. v. Google, Inc. 裁判では、販売取引への第三者による補償のプロセスを コンピュータによって処理する⽅法を記載したクレームの特許対象性が争われた。 CAFCは、Bilski⽶最⾼裁判決とAlice ⽶最⾼裁判決をもとに、次の2つの点について 分析し、問題のクレームに特許対象性は無し、という判決を下した。

 まず、CAFCは、クレームが契約関係を形成することを対象としていることから、” Abstract Idea”を対象としていると判断した。次に、クレームに記載されているコンピュータの機能が⼀般的 な機能のみであり、より具体的な機能を記載していないことから、”Abstract Idea”の応 ⽤として特許対象性を持たせるほどの”Inventive Concept”がクレームに含まれていない とし、クレームに特許対象性は無し、という判決を下した。

 また、Digitech Image Technologies, LLC v. Electronics for Imaging, Inc. 裁判では 、 デジタル画像プロセスシステムにおけるデバイスの空間特性および⾊特性を表わす“デ バイスプロファイル”⾃体を記載したクレームとその“デバイスプロファイル”を作成する⽅法を記載したクレームの特許対象性が争われた。“デバイスプロファイル”は、デー タそのものとみなされるため、⽶国101条に規定された特許の対象となるカテゴリー に属さないという判断は、特に⽬新しいものではない。⼀⽅、⽅法クレームに関して は、“プロセス”とみなせるので、⽶国101条に規定された特許の対象カテゴリーに⼊ る。しかしCAFCは、問題の“デバイスプロファイル”を作成する⽅法クレームは、既 にあるデータを収集し、組み合わせ、新しい形態のデータにする、というAbstract process を記載しているに過ぎず、特許の対象とはならない、とCAFCは判断した。 また、CAFCは、この⽅法クレームが、デバイスプロファイルを“プロセッサーの使⽤ により作成することすら記載していないので、Alice⽶最⾼裁判決を適⽤してその特許 対象性を判断する必要はない、としている。

 そのほか、いくつかの地⽅裁判所において、興味深い判決が出ている。

 例えば、デラウエア州地⽅裁判所は、Tuxis Technologies, LLC, v. Amazon.com, Inc. 裁判において、オンラインショッピング関連特許クレームに特許対象性無し、という判 決を下した。問題の⽅法クレームは、ある商品/サービスを購⼊しようとした客に対し て、その客が興味を持つような別の商品/サービスのオファーをリアルタイムで提供す る⽅法クレームである 。デラウエア州地⽅裁判所は、問題の⽅法クレームが、何かに 対する客の興味を基に別の何かをオファーするという”Abstract Idea”を対象としている と、判断した。さらに、⽅法クレームは単に電⼦コミュニケーションデバイスを利⽤ し、リアルタイムで取り引きを実⾏すると記載しているだけであり、特許対象性を得る のに⼗分な要素では無いと判断し、特許の対象とはならないという判決を下した。

 さらに、カリフォルニア州地⽅裁判所は、McRO, Inc., d.b.a. Planet Blue, v. Activision Publishing,Inc. 裁判において、ビジネスメソッドでもなく、具体的なデータ 処理に関する特許に対して興味深い判決を下している。特許対象性が問題となったクレ ームは、アニメーションの3次元キャラクターの⼝の動きの同期と顔の表現を⾃動的 にアニメ化する⽅法クレームである。カリフォルニア州地⽅裁判所は、問題の⽅法ク レームがアニメーションという特定分野での実施を対象としており、かつ具体的なステ ップを記載しているので、⼀⾒“Abstract Idea” を対象としていないように⾒えると認め ている。しかし、カリフォルニア州地⽅裁判所は、公知例と⽐較してクレームの新規な 部分(出⼒モーフウェイトセットを⾳素機能として定義する規則を得るステップ)が “Abstract Idea”とみなせるので、問題の⽅法クレームが“Abstract Idea”となる、とし、 特許の対象とならないという判決を下した。つまり、 カリフォルニア州地⽅裁判所 は、公知の部分が“Abstract Idea”を対象としていない場合でも、 新規性ある部分のみに 焦点を絞り、特許対象とならない例外カテゴリーに相当するかどうかを論じている。 Alice ⽶最⾼裁判決では、まずクレームが“Abstract Idea”を対象としていると判断し、 それから“Abstract Idea”の実施する部分に、”Inventive Concept” があるが含まれるかど うかを判断する、としている。したがって、本裁判における特許対象性の分析⽅法が Alice⽶最⾼裁判決から逸脱しているように思われる。現在のところ、Planet Blueが控訴するかどうかは、まだ発表されていない。

 

5.おわり

 残念ながら⽶最⾼裁は、ソフトウエア関連特許の特許対象性を判断する上で最も重要 な問題点、すなわち、”Abstract Idea” の明確な定義を 提⽰することを避けた。また⽶ 最⾼裁は、“Abstract Idea”の実施に特許の対象とするように変換させる”Inventive Concept”の定義も明確に⽰さなかった。そのため、どのようなソフトウエア関連クレ ームを 記載すれば、特許の対象となり得るのかという点について明確な答えは残念な がら無い。

 ただ、単にコンピュータによって実施する/処理するとだけ記載し、具体的にどのよ うに実施する/処理するのか記載しない場合は、“Abstract Idea”以上のものを記載して いないとみなされ、特許対象性無しと判断される可能性が⾼いといえる。Alice ⽶最⾼ 裁判決後のCAFC/ 地裁判決からみて、商取引関連特許であれ、商取引関連外の特定の 分野の特許であれ、特許対象性無しという判定を避けるためには、データの処理部分/ 転送部分/記録部分の新規な点をクレームに具体的に記載する必要があると思われる。

 

(2014/10/10⽇経知財Awarenessに掲載された論考を、前川氏のご厚意によりIP Forceに寄稿して頂きました。本稿の著作権は前川氏に帰属しています。掲載時の原稿のまま掲載しています。その後の判決等により解釈等に変更がある場合があります。)

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