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12月15日
8月7日(水)配信
【事件概要】
新規事項追加の判断に誤りがあるとして、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨判断した特許無効審判の審決が取り消された事例。
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【主な争点】
「…の演算を行うデータ処理装置」という記載を「…の演算を受信次第直ちに行うことができるデータ処理装置」という記載に変更した補正が、本件当初明細書等に記載された事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものといえるか否か。
【結論】
本件当初明細書には、位置決め演算の時期を限定することに関する記載は見当たらない。
この点に関し、審決は、データ処理装置による位置決め演算には、船上で行う場合と、船上で受信したデータを地上に持ち帰って行う場合とがあるところ、後者の場合にはそれなりの時間がかかるから、技術常識をわきまえた当業者であれば、構成Eの「受信次第直ちに」とは、船上で演算を行う場合を指すと理解すると認められると判断した。
しかし、位置決め演算を船上で行うか地上で行うかは、位置決め演算を実行する場所に関する事柄であって、位置決め演算を実行する時期とは直接関係がない。したがって、「受信次第直ちに」との文言を、船上で位置決め演算を行う場合を指すと解することはできない。
よって、本件当初明細書に、構成Eの「受信次第直ちに」との構成が記載されていると認めることはできない。
以上検討したところによれば、構成Eに位置決め演算を「受信次第直ちに」行うとの限定を追加する本件補正は、本件当初明細書に記載された事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものというべきである。
【コメント】
本件特許の審査経過を見ると、出願人は、本判決で問題視された補正事項を含む補正案を補正書の提出前に審査官へFAXし、その補正案に対し審査官は、「新規事項に当たらない」旨の見解(ただし進歩性は認められない旨の見解)を示している。出願人は、この審査官の見解を信じ、上記補正案に更なる要件を付加して本件補正を行ったものと推察される。審判体も新規事項には該当しないと判断しており、本判決のような判断がなされることは事前には予測できなかったとは思われるが、新規事項の追加に関するより慎重な対応の必要性を示す事案のように思われる。
(執筆担当:創英国際特許法律事務所 弁理士 小曳満昭)
書誌等(裁判所ウェブサイトまたは知的財産高等裁判所ウェブサイト)
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