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5月11日
5月8日(木)配信
はじめまして。このたびご縁をいただき、このコラムを担当することになりました大分県立芸術文化短期大学の野田と申します。知財にご関心をお持ちの皆さまに向けて、私たちの取り組みを発信する機会をいただけて、とても光栄です。
私は、2015年3月まで特許庁で審査官として働いていました。その後、教員として本学の情報コミュニケーション学科へ転職し、気がつけば10年という節目を迎えました。
転職した当初は、正直なところ「短大ってどんなところなのだろうか?」「情報教育という枠組みの中で知的財産の知見を活かせるだろうか?」という不安もありました。知財業界の方ならご存じかもしれませんが、知的財産を学ぶ場は法学系や理工系であることが多く、芸術系・人文系の学科で構成される本学のようなフィールドではほとんど例がありませんでした。しかし、実際に学生たちと接していく中で、「本学だからこそできる知財教育があるのではないか?」と思うようになりました。
近年、私の研究室では、アニメーションやMV(ミュージックビデオ)など、学生が自ら知財啓発コンテンツを企画・制作することを活動の軸としています。単なる座学ではなく、学生が「創作する側」として知財を学び、それを社会に向けて発信することで、知財に対する深い理解を促すことを目指しています。そして、これらのデジタルコンテンツは、地域のイベントで上映されたり、高校の授業で教材として活用されたりと、大学の枠を超えて広がりを見せています。
たとえば、2022年には「海賊版問題」をテーマにした啓発アニメーションを制作しました。知財の専門家ではない学生たちが、自分たちの言葉で「どうすれば海賊版の利用を減らせるか?」を議論しながら、キャラクターをデザインし、ストーリーを構築していきました。学生が制作したオリジナルLive2Dモデルも活用し、プロの動画制作会社によって完成したこの啓発アニメーションはYouTubeで公開され、多くの視聴者に届きました。学生の視点から生まれる発想や表現は専門家が考えるものとはまた違った魅力があり、ターゲットである若年層に響きやすい内容になっていると感じます。
また、学生がすぐに入れ替わってしまうことも短大の特徴の一つです。そんな中でも、知財をより身近に感じてもらうため、研究室オリジナルのキャラクターが現在進行形で次々と誕生しています。そのキャラクターたちは、学生の自由な発想から生まれ、親しみやすく知財を伝える役割を担ってくれています。どんなキャラクターが生まれ、どのようなストーリーがあるのか、その誕生秘話については、今後のコラムでご紹介する予定です。
このコラムでは、そんな本学ならではの知財教育の現場から、学生たちのリアルなエピソード、プロジェクトの舞台裏、さらには試行錯誤の中で見えてきた課題や工夫を、できるだけ率直に、等身大でお伝えしていきたいと思います。
第1回は、まず私の簡単な自己紹介と研究室で取り組んでいる知財教育の概要をご紹介しました。次回からは、これまで取り組んできたプロジェクトを中心に、学生たちがどのようにコンテンツ制作に関わっているのか、キャラクターはどのように生まれたのかなどを現場目線でお伝えしていきます。若年層を対象とした知財教育には、まだまだ大きな可能性が眠っていると思います。ぜひその新たな可能性を一緒に探っていきませんか?
■関連ページ
大分県立芸術文化短期大学:https://www.oita-pjc.ac.jp/
野田研究室チャンネル(YouTube):https://www.youtube.com/@noda-lab
野田研究室HP:https://nodalab.themedia.jp/
■筆者プロフィール
著者:野田 佳邦
大分県立芸術文化短期大学 情報コミュニケーション学科 准教授
知的財産支援室 次長/情報メディア教育センター 次長
弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記)/ビジネス著作権検定上級
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大分県生まれ。大阪大学大学院情報科学研究科修士課程修了(修士(情報科学))。その後、特許庁でIT分野の特許審査業務などの知財行政に従事。在職中、弁理士試験やビジネス著作権検定上級に合格するとともに、経営学修士課程を修了(修士(経営学))。故郷である大分県に貢献したいという強い思いがあり、2015年より大分県立芸術文化短期大学に着任。大分県知財戦略推進会議副議長、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)「10代のデジタルエチケット」教育コンテンツ検討委員、一般財団法人工業所有権協力センター(IPCC)特許検索競技大会実行委員、大分市DX推進アドバイザー、公益財団法⼈ハイパーネットワーク社会研究所共同研究員などを務める。近年は、学生参加型のアニメ教材制作プロジェクトなど、ポップカルチャーやデジタルコンテンツを取り入れた教育活動を展開している。
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