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対談「情報解析を巡るトレンドと課題」第1回(VALUENEX中村×イーパテント野崎)

5月9日(木)配信

昨今のアナリティクスを巡る日本や海外のトレンドはどうなっているのか?また、日本で注目されていると言われているIPランドスケープの実態は?日本だけではなく海外でも積極的な事業展開を図っているVALUENEX株式会社CEOの中村達生さんをお招きして対談を行いました。情報解析を巡るトレンドを俯瞰するだけではなく、現在の課題や今後目指すべき方向性についても熱く語っていただきました。

 

野崎:はじめまして、イーパテントの野崎です。2017年5月に独立起業して、現在は知財情報分析やコンサルティングサービスを提供しています。今回VALUENEX(以下、VNX)の中村さんと対談させていただく機会をいただいて光栄です。

遅ればせながら昨年11月にマザーズ市場への上場おめでとうございます。確か最初に中村さんとお会いしたのは2006年だったと記憶しています。当時は乃木坂のマンションの一室にオフィスがあったかと思います。あれから13年ですね、早いですね。

 

中村:ありがとうございます。乃木坂は今でも懐かしい思い出です。たしかに、もう13年になりますね。でも、私が最初に野崎さんの存在を知ったのは、前職の三菱総合研究所(以下、MRI)にてBluesilkという概念検索を用いて特許文献、論文等を検索するサイトをアングラで運営していたときです。当時は野崎さんのお名前は把握していなかったのですが、イーパテントというメーリングリストがBluesilkを取り上げて、しかも的確に解説しているということで、とても気になっていました。

 

中村 達生 VALUENEX株式会社 代表取締役CEO
1991年、早稲田大学大学院理工学研究科機械工学分野を修了後、三菱総合研究所に入社。コンサルティングに従事。そこで、可視化アルゴリズムや俯瞰解析ソフトウェアを開発し、知財調査・ビッグデータ・予測分析分野にてソリューションを展開。1994年に東京大学助手を経験(工学博士取得)、2006年、VALUENEX株式会社を設立。平成30年度特許情報普及活動功労者表彰にて日本特許情報機構理事長賞を受賞。

 

野崎:えっ、そうだったんですか。以前にそのお話聞いたことあったかもしれませんが、忘れていました(笑)でも、とても光栄です。創知として独立されてから、昨年上場までいろいろとご苦労された点があったかと思うんですが、何が一番大変だったでしょうか?

 

中村:一言で表現するなら人ですね。脱サラして起業をすると、いかに自分が無力であるかを思い知らされるのですが、その隙間をついて様々な思惑の人たちが寄ってきます。次第に防波堤を築いて外部の攻撃からは防御できるようになるのですが、今度は内部の人の問題が顕在化してゆきます。そもそも、会社が成長するとともに、求められる人材のレベル層も高まってきます。成層圏を抜けて高高度の宇宙空間まで到達することをIPOと位置付けると、ロケットは三段くらい必要になります。厳しいことを言っているようですが、これが現実です。

 

野崎:なるほど、なるほど。これ以上、深く聞いてしまうとダークサイドに堕ちてしまうので、独立されてから10数年での分析や解析を巡る変化について伺いたいと思います。

 

私は2002年にNGBに入社したのですが、ちょうど当時は小泉政権下で「知財立国」宣伝を受けて、知財への注目度が高まっていました。1999年にIPDL(特許電子図書館、現在の特許情報プラットフォームJ-PlatPat)がリリースされたり、PATOLIS分散処理システム、JP-NETやNRIサイバーパテントが登場して比較的安価に特許情報を入手することができるようになっていた時期です。経営戦略の三位一体というキャッチフレームもあり、特許情報を事業戦略や研究開発戦略へ積極的に活かしていこうというムードが高まっていたのを記憶しています。

 

中村さんがMRI時代にアングラでやっていたBluesilkもちょうどその頃ですよね?2000年代前半から、リーマンショック前後、そして現在と20年ほどの流れの中で、分析や解析を巡る変化を中村さんはどう捉えていますか?

 

中村 : 1991年にMRIに入社して、専門がオペレーションズ・リサーチであることから、産業・社会の様々な課題に対して最適な解析手法と必要な情報ソースを探索して、定量的な解決策を導き出すことを主業務としていました。

 

特許情報を活用しはじめたのは1998年頃からです。ただし、権利書としての側面ではなく、技術書としての側面であり、あくまでも有望な情報ソースの一つとして捉えていたまでです。私の理解では90年代は情報ソースのデジタル化が一般化した時代であり、2000年代は検索が一般化した時代、2010年代はICT技術の発達によりちょっとした解析が一般化した時代ととらえています。

 

ただし、解析手法は20年以上、ほとんど進歩していないと思います。そもそも、互換性のない情報群と限られた計算機能力のコンピューターを用いて結論を導出するには、解析方法の工夫と計算前後の人間の洞察力が試されます。近年の情報源の多様性が高まり、その相互連携が進み、計算機能力が指数関数的に増加している環境下では、解析手法のアルゴリズムを考案するよりも、データベース整備と表面的な見せ方の工夫に力を注ぐことが優先されてしまうのは必然なのかもしれません。

 

野崎:解析手法自体は20年以上進歩していないというのはとても興味深いですね。また後で中村さんとお話したいと思うのですが、昨今IPランドスケープが何か新しく登場したかのように言われているので、「いや~特許情報だけではなく、いろいろな情報を分析して経営や事業へ役立てようという動き自体は昔からあるだろう」という推測のものと、1960~1990年代ぐらいに出版された古い本を探すのがここ2年ほどのライフワークになっています。

 

めちゃくちゃたくさんの本を購入したわけではないですが、1960~1970年代、つまりパーソナルコンピューターなどがほぼない時代の本に書かれている分析の考え方自体はほとんど変わらないということが分かりました。むしろ、コンピューターとかがなかった昔の人の方が少ない情報でなんとか経営・事業へ役立てるためにどうしたら良いか、知恵を絞っていたように感じます。最近はデータベースやツールが便利になりすぎて、考えることの重要性が少し軽視されているのではないかと危惧しています。

 

中村さんに、20年間変化があまりなかった解析手法にもここ数年で機械学習や深層学習などの登場で何か変化があったのではないかという点についても聞きたいのですが、その前にTechRader/DocRaderという分析ツールも提供しているベンダーの立場から見て、分析担当者の考えることへのこだわりというか、考えずにツールに偏りすぎてしまっているみたいな、そんな傾向ってありませんか?なかなか回答しにくいかもしれない質問ので、回答しずらかったら質問を変えます(苦笑)

 

中村 : たしかに、ボタンを押したら、答えがポンっとでてくることを期待している人たちは、少なからずいらっしゃいますね。でも、課題を設定することや、出て来た結果からストーリーをつくることの楽しさをお伝えすると、ツールでできることと人が考えなければならないことの境界を理解していただけ、解析業務にはまってゆく方々もいらっしゃいます。

 

VNXが提供しているTechRadra/DocRadarはまさにそんなツールでして、お客様が真に得るべきソリューションのレベルを100とすると、TechRadar/DocRadaは70程度のレベルを算出しますが、のこり30のレベルアップは自ら考えなければなりません。これでも、創業時は40程度以下のレベルしか出せていなかったので、かなり進歩した方です。また、事業戦略支援ツールをうたっている他社のサービスツールが導入するだけで問題が解決するなどと表記していたらそれは間違いなく偽物です。スコアリング・レイティングとか、ランキングはわかりやすいですが、適用対象とその限界点を示していないサービスの安易な利用は危険です。

 

野崎:40だったのが70まで進歩というのはスゴイですね。あと70まで進歩したが、残り30はクライアント自らが考えなければならないというのは非常に重要なポイントですよね。安易にツールで答えが出てくるわけではない、と。特に現在のように変化が激しい世の中だからこそ、自ら課題設定してストーリーを作っていくことが必要なのは同感です。

 

ちなみに中村さん自体はMRIのコンサル出身ですが、こういう課題、または仮設の設定というかもしれませんが、スキル、もっと一般化すると分析する上での基本的な考え方というのはどこで学んだんでしょうか?学生時代に学んでいたオペレーションズリサーチというのも結構関係しているのでしょうか?

 

中村 : 私がMRIに入社した当時、一ヶ月間の基本研修が終わるとすぐに現場投入されて、その日から専門家のフリをしてお客様と対峙します。だからお客様の分野や背景を理解するために、資料室や本屋で役に立ちそうなデータや情報を片っ端から必死に調べ、キラッとひかる結論を出すためにどのような指標や表現が良いかを常に考えていました。そのもののデータはありませんから、得意のプログラミングスキルを用いて計算を行い、資料を作り、先輩から何度もダメ出しをくらい、挙句のはてにはお客にも散々怒られることの繰り返しでした。いま思うと、最高の陣容によって、指導して頂いていたことになります。だから、私のコンサルティング手法は、何かの啓蒙本やノウハウ本を読んで学んだものではなく、実地で身につけていったものといえます。このノウハウや経験は、多少の効率化や体系化をすることはできると思いますが、実地以外の方法で、完全にお伝えすることは難しそうです。

 

昨今、会社や業務で少しでも嫌なことがあると、すぐに転職する傾向がありますが、見ていてもったいないですね。貴重な情報を得たり、得難い経験をする機会を自ら捨ててしまっていることを本人たちは気づいていないのですから。

 

野崎:いわゆるOJTで揉まれたり、クライアントからの厳しい指導があったんですね。私も先輩からの指導もそうですが、クライアントからの様々なフィードバックがあったからこそ今の自分があると感謝しています。一方、私の場合、2009年から1年間KIT虎ノ門大学院というビジネススクールでMBAについて学んだのですが(注:当時はMBAではなく、経営情報修士という工学研究科の中のコース)、情報分析・コンサルティングを行う上でMBA的な知識やスキルについてはどうお考えですか?

 

中村さん個人としての考え方も気になるのですが、よく海外のカンファレンス等に参加されているので、海外企業の情報分析に従事されている方々の捉え方も非常に気になるのですが。

 

中村 : MBA等を通じて、基本的なスキルを学ぶことは有用だと思います。料理人がプロの道具の使い方を学ぶことに等しいです。ただし、どのようなお客に、どのような料理を出すのが良いかを考案するには、現場感覚が必要ですね。私の知る海外は、アメリカとフランスがメインなのですが、日本以上に肩書き社会。MBAは口を聞いてもらえるための必須条件、Ph.Dは議論をするためのライセンスのような雰囲気を感じます。

 

野崎:アメリカのPh.Dについては同感です。前職ランドンIPはもともとアメリカの会社だったのですが、入社してPh.Dを持っている同僚が多いことに驚きました。自分なんかはPh.Dでもないし、MBAでもないので海外では活動できないですね(苦笑)

 

中村 : MBAやPh.Dがなくても、オリジナリティ、実績、お金のいずれかのある人は尊敬されているようですね。オリジナリティの中には、考え、技術の他に、コミュニティ(ネットワーク)も含みます。

 

(つづきは第2回へ)

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