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11月17日
5月21日(火)配信
野崎:海外に頻繁に出張されて、海外事情に詳しい中村さんと同意見ということで安堵したというか、自信がつきました。
そうなんですよね、IP=知的財産というのは企業が持っている資産の1つであって、非常に重要である点は分かるのですが、あまりにもIP Centricと言いましょうか、知財中心主義になるのも良くないかなと思います。とはいえ、おっしゃる通り、知財部門以外の他部門から見る知財への意識改革と、知財部門そのものの底上げにつながればという考えは同意です。
ちなみにIPランドスケープというキーワードはさておき、いま、中村さんから「特許情報だけではなく、マーケットや事業に関する情報も踏まえて、事業戦略や経営戦略に資するソリューションを提供」する言葉が出てきました。
インターネットが普及した情報化社会、情報化社会という言葉自体古いかもしれませんが、もっとも重要なのはいかに情報を収集・整理し、分析して、それを戦略へ活かしていくのか、イノベーション創出へ活用するのか、という点かと思います。一方で、データ分析や情報に偏重しすぎてしまう危険性も指摘されていて、ひらめきや感性も必要だ、両者のバランスを取るべきだと感じることも多いのですが、中村さんの実際のプロジェクトにおけるひらめきや感性の使い方というか、解析とのバランスについて教えてもらうことはできますか?
先に私の話を少ししてしまうと、私も自分自身、ひらめきとか感性をどうブレンドしているのか、というのを振り返って考えてみるのですが、なかなか説明が難しいと感じています。ひらめきとか感性って結局は、自分のこれまでの経験や体験、様々なところで得られた知識・知見が背景となって得られるものだと思っているので、「この結果からどうしてこういう洞察ができるんですか?」と質問されて、確かにロジックだけだとつなぐのが難しいな、と思う場面があります。
中村 : 同じ事象に対して、バックグラウンドの異なる人が異なるストーリーを出すことは自然だと思っています。三者三様の「ひらめき」があっても良いし、どれが正解かということはなく、どのストーリーがもっとも説得力があるかで結論を導出することで良いのではないかと考えます。
私は「ひらめき」よりはインサイトという言葉をよく使います。 洞察、もくしは、気づきという意味で利用しているのですが、「ひらめき」が0から何かを生み出すことも含むのに対して、「インサイト」は既存の事象を対象としていて、観察眼や組み合わせ力が必要とされます。既存の事象は多様であればあるほど、ダイナミズムが増して、組み合わせの多様性も広がります。それはそのまま、新規性の増産につながるものだと理解しています。
そのような能力は特別なものではなく、普段から、好奇心をもって、自分の分野外の情報や人に積極的に接することで得られます。部門内から他部門へ、社内から社外へ、国内よりは国外へと視野を広げてみると良いでしょう。ただ、インターネットで断片的に得られた情報は、記憶の定着が浅く、ひらめきのための材料にはなりにくいようです。やはり王道は読書であり、様々なジャンルの書籍を手に取り、ストーリーとともに情報をシナプスに編み込むことで、あとから必要な時に必要な情報がずるずると引き出されてくるイメージを抱いています。インサイトを増やしたければ、入力の努力は必要ということでしょうね。
野崎:王道は読書、というのは同意です。私も年間100冊以上は読んでいます、読んでいるといっても積読や部分読みも多いですが(苦笑)ちなみに中村さんは年間何冊ぐらい本を読まれますか?
中村 : 購入している件数は一月に5冊程度なので年間にすると60冊くらいですね。この他に本屋で立ち読みですませてしまう分もいれるともう少し多くなります。野崎さんも相当お忙しい方ですが、読書の時間をどのように確保していますか? 私の場合は、通勤の時間や、出張で長時間のフライトのときなど移動時が多いです。
野崎:電車での移動時間などの空き時間も読書にあてていますが、オフィスでの勤務中や家でくつろいでいる際のちょっとしたすき間時間にも読んでいますかね。なのでじっくり読むというのはあまりなくて飛ばし飛ばしで読んでいます。あと、中村さんもあるかと思うのですが、プロジェクト関係である技術や業界についての本を5~10冊ぐらいまとめ読みすることもあるのですが、このような場合、読書といってもななめ読みで、必要なところだけを熟読する、というタイプの読書もあります。
中村 : 隙間時間を活用されているようにお見受けしました。野崎さんは仕事の切り替えが上手なのでしょうね。私の場合、業務で使う資料や書籍に対しては、読書という認識に乏しく、必要な情報を探して、単純に頭の中に取りいれる作業を行なっている感覚でいます。その作業に私的な思考プロセスは極力入らず、ただたんにファクトデータを取得しているような感じです。
ちなみに、眠い時などの知覚能力が通常よりも落ちていても目を通さなければならない状況の時のドキュメントの読み方というのを前職時代に編み出して、自分ではそれなりに効果を発揮できています。簡単なトレーニングでできますので、今度こっそり教えますね。
野崎:いえいえ、仕事の切り替えが上手なのではなく集中力がないんです(笑)。それはそうと、秘密のトレーニングぜひ今度教えてください。本の話で話題が少しずれてしまいましたが、中村さんがおっしゃっていた「インサイト」、つまり分析・解析結果をベースとした上で観察したり、組み合わせたりする力というのは非常に重要だと思っていて、今度情報やデータを分析・活用していく上で必須の能力・スキルかと思います。これ以外にデータ分析・解析を担当する人として持っておくべき知識なりスキルはありますでしょうか、もちろんマインドセット的なものでも結構ですが。
中村 : 統計または数学的な知識とプログラミングスキルとビジネスに対する知見だと思います。すなわち、これはデータサイエンティストの三要素です。とくに、最後のビジネスに対する知見はとても重要だと思います。
もう少し深掘りをすると、ビジネスに対する知見とは、社会、産業の動向と、そこで起きている事象や行動を理解して、課題の抽出と対応策の組み合わせを想定できることを指します。自然科学分野の解析と異なり、事象に人の行動が含まれるため、心理学の知識もあると素敵だなぁと最近富に感じています。
野崎:心理学はとてもよく分かります。結局ビジネスは個人や人の集合体である組織のインタラクションに、国・政府や環境などのマクロ環境を絡めてどう読み解いていくかだと思いますので。そういう点では経済小説や歴史小説を読むのも結構良いスキルアップになるかなと思っています。ちなみに、データサイエンティストの3要素で挙げられていた数学とプログラミングですが・・・いや~プログラミングについては大学院時代に少しかじったぐらいで今はほとんどできないんです。友人・知人からも「Excelはそろそろ限界だからPythonやった方が良いですよ」(注:野崎は今でも定量分析はExcelベースに行っている)とアドバイスをもらいます。やっぱり私みたいなプログラミング初心者・初級者もやった方が良いですかね?
中村 : 何かしらのコンピューター言語は習得した方が良いですね。ただ、スクリプト言語(汎用動的言語)よりは、構造化プログラミングを習得できるコンパイラ型言語を一つでも学ばれることをお勧めします。ひとつ習得すれば、あとは方言みたいなものなので、応用力が格段に広がります。Pythonはとてもよくできたスクリプト言語なのでちょっとしたプログラミングも手軽に行えるメリットがあるようですが、私は回り道してでも処理構造の設計を学ぶことを先に行うべきと考えています。最近では理工学部の学生でも、Pythonが扱えるのに、簡単なソーティングプログラムのルーチンすら書けないことがあります。野崎さんExcel使いのようですが、VBAは活用していますか?
野崎:Excelについてですが、ほぼ手作業、マニュアルでやっているので、VBAとはおこがましくて言えないですね。必要なツールについては外注で作ってもらっています。プログラミングについてのアドバイスありがとうございます、頑張ってみます・・・
さて、ここまで、昨今の情報分析・解析をめぐる現状や課題、またそれに対してどのようなスキル・素養が必要なのか、についていろいろとお話してきました。最後にちょっと宣伝っぽくなってしまいますが、中村さんの情報分析・解析に対する問題意識を払しょくするための1つの試みとして開始したNGIAS(エヌジアス)について説明いただけますでしょうか。ちなみに前回は2017年11月の特許情報フェア期間中の木曜日・金曜日に開催しましたが、今回は今月5月30日の木曜日に1日のみで開催ですね。
中村 : NGIAS は、これまで産業毎に区分けされていた解析業務を横串に連携させることにより、業界を超えた情報ハンドリングと新しい事業の発想を高める場を提供することを目的としています。第1回はその必要性を証明するために、わざと特許情報フェアと同じ日に行い、結果200名以上の方のご来場があり、大盛況でした。NGIASを通じて解析という土壌の開墾が進んだのではないかと考えています。今回はでかかってきた芽をどのように育成するかのインサイトを得るための場として開催します。出版、金融、知財、マーケット、エンターテイメントの各スペシャリストのご講演と異業種対談も用意しています。ただ、あくまでも主体は参加者のみなさまですので、内容を濃くするために日にち1日に減らし、人数も100名程度と少数精鋭の場にいたしました。
まもなく案内が出ますので、そのときにまたあらためてご案内いたします。
野崎:NGIASについては、まだ私がイーパテントとして独立した1年目に中村さんにお声がけいただき、共催者として参加させていただき感謝しております。今回も私もパネラーやファシリテーターでも登壇するので、今から楽しみにしています。もちろん、中村さんのセッションもありますので。
中村さんとは折に触れていろいろとお話させていただいてきましたが、今回は今まで聞いたことがなかったようなことも伺えて私も楽しかったです。今後もいろいろとよろしくお願いいたします、ありがとうございました。
中村: NGIASのSはSpace (場)ですので、同じ志の方と共同で、解析の土壌を耕してゆくことが肝要だと考えて、真っ先に野崎さんのお顔が浮かんだ次第です。小さな活動ではありますが、少しずつでも確実に成長してゆかせたいですね。
この対談は私自身のこれまで活動の振り返りにもなりましたし、なにより、野崎さんのお考えをより深く知ることができてとても楽しかったです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
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