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第1回:知財金融協会、はじめました

5月15日(木)配信

 昨年2024年10月、知財・情報フェアにあって珍しい「金」の文字。
 一般社団法人知財金融協会という新たな団体がポスターを掲げました。
 歴史ある日本知的財産協会の隣。こんな団体あったっけ? あれ? まだ知財金融やってる人がいたんだ、などなど動物園でいえば珍獣を見るような雰囲気のなか、そのポスターの前に立つ私(同協会、代表理事)は、ほとんどの人の第一声「なにをしている団体ですか?」の質問に答えていました。

 初めまして。一般社団法人知財金融協会の奥直也と申します。特許庁で33年間、特許審査官及び経済産業技官として特許行政に携わった後、同庁から受託した特許調査事業を担う登録調査機関のひとつ、株式会社パソナグループで事業部長をやっているのですが、知財の役割を更に拡げたいと考え、知財金融協会を立ち上げました。その思いを皆様に伝えたくて、IP Forceにコラムを書くことになりました。
 題して「動きはじめた知財金融」。何とぞよろしくお願いします。

 さて、知財・情報フェアで、何をしている団体かと問われたとき、私は次のように答えました。

 中小・ベンチャー企業に知的財産の重要性を理解していただき、技術の活用を促すことで、日本経済の活性化を図っていきたいところ、もともと知財に関心や問題を抱えた企業しかINPIT知財総合支援窓口や、知財調査の専門機関に相談に来ることはなく、また、知財の当事者である特許庁や特許事務所、調査会社が知財の重要性を説いたところで、自分の利益のためでしょ? と思われがちです。

 そんな感じで、知財のことを知らない中小は物凄(ものすご)く多いのだけれど、銀行や信用金庫のことを知らない中小・ベンチャーはいないわけで、その懇意にしている、または懇意にしてほしい銀行や信用金庫、つまり知財の当事者でないと思しきその相手から、知財は大切ですよ! 御社の技術は他にもビジネス展開の可能性がありますよ! と言われたら、その中小企業等がその気になる可能性は高く、そんな動きが全国に拡がったら、日本経済が活性化する! と考えております。

 ところが普段から、中小・ベンチャー企業に接している金融機関にそうした技術の捌きができるキーマンが残念ながらおりません。だったら育てよう! そして育てるために、そうした知財評価、ビジネス提案の実績をたくさん積み上げて、金融機関に示していこう!
 それが我々、知財金融協会の活動です。2年前からこういう活動をしています。

 しかし、なかなか進まなかったのは、金融機関の拠りどころがなかったからです。
 ところが2024年6月、新しい法律、事業性融資推進法が成立しました。2年後には施行されます。知財金融協会はこの法律が施行され、やがて大きな動きになることを見据え、事務局的な意識を持って、更に活動を進めていこうと思っています。

 こんな風に話すと、この回答を聞いた皆様の反応は、
これは素晴らしい取組だ(総論OK)、
でもいろいろやったもののうまく行かなかった(各論NG)、
ということで共通しておりました。

 とりわけ銀行が動かない、という意見が非常に多く、私もそう感じています。
 知財の当事者がいくら騒いでも拡がらないわけで、金融の当事者がその気になって動き出すことが大切なのです。

 「知財金融」では「知財」という言葉から特許庁が、そして「金融」という言葉から金融庁が何かと仕切り、知財関係者と金融関係者が何らかの取組を展開するような印象がありますが、ネットで「知財金融とは」で検索すると、「金融機関が中小企業の知的財産(知財)を活かして経営を支援する取組です。知財の価値を理解し、事業や経営の課題解決に貢献することを目的としています。」との回答。つまり主語は金融機関なのです。

 しかし金融庁では、「知財金融」促進とはあまり言わず、事業性融資(企業価値担保権制度)の推進ということで知財金融に係る取組を展開しているように感じます。
 他方、知財金融協会は堅苦しいながらも敢えて知財金融と称し、「知財」に着目することを外さず「知財金融」の基本的考え方を継承していくことでしょう。

 知財金融協会の活動は上記の通り、知財評価、ビジネス提案の実績をたくさん積み上げて金融機関に示し、金融機関内に技術の捌きができるキーマンを育てることです。
 そうしてキーマンのいる金融機関を介して、中小・ベンチャー企業と、知財の専門機関のつながりが密になり、技術活用が拡がることによって、産業が発展し、知財の重要性が増し、経済が活性化する世の中になっていくことを狙っています。

 では、こうした活動において金融機関の拠りどころとなるであろう事業性融資(企業価値担保権制度)とはなんでしょう? 次回は、こちらについてご説明します。

(第2回につづく)

■関連ページ
一般社団法人 知財金融協会:https://ipfa.or.jp/

■著者プロフィール
著者:奥 直也
一般社団法人 知財金融協会代表理事
株式会社パソナグループ 執行役員

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1986年特許庁入庁。元特許庁審査・審判官。入庁後、経済産業省(当時通商産業省)機械情報産業局企業係長、国際連合専門機関 世界知的所有権機関(WIPO)カウンセラー、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)知財活用支援センター長等を経て、退官後2019年10月よりパソナグループナレッジバンク事業部統括部門長に着任。2022年2月に知財金融協会を設立。特許庁の調査事業にて特許保護のサポートをしつつ、知財活用の側面から中小企業を支援。大阪市出身。

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