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特許権の消尽をめぐる重要判決:「米国特許製品は米国外購入または購入に付随した制約条件により、米国特許権は消尽しない」

10月3日(木)配信

 原則的に、ある製品に対して⽶国特許権を有する者は、 ⼀旦その製品を他者に販売すると、 その製品に関して特許権を再⾏使することはできないとされている。この理を“特許権の消尽 (patent exhaustion)”という。しかし、いくつかの判決において、⽶国特許製品を販売した時の条件または状況によっては、“特許権の消尽”が⽣じないとされてきた。⼀⽅、2013 年に⽶国最⾼裁判所は「Kirtsaeng v. John Wiley & Sons, Inc. 裁判」において、著作権製品が⽶国外で合法的に購⼊された場合、⽶国著作権は消尽するという判決を下した。そんな中、「Lexmark International, Inc. v. Impression Products, Inc. 裁判」において、2016 年 2 ⽉、⽶国連邦巡回裁判所(CAFC)⼤法廷は、⽶国特許製品が最初に⽶国外で販売された場合、あるいは販売の際に合法な販売後の制約的条件を付加した場合は、販売された⽶国特許製品に対して⽶国特許権は消尽しないという判決を下し、⽶国特許権消尽の条件を明確にした。Lexmark ⼤法廷判決において CAFC は、著作権消尽に関する⽶最⾼裁判決を特許権消尽の問題に適⽤することはできないと判断した。

 今回の CAFC 判決について、 ⽶国弁護⼠、前川有希⼦⽒は、「⽶国特許製品がその⽶国特許権所有者から⽶国外で購⼊され、その後⽶国へ輸⼊されて販売、使⽤されるビジネス形態はよくある。その⽶国特許製品が、⽶国内で単体として販売、使⽤される場合もあるし、ある製品の⼀部品として販売、使⽤される場合もある。このようなビジネス形態に関わる⽶国特許権を所有する企業にとっても、⽶国特許製品を⽶国外で購⼊してから⽶国へ輸⼊する企業にとっても重要な判決」と指摘する。今回の CAFC 判決について、前川⽒が解説する。

 

1.特許権消尽

 ⽶国特許法 271 条は、 特許発明を使⽤、製造、販売、販売をオファー、または⽶国に輸⼊する⾏為を“許可なく”、“⽶国内で”⾏った者は、特許を侵害することになると定めている。つまり、ある発明に対して⽶国特許権を有する者は、 他者に特許発明を使⽤、製造、販売、販売をオファー、または⽶国に輸⼊する⾏為を⾏うことを禁⽌または許可する権利があるということである。

 この許可は必ずしも、明⽂化されている必要はない。例えば、⽶国特許権所有者が販売後の制約的条件を付けずに⽶国特許製品を販売した場合、購⼊者が購⼊した⽶国特許製品を使⽤または第3者に転売することを⾃動的に許可したことになるとされている。したがって、⼀旦販売した⽶国特許製品に対して、購⼊者がその製品を使⽤、または第3者に転売することを特許侵害として訴えることにより、再度⽶国特許権を⾏使するこ とはできない。つまり、⽶国特許権商品を購⼊者に販売した時点で、その販売した製品に対する⽶国特許権が消尽したことになる。特許権消尽の根拠の⼀つは、⽶国特許製品をその特許権所有者が他者に販売する際に、特許権⾏使に対する対価を得ているので、販売後さらに対価を重ねて取ることはできないからであるとされている。

 しかし、⽶国特許権の消尽に関しては、その適⽤に様々な解釈がある。「Lexmark International, Inc. v. Impression Products, Inc. 裁判」においても争点となったように、主に2つの問題点がある。1つは、⽶国特許権者による⽶国特許製品の販売が⽶国外で⾏われても、⽶国特許権の消尽が⽣じるのかという問題である。もう 1 つは、⽶国特許権者が⽶国特許製品の販売の際に、⽶国特許権の⼀部を保持するような制約的条件を付加することが可能かという問題である。

 

2.本裁判の背景

 Lexmark 社はプリンタ⽤のトナーカートリッジに関する⽶国特許を所有していた。 Lexmark 社は、そのトナーカートリッジを製造し、⽶国内、および⽶国外で販売していた。

 Lexmark 社は、トナーカートリッジの販売価格に 2 つの選択肢を設定していた。1 つは、“通常カートリッジ”に対する値引きなしの価格で、購⼊者に対してトナーカートリッジの再使⽤・再利⽤に関する制限は⼀切設けなかった。したがって、購⼊者が通常カートリッジにトナーを詰め替えすることは可能であった。  もう 1 つは、返還プログラムカートリッジに対する 20%の値引き価格である。ただし、購⼊者に対してトナーカートリッジの再使⽤・再利⽤を禁⽌し、さらに、Lexmark社以外の者に使⽤済みのトナーカートリッジを譲渡することを禁⽌する制限を設けていた。なお、Lexmark 社は、返還プログラムカートリッジにトナー量をモニターするチップを組み込み、返還プログラムカートリッジへのトナーの詰め替えを防ぐようにしていた。

 ⼀⽅、Impression 社は、Lexmark 社の使⽤済みの返還プログラムカートリッジを⽶国内外で取得し、⽶国で再販していた。Impression 社が取得した使⽤済みの返還プログラムカートリッジは、別会社によって再使⽤できるように改造されていた。改造の際、元々再使⽤のモニター⽤として内蔵されていたチップは、Lexmark 社の許可なく取り替えられていた 。

 

3.CAFC 大法廷裁判

3.1 CAFC 大法廷裁判の争点

 本裁判では、Lexmark 社による⽶国特許製品の販売に含まれる 2 つのファクターが、⽶国特許権消尽の適⽤を可能にするかどうかが争点となった。

 1 つ⽬のファクターは、Lexmark 社がトナーカートリッジの販売に単発使⽤、再販を禁⽌する条件を付与したことである。2 つ⽬のファクターは、Lexmark 社のトナーカートリッジの販売が⽶国外で⾏われたことである。

 

3.2 CAFC 大法廷判決

1)単発使用のみを許可する条件、または再販を禁止する条件の効果

 上述したように、ある発明に対して⽶国特許権を有する者は、許可を与えなければ特許侵害となる⾏為に関して、他者にその⾏為を⾏うことを許可する権利がある。CAFCは、⽶国特許権の所有者は⽶国特許製品を販売すると、販売した製品に対して特許権全体が消尽する訳ではないとした。さらに、CAFC は、⽶国特許製品を販売する際に、制約的条件を付与することにより、購⼊者に⼀部の⾏為だけを許可することを可とした。CAFC は過去の判例を挙げ、再販時の価格統制や⾮特許製品との抱き合わせ契約は独占禁⽌法に反する条件となるので、特許権消尽を防ぐ条件として認められないと述べている。しかし、特許製品の単発使⽤のみを許可する条件、購⼊した特許製品の再販を禁⽌する条件、特許製品を使⽤できる地理的制限などは、必ずしも独占禁⽌法に反する条件とはならないとした。

 Lexmark 社の場合、値引き価格で販売したトナーカートリッジに付加した制約的条件は、「再使⽤・再利⽤の禁⽌」と、「 使⽤済みトナーカートリッジの Lexmark 社以外の者への譲渡の禁⽌」である。CAFC は、これらの条件は特許権の⼀部を保持するために合法な条件であるとし、値引き価格で販売されたトナーカートリッジの使⽤および再販に関する特許権消尽が⽣じないとした。

 

2)米国特許製品の米国外での販売が特許権消尽に与える影響

 CAFC は、⽶国特許製品の⽶国外での販売によって、⽶国特許権は消尽しないとした。その根拠の 1 つとして、⽶国特許権の消尽が発⽣するベースとなる報酬はアメリカ市場での販売によって得られるものであると CAFC は述べている。特許権所有者は特許製品を販売することにより、その収⼊から特許に対する報酬を得る。しかし、各国の市場によって製品の販売価格が異なるので、⽶国外で特許製品を販売しても⽶国特許権消尽の根拠とならないと CAFC は述べている。  また、他の根拠として、いくつかの国際間協定からみて、⽶国議会は⽶国外での販売が⽶国特許権の消尽を起こすことに同意していないと CAFC は述べている。

 さらに、⽶国外での著作権製品の販売により著作権が消尽するとした Kirtsaeng 裁判の⽶最⾼裁判決は特許権消尽問題には適⽤できないと CAFC は述べている。Kirtsaeng 裁判において⽶最⾼裁は、⽶国著作権法 109 条(a)が、著作権消尽を起こす著作権物の合法な販売の場所を⽶国内に限定していないと解釈した。しかし、CAFC は、特許法は著作権法と異なる法律であること、また⽶国特許法が⽶国著作権法 109 条(a)に相当する法律を含んでいないことを根拠とし、Kirtsaeng 裁判の⽶最⾼裁判決を特許権消尽に適⽤することはできないとした。

 

4.今後の動向

 なお、今回の CAFC ⼤法廷少数派意⾒は、もし⽶国特許製品の販売が⽶国内で起こった場合、特許製品に販売後の使⽤、販売などに関する制限的条件が付けられていても、その制限に効⼒はなく特許権消尽が⽣じると述べている。また、⽶国特許製品が⽶国外で販売された場合に⽶国特許権者は⽶国での権利を保持すると購⼊者に通知しなければ、特許権消尽が⽣じると述べている。

 CAFC ⼤法廷の多数派意⾒と少数派意⾒をみると、特許権消尽および著作権消尽に関する⽶最⾼裁判決の解釈が⼤きく異なり、まだ多くの議論の必要があると⾔える。先⽇、本判決に対して⽶最⾼裁への上告がなされた。本件の重要性からみて、⽶最⾼裁が本件を取り上げる可能性は⾼い。今後も⽶国特許権消尽に関する動向に注意すべきであろう。

 

(2016/03/30 ⽇経知財Awarenessに掲載された論考を、前川氏のご厚意によりIP Forceに寄稿して頂きました。本稿の著作権は前川氏に帰属しています。掲載時の原稿のまま掲載しています。その後の判決等により解釈等に変更がある場合があります。)